パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第212話 呪詛集め 下

 とりあえず俺は大部屋に入ると、蠢く肉塊の隣に落ちている魔剣らしき剣を回収した。

 

 もちろん分厚い革製の敷物越しに掴むことを忘れない。

 

 こんなところで素手で剣を触って呪詛を貰うのは勘弁だからな。

 

「この肉塊……『裏返りの呪詛』でも受けたのか?」

 

 裏返りの呪詛は、徐々に身体の外側がめくれてゆき、内側と入れ替わってしまうというかなりエグい効果の呪詛だ。

 

 当然受けた者は無事では済まず、ゆっくりと全身が裂け裏返ってゆく苦痛を味わいながら絶命するという。

 

 とある筋から聞いた話では、この手の呪詛は王家の暗部などが拷問に使うらしい。

 

 まあ、とある筋というかアリスなんだが。

 

 彼女は外向きには王家の姫君と『婚約』しているので、その手の情報に詳しかったりする。

 

 まあ、俺たちのような下々の民には関係のない連中の話だが、想像するだに恐ろしい話である。

 

 それはさておき、カミラの意見は違うようだ。

 

「ふむ……仮にこの肉塊が『裏返りの呪詛』の犠牲者ならば、このように蠢いているのは少々違和感があるね。私の見立てでは、別の呪詛だと思うが」

 

「うーむ……ならば『肉繭の呪詛』とかか?」

 

「可能性としては、そちらの方が高いかもしれないね」

 

 この呪詛を受けると肉の繭に包まれ、別の生物へと姿を変えてしまう呪詛だ。

 

 だとすれば、コイツは別の魔物とかに変異している最中なのだろうか。

 

「いずれにせよ、このまま放置するのもなんだ。呪詛を『切断』するが、いいな?」

 

「私は別に構わないよ。上位個体とはまだ遭遇していないけれども、この階層のアンデッドをある程度駆除すれば依頼は達成だろうからね」

 

 カミラが頷いた。

 

 

 アンデッド駆除依頼は、このダンジョンからのアンデッドの根絶を意味しない。

 

 そもそもここ『地下墳墓型』だ。

 

 そもそもアンデッドが『湧く』ダンジョンなのだ。

 

 だからある程度狩れば、それで依頼達成なのである。

 

 もちろん、一時的に絶滅レベルまで駆除する必要はあるが……それはすでに達成目前である。

 

 

 いずれにせよ、この蠢く肉塊の元はおそらく人だ。

 

 いくら魔剣持ちだとしても、このまま見殺しにするのは気が引けた。

 

「セパ」

 

『承知しました、ご主人』

 

 言われずとも分かっていますよ、と言った様子でセパの姿が消えた。

 

 聖剣の力を十全に発揮するために実体化を解いたのだ。

 

 それを確認したあと、俺は腰の鞘から聖剣セパを引き抜いた。

 

「さて、自分の魔剣に喰われた(・・・・)マヌケがどんな面をしているか拝んでやる」

 

 言って、俺は蠢く肉塊にセパの刃を突き刺した。

 

 次の瞬間、まるで肉の表面がドロドロと溶けるように崩れ落ち……案の定、人が現れた。

 

 男……意外なことに少年だった。

 

 年は十二歳か十三歳くらいだろう。

 

 平凡な顔立ちで、とても魔剣持ちとは思えないほど痩せていて、身に着けている衣服も粗末なものだった。

 

 冒険者なら駆け出しも駆け出しといった風情である。

 

 その背中の衣服が何かに斬られたように裂けていた。

 

「…………う」

 

 少年は顔を一瞬ゆがめると、うっすらと目を開いた。

 

「気が付いたか、坊主」

 

「……あんたは」

 

「俺のことはいい。お前、魔剣持ちだな?」

 

「まけん……?」

 

 声をかけるも、少年はまだぼんやりとした表情で俺を見つめるだけだ。

 

 が、徐々に状況を思い出したらしい。

 

 どんどんと顔が蒼白になってゆき……

 

「ひいいいいいいぃ!? 俺の背中がめくれて……あれ、なんともない?」

 

 少年は叫んで起き上がると、慌てて自分の身体をまさぐり……五体満足であることを認識したのか、キョトンとした顔になる。

 

「落ち着け坊主。お前は呪詛で肉塊になっていたらしいが、俺が助けた。とりあえずは大丈夫だ」

 

「に、肉塊……? い、いや! ありがとうございます! あんた……とそこのお姉さんたちは俺の命の恩人です!!」

 

 すぐに事態を飲み込んだらしく、少年はガバッと伏せ頭を下げた。

 

「……どう思う?」

 

 そんな彼の様子を眺めながら聞いてきたのはカミラだ。

 

 なにやら難しそうな顔と言うか、なにか解せないような表情だ。

 

 彼女の疑念も分かる。

 

 魔剣持ちにしては幼いし、あまりに素直だ。

 

 少なくとも、想像していたようなチンピラとか悪党らしさはない。

 

 もちろんこういう純朴そうな少年を装って、性根は邪悪なヤツもいなくはないだろうが……

 

 少なくとも、目の前の少年はそうは見えなかった。

 

 正直な感想を言えば、ただの下町のガキンチョにしか見えなかった。

 

「とりあえず、何が起きたのか教えてもらえるか?」

 

「あ、ああ、もちろんだ! 実は俺、最近冒険者になったばかりでさ。依頼を受けてこのダンジョンに魔物狩りに来ていて……」

 

 と明るい表情で話していた少年の動きが止まった。

 

「どうした? 魔物狩りに来て……それから?」

 

「あ、あ、あ……」

 

 顔面蒼白で、俺たちを……俺たちの後ろ側を、震える手で指さした。

 

「あいつだ!! あいつに俺は……!」

 

「まったく、次から次へと……」

 

 

 禍々しい気配が、ついさっき部屋に侵入してきたことは分かっていた。

 

 それに、モゴモゴと小さな呻き声も聞こえていた。

 

 

 振り返ると、大部屋から奥へと続く出入口の前に全身鎧(・・・)が立っていた。

 

 右手に分厚く巨大な剣を持ち、左手にタワーシールドを構えている。

 

 騎士だ。それも重装騎士。

 

 

 そして、この時代の装備ではない。

 

 赤さびの浮いた鎧や盾は、どう考えても何十年も前のものだった。

 

 もしかすると、数百年前。

 

 分厚い大剣には、赤黒い瘴気がまとわりついている。

 

 間違いなく魔剣だ。

 

 

 そしてそいつの兜と胴のつなぎ目部分や胴と腰の継ぎ目部分からは、毛のようなものがはみ出していた。

 

 

「……あれは『動く鎧(リビングアーマー)』かな?」

 

「いや、『首狩り鎧(ヘッドハンター)』だ。坊主、あいつと対峙してよく生き残ったな」

 

 

 首狩り鎧。

 

 その名の通り、犠牲者の首を狩るためだけに彷徨(さまよ)うアンデッドである。

 

 まあ、カテゴリとしては動く鎧には違いないが……目の前のヤツはその『上位個体』だ。

 

 

『――――、――――――――』

 

 

 首狩り鎧が鎧の中でモゴモゴと何か呻いている。

 

 内容までは分からない。

 

 何しろ顔まですっぽりと覆う全身鎧だ。

 

 分厚い鉄板の中で響く呟きなど聞き取れるはずもない。

 

 

『ねーマスター。あの鎧、すっごい毛深いね? 中の人、熊さんなの?』

 

「レイン。あいつの内部に中の人なんて(・・・・・・)いない(・・・)

 

「ふむ。ギルドで見た感じでは、このダンジョンには討伐指定は存在しなかったはずだけどね……ならば前時代(・・・)のものかな」

 

「おそらくは、な。いずれにせよ、これで依頼達成だな」

 

「ふむ、違いない。最後の最後で大物が出てきたねえ」

 

「こりゃ追加報酬が出るな、間違いなく」

 

「あの、皆さん何を言っているんですか……?」

 

 武器を構えながら会話する俺たちの間に、少年が割って入ってきた。

 

 ああ、駆け出しならば知らないか。

 

「運よく呪詛を貰うだけで済んだんだ。世の中には知らない方が幸せなことがある」

 

「……?? どういう意味ですか??」

 

 困惑したような声を出す少年。

 

「聞かない方がいいぞ」

 

「ふむ、少年。あの『首狩り鎧』はね、胴体の中に戦利品(・・・)を詰め込んでいるんだよ。聞こえるだろう?(・・・・・・・・)

 

「…………えっ」

 

 少年の顔が真っ青を通り越して真っ白になった。

 

 どうやら察してしまったらしい。

 

 やれやれだな。

 

「おいカミラ」

 

「いいじゃないか、冒険者を続けるなら、遅かれ早かれこういう魔物がいることを知ることになる」

 

「はあ……おい少年、心を強く持てよ」

 

「もしかして、あのモゴモゴ言ってる声って……」

 

「あいつの名は首狩り鎧。鎧の中身は元々(・・・・・・・)空洞だった(・・・・・)。俺からこれ以上の説明が必要か?」

 

「じゃあ、あのはみ出した毛は……ひいいいいいいぃぃーーーー!?!?」

 

 あ、こいつ失禁したうえに失神しやがった……

 

 まあ、これ以上騒いだり足手まといになるのも面倒だからな。

 

 あとで蹴って起こそう。

 

「……君も十分容赦ないね」

 

「お前ほど直接的な表現じゃない。そら、来るぞ」

 

『――――――、――――――――!!』

 

 首狩り鎧が咆哮した。

 

 何重にも重なる身の毛もよだつ咆哮は、ヤツの胴の中に詰め込まれた犠牲者たちの断末魔だ。

 

 この手のアンデッドは死者の怨念を魔力に変換して力を増す。

 

 少なく見ても、コイツはおそらく十数人ほど喰って(・・・)いるはずだ。

 

 おまけにどこで手に入れたのか、呪詛付きの大剣を持っているらしい。

 

 上位個体どころか等級Aの冒険者に討伐依頼が入ってもおかしくないレベルの強敵だ。

 

 だが……問題ない。

 

「君がやるかい?」

 

「当然だ。依頼を受けているのは俺だからな」

 

「じゃあ、任せよう。とりあえず、呪詛返しの魔術だけは掛けておこうかね」

 

「サンキュな。じゃあ……すぐ終わらせてくるわ」

 

 ゆっくりと近づいてくる首狩り鎧に向けて、俺は聖剣レインを構えた。

 

 すでに彼女は実体化を解いている。

 

 強い戦意を剣から感じる。

 

「いくぞレイン」

 

『りょーかい!』

 

『――――、――――――――!!』

 

 俺の殺気に当てられたのか、首狩り鎧が急に速度を上げ吶喊してくる。

 

 だが、いくら速度を上げても重装鎧ごときに遅れを取るわけがない。

 

(のろ)い」

 

 相手の大剣が振り下ろされる前に、俺はすり抜けざまにそのがら空きの胴体を薙いだ。

 

 背後でバシュッ、と小さな破裂音が響く。

 

 振り向けば、首狩り鎧が胴体の中身……干からびた生首たちをボロボロと(こぼ)しながら、消滅していくところだった。

 

 ガラン、と大剣だけがダンジョンの床に落ち……それで静寂が戻った。

 

「お見事」

 

 カミラの声が、大部屋に響き渡った。

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