パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「ただいまです!!」
「やっぱ自宅が一番落ち着くかもー!」
鍵を開け玄関の扉を開くやいなや、セパとレインが俺の腕の下を素早くすり抜けていった。
猫かな?
さらに数秒後、家の奥で『わはーい!』と歓声が聞こえたあと、ガシャーン! と何かが割れる音が聞こえてきた。
前言撤回。
犬かもしれない。
「…………」
『オマエノ使役スル精霊ハ自由ダナ』
「……お前には言われたくないんだがな? あと聖剣な」
背負ったままの荷物の上に陣取ったままのんびり寛ぐケット・シーにそう返す。
というかどいつもこいつも自由すぎるだろ!
まあ、もう慣れたものだが……
◇
――結局、ケット・シーは俺の家で生活することになった。
理由はいろいろあるのだが……一番の理由は、コイツがなぜか俺に懐いているということだ。
まあ、言動はアレだが……とにかく俺から離れないのだ。
コイツが聖剣に宿ってからというもの、ほぼずっと俺の側にいる。
寝ていたら気づけば俺の胸の上に乗っているし、食事の時はテーブルに上に乗り、俺の隣に陣取っている。
まあ、普通の猫と違って何かしらの作業などをしているときに邪魔してこないのが救いだが……ほとんど憑りつかれている、と言っていい。
ちなみに魔力を吸われていたり、呪詛を喰らったりはしていない……はずだ。
最初に出会った時に呪詛を喰らったのを最後に、服のあちこちに仕込んでいる呪詛返しの
強いて言うならば、寝ているときに胸の上に乗られるとヤツの重みでちょっとうなされるくらいだろうか。
もちろん、だからといってカミラやセパなど他者に対して塩対応というわけではない。
セパとレインについては、ケット・シーの猫らしいフォルムが気に入ったのか隙あらば撫でくり回したり抱きかかえたりして遊んでいるが、怒ったり呪詛を掛けられて昏倒させられるようなことはない。
まあ多分あいつらに状態異常が効かないからだとは思うが。
とにかく暴れるでもなく引っ掻くでもなく、なすがままである。
もっともその辺りはステラやマリアに対しても同様なので(二人はセパたちのようにケット・シーをモフり倒したりはしないが)、元々大人しい性格なのか彼女らを仲間と認識しているのかのどっちかだろう。
多分、後者寄りな気がする。
そういえば、ギルド職員に対してはちょっと警戒していた感じはあったな。
触れるのを許していたのは、シャルル氏(かなり攻撃を喰らったあとだったが)と、ギルマスのアルフレッド氏くらいだろうか。
もっとも魔術ギルドは、ギルド幹部であるカミラを『飼い主』とするよう強く求めた。
それはまあ、理解できなくはない。
魔術師ギルドの管理する『禁域』で発見された邪神だからな。
だが、ケット・シーはこれを拒否した。
そうなると、こればかりは強制できるような問題ではなく(いくら弱体化しているとはいえ、邪神に本気を出されたらどうなるか分からないからだ)、結局ギルドはすごすごと引き下がらざるを得なかった。
ちなみに、どうやらカミラはケット・シーを連れて帰る気でいたらしく、『イヤダ』とはっきり言われてちょっと凹んでいた。
まあ、俺の家なんぞいつでも遊びに来ればいいだけだろ、と伝えたらすぐにご機嫌になっていたが。
……などと考え事をしていたら。
「……ご主人、家に入らないのですか? 玄関で立ち尽くしていても荷物は自動的に片付きませんよ?」
と、妖精サイズになったセパがすぐ目の前に浮かんでいた。
どうやら
……ちょっとくらいはご主人を手伝ってくれてもいいんだがな?
で、セパの後ろに、しおしおに萎れた表情のレインが佇んでいた。
「マスター……あーし的には、もうちょっと入るの待ってほしーかも……」
「どっちにすればいいんだ俺は」
どうやら何かをやらかしたのはレインで確定のようだ。
大方キッチンあたりではしゃいで皿でも割ったのだろう。
元気な聖剣でまことに結構ではあるのだが、もう少し慎みという概念を覚えて欲しいところだ。
「あー、悪い。少し考え事をしていただけだ。……カミラたちが来る前に片付けるぞ」
言って、玄関に入り込んだ。
「承知しました、ご主人」
「りょーかい……」
今日は久しぶりにカミラたちがこっちに来て夕食を摂ることになっている。
彼女らも家に荷物を置いたあと街の屋台などで食事を調達してからやってくるとのことだった。
もちろん俺たちも街に繰り出してどこかの飲食店に入るのでもよかったのだが……さすがに邪神を連れて街を練り歩くわけにはいかないからな。
そこでどちらかの家にしようという話になったのだが、今回はケット・シーもいることだし、俺たちの家に落ち着いたというわけである。
ひとまず自室に戻り、荷物を降ろす。
「……ん?」
と、違和感に気づく。
さっきまで荷物の上にいたはずのケット・シーの姿がいない。
もしかして実体化を解いたのか……と思ったが、それならば首輪がどこかに落ちているはずだ。しかし見当たらない。
どうやら、ここに来るまでに荷物から飛び降りたのらしい。
新居を探検でもしているのか?
「おい、ケット・シー?」
開いたままの扉から廊下へ呼びかけてみるが、返事はない。
まあ、もともと返事をするようなヤツではないが……
仕方がないので部屋を出て探そうとしたところで、足元から視線を感じた。
「なんだ、そこにいたのか……なんだそれ」
俺の足元に佇んでいるケット・シーは、何かを咥えていた。
自分の顔より大きな……手紙だ。
油紙にくるまれ、しっかりと封蝋がしてある。
『手紙ダ』
「見りゃわかる。……ポストから、それを取ってきてくれたのか?」
器用な猫……もとい邪神だ。
『イイ匂イガシタカラ取ッテキタ』
「……良い匂い? ……ああ、そうか。とりあえず、貰うぞ」
何となく言わんとしていることを察して、ケット・シーから手紙を受け取る。
「良い匂い……それはおそらく、油紙にしみこませた獣脂と封蝋に込められた
手紙の封蝋を見て、そう呟く。
これはただの封蝋じゃない。強力な封印術式の込められたヤツだ。
差出人か受取人以外が無理に開こうとすると封蝋が発火し、獣脂に燃え広がり手紙が読めなくなる。
もちろんこんな危険な手紙を普通に配達できるわけもなく、専門の業者を使ったはずだ。
費用は……もちろんバカみたいに高い。
そしてわざわざ俺宛ての手紙にこんなことをするやつは……俺の知る限り、一人しかいない。
「……まったく、ポストの中で封蝋が剥がれたらどうするつもりだ」
愚痴りながらも封蝋に魔力の流し込み封印を解除し、油紙を丁寧に剥がしていく。
案の定、手紙の差出人は王都にいるアリスだった。