パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第205話 『王都散策 下』

「工房が潰れたって? 移転じゃなくて? 冗談だろ……!?」

 

 それは初耳だった。

 

 まさかザルツが店を潰した?

 

 確かにヤツはクソ野郎で放蕩経営者だったが、金勘定だけは上手かったはずだ。

 

 おまけに国にもコネがある。そもそも貴族だ。そっちのツテもある。

 

 だからこそ、工房主だけでなく聖剣ギルドの長の座に収まっていたのだ。

 

 そんなヤツが工房を潰すとなれば、何か相当な理由があったはずだが……

 

「おうマジだマジマジ」

 

 ロナルドが何か恐ろしいものでも見たかのように声をひそめつつ、先を続ける。

 

「ザルツの大バカ野郎、なんでもお前の名前で粗悪な聖剣をお貴族様に売りつけようとしたらしくてな。ほら……お前も名前くらいは知ってるだろ? 超武闘派で有名な、クロディス家の若当主様だよ。あいつ、よりにもよってこの世で最も怒らせちゃならねぇお方を怒らせちまった」

 

「あー……」

 

 思わず俺は天を仰いだ。

 

 あいつ、そこまでバカだったのか……

 

 アリスは俺の前では何も言わないから分からなかった。

 

 彼女はこの手のことをことさら自慢するような性格でもないからな。

 

 だが確かに、そう言われればそれらしきことを(ほの)めかしていたような、いなかったような……

 

 いずれせよ。

 

 どうやら俺は今の今まで、ザルツを買いかぶっていたようだ。

 

「クク……君の元雇用主は、なかなかの人物だったようだね。もちろん悪い意味で、だけども」

 

 カミラが向こうを向きながらクスクスと失笑している。

 

 クロディス家……アリスを知る彼女にとって、ザルツのやらかし(・・・・)はおよそ考えられる中でも最大限の愚行と感じられただろう。

 

 もちろん俺もそう思う。

 

 というか、しかもよりによって粗悪な聖剣を売りつけようとした……だと?

 

 それは彼女にとっては逆鱗に触れるどころか、逆鱗を素手でもぎ取るに等しい行為だ。

 

 自殺行為そのものと言っていい。

 

 その場で三枚おろしにされてもおかしくはなかったが……さすがのアリスもそれは自重したようだ。

 

 理性を保っていられて偉い。成長したんだな、彼女も。

 

「それで、ザルツはどうなったんだ?」

 

「まあ、お前の想像している通りだと思うぜ。大貴族様にこの上ない無礼を働いたんだ。その場で斬り捨てられこそしなかったが、その後衛兵にしょっ引かれて散々な目に遭ったらしい。しかも、その隙に工房内で謀反を起こされたらしくてな。まあ、そっちの内容は小耳に挟んだだけだが……やっこさん、お前だけじゃなく相当な数の職人に恨まれていたみたいだからなぁ。自業自得だよ。……で、その後は聖剣ギルドでもそれをネタにして対立していた幹部につけ込まれ、ギルドマスターの立場も剥奪されて、今やどこにいるのやら分からん状態だとさ」

 

「…………」

 

 まさか、そんなことになっているとは思わなかった。

 

「結局は自分の身から出た錆で、己を滅ぼしたということだね」

 

 カミラがぽつりと呟く。

 

 いやまぁ、俺もこれまでのことを思い出せば『ざまぁ見ろ』以外の感情は出てこないが。

 

 なんというか、あっけない結末だ。

 

 いずれにせよ。

 

 これでもう、ヤツと関わることはないだろう。

 

 ……ないよな?

 

 

 その後はロナルドと昔話をしたり、王都に新しくできた名所や最近気になる工房や聖剣錬成師の話題で盛り上がったりと楽しい時間を過ごした。

 

 とはいえ彼も工房主で、忙しい身の上ではある。

 

 適当なところで話を切り上げ、俺とカミラは外に出た。

 

 

「それじゃ、別邸に向かうか」

 

「そうだね」

 

 カミラはまだ王都の街並みを見て回りたそうにしていたが、俺の提案に頷いた。

 

 

 ここからクロディス家の別邸までは歩いて30分もかからない。

 

 夕食の時間まではまだ時間があるが……さすがにそろそろ向かうべきだろう。

 

 それに別邸には、俺たちの滞在中に身の回りの世話をしてくれる人たちもいると聞いている。

 

 さすがに夕食の前に挨拶の一つでもしておかなければ、失礼というものだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 クロディス家のような有力な王国貴族は、自らが統治する領地に本邸を構えており、それとは別に王都に別邸を構えている。

 

 そして王都の別邸は王城から近い順に上屋敷、中屋敷、下屋敷などに分類されているが……俺たちの宿泊するのはクロディス家が所有する下屋敷のうちの一つだ。

 

「おお、でかいな……」

 

「さすがはクロディス家だね……」

 

 整然と区画整理されたこの地区は、新市街地の端にある屋敷街である。

 

 石畳で綺麗に舗装された通りは馬車の往来を想定しているのか、かなり広々としている。

 

 そんな通りの歩道部分を歩きながら、俺はそびえ立つ石造りの塀を眺め、ため息を吐いた。

 

 でかい。

 

 一つの街区が、ひと続きの高い塀に囲まれている。

 

 事前に渡された地図によれば、この塀に囲まれた中全部がクロディス家の別邸とのことだった。

 

 

 数分歩き屋敷の正面に回ると、大きな門扉が見えた。

 

 その前には、門番の他に執事と思しき初老の男性が直立不動で立っている。

 

 彼は遠目に俺たちをみとめると、口元に手をやり何かを呟いた後、すぐに身体の向きを変え深々とお辞儀をしてきた。

 

「ブラッド・オスロー様、カミラ・オストラヴァ様ですね。クロディス家別邸へ、ようこそお越し下さいました」

 

 門に近づくと、すぐに男性が話しかけてきた。

 

 どうやら俺たちの容姿は屋敷の人々に伝わっていたらしい。

 

 まさか声を掛ける前に頭を下げられるとは思っていなかったので少し驚いたが、顔には出さず対応する。

 

「ブラッドとカミラだ。今日から数日、世話になる」

 

「これはご丁寧にありがとうございます。私はお二方の滞在中にお世話を務めさせていただきます、執事頭のフレッドと申します」

 

 そこで彼は不思議そうに周囲を見回した。

 

「もうお二方、お連れ様がいらっしゃるとお聞きしておりましたが……後でお越しになられるのでしょうか」

 

「いや、二人はこの中だ。起こした方がいいか?」

 

 俺が苦笑しつつ自分の腰に身に着けた魔導鞄(マジック・バッグ)をポンと叩く。

 

 セパとレインには転移魔法陣のこともあり魔導鞄の中で待機してもらっていたのだが、退屈だったせいか眠ってしまったらしい。

 

 フレッド氏はすぐに状況を察したのか、にこやかな笑みを浮かべた。

 

「……なるほど、セパ様、レイン様は現在お休み中(・・・・)ということですね。であれば構いませんよ」

 

「ウチの聖剣たちがすまんな」

 

「とんでもございません。さあどうぞ、中へとご案内いたします」

 

 

 ひととおりの挨拶が終わるや否や、フレッド氏が口元に手を寄せ何かを呟くと、即座に門が開いた。

 

 彼は白手袋を身に着けているが、よくよく見てみると手のひらの部分に魔法陣が描かれているのが分かった。

 

「ブラッド様、カミラ様、こちらへどうぞ」

 

 フレッド氏が開いた門の奥へと入っていくので、俺たちも続けて入った。

 

 敷地は広大だった。

 

 なにしろ街区まるごと一つ分だ。

 

 幅は100メートル以上、奥行きも50メートルはあるだろうか。

 

 さすがに屋敷は敷地の規模に対して控えめなサイズだったが、それでもオルディスの我が家よりも大きい。

 

 数十人は宿泊できそうな屋敷だ。

 

 

 敷地の方は、植え込みや池などがある庭園の他にその横にだだっぴろい広場もあった。

 

 よくよく見ると、奥の塀の端に設置されているのは木人形や的の類だ。

 

 もしかして、ここは剣術や兵士たちの訓練ができるようにしてあるのだろうか。

 

 確かにアリスの交友関係から考えると、同じく武闘派の貴族や騎士たちが自分の兵士を引きつれてここに滞在することもあるだろう。

 

 そのための設備というわけだ。

 

 ある意味、クロディス家らしい優雅さと武骨さが調和(?)した別邸と言えるかもしれないな。

 

 とりあえず、今は魔導鞄(マジック・バッグ)の中で眠っているセパとレインが起きたら、大喜びで探検に出かけそうである。

 

 ……別邸で働く皆さんに迷惑を掛けないよう、二人にはしっかり言い含めておかなければ。

 

 

「ブラッド、彼の白手袋は気づいているかい? あれは音声通信魔道具だね。やはり王都は進んでいる」

 

 と、カミラは俺に身を寄せ、ヒソヒソと話しかけてきた。

 

 どうやら彼女はフレッド氏が身に着けている魔道具が気になるようだ。

 

「当然だ。だが、あの魔法陣は声を拾う機能しかないんじゃないか」

 

「もちろん分かっているとも。本体は多分懐だね。左の胸元が少し膨らんでいる」

 

「だろうな」

 

 俺は頷いた。

 

 魔法陣だけで実現可能な通信系魔術は、それくらいのはずだ。

 

 映像記録型の魔道具などかなりの小型化に成功していたとは聞いているが、特に遠隔通信魔道具は発信する魔力波の増幅機構と転移魔法陣を応用した装置が必要なため、どうしても筐体の小型化が難しいと聞いたことがある。

 

 オルディスの冒険者ギルドにも王都や他の支部と通信できる最新鋭の魔道具が置かれていたはずだが、一番小型のやつでも一抱えくらいのサイズはあったからな。

 

 もっとも、この敷地をカバーする程度の範囲ならば魔力増幅機構や転移魔法陣も不要なのだろう。

 

 それならば、胸ポケットに収まるくらいまで魔道具の小型化が実現できるのかもしれない。

 

 

 それにしても、どこの工房製だろうか。

 

 それともアリスが付き合いのある魔道具師に造らせたのか。

 

 いずれにしても、ものすごく気になるな……

 

 夕食の前あたりに、アリスに聞いてみよう。

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