パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
身体能力を弱体化させる聖剣が欲しい。
それが鬼族であるアソ氏の願いだった。
「発作のように突如制御不能になる『怪力』をうまく抑え込み、日常生活に支障を
晩餐のあとカミラとともに下屋敷に戻った俺は、寝室のベッドに寝ころび天井を眺めていた。
依頼の内容はシンプルだが、考えれば考えるほどに実現の難易度が高い依頼だ。
まず、聖剣に付与する魔術の種類。
身体能力を低下させるタイプの魔術は大きく分けて三種類ある。
そのものズバリの身体能力低下、間接的に影響を及ぼす魔力低下、それに麻痺などの状態異常。
いずれも戦闘支援系魔術を扱う魔術師ならば、それらのうち一系統くらいは手札に入れている程度にはありふれている魔術だ。
聖剣に付与すること自体は難しくない。
ちなみにレインの力である『
それを踏まえ、現状は身体能力低下系の魔術一択である。
魔力低下系は、身体機能に支障が出るほど魔力を低下させると単純に健康を損なうし、なにより魔族は人族よりも魔力への依存度が大きい。
うかつに手を付けると、アソ氏どころか生まれてくる子供にすら危険が及びかねない。
状態異常系は論外だな。
ただ、身体能力低下系もそれはそれで問題が多い。
付与すれば確かに怪力は収まるだろうが、今度は軽い力を入れたときに意図する力を発揮できない。
もちろん、そこを人造精霊の制御で補うつもりなのだが……
そもそも、果たして本当に、単純に身体能力を低下させられればそれでいいのだろうか?
それに、どんどん強くなる力を一時的に抑えられたとしても、いずれ限界が来てしまうだろう。
聖剣とて、万能ではない。
だからこそ、もっといい方法がありそうな気がするのだが……その方法が思いつかない。
「どうしたんだい、ブラッド。ずいぶん悩んでいるね」
と、ベッドサイドのテーブルで魔導書を読んでいたカミラから声がかかった。
「……どういう魔術が一番適切かと考えていた」
「確かに難しい問題だね」
カミラは『ふむ』とため息をひとつ吐いたあと、魔導書をパタンと閉じた。
それから彼女はベッドに乗り、俺のすぐ側までにじりよってきた。
それから俺に寄り添うように寝そべると、同じように天井を見上げた。
「身体能力低下の魔術以外は考えられないだろうね。君も分かっているだろうけど」
「もちろんそのつもりだ。だが、他に何か手がないかと思ってな」
「それだけではダメなのかい?」
「ダメというわけじゃない。現状では、これが最適解だと思う。だが問題点もある」
「人造精霊の負担が大きすぎる? 確かに高度な知性と発作を察知するための注意力が必要になるだろうね」
「それもある。それよりも、発作が起きた時にどうしてもタイムラグが生じるのが問題だ。人造精霊は人造精霊であって、アソさんとは別人格だからな」
「……確かに。予期しないタイミングで『怪力の発作』……あくまで仮称だけども、その発作が起きた時に、遅延なしに魔術を制御するのは困難だろうね」
「そこなんだよなぁ」
身体の横にカミラのぬくもりを感じながら、ぼやく。
その一点こそが最大の課題なのだ。
アソ氏が生まれた子供を抱くのならば、可能な限りタイムラグをなくすべきだった。
事故が起きてからでは、改善しても手遅れだ。
「そもそもの話、『怪力の発作』と言うのは、鬼族特有の病のようなものなんだって?」
「全員がそうなるわけじゃない、とは言っていたよな」
カミラの問いかけに、俺は頷いた。
「千人だか二千人だかに一人くらい、男女問わず発症。個人差はあるが、たいていは子供のころに症状が出て成人する前に死んでしまう。発症すれば徐々に際限なく力が強まってゆき、最終的には自分の怪力の耐え切れず肉体が崩壊してしまう。なかなか
「そのままずっと穏やかなままだったらよかったんだけどね」
カミラがぼんやりと天井を見上げながら呟く。
「なんというか、呪詛めいた病だな」
「むしろ、呪詛そのものじゃないかな。……『怪力の呪詛』さ」
「……やっぱり、お前もそう思うか」
怪力の呪詛。
たしか、オルディス冒険者ギルド職員シルさんの弟セオ君が、グリフォンの上位個体か何かを倒したときに置き土産で喰らったヤツだったか。
あれはセパの力でサクッと切断できたが……
「ただ……そうだとしても、魔族であるというのが問題なんだよな」
「……そうだね」
カミラも俺の言葉に頷く。
魔族には、人族や獣人とは決定的に異なる身体的特徴が一つある。
それは、体内に『魔力の核』を持っていることだ。
魔族はこの核の存在により魔物に近い姿を保っているとされ、さらには強力な魔力や超人的な膂力、固有の特殊能力を持つ。
要するに、魔族は人族や獣人と比べて魔物に近い存在なのだ。
そして、その魔力の核と呪詛が、大いに関係があるのだ。
まず前提として、呪詛とは、魔物や邪神などが持つ特殊能力に分類される。
それゆえ、人族が扱うには魔物などから得た素材や触媒を介する必要がある。
だが、魔族は魔物の形質を備えている。
結論を言えば、魔族は種族によっては生まれたときから呪詛をその身体に宿しているのだ。
……ここからはあくまで俺の仮説だ。
鬼族は種族全体の特殊能力として、個体差はあれど『怪力の呪詛』をその身に宿して生まれてくるのではないだろうか。
ただし普通の鬼族は、ごく弱い『怪力の呪詛』を宿しているため、せいぜい人族の数倍の力を発揮できる程度の能力しか現れない。
だが、アソ氏はたまたま『怪力の呪詛』を強く宿してしまった。
そして種族的な特徴とはいえ、呪詛は呪詛だ。
宿した呪詛が強ければ強いほど、当然ながら害をなす可能性は高まる。
ならば、セパの力で呪詛を断ち切ればいいのだが……話はそう簡単ではない。
なぜならアソ氏が魔族だからだ。
魔族にとっての『魔力の核』は、人族にとっての心臓のようなものだ。
つまり『怪力の呪詛』を断つことは、アソ氏の力だけでなくその命すらも断つことになりかねない。
もちろん呪詛だけを選択的に断ち切ることができるかもしれないが、万が一命まで断ち切ってしまえば取り返しがつかない。
だから今回、セパの『切断』の力は使うことができない。
だからこそ、悩んでいるわけだが……
いや、待てよ。
「なあカミラ。魔術や呪詛の発動状態には、『力場の位相』とかいう概念があったよな」
「……ふにゅ……『位相』……ね。わ、わかるとも。懐かしい響きだ。昔、魔導学院の応用魔術学の講義で話した覚えがある」
カミラはベッドで寝そべっていたせいか、俺がいろいろ考えている間まどろんでいたようだ。
何か可愛らしい寝言を呟いてから、うっすらと目を開けた。
そう、『位相』だ。
なぜこんな簡単なことに気づかなかったのか。
呪詛や魔術が現実に効果を及ぼす場合、その効果や力には一定の波のような周期が現れることが知られている。
例えるならば、静かな水面に落ちた水滴が波打ち広がるようなイメージだ。
これを、王国の魔術研究者たちは『力場の位相』と表現した。
そしてこの『位相』に、まったく同じ強さと効果を、まったく同じ定位――つまり『逆位相』の力をぶつけると魔術や呪詛の『力場』が消失することも、『力場の位相』理論が提唱されたあとすぐ発見されたのだ。
簡単に言えば、魔術や呪詛に『まったく同じ魔術や呪詛』をぶつけると、力や効果そのものが消滅するのだ。
王国魔術学院でこの理論が実証済みの研究データと共に発表されたときは、魔術師界隈だけでなく聖剣職人や魔道具師など魔術に関係のある全員が、この話で持ちきりになったものだ。
それが、だいたい十年くらい前のことだったか。
だが、この現象は論文や特殊な条件下における工房実験レベルでのみ再現可能だということがすぐに判明した。
まあ、当然だ。
現実では、魔術も呪詛も常に力場が移ろい一定ではないからな。
それゆえ、期待されているほど応用の幅はなく、魔道具などへの技術応用は現実的でないとされているのだが……
今の俺の聖剣錬成師の腕とカミラの創り出す人造精霊ならば、怪力の呪詛の『逆位相状態』を上手く制御することができるかもしれない。
もちろん『怪力の呪詛』も含め、これらはあくまで仮説の域を出ない。
おまけに実現可能かどうかすら分からない方法だ。
だが、頭で考えているだけでは何も進まない。
善は急げ、という格言もある。
「よし、カミラ! 明日の朝から王都周辺の高難度ダンジョン巡りだ。呪詛集めの冒険に出るぞ!」
「……ふにゅ……ふわっ!? ダンジョンが冒険で……なんだって!?!?」
いきなり大声を出したせいか、寝ぼけ
……その後、えらい剣幕で彼女に怒られたのは言うまでもない。
※この後めちゃくちゃ仲直り(意味深)しました。