パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第195話 『魔術師ギルド職員』

「いーやーでーすー!! ご主人、離してください! 私はここに永住すると決めたのです!!」

 

「マスター、あと一日……! いや、あと十日! ここで泊まっていこーよ!!」

 

「おいお前ら……強制的に実体化解くぞ!」

 

 『禁域』旅行最終日。

 

 俺はコテージの玄関の柱にしがみつくセパとレインをどうにか引きはがそうと四苦八苦していた。

 

 二人とも『極彩峡谷』でのスローライフを満喫しまくっていたのはいいのだが……

 

 毎日マリアが何かと身の回りの世話を焼いてくれるうえ、ぐうたらしていても食事が出てきて、さらには毎日好きな時に温泉に入れるという最高に堕落した生活に慣れ切ってしまったらしい。

 

 彼女たちが人造精霊でなく生身の人間だったなら、まるまると肥えた子豚のようになってしまったところだが……そこはどうにかギリギリのラインを維持している。

 

 いや、レインのお腹は心なしかプニプニしている気がするぞ……

 

「ちょっ、マスター! そこ……んっ、くすぐったい……んだけど……!?」

 

「おいレイン変な声を出すな」

 

「ああっ! ついに! ご主人が! 私のスゥレンドァーボディィ……を見て! 内なる野獣が目覚めてしまいましたか……! これは……いけませんねぇ!」

 

 こいつら……コテージから離れたくないからって禁じ手を使いやがったな……!

 

「うるせえセパ! いいからその手を離せ!」

 

「あーれー!」

 

「あーれー、じゃねえ! あとカミラ! お前もそんなジトっとした目で睨んでないで手伝ってくれ!」

 

「ふむ……まったく君ってやつは……仕方ないな」

 

「俺のせいか!? 俺のせいなのか!?」

 

 いやまあ俺の聖剣だから俺のせいではあるんだが……!

 

 そういう意味ではお前のせいでもあるだろーが……!

 

「ほらほらセパ君もレイン君も、そろそろ帰る時間だよ」

 

「はいお義母様!」

 

「はーいママ!」

 

 にこやかな(しかし目が笑っていない)カミラが近づいたとたん、パッと柱から手を離す二人。

 

 なんて野生の勘が鋭い聖剣どもだ。

 

 つーかカミラはお前らの母でもママでもねえよ!

 

 いや、実質的に母親ではあるけども……!

 

 というか、よくよく見れば彼女たちの足元にはすでに荷物がまとめてあった。

 

 なんて茶番だ。

 

「さあさあご主人! すでに私たちも帰宅の準備は万端です! 名残惜しいですがそろそろ帰りましょうか!」

 

「マスター、今日の晩御飯何にしよーか? あーし屋台の串焼きがいい!」

 

 二人が引きつった顔をしつつ、俺の両腕を取りグイグイと外へ引っ張っていく。

 

「お前らな……」

 

 まあいつも通りといえばいつも通りだけどな。

 

 ちなみにステラとマリアはというと――

 

「はあ……とっても楽しかったのです……!」

 

「今回の滞在はよい息抜きになりましたね、ステラ様」

 

「はいです! それにしても、昨日出てきた大角鹿のステーキは、とても美味しかったのです……また食べに来たいですね……!」

 

「ふふ、大角鹿でしたらオルディスの市場にもたまに出回っておりますよ。見つけたら買ってきましょう」

 

「ほんとですか!? それは……とても楽しみです!」

 

 俺たちの騒ぎに巻き込まれないよう庭の隅っこで談笑していた。

 

 賢明な判断である。

 

 そして言うまでもなく、彼女たちの荷物はきちんと準備済みである。

 

 もちろん俺とカミラも、すでに滞在していた宿をチェックアウトしている。

 

 ……旅の間、宿のシルビアには世話になった。

 

 オルディスに戻ったあとは、彼女の完璧な働きぶりを魔術師ギルドにしっかりと伝えておかねばなるまい。

 

『フニャ……騒ガシイ、ニンゲンドモダ』

 

 そんな様子を、俺の荷物の上にちょこんと座り、欠伸交じりで文句を言っているのはケット・シーである。

 

 コイツは邪神とはいえ、猫である。

 

 日中は眠いのだろう。

 

 とはいえ、特に心身に不調を来している様子はない。

 

 ちなみに食欲も旺盛だ。

 

 今朝、俺たちのいた宿で最後の朝食を摂ったのだが……ケット・シーは用意された食事を完食しただけでなく、シルビアが特別に出してくれた猪肉のソテーをぺろりと三枚も平らげたのである。

 

 正直、その小さな身体のどこにそんな量の食べ物が入っていくのかと驚いたのだが……そこはやはり邪神、ということなのだろう。

 

 それに、それだけの食事を摂ったにも関わらずどこも体調悪くならず、むしろ肉を食べたことでさらに元気になったようだった。

 

 それはさておき、俺の荷物の上で炎と氷を吐いて遊ぶのはやめてほしい。

 

「おや……ご主人? まだ帰らないのですか?」

 

 と、コテージの前でなかなか出発しない俺たちを不思議に思ったのか、腕にしがみついたままのセパがそんなことを聞いてきた。

 

「ああ、お前らにはまだ伝えていなかったか。魔術師ギルドから職員が来るのを待っていてな」

 

「職員、ですか」

 

「ああ。そこのケット・シーも連れて帰ることになったのは伝えてあるよな? だがコイツを『禁域』の外に出すには、魔術師ギルドの職員による検分が必要だそうだ」

 

「検分……ですか。この子、こんなに大人しいのに……ですか?」

 

「ふむ、それについてはギルドの規則上致し方ないことなのだよ、セパ君」

 

 会話に入ってきたのはカミラだ。

 

 彼女は肩を竦めてから、さらに続ける。

 

「いくら聖剣と言う名の首輪……『枷』を付けたとはいえ、邪神は邪神だからね。瘴気や呪詛が身体から漏れていないか、人を襲わないか……など、本当に『禁域』の外に連れ出しても問題ないか、確かめなくてはならないのだよ」

 

「なるほど」

 

「ま、そういうことだ。……俺たちのチェックアウト時にシルビアにギルドに向かって貰うように頼んでおいたから、そろそろ担当者が来るはずだが……お、噂をすればなんとやら、だ」

 

 話の途中にふと森の方を見ると、朝の木漏れ日に照らされながらやってくる二人分の影が見えた。

 

 一つはシルビアだ。

 

 もう一つは……小柄な影が彼女の少し後ろを小走りで――

 

 『ふぎゅっ』

 

 なんか何もないところでこけたぞ。

 

 ……大丈夫かアイツ。

 

 

「お待たせしまシタ。魔術ギルドの職員ヲお連れしましタ」

 

「よよ、よろしくおねしゃス!」

 

 俺たちの前にやってきたシルビアが頭を下げる。

 

 それにつられたように、一緒にやってきた小柄な女性も慌てて頭を下げた。

 

 ……今この人、舌噛んだか?

 

 

 シルビアが連れてきた魔術師ギルド職員は、小柄な女性だった。

 

 大きな三角帽子を被り、丈の短いローブを羽織っている。

 

 両手でギュッと握りしめているのは、彼女の身長より長い魔術杖。

 

 杖の長さを除けば、典型的な魔術師の装いである。

 

「ご苦労、シルビア君。それで……ふむ。シャルル君、君が検分役か」

 

 カミラが、シルビアの隣に立つ女性に声を掛ける。

 

「あっ、は、はい……! オルディス魔術師ギルドから派遣されてきました……シャルルともうしまふぐッ……!」

 

 ……うん、間違いなく舌を噛んだな今。

 

 しかも今度は思いっきりだ。

 

 シャルルと呼ばれたギルド職員は涙目で顔を真っ赤にしながら、口に手を当てプルプル震えている。

 

 大丈夫かこの人……

 

 シャルル氏は、子供かと思うくらい小柄だった。

 

 外見上は、おそらく十代半ば。

 

 『外見上』としたのは……耳の長さと尖り具合からしてエルフと思われるからだ。

 

 しかもカミラのようなハーフではなく、純血のエルフ族だ。

 

 実年齢は……おそらく百歳前後。

 

 となれば、相応の実力と魔術知識を備えているはずだ。

 

 検分役としての能力は確かだと思われる。

 

 もっとも、カミラの方が歳も立場の上らしいが。

 

 

 ……それはさておき、挨拶をされたからには返さねば。

 

 俺は一歩前に進み出て、彼女に向かって軽く頭を下げた。

 

「どうもシャルルさん。俺はブラッドだ。たまに魔術師ギルドには世話になっているから知っているかもしれないが……オルディスで聖剣錬成師をやっている」

 

「ブ、ブラッドさん、初めまして……! もちろん存じ上げてます! あの、その……カミラ先輩より、お噂はかねがね……」

 

 そこでなぜか、シャルル嬢が顔を真っ赤にしながら俺から視線を逸らした。

 

 なんだこの空気。

 

「…………」

 

 説明を求めようとカミラを見たらフッと目を逸らされた。

 

 一体彼女に何を吹き込んだんだこの女は……!

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