パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
魔剣持ちの少年はそのまま冒険者ギルドまで連行し、職員に引き渡すことになった。
彼は魔剣がどうこう以前に、冒険者登録をしていない『モグリ』だったからだ。
冒険者でない者の、ダンジョンへの侵入は厳しく制限されている。
そして『モグリ』を発見した冒険者は、その者を捕らえてギルドへ連行することが推奨されていた。
もちろん、少年も誰かに問い詰められたときのためなのか偽の依頼書とギルドカードを持っていた。
しかし、こんなものは見る者が見ればすぐに分かる。
そんなわけで。
俺とカミラは持って来ていた縄で少年の両手を拘束したのち、三人でダンジョンの出口へと向かっていた。
もっとも彼は『
確かに駆け出し冒険者や『モグリ』では絶対に勝ち目のない魔物に襲われたあげく、呪詛を付与され死ぬところだったわけだからな。
無理もない。
おかげで今も特に逃げもせず、大人しく俺たちのあとをついてきているわけだが……
ダンジョンを戻る道すがら、彼は自分がただのスラムの故買屋――つまり盗品を扱う商人の小間使いをしていることも、俺に聞かれるまでもなく白状していた。
「――あのヤバイ剣は、ちょっと前にウチの商店に持ち込まれたものなんスよ」
彼――ウォル君と言うらしい――が言うには、数日前に妙な風体の男が数本の『魔剣』を持ち込んで来たそうだ。
店主はその魔剣を見て魅入られたようになり、男から結構な額でそれらをまとめて買い上げた。
ただ、そのとき男は妙な条件を付けたらしい。
曰く、『その剣を装備してダンジョンに潜り、とある素材を取ってきてくれないか』。
その素材を取ってきたら、ウォル君と店主に対して、別々に報酬を支払うという。
しかもそれぞれ金貨五枚。
あまりにも怪しすぎる依頼だが、金に目がくらんだ二人は二つ返事で受けたらしい。
「その素材ってのは、なんなんだ?」
「こういう辛気臭いダンジョンにある人骨ッス。できれば深い場所の、戦士っぽいヤツの骨が良いってソイツが言ってました。あの剣があれば俺みたいな素人でも深いところまで潜って行けるって。実際、ここまでは楽勝だったんスよ。なんだかんだで依頼はこなせたし。まあ死ぬところでしたけど」
すぐにピンときた。
「(戦士の遺灰、だね……)」
カミラも同じ結論に至ったらしく、ひそひそと耳打ちしてくる。
戦士の遺灰。
遺跡の奥で死亡していたり地下墳墓に埋葬されている戦士や騎士などの遺骨を焼き砕いた素材で、聖剣錬成だけでなく死霊魔術や特殊な精霊を
俺やカミラの業界ではそれなりに一般的な素材ではあるが、それをわざわざスラムの故買屋経由で依頼する意味が分からなかった。
少々レア度が高いものの、大抵の素材屋で取り扱っている品だからだ。
購入に何か制限があるわけでもない。
それを、なぜ『モグリ』まで用意してまで準備させる必要があるのか。
いや、理由は容易に想像がつく。
要するに普通の素材屋で買いあさると足がつくと危惧したのだ。
だから、すぐに尻尾切りできるスラムの商人に依頼した。
魔剣をわざわざ持ち込んだのも、同様の理由からだろう。
ただ、そこまで周到にする意味があるのか、という話だ。
「一応聞くが、その男ってのはどんな奴だった?」
「うーん……なんか安っぽいローブ? を着たおっさん……だったかな。ちょっとした占いとか下位の魔術だけを齧って、適当に人を騙して商売しているようなヤツ。でもそーいう奴らって別に珍しくないしさ。特徴とかは覚えてないっすよ」
ウォル君の言葉は要領を得ない。
状況が状況だけに、スラムのインチキ魔術師に変装している可能性は当然考えられる。
あるいは、そいつもただの使いっぱしりか。……そんな気がする。
そもそも、ウォル君がこうやってペラペラしゃべることも、万が一彼が死んで他の者に魔剣が渡ることも想定内の可能性もあった。
魔剣自体は、ざっと見た感じでは呪詛とちょっとした身体強化魔術が付与されているだけで、そこまで業物というわけではなかったからな。
以前手に入れた『魔族の魂』を込めた本物の魔剣と比べればお粗末な造りだ。
要するに『使い捨て』の魔剣である。
だが……そうなると、彼を起点に魔剣を売った連中を辿ろうとしても難しいだろうな。
「とにかく、今の私たちが関わるべき案件ではないね」
「だな」
俺たちは俺たちで重要な仕事を抱えている。
今の俺たちが首を突っ込むような案件ではない。
確かに魔剣持ちが王都で暗躍しているのは由々しき事態だが、さすがに王城のお膝元ということもあり衛兵隊は優秀だ。
それにもしもの事態が起きても王国軍だっているし、貴族の私兵だっている。
まあ、それほど大事にはならないだろう。
◇
「ブラッド様、カミラ様。少しよろしいでしょうか?」
依頼達成報告や『モグリ』の引き渡しなど、諸々の手続きを終えたあと。
ギルドの建物を出ようとしたところで、女性職員に呼び止められた。
受付をしてくれた人とは別人だ。
背が高くスラリとした美人で、肩口で切りそろえた髪はピンクがかった淡いブロンド。
他の職員たちよりも立派な身なりをしている。
胸元にはネームプレートが掲げられており、それによると名前はサラ。
もちろん知らない人物だ。
「フロア統括のサラ・レークラントと申します」
彼女は軽く会釈をしてから、言葉を続けた。
「実は、弊ギルドの幹部がお二人に会いたいと申しておりまして。もしよろしければ、少々お時間を頂けませんでしょうか」
「ギルドの幹部が?」
カミラと顔を見合わせる。
ギルド幹部のようなお偉いさんが、俺たちに何の用だろうか。
というか、どう考えても『もしよろしければ……』で済む案件じゃないよな?
丁重に俺たちの都合を聞いてきているが、実質、強制呼び出しである。
となると、気になるのはその理由だ。
王都本部の幹部に呼び出されるような、大それた真似はしていないはずなんだが……
「すまんが、どのような用件だ? まったく心当たりがないんだが……」
「申し訳ございません。私の方からもこの場で詳細を申し上げるのは難しく……ただ、当該幹部からは、『邪神の件』と言えば分かる……と伝えられております」
「邪神……?」
心当たりがあり過ぎて、逆にどの件か分からんぞ……
もしかして、ケット・シーのことだろうか?
だが、アイツのことを知るのは限られた者だけだ。
まさかアリスが冒険者ギルドに情報をリークするわけがないし、そうする理由もない。
魔術師ギルドの線も同様だ。
そもそも魔術師ギルドと冒険者ギルドは緩いライバル的関係にあるし、何よりカミラがオルディス魔術師ギルドでそこそこのお偉いさんをやっているからな。
よほどのことがない限り、俺たちの個人情報を渡すような真似はしないだろう。
だとすれば今回の呼び出しは全くの別件ということになるが、そうなるといよいよ何の件か分からない。
ただ、『邪神の件』と言われてしまえばこのまま帰るわけにもいかなかった。
途中で席を立つことになるとしても、まずは話を聞かなければ始まらない。
「……分かった。話を伺おう」
「突然の申し出にも関わらずお時間を割いて頂き、ありがとうございます。さあ、こちらへどうぞ」
サラ女史はホッとした表情で微笑んでから、俺たちをバックヤードへと案内したのだった。