パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第194話 『聖剣『猫神』 下』

「おいケット・シー、うまくいったのか?」

 

 返事がない。

 

「おい」

 

『ヤカマシイゾ、ニンゲン。聞コエテイル』

 

 億劫そうな声と共に、首輪の周囲が明るくなった。

 

 すぐに首輪から光の粒が溢れ出し、それが猫の形を構成していく。

 

 光が収まると、そこには先ほどと変わらない姿のケット・シーが佇んでいた。

 

 今までと違う点といえば、その首に銀色の首輪がはまっていることだ。

 

 首輪の中心には、鈴の代わりに聖剣をあしらったペンダントが揺れている。

 

 ケット・シーは音もなくテーブルから飛び降りると、さきほどまで座っていた椅子まで辿り着き、その上にピョンと乗った。

 

 どうやらここがお気に入りのポジションらしい。

 

『ウム、ナカナカドウシテ悪クナイ。気ニ入ッタゾ』

 

「どうやら安定しているようだな」

 

 今のケット・シーの身体からは、もう光の粒子が立ち昇る様子は確認できない。

 

 どうやら工程はすべてうまくいったようだ。

 

「調子はどうだ? 力が戻らないとか、暴走しそうだとか、変な気分になったりとかはしないか?」

 

 一応確認しておく。

 

 ケット・シーはリラックスしたようにクァ……と大きな欠伸をしてから、四つの瞳でこちらを見た。

 

『気分ハ(スコブ)ル良イ。『力』ハ完全ニ戻ルマデ、アト百年ハカカルダロウガ……待テバ良イダケダ』

 

「百年……」

 

「ふむ、百年か。すぐだね」

 

 カミラがこともなげに言ってのけるが、人族なら三世代以上先の未来だぞ……

 

 純粋なエルフとは違いハーフエルフの寿命はそこまで長くないはずだが、それでも時間感覚が人族と違いすぎる。

 

 とはいえ、コイツに関してはしばらく力が戻らない方が望ましいとはいえる。

 

 邪神は邪神だからな。

 

 と、そうだ。

 

「ケット・シー、ひとつ注意点がある。その聖剣……というか首輪は、一定以上の魔力を出すと首輪の崩壊を防ぐため、出力を制限する術式を組み込んである。それでもお前が本気を出せば耐え切れず破損する可能性が高い。力を蓄える分には問題ないと思うが、無理はするなよ」

 

『封印ノヨウナモノカ。マア構ワン』

 

 ケット・シーは首輪の仕様にあまり関心はなさそうだった。

 

 とりあえず滅びなければいい、くらいに考えているのだろう。

 

 もちろん俺も、コイツの力を過剰に制限したり封印するような聖剣を錬成したつもりはない。

 

 出力制限用の術式も上限値を首輪の耐久力ギリギリあたりまで高く取ってあるので、それこそ力が暴走でもしない限り窮屈な思いをすることはないはずだ。

 

 それはさておき。

 

「それじゃ、俺たちも対価をもらおうか。加護の方は別に後でも構わんが、残りの財宝の在処については、なるべく早く教えてもらいたいところだな」

 

「ブラッド、まったく君ってやつは……」

 

 カミラが苦笑する。

 

 おおかた、現金なヤツだと思ったのだろう。

 

 だが、早く知りたいのには理由がある。

 

「いいかケット・シー。昔はどうだったか知らないが、現代では未踏破ダンジョンの財宝は最初に見つけたヤツが総取りという決まりなんだ。要するに早い者勝ちなんだよ。だから、実はダンジョンはすでに踏破済みで財宝はまるっと盗掘済みでした……なんてオチじゃ、俺の報酬はパーになっちまう。だから早めにどうなのかを知っておきたいんだ」

 

『フム……ニンゲンハ、イツノ世モ傲慢ダナ』

 

「お前に言われたくないんだが……まあ今は許そう」

 

「フフ……どっちが傲慢なんだか」

 

 カミラがクスクス笑っているが、俺はお構いなしに続ける。

 

「さあ、ケット・シー、教えてくれ。財宝はどこにある?」

 

『クァ……イイダロウ、傲慢デ強欲ナニンゲンヨ。財宝ノ場所ハ――』

 

 ケット・シーが再び大きな欠伸をしてから、財宝の在処を口にした。

 

 そこは。

 

「「王都のど真ん中じゃねぇか(ないか)……」」

 

 思わずカミラと声が重なってしまった。

 

 財宝の在処が禁域の外にある可能性は考慮していたが……まさかの王都とは。

 

 もっとも、荒唐無稽なガセネタというわけでもなかった。

 

 魔術師ギルド所有の転移魔法陣で転移してきたこの『禁域』は、実のところオルディスよりも王都にずっと近い。

 

 『極彩峡谷』周辺だけでなく、山地を抜けて麓やその先の平野部までコイツの支配領域が広がっていたとすれば……ありえない話ではないのだ。

 

 ただ……ケット・シーの言葉が正しければ、そこは王宮のすぐ近くのようだ。

 

 あんなところにダンジョンなんてあったか……?

 

「いや、あるかもしれないな」

 

「いやいや、ないだろう。あそこは旧市街だけれども、さすがにダンジョン化するほど古くはないよ」

 

「違う、カミラ。地下だ」

 

「地下……? なるほど、そういうことか」

 

 合点がいったのか、カミラが頷く。

 

 王都は中心部に王宮があり、その周辺を旧市街が取り囲み、さらに旧市街を新市街が取り囲むような構造になっている。

 

 最初は古城を内包する古代都市遺跡だったそうだが、時代が進むにつれ発展と改修を続け城塞都市が築かれ、そこが現在のアステリア王国の首都――王都となった。

 

 さらにはダンジョン産出品などを中心とした交易や魔族たちとの度重なる戦争などを経てどんどんと王都は発展してゆき、ついには市街を取り囲む城壁外まで街が広がり……そこが新市街となった。

 

 何が言いたいかというと、ケット・シーが示した旧市街エリアの地下には、王国よりずっと前の時代の地下墳墓や地下神殿などが人知れず埋まっている可能性があるのだ。

 

「場所的には第九街区のあたり……王都では一番古いエリアだね。もっとも十年近く王都には行っていないから、今どうなっているのか分からないけども」

 

 カミラは頭の中で王都の地図を思い描いているらしく、そんなことを呟いている。

 

「あー……第九街区なら、俺がオルディスに来る前には再開発で更地になっていたな」

 

「えぇ……それじゃあ財宝を見つけるどころではないじゃないか」

 

 カミラがげんなりした顔をする。

 

「まあ待て。あの辺りは地中深くに古代都市由来の上下水道跡だとか地下墳墓やらが山ほど埋まっていたはずだ。それらは別の街区から繋がっているだろうから、そこから入れないことはない」

 

「……なるほど。確かにそれならば問題ないかも知れないね」

 

「よし、そう来れば早速王都へ……と言いたいところだが、まずはコイツの扱いだな」

 

 言って、部屋の隅の椅子に座るケット・シーを見た。

 

 聖剣に宿り存在が安定したとはいえ、邪神には変わりない。

 

 魔術師ギルドに報告して、その処遇を検討しなくては。

 

 などと思っていたら、急にケット・シーが椅子から立ち上がり、にゅーっと伸びを始めた。

 

『オイ、ニンゲン。ヒトツ言イ忘レタ。財宝ノコトダ』

 

「なんだ、ケット・シー。やはり後の世の盗掘者どもが持ちだしたあとだ、とか言うんじゃないだろうな?」

 

『イヤ、ソレラハ地中深クニ隠サレタ財宝ダ。オレノ信者タチハソコデミナ生贄トナッタ。今ノ世デ在処ヲ知ル者ハ、オレヲ除キ存在シナイハズダ』

 

「……そ、そうか」

 

 今コイツ、さらっとエグめの事実を出してきたな?

 

 ……古代の信仰は何かと人の命を神の供物とするものが多い。

 

 人の命なんぞに神を動かす価値がないことくらい、今の世を生きる俺たちには常識なのだが……古代人はまだそのことが分からなかったのだろう。

 

 まあ、それはさておき。

 

「で、言い忘れたことってなんだ?」

 

『財宝ヲ隠ス扉ハ、オレト、オレノ加護ヲ受ケタ者ガ共ニ向カワネバ開クコトハナイ。財宝ヲ欲スルナラバ、オレヲソコマデ連レテ行ケ』

 

「……マジかよ」

 

「それはなかなかに大変な仕事になるね……」

 

 俺とカミラは顔を見合わせ、唸った。

 

 つまりは邪神を王都に連れ込む、ということになる。

 

 その難易度は、どう考えてもダンジョン攻略とは別の方向で最悪レベルに高かった。

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