パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第197話 『対邪神結界』

 結論から言うと、ケット・シーはオルディス行きの転移魔法陣に乗ることができた。

 

『それではご主人、お先です!』

 

『マスター、あっちで待ってるよー』

 

『ご主人様、のちほど。さあステラ、参りましょう』

 

『はい、マリアどの! それではカミラどの、ブラッドどの、お先に失礼いたします!』

 

 魔法陣の定員数の関係で、まずはセパとレイン、それにステラとマリアが転移魔法陣でオルディスへ帰還。

 

 四人が転移したのを確認してから、俺とカミラとケット・シー、そしてシャルルで魔法陣へと乗り込んだ。

 

 転移魔法陣が起動した瞬間、『極彩峡谷』にある東屋からパッと視界が変わり、目の前の風景が薄暗いホール状の広間に変化する。

 

「邪神確認! ……本当に黒猫の姿をしているのか」

 

「副ギルドマスター! 結界は正常に作動しているんですよねっ!?」

 

「うろたえるな! この結界は対邪神用に調整を施したものだ! 滅びかけの邪神などに破壊されることなど絶対にありえん!」

 

「ネコチャン……ネコチャンではありませんか! 可愛いですねぇ……! ただでさえ可愛いのにお目目が四つもあるのがさらにお得!」

 

 ……なんか周囲が騒がしいんだが?

 

 目が慣れてくると、俺たちをギルド職員たちが取り囲んでいるのが分かった。

 

 セパたち先行組はすでに広間から出た後らしく、姿は見えない。

 

「ふむ、ずいぶんと物々しいね」

 

 カミラが周囲を見渡してから、小さく呟く。

 

「……まあ、邪神連れだからな」

 

 一部、なんか別の意味で怪しい声が聞こえたが……それはさておき、黙って俺たちを通してくれそうな雰囲気ではない。

 

「ちょっ……なんか話が違いますね……? 皆さん、落ち着いてください! さきほど邪神の危険度は『低』と報告したでしょう! こちらから攻撃しなければ、害はありませんよ! 封印結界で弱らせようとするなんて、動物……邪神虐待ですよ!」

 

 と、シャルル嬢が俺たちの前に進み出て職員たちに向かって大声で抗議している。

 

 彼女は俺たちが転移する前に、一度報告のためギルドに戻っている。

 

 おそらくそのときは、ここまで大事になるとは思っていなかったようだ。

 

「……シャルルか。さっき貴様は『邪神はこちらから攻撃しなければ害はない』と報告したな。だが、よくよく考えてみれば……それはつまり、攻撃したら反撃してくるということだろう。何かあったときの対策を打つのは当然のことだ!」

 

 包囲網の中から、髭面のオッサン職員が進み出てきた。

 

 とはいえ彼も、かなり腰が引けている。

 

 シャルルに対してやたら強気な態度だが、ケット・シーに対してはかなりビビっているらしい。

 

 どうやら彼が、大急ぎでこの人数を揃えたようだが……邪神対策で事前に何かしらの結界を張って待ち構えているとは、魔術師ギルドにもこんなマトモな頭の職員がいるんだな……

 

 シャルルみたいに邪神に単身突撃かますような頭のおかしい研究者タイプばかりだと思っていたので、逆に新鮮だ。

 

 ……などと感心してたら。

 

「ほう……これが邪神かね」

 

 職員たちの中から進み出てきたのは、禿頭の爺さんだ。

 

 髭面オッサン職員のように恐れる様子もなく、俺の荷物の上で寛ぐケット・シーに近づいていく。

 

「ギルドマスター! 危険ですぞ! そやつに近づいてはなりません!」

 

「ほっほっほ……大丈夫だぞい。ほーらほら、ネコチャン可愛いねぇ……!」

 

 ニコニコしながらケット・シーに近づく禿頭の爺さん。

 

 というか、魔術師ギルドのギルマスってこんな爺様だったのか。

 

 確かにカミラからは、ギルマスは頭の薄さが気になるお年頃だとは聞いていたが……

 

 もう完全に手遅れじゃねーか……

 

 この有様じゃ、先日渡した育毛剤なんぞ使っても砂漠にジョウロで水を撒いて大木が生えてくるのを待つくらい不毛な行為だろうに……

 

 まあ……カミラ曰く喜んでいたそうなので、深くは追及しないが。

 

「アルフレッド、その子は気に入らないと呪詛を掛けるよ。気を付けた方がいい」

 

「ほっほっほ。カミラ殿は心配性だのう。ワシに呪詛が効かんことくらい、知っておろうに」

 

 カミラの忠告を好々爺然とした表情で受け流し、ギルマスことアルフレッド氏はついにケット・シーのすぐ側までやってきた。

 

「おいカミラ、本当に大丈夫なのか?」

 

「彼はシャルルの師匠だからね。まあ……問題ないだろう」

 

「ならいいんだが……」

 

 こんな状況でギルマスが昏倒でもして討伐対象になったら目も当てられない。

 

 もっとも、当のケット・シーはアルフレッド氏に近づかれても特に反応することはなかった。

 

 というか、めちゃくちゃ眠そうにしているな……

 

「おやおや、もうおねむでちゅかな~? 良い子でちゅね~」

 

 アルフレッド氏が気色の悪い表情と猫なで声でケット・シーに語り掛けている。

 

 そんな様子を見て『うわぁ……』みたいな反応を見せるギルド職員の皆さん。

 

「ギルドマスター! それ以上は……!」

 

 一方、さっきの『まとも』なオッサン職員が慌てた様子でアルフレッド氏を止めようとしている。

 

「よいよい。スターク、お主は心配性だのう」

 

「ですが……」

 

「よいと言っておろう」

 

 が、結局は手でやんわりと制止されてしまった。

 

「ぐぬ……承知しました。おい、ギルドマスターが危険な目に遭わんよう、結界の出力をもう一段階上げろ!」

 

 髭面職員ことスターク氏が周囲を怒鳴りつけるのと同時に、念のため俺もケット・シーに注意をしておく。

 

「ケット・シー、その人に危害を加えたらダメだぞ」

 

『シナイ。ココニ来テカラ眠クテタマラン』

 

 結界の影響を受けているのだろう、そう言うケット・シーはすでに荷物の上でうつらうつらと船を漕いでいた。

 

 確かにこの状態では、相手に呪詛を掛けるどころではないだろう。

 

「すまんなあ、邪神よ。貴殿に害意はないのだがな、万全を期すのは当然のことなのだよ」

 

『ム……眠リヲ妨ゲルノナラ容赦ハシナイゾ、ニンゲン』

 

 ケット・シーが小さく毛を逆立てて威嚇するが、アルフレッド氏が恐れる様子はない。

 

「おっと、すまぬな。まあ、ここを出るまでのことだよ」

 

『ム…………』

 

 アルフレッド氏が言い終わらないうちに、ケット・シーの四つの目が静かに閉じられた。

 

 その後は静かに寝息を立てているだけで、彼に呪詛を喰らわせる様子はない。

 

 そんなケット・シーの様子を少しの間眺めてから、アルフレッド氏が立ち上がった。

 

「ふむ。まあ、シャルルの報告通りかの。この程度の結界に影響を受けるのであれば、そう危険なことはなかろう。お主ら、結界を解いてよいぞ」

 

「しかし……」

 

「スターク。ワシが良いと言っておる」

 

「……はっ。皆、結界を解け」

 

 スターク氏が片手を上げると、他の職員たちが包囲網を解いた。

 

 その途端、ケット・シーが目を開いた。

 

『ム……起キテシマッタゾ』

 

 ちょっと不機嫌そうな様子で、そう小さく呟く。

 

「ほっほ、まさか封印結界内の方が居心地が良かったとはのう? さすがは猫の邪神だのう」

 

 可笑しそうな様子でアルフレッド氏が身体を揺らす。

 

 と、すぐに彼は真面目な表情に戻ると、カミラに視線をやった。

 

「……ときにカミラ殿。お主は王都に……学院には戻らんのかね? 教えを請いたい者は、それこそ掃いて捨てるほどおるだろうに。ワシが王都魔術師ギルドを通じて推薦してもよいのだぞ?」

 

 そういえば、俺と知り合う前のカミラは王都魔導学院で研究職なんぞをやっていたんだっけ。

 

 その頃の彼女のことは、あまり良く知らないが……

 

 が、カミラは迷惑そうな顔で首を横に振った。

 

「やめてくれ、アルフレッド。何度言われても、王都に戻るつもりはないよ。私は、この街が好きなんだ」

 

 それから彼女は俺に身体を寄せると、腕に手を回してきた。

 

「おいカミラ、こんなところで……」

 

「ふん、いいだろう? この辺りでしっかり見せつけておかなければ、この男は分からないんだよ」

 

「ふわぁ……!!」

 

 ……俺たちの様子を見て、なぜかシャルルが羨ましそうな声を上げている。

 

 あと他のギルド職員の生暖かい視線を投げかけてきていろいろと居たたまれない。

 

「ふむ……」

 

 アルフレッド氏は、そんな俺たちの様子をしばらく無言で見つめていたが……やがて深く頷いたあと、大げさにおどけてみせた。

 

「おっと、すまんのうお二方。つい昔を思い出してしまってな。失敬失敬」

 

「昔話なら、幹部会のときにでも好きなだけ披露するといいさ。……私は欠席させてもらうけどね。さて……ブラッド、帰ろうか」

 

 言って、カミラが一度俺の腕を離し、足元に置いた自分の荷物を持ちあげると、空いていたもう片方の手をふたたび俺に差し出してきた。

 

「……ああ、帰ろう」

 

 俺も彼女にそう返事をして、彼女の手を取った。

 

 そんな様子を、アルフレッド氏は眩しそうな様子でずっと眺めていた。

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