パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第196話 『対呪詛術式』

「ええと……コホン。それでは検分を開始します」

 

 シャルル嬢が真剣な顔つきで、肩掛けの鞄から何かを取り出した。

 

 形は板状で、彼女の掌に収まるくらい。

 

 護符(タリスマン)にしては、少々大きすぎるが……彼女の行動でだいたい察することができた。

 

 あれは魔力とか瘴気を計測するための魔道具だ。

 

 それをケット・シーにかざしながら、ソロソロと近づいていく。

 

『ニャッ』

 

「ひっ!?」

 

 ケット・シーが俺の荷物の上で軽く伸びをした瞬間、シャルル嬢が飛び上がった。

 

 手に持った魔道具を取り落としそうになるが、どうにか空中でキャッチ成功。

 

 ふう……

 

 なんてハラハラさせる職員だ。

 

 ちなみにケット・シーは彼女にあまり関心を見せず、荷物の上でゴロゴロと喉を鳴らしている。

 

 一応、あらかじめ彼には検分に協力するよう言ってあるから大丈夫だと思うが……ちょっと心配だな。

 

「くっ……邪神め……そのような唸り声で威嚇しようとしても無駄ですよ……! 私の瘴気や呪詛対策は万全です。どこからでもかかってきなさい……!」

 

 シャルル嬢はそう言うと真剣な表情で姿勢を低くし、いつケット・シーに襲われても対応できるように身構えた。

 

 いや多分アイツ、単に眠いだけだと思うぞ……

 

「なあカミラ」

 

「なんだブラッド」

 

 少し離れた場所で、俺はカミラに耳打ちする。

 

「言いたかないが、あのシャルルさんとかいう人、大丈夫なのか? そもそも邪神の検分にたった一人でやってくるものなのか? 仮にも邪神だぞ? もっと大勢でやってくると思っていたんだが」

 

「ふむ……確かに君の懸念は理解できる。けれども私が知る限り、この手の仕事において最も適任なのが彼女だよ。邪神や古の神々に関する研究に関しては、少なくとも王国内で彼女の右に出る者はいないだろう」

 

「そうなのか」

 

 ……王国内で、か。

 

 それはまた大きく出たものだ。

 

「それに、彼女は呪詛などの状態異常に関する防護魔術のスペシャリストでもある。他の連中を何人も連れてくるより、彼女一人だけの方がよほど安心なのだよ」

 

「まあ、お前がそう言うのなら、そうなんだろう」

 

 一番の問題は、とてもそうは見えないところだが……

 

 もっとも魔術師ギルドの職員は魔術に関する研究者という側面もある。

 

 市井の魔術師たちと同じ判断基準で見るべきではないのだろう。

 

 ただ……なんだろう。

 

 優秀なのはさておいて、性格の方がそこはかとなくウチの聖剣の誰かさんにそっくりなのが気になるんだが……

 

『あれあれ~? どうしたのですかご主人。まさか、その流し目……自動人形(オートマータ)姿の私を見て、いやらしい気持ちになってしまったのですか~?』

 

「いや、それはない」

 

『なっ……!?』

 

『マスター、即答はダメだよ……』

 

『セパどの、気を強くもつのです……!』

 

 うーむ、やっぱ違うか。

 

 シャルル嬢がクネクネと(セパいわく)『せくしー』なポーズをして迫ってくる様子が全く想像できないし。

 

 まあ、安心しろセパ。

 

 お前は猫のように可愛い。

 

 ガクリと膝をつくセパと彼女を介抱するレインとステラを視界の端に捉えつつ、再びシャルル嬢に目を向ける。

 

「瘴気放出量は……3ですか。なるほど、ダンジョン内部の平均値より低い値ですね……では、魔力値は……35000!? ふふ……やりますねぇ……! 確かに邪神らしい値です……! ですが、強力な魔族ならこの程度の魔力量を持つ者もいます。ということは、聖剣による魔力抑制効果がきちんと発揮されているということでしょうか……?」

 

 彼女は魔道具とケット・シーを交互に睨みつつ、検分を開始している。

 

 ちなみにケット・シーはなすがままだ。

 

 というか、多分眠くてどうでもいいのだろう。

 

 シャルル嬢はしばらくの間ケット・シーにあちこちの方向から魔道具をかざしてみたり、彼の動きにいちいちビクビク反応しながら魔道具に表示された値を読み取り、何かしら呟いていたり、最後の方はおそるおそる頭を撫でてほっこりした表情を浮かべたりしていたが……

 

 やがて魔道具を鞄にしまい込むと、俺たちのもとにやってきた。

 

「お待たせしました、カミラ先輩、ブラッドさん」

 

「どうだったかい?」

 

 カミラが聞くと、シャルル嬢は頷いてから説明を始めた。

 

「この猫型の存在は、確かに邪神と認定して差し支えないと思われます。ただ、かなり消耗していますね。聖剣に魂を宿すことがなければ、近いうちに滅びていたでしょう」

 

「うむ、その辺りは私たちの考えていた通りだね」

 

「はい。それと……この邪神は『睡眠』を司るとおっしゃっていましたね」

 

「うむ。その力によっては、かなり危険な存在になりそうなものだけども……」

 

「そのことですが、おそらくもう大した力は残っていないと思われます」

 

「そうなのかい?」

 

「……先ほどの検分にて、合計37回、呪詛による攻撃を受けました。いずれも私を眠らせるためのものです。おそらく私が邪魔だったのか、ただの悪戯のつもりだったかのどちらかでしょうが……いずれにせよ、私の防護術式を突破できずに終わりました」

 

 ニコニコしながら、そんなことを言ってくるシャルル嬢。

 

 攻撃とは穏やかじゃないな。

 

「…………それで、君は大丈夫だったのかい?」

 

「最終的に和解できましたので何も問題ないです。まあ、術式が半分くらい焼き切れてしまいましたけど……」

 

 にへら、と笑いつつ、シャルル嬢が自分の服を少し脱いで右肩を露わにした。

 

「…………ッ、シャルル君、それは……!」

 

 白くほっそりとした鎖骨。

 

 さらにその下には、薄いながらも膨らみのある――

 

 と次の瞬間、いきなり視界が真っ暗になった。

 

「…………おい、カミラ。前見えないんだが?」

 

「ダメダメ! 君は見てはダメだ!」

 

「なんでだよ……」

 

 俺の視界を両手で覆っているのは、言わずと知れたカミラである。

 

 つーか何をそんな慌ててるんだ。

 

 そもそも、もう遅い。

 

 彼女の肌の『術式』は、すでに脳裏にしっかりと焼き付いている。

 

 このシャルルとかいうエルフ……自分の身体に、直接術式を彫りこんで(・・・・・)やがる(・・・)

 

 そして、その一部が赤黒く爛れていたのだ。

 

 ケット・シーが何度も彼女を呪詛で攻撃したのは、本当のようだ。

 

「……すまない、シャルル君。少し無理をさせてしまったかもしれない」

 

 と、カミラがすまなさそうな声で呟き、スッと視界が明るくなった。

 

 どうやら彼女も、小芝居など演じている場合ではないと感じたらしい。

 

 改めて、シャルル嬢の惨状が露わになった。

 

 彼女は肩から胸元にかけて、かなり酷い火傷を負っていた。

 

 これは痛そうだ……

 

 だがシャルル嬢はあっけらかんとした様子で、パタパタと手を振っただけだ。

 

「いえいえ! このくらい、研究をしていれば日常茶飯事ですよ。治癒魔術の術式も彫り込んでますし、すぐに治りますから!」

 

 確かに彼女が言っている側から、火傷の痕がみるみるうちに癒えてゆく。

 

 しばらくすると、火傷はすっかり元の青黒い魔法陣に戻ってしまった。

 

「……シャルル君、君の研究に対する情熱と覚悟には敬服するしかないよ」

 

「ああ、ここまで気合の入った魔術師はそうそうお目にかかれないだろうな」

 

「いやぁ……」

 

 俺たちの言葉に、シャルル嬢がなぜか気まずそうな様子で視線を逸らした。

 

「恥ずかしながら、実は私……かなり忘れっぽい性格で。防護魔術の護符(タリスマン)だと、しょっちゅう研究室とかに忘れちゃうんですよね……でも、身体に彫り込んでおけば絶対に忘れないじゃないですか。なんだかんだ便利ですよ! この方法」

 

「「…………」」

 

 さすがに絶句した。

 

 まさかそんなアホみたいな理由で、対呪詛防護術式を身体中に彫っていたのか……

 

 いろいろな意味で規格外だな、この人。

 

「さて、カミラ先輩、ブラッドさん。検分の結果をお伝えいたします」

 

 そんなドン引き状態の俺たちの前で、シャルル嬢は居住まいを正す。

 

 コホン、と咳払いをひとつしてから、真面目な顔でこう続けた。

 

「魔術師ギルドはこの子……邪神『ケット・シー』を危険度『低』の脅威と判断いたしました。ですので、この子をオルディスに連れて帰っても大丈夫ですよ。……もちろん、制限付きではありますが」

 

 ……今の流れで!?

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