パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第20話 『至れり尽くせりな依頼』

『ギイイイイイイイイィィィッッッーーーー!!!!!!』

 

 ダンジョン最下層の大広間に魔物の絶叫が轟いた。

 

 地響きが俺の足元を揺るがす。

 

 目の前には、ドラゴンもかくやという化け物ムカデ『オーガセンチピード』が苦しそうにのたうち回っている。

 

 ちょっとした民家なら押しつぶしてしまいそうな巨躯だ。

 

 それが地面や壁面のあちこちを削り取りながら暴れまわるのだから、たまったものではない。

 

 さすがは危険度Bランクの強敵である。

 

 だが、すでに決着はついていた。

 

「ぐ……ぬっ……!」

 

 その巨大な頭部はすでに、大剣によって地面に縫い留められている。

 

 やったのはファルだ。

 

 暴れるオーガセンチピードの頭を踏みつけ、歯を食いしばりながら大剣を押さえつけている。

 

『ギギ……ギィ――――』

 

 オーガセンチピードの動きが徐々に弱まり、やがて止まった。

 

「ギース、ベティ、ブラッド殿! 仕留めたぞ!」

 

 ファルが歓声を上げる。

 

 が、そのとき。

 

 安堵からか額の汗をぬぐう彼女の背後に、死んだはずのオーガセンチピードの尻尾がゆっくりと持ち上がるのが見えた。

 

 先端には鋭く長い棘が生えている。

 

 先端からは、紫色の液体が滴っている。毒が塗布されているらしい。

 

 それが……ファルを狙っていた。

 

 彼女はまだ気づいていない。

 

 バスッ、と小さな音が聞こえ、杭ほどもある棘が撃ちだされた。

 

「あぶねえっ!」

 

 俺はとっさに射線に割って入り、(レイン)で叩き落とした。

 

 ガキン、と重い衝撃が手に伝わってくる。

 

「なっ……!?」

 

 ファルが気づき振り返るのと、レインの力により毒針が消滅するのはほとんど同時だった。

 

「……すまない。どうやらまた助けられたようだ」

 

「気にするなって。そのための合同依頼だ」

 

 ファルが頭を下げるが、俺は手を振って応える。

 

 彼女らの要望で、俺はオーガセンチピードとの戦闘に参加していなかった。

 

 だが、ダンジョンでは先ほどのように何が起きるのか分からない。

 

 こっちがオブザーバーを決め込んでいたとしても、いざという時にフォローに回るのは当然のことだ。

 

 気にされるようなことではない。

 

 それに、どうやらオーガセンチピードはさっきのが最後のあがきだったようだ。

 

 蟲系魔物のすべてがそうであるように、大量にある足を腹側に折り畳み動かなくなっている。

 

 俺たちの完全な勝利だった。

 

「おい姐さん! 大丈夫か!?」

 

「ファル! 怪我はありませんか!?」

 

 少し離れた場所に退避していたギースとベティが駆け寄ってきた。

 

 もちろん二人とも見物していただけではない。

 

 ギースは魔物の注意を引き付けてファルの攻撃タイミングを作っていたし、ベティは支援系魔術で戦闘を有利に進めていた。

 

 なかなかいい連携のパーティーだったように思う。

 

「私は無事だ。さっそく毒腺を切除しよう。……これで、ヤツに手が届くだろう」

 

「……ああ」

 

「……ええ」

 

 意味深なセリフを吐きながら、三人がオーガセンチピードの毒腺を切り離す作業へと移った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「そういえばブラッド殿の持つ剣は凄まじい力を持っているな。ダンジョンで見つけた遺物なのか?」

 

 ダンジョンから出て、街に帰る最中のことだった。

 

 馬車に揺られながら雑談に興じていると、ファルがそんな話題を振ってきた。

 

 どうやら俺が鋼甲蜘蛛を瞬殺したことや、オーガセンチピードが死に際に飛ばしてきた毒針を叩き斬るのではなく消滅させたことを不思議に思っていたようだった。

 

「……ああ。これは俺が造った剣だ」

 

 俺は鞘に収まったままの聖剣レインを取り出し、ファルに見せる。

 

「……なんと。ブラッド殿は剣鍛冶師だったのか。なるほど。元冒険者というのは、そういうことか」

 

「おいおいマジかよ。俺は鍛冶屋に負けたってことか?」

 

「ブラッド様はなんでもこなせるのですね」

 

 レインを眺めながら、『暁光の徒』の面々がそれぞれ声を上げる。

 

 そういえば、三人に俺の職業を話していなかったな。

 

 特に話題にならなかったから、そのままにしていたが。

 

 まあ、隠すようなことでもないが。

 

「その剣は、何らかの魔術処理をしているのだろうか? もし差し支えなければ、教えてほしい」

 

「お……俺も!」

 

 ファルとギースが興味津々な目つきになって、そんなことを聞いてくる。

 

「こいつ……『聖剣レイン』には、魔術『魔力漏出(ドレイン)』の力が備わっているんだ。だからダンジョンの魔物は斬るだけで消滅する。要するに魔物特効の剣だな。だから――」

 

「ちょ……ちょっと待ってくれブラッド殿」

 

 俺の解説に、ファルが割り込んできた。

 

「なにかおかしいことでもあったのか?」

 

「おかしいも何も、その武骨な剣が……聖剣だと!?」 

 

「待て! 聖剣って、あの聖剣か!?」

 

「なんと、ブラッド様は聖剣の使い手だったのですね!? ああ、やはり女神様のご神託は本当だったようです」

 

 『暁光の徒』メンバー全員の食いつきがヤバい。

 

 ファルとギースは目を剥き、口があんぐり開いたままだ。

 

 ベティは別の意味で目が怖い。

 

「いや……別に驚くことでもないだろ。剣鍛冶というか、俺、聖剣錬成師だし」

 

 たしかに聖剣は高価だ。

 

 一般的な冒険者では手が出ない。

 

 元工房でも取引をするのは貴族や豪商が多かった。

 

 とはいえ、存在に驚愕されるような代物ではないはずだ。

 

 基本的に、聖剣は特定の魔術が付与された剣、という位置づけだからな。

 

 あとは付与された力を人間には不可能なレベルまで高精度な制御・威力増幅するため、人造精霊を憑依させているくらいだろうか。

 

 ただ聖剣そのものは、別に新人冒険者が持っていてもおかしくはない。

 

 そいつが貴族や豪商の倅だってこともあるわけだからな。

 

 俺の場合は自前だったというだけの話だ。

 

「しかし、ブラッド殿はなぜ冒険者などをやっているのだ? 聖剣錬成師ならば、こんな危険な仕事をする必要はないだろう」

 

「ああ、それはだな……」

 

 疑問を呈するファルたちに、俺の置かれている状況をかいつまんで説明してやる。

 

 ……元工房主をぶん殴って辞めたくだりは伏せておいたが。

 

「なるほど。ブラッド殿が冒険者をやっているのは、新たにこの街で工房を開くための資金稼ぎ、ということなのだな」

 

「まあ、そういうことだ」

 

「そうか……ふむ」

 

 そこでファルが何やら思案気な表情になる。

 

 ややあって、彼女が口を開いた。

 

「ブラッド殿、一つ聞いてもいいだろうか」

 

「構わないぞ」

 

「その……不躾な頼みで恐縮なのだが……私に聖剣を一振り、打ってもらうことは可能だろうか」

 

 なんだ、そんなことか。

 

 切り出すまでかなり悩んでいる様子だったが、仕事の依頼だったらしい。

 

「もちろん、金は出す。ブラッド殿の言い値で構わない。それと……工房がないのなら、場所も提供できる」

 

「工房と言っても、普通の鍛冶師用でなくて魔術師用だぞ。あるのか?」

 

「ならば、むしろ問題ない。実は、オルディスには我々の滞在している場所とは別に、使っていない邸宅があってな。古い建物ではあるが、魔術師工房に転用可能な地下室がある。この家を、聖剣の費用前払いとして提供する。……どうだろうか」

 

「なるほど」

 

 至れり尽くせりである。

 

 ファルたちは素性を明かしていないが、立ち振る舞いや会話の内容などから察するに貴族階級に属する者であることは間違いなさそうだ(ギースは違うようだが)。

 

 今彼女たちが装備している武器や防具もそれなりにマトモなものだ。

 

 少なくとも、危険度Bの魔物を討伐できる程度には。

 

 聖剣は基本貴族向けの価格だ。

 

 庶民向けの住宅なら二つか三つ買えてしまうお値段である。

 

 だが、こちらも魔術師工房付きの家が欲しいと思っていたところだ。

 

 費用のすべてをそれで相殺することはできないが、通常よりずっとリーズナブルな価格で錬成することができるだろう。

 

 もっとも、彼女たちが身分を偽っているのならば別だが……これまでの彼らの振る舞いから、信用するに値すると俺は判断する。

 

「分かった。依頼を受けよう。……ただ、少し時間をもらうぞ」

 

 聖剣錬成自体はそれほど時間を要しない。

 

 だがそれ以外のことに時間がかかるのだ。

 

 力を剣に転写する魔法陣の構築や素材集めがどうしても必要になるし、人造精霊を入手するにもそれなりに時間がかかる(今後はカミラがいるので、ここは大幅に短縮できそうだが)。

 

 そもそもどんな聖剣が欲しいのか打ち合わせを重ね、入念に確認しなければならない。

 

 特に今回は工房の環境を整える期間も含まれるから、通常の倍以上の期間を要することだろう。

 

 そんなことをファルに説明する。

 

「承知した。時間にはそれほどこだわらない。ともかく、聖剣を手に入れる機会があること自体が、我々にとって僥倖なのだ」

 

 まあ、普通の冒険者ならばなかなかない機会だろうとは思う。

 

「それで、だ。ファル、あんたはどんな聖剣を必要としているんだ?」

 

 まずはここからだ。

 

「それは決まっている」

 

 ファルは少しだけ間をおいて、先を続けた。

 

 決意に満ちた目で、俺を見据えながら。

 

「とある魔族を確実に殺す聖剣が欲しい。我々が多少無理をしてでもオーガセンチピードの毒腺を得ようとしたのは、そのためだ」

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