パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第211話 呪詛集め 上

 王都は何百年も前から存在する旧市街と、その周囲を取り巻く新市街で構成された、二重の城郭都市だ。

 

 もちろん都市が発展を続けるには、内側の城壁は通行の妨げになる。

 

 ゆえに内側の城壁は一部を残して、ほとんどが取り壊されているのだが……いまだ残る内壁付近に、目的のダンジョンは存在していた。

 

 ――第十三街区地下墳墓遺跡。

 

 数年前、新市街区域の拡張を目的に新市街と旧市街を隔てる内壁部分の取り壊し工事を行っている最中に、見つかった地下墳墓のそのさらに奥に存在するダンジョンである。

 

 階層は五層。

 

 王都内部に存在するダンジョン群の中では大規模な部類で、依頼書の説明では攻略難易度はかなり高めに設定されているようだ。

 

 

『ご主人ご主人! 骨が、骨が!』

 

『うええぇ……アンデッドの魔力ってちょっと苦いんだよね……』

 

『二人ともやかましい! 骨なら道中飽きるほど見てきただろ! さっさと切り抜けるぞ!』

 

 地下墳墓の入口からダンジョンに入った途端、床に散らばった骨が集合し、十数体のスケルトンと化して襲いかかってきた。

 

 セパが俺の頬にへばりついたまま大騒ぎをし、レインは聖剣としての役割を全うするため、文句を言いながらも姿を消した。

 

 確かに目の前の骨の大群はなかなかの迫力だ。

 

 だが丸腰の人骨に大した戦闘力はない。

 

 ささっとレインで斬り払うと、スケルトンたちは跡も残さず消滅。

 

 あっという間に周囲は静けさを取り戻した……のだが。

 

 一息つく暇もなく、今度は数十体ものスケルトンが地下墳墓の横穴から這い出てきて、カラカラと音を立てながらこちらに迫ってきていた。

 

 数が数だけに、完全に囲まれている。

 

 しかも今度の奴らは金属製の燭台やら朽ちた木の棒などを持っていた。

 

 おそらく副葬品の類だろう。

 

 見た感じ呪詛の類は持っていなさそうだが、さすがにあれらで袋叩きにされるのは御免被りたいところだ。

 

「ふむ、今度は私が対処しよう」

 

 俺がレインを持って身構えていると、カミラが前に進み出た。

 

「――闇の精霊に願い(たてまつ)る。死してなお彷徨(さまよ)える魂を塵へと還せ」

 

 彼女は不敵な笑みを浮かべながら呪文を唱え、杖を一振りした。

 

 次の瞬間、スケルトンたちの足元から闇色に光る霧が湧き出て、連中を包み込む。

 

 俺たちも視界が遮られるが、魔物たちの進撃もそこで止まった。

 

 次の瞬間。

 

 カラカラと乾いた音が周囲に響き渡り、すぐに静寂が戻った。

 

 霧が晴れると、スケルトンたちは元の物言わぬ骨へと戻っていた。

 

「おお、すごいなカミラ! まさか神聖魔術まで使えるとは思わなかったぞ」

 

「これは精霊魔術だよ。効果は似たようなものだけどもね」

 

 カミラが肩を竦めて言った。

 

 アンデッドを鎮める魔術といえば神聖魔術だが、確か、さっき彼女は『闇の精霊よ……』などと言っていた気がする。

 

 風や地の精霊は聞いたことがあるが、 『闇』の精霊までいるのは初耳だ。

 

 しかもそいつがアンデッドをあっさりと葬り去るのはさらに意外だった。

 

 闇の精霊と言うくらいだから、逆にスケルトンを操りそうなものだが。

 

 それにしても、まだまだ俺の知らない魔術をカミラは知っている。

 

 さすがは『魔女』と呼ばれただけあるな。

 

「――もっとも、使用可能な場所はかなり限定されるけどね。それにこういった地の底の、淀んだ魂が(おり)のように溜まりに溜まった場所に生じる精霊だから、風や水の精霊と違って少々ひねくれている。対話の仕方を間違えるとこちらが危険にさらされることもある。……とはいえ、私クラスの精霊魔術師にとっては『闇の精霊』は頼もしい味方なのだよ」

 

 彼女は俺が褒めことで気を良くしたのか、ドヤ顔の早口で、闇の精霊がいかに凄いかを語ってくれた。

 

「そうだ。忘れるところだった」

 

 と、カミラが思い出したように付け加える。

 

「さっき『闇の精霊』と少しばかり対話したけれども、彼女はずいぶんとご機嫌斜めのようだね。どうやらこのダンジョンに、最近異物が紛れ込んでいるらしい」

 

「異物? 俺たちのことか?」

 

「いや、私たちではないようだね」

 

 俺の疑問に、カミラが首を横に振って否定した。

 

「どうも、このダンジョンには存在しなかった呪詛を持ち込み、まき散らしている者がいるそうだ」

 

「……存在しない呪詛、か。ならば魔剣持ちどもだな」

 

 冒険者ギルドで聞いた話を思い出し、頷いた。

 

 魔剣は呪詛を帯びている。

 

 そして呪詛は伝染する。

 

 倒しそこなったアンデッドたちが呪詛を受け、そのまま彷徨っているということだろうか。

 

 もしかすると、このダンジョンに存在する上位個体の何体かは、そういう風に『造られた』のかもしれない。

 

「ともかく、自分の住処を荒らされた闇の精霊は相当に鬱憤が溜まっているようだ。さっきは腹立ちまぎれといった様子で力を貸してくれたけども、そう何度もこちらの頼みを聞いてくれるとは限らないね」

 

「随分と危険な魔術……いや、精霊なんだな」

 

「水や風の精霊も、怒らせると怖いのは一緒さ。いずれせよ、魔剣持ちの連中との遭遇戦も念頭に置いたほうが良さそうだね」

 

「最初にそれが知れただけでもありがたいな」

 

「ふふん、このくらい大したことではないさ」

 

 そうカミラは言ったが、心なしか得意げな様子だった。

 

 とにかく、用心しながら進むべきだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 地下墳墓の陰気な雰囲気の中、ダンジョンの中を進んでいく。

 

 出てくる魔物は当然ながらスケルトンが多い。

 

 それと、たまにレイス。

 

 ゾンビは今のところ出くわしていないが、そもそもフレッシュ(?)な死体が存在する場所ではないのでおそらく出現することはなさそうだ。

 

 アンデッド以外に出現する魔物は、死肉喰らいの蟲系魔物くらいだろうか。

 

 俺たち以外の冒険者たちは、本命はそっちなのだが……今は文字通りのお邪魔虫でしかない。

 

 奴らは毒こそ持っているが、呪詛は持っていないからな。

 

「ふむ……意外と平和なダンジョンだねえ」

 

 薄暗い通路を進みながら、カミラがつまらなそうに言う。

 

『ふふん! さては魔物たち、私たちに恐れをなして物陰に隠れているのですね? いい気味です!』

 

『でも、アンデッドと蟲さんだけでつまんないかも……味変要素とかないのー?』

 

 聖剣たちも、セパはまあいつも通りだがレインは少々物足りなさそうな様子である。

 

「うーむ……上位個体は深い階層までお預けか」

 

 実際、出てくるのは雑魚魔物ばかりだ。

 

 強いて言うなら物理攻撃が効かないレイスがそれなりの強敵だが、それもレインの刃にかかればただの動く薄布だ。

 

 斬った手ごたえもほとんどなく、絹を引き裂くような断末魔を上げながら消滅するのを淡々と見ているだけのお仕事である。

 

 ちなみにレインいわく、レイスの魔力は味のしない干し肉みたいな食感(?)だそうだ。

 

 

 そのまま特に苦戦することもなく、第四層まで降りたところで状況が一変した。

 

「……ん? あれはなんだ」

 

 階段を降りた先、通路から見える大部屋に何かが蠢いているのが見えた。

 

 近づいてみれば、それは赤黒い塊だった。

 

「うげ……なんだこれは」

 

 モソモソとその場をゆっくりとはい回るそれは、明らかに肉の塊だ。

 

 腐肉というにはやけにフレッシュ(・・・・・)で、まるで巨大生物に丸呑みにされて未消化のまま吐き出されたようなグロテスクな外見のそれの傍らには、奇怪な形状の剣が落ちている。

 

 もしかしなくても、コイツは……

 

「魔剣持ち、か?」

 

「そのようだね」

 

 カミラが冷ややかな視線で肉塊を見下ろした。

 

「人を呪わば穴二つ、という古の格言がある。この者は、身をもってそれを知ったのだろう」

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