パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第201話 『鋼の意思』

「私も行こう」

 

 一緒に夕食を摂るためやってきたカミラに手紙の話をしたら、こちらが誘う前に食い気味にそう言われた。

 

 彼女は居間のソファから立ち上がると、ローテーブル越しに身を乗り出し、俺の肩をガッと掴んできた。

 

 カミラの体重が俺の肩にのしかかる。

 

 う、動けん。

 

「精霊術師が必要なんだろう? ならば私がいれば事足りるだろう」

 

「そ、そうだな」

 

 俺はどうにかそれだけを口にした。

 

 こちらがソファに座っているせいで身長差がないので、これ幸いとカミラは俺の顔に顔を近づけてくる。

 

 もう鼻と鼻がくっつきそうな距離だ。

 

 思わず視線をそらしてしまうが、逸らした視線の先に彼女の顔がついてきた。

 

 やたら顔が良い分、その行動は人間味が薄くて怖いんだが?

 

 というか瞬きしよう、な?

 

 それと俺の両肩を掴んだ彼女の指が思いっきり食い込んで痛い。

 

 とにかく、今の彼女からは『絶対に逃さんぞ』という鋼の意思が感じられた。

 

「ご主人様、ブラッド様、お食事の準備ができました……ふふ、今日もお二人は仲がよろしいですね」

 

「はわわわわわ……」

 

 声が聞こえたので横を見てみれば、居間の扉が少しだけ開き、誰かがこちらを覗いていた。

 

 マリアとステラだ。

 

 二人はうちのダイニングで食事の支度をしてくれていたのだが、準備ができたので俺たちを呼びに来てくれたらしい。

 

 マリアはともかく、ステラは真っ赤な顔を両手覆い隠しているが、指の隙間からしっかりこちらをガン見している。

 

 奥ゆかしいのか大胆なのか。

 

 とはいえ、二人に構っている余裕はない。

 

 それよりもカミラだ。

 

 とりあえず、俺は話を続ける。

 

「だが……本当に大丈夫なのか? 俺も誘うつもりだったのは確かだが、店があるだろ」

 

「今は仕事が落ち着いている時期だし、マリアとステラがいる。ふたりとも、私以上に完璧に店番をこなしてくれるからね。特にステラすでに魔道具の作成の一部を任せているし、取引先への魔道具納入も彼女の仕事だからね。可愛い獣人の女の子が品物を届けてくれると街中で評判だよ」

 

 肩に食い込んだ指に、さらに力が込められた。

 

「それとも……私が一緒に付いていくことで、何か問題があるのかい?」

 

「いや、お前が良いならばそれで構わんが……」

 

 とはいえ、俺としてもカミラが必要なのは確かだった。

 

 俺の知る限り、少なくとも王国には、彼女より腕の良い精霊術師はいないはずだ。

 

 手紙でも、精霊術師が必要ならば連れてきて構わない、とアリスは書いている。

 

 断る理由は特にない。

 

「分かった! そもそも一緒に来てもらうつもりでお前に話をしに来たんだ。とにかく一旦俺から離れてくれ」

 

「……良いだろう」

 

 俺の言葉に、渋々ながらカミラが俺の肩から手を離した。

 

 どうにか説得できたようだ。

 

 心の奥でそっと息を吐く。

 

 そもそも今日ここのやってきたのは、彼女の了解を取るためであって、断るためじゃない。

 

 流れ的に俺が断るかもしれないような感じになっているが……そんなわけないだろ。

 

「……それで、いつから王都に向かうんだい?」

 

 俺の説明にホッとした様子のカミラがそう言った。

 

「正直、あまり時間がない。ここ二、三日の間に支度を整えて向かう必要がある。だからこそ、お前に確認しに来たんだよ」

 

「その程度の準備期間があるのなら、問題ないさ。それで……クロディス伯はどのような人造精霊を希望しているのだい?」

 

「分からん。それは王都に着いてからのお楽しみだな」

 

「くく、『お楽しみ』か。悪くないね」

 

 カミラが不敵に笑った。

 

 なんだかんだ、俺は彼女の仕事に対するスタンスが気に入っている。

 

 難しい仕事であればあるほど燃えるタイプなのだ。

 

 これは俺も同じだが。

 

「ただ、まったくのノーヒントというわけじゃない。依頼人はアリスの友人だそうだ。ならば、おそらくは軍人、冒険者、武闘派の貴族……あるいはその関係者になるだろう。当然、錬成するのは儀礼用の聖剣なんかじゃない。強力な人造精霊が宿った、実戦に耐えうるものになるだろう。そうでなければ、わざわざ俺を指名するはずはないからな」

 

「うむ、そうなるだろうね。……もちろん報酬は弾んでくれるのだね? 聖剣錬成もそうだろうが、精霊魔術も魔法陣を描くのに専用の顔料が必要だからね。あれは結構値が張るし、劣化が早いから現地調達が必要になる可能性もある。王都の魔術師ギルドには昔の馴染みがいるから、そこから購入できると思うが……値切るような真似はできない」

 

「王国貴族はメンツが大事だ。金に糸目を付けないことを誇りにしているところがある。アリスもそうだ。特にアイツは金を出し渋るとか、そういう野暮な真似はしない」

 

 そういえば、カミラはアリスと顔を合わせたことはあるが、依頼に関わるのはこれが初めてだったか。

 

 いずれにせよ、問題はない。

 

「うむ、いいだろう」

 

 そこまで確認したところで、ようやくカミラは満足したような表情になった。

 

 と、さらに思い出したように彼女が付け加える。

 

「……ああ、それとケット・シーの件はどうするんだい?」

 

「もちろん王都に滞在している間に、時間を取って探すつもりだ。アイツを王都に連れ込むのは……少しばかり、魔術師ギルドに根回しが必要かもしれん。カミラ、そっちは頼めるか?」

 

「うむ、そちらは私からしっかり話を通しておこう。……さあ、そろそろ夕食にしよう」

 

 彼女はそう言って、力強く頷いた。

 

 

 もっとも、オルディスから王都に持ち込むものはそう多くない。

 

 どのみち依頼の内容を確認しないことには始まらないからな。

 

 本来ならば詳細の条件を伝えてからどうするかを決めるのだが、依頼の性質からして直接伝えなければならないということのようだから、こればかりは仕方ない。

 

 俺とカミラはなるべくどんな要求にも応じられるよう入念に準備を行い、あっという間に出発当日がやってきた。

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