パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第214話 ギルド幹部の個別依頼

 サラ氏の案内で、ギルド本部三階にいくつかある部屋の一つに通された。

 

 重厚感のある黒樫製の扉の先には、清潔感のある、明るい執務室が広がっていた。

 

 美しい木目が浮き出た板張りの床の真ん中に木製のローテーブルがあり、それを挟み込むように二基のソファが置かれている。

 

 左右の壁面を見回せば、国王や王国軍などから授与されたと思しき数々の勲章、それに剣や盾などが飾られ、それが誇らしげに輝きを放っていた。

 

 部屋の奥には立派な執務机が鎮座しており、そのさらに向こう側、ほぼ全面がガラス張りの窓を背景にして、一人の男が立っていた。

 

 年は三十代半ば。

 

 細身の身体をパリッとしたスーツで身を包み、眼鏡をかけている。

 

 冒険者らしからぬ見た目だが、眼鏡の奥から俺たちを見据える眼光は鋭い。

 

 

 ――たしか、ギルドの王都本部や魔術師ギルドなどには、幹部の何人かに王国軍や衛兵隊のお偉いさんが出向しているんだったか。

 

 そんなことを思い出す。

 

 理由は簡単だ。

 

 これらのギルドは王国軍に匹敵する武力を有するため、反乱などを未然に阻止するためである。

 

 もちろんそれだけではない。

 

 王国軍とギルドは互いに軍事技術を供与されたり、逆にギルドから遺物や魔術の成果を提供したりと、持ちつ持たれつの関係でもある。

 

 

 余談だが、聖剣ギルドや商工ギルドなども同様に国の役人が幹部待遇で出向してきている。

 

 こっちは反乱を防止するためというより不正な金の流れをチェックするためとかだから、税務とか行政とかに関する部署の連中だが……たまにザルツのように変な野心や権力欲を持った、質の悪い連中が流れてくることもある。

 

 まあ、さすがに冒険者ギルドに出向してくる奴にあんなバカ野郎はいないと思うが。

 

 

「ブラッド殿、カミラ殿。忙しいところ呼び立ててすまない。アレイスター・マーゼだ」

 

「マーゼ殿、お初にお目にかかる」

 

「お初にお目にかかります、マーゼ殿」

 

 マーゼ氏は俺とカミラに近づくと、握手を求めてきた。

 

 断る理由もなく、順に握手を交わす。

 

 およそ軍人とは思えない剣だこ(・・・)のないつるりとした手のひらの感触で、彼が後方(・・)の人物だと察する。

 

「アレイスターでいい。立ち話はなんだ、二人ともまずは掛けてくれ」

 

 俺たちがソファに腰掛けると同時に、アレイスター氏も反対側に腰掛けた。

 

「さて……アンデッド駆除、ご苦労だった。王都のダンジョンはなかなかの深さだろう」

 

 どうやら俺たちが向かったダンジョンについては把握しているらしい。

 

「五層ならば、オルディスでは中堅といったところだ」

 

 と言ってから、相手がお偉いさんだということを思い出し、こう付け加える。

 

「まさか上位個体に出くわすとは思わなかった。さすがは王都のダンジョンだ。難易度が高い」

 

「くく……冒険者は正直が一番だ。私におべっかを使う必要はないさ」

 

 ひとしきり楽しげに笑ったあと、アレイスター氏が先を続ける。

 

「本日、君たちが受けた依頼内容の報告は把握している。まさかたった二人で『首狩り(ヘッドハンター)』を討伐するとは……見事な腕前だ」

 

「どういたしまして」

 

「たしかブラッド殿は聖剣錬成師、カミラ殿は魔道具師だったかな。一流の冒険者は、冒険者とは別の職業を持つ者も多い。目的意識が明確だからだろう。私はそういう者たちにこそ、敬意を払うべきだと考えている」

 

 言って、アレイスター氏は俺とカミラの顔を交互に見比べた。

 

 自分はおべっかを使う必要がないと言いつつ、俺たちには使うのか。

 

 いや、これはおべっかというよりはただの前振りか。

 

 まず俺たちを持ち上げておいて……それを糸口にして、何かしら面倒な依頼をするつもりだ。

 

 まあ、だいたい予想通りの流れではあるが。

 

「さて……前置きはこれくらいにして、本題に入るとしようか」

 

 案の定アレイスター氏はそう言うと席を立ち、執務机の上に置かれていた書類を持ってくると再びソファについた。

 

 彼はそれを、俺たちを隔てているローテーブルの上に、俺たちに見えるように置いた。

 

 今回の依頼書だ。

 

「実は、今回の件にも関わることなのだが……まず確認だ。君たちは魔剣を回収しているな?」

 

「……ああ、回収している。『モグリ』と『首狩り』の両方だ。見せた方がいいか?」

 

 俺は言って、魔導鞄(マジック・バッグ)に手を掛けた。

 

 報告書には書かなかったが、こういうときに嘘を吐いても意味はないからな。

 

 が、アレイスター氏は手でそれを制する。

 

「いや、いい。魔剣そのものに用はないんだ。……回収せずに放置してよからぬ連中が拾って再利用したり、何も知らない駆け出しが触って事故でも起こされたら大事だからな。だからブラッド殿が持っているのならそれで構わない。それに、依頼外で得たダンジョンの品は、指定されたアイテムの他は原則冒険者の取り分だ」

 

「……それで、俺たちにどのような依頼をするつもりなんだ?」

 

 俺は先回りして言った。

 

 アレイスター氏は結論を後回しにして、何かと勿体ぶる癖があるようだ。

 

 役人の悪い癖だ。

 

 王国軍人は単刀直入に話をする傾向があるから、もしかすると彼は軍ではなく衛兵隊の情報機関などからの出向なのかもしれない。

 

 いずれにせよ依頼なのは分かっているので、さっさと『本題』とやらに踏み込んでほしいところだ。

 

「まあ早まらないでくれ。この件は少々複雑で、順を追って説明する必要があるんだ」

 

 そんな言い訳をしつつ、彼が依頼の概要を説明していく。

 

 ……長くなったので、ざっくり整理してみる。

 

 

 現在、王都では魔剣持ちの組織が暗躍している。

 

 その黒幕として、とある有力貴族の名が挙がっている。

 

 彼(または彼女)は不法入国した魔族から魔剣錬成のノウハウの提供を受け、聖剣錬成師や鍛冶師などを抱き込み錬成を続けている。

 

 有力貴族の目的は裏社会に魔剣を流通させることにより国家転覆を狙っている。

 

 当然反逆罪なので、現在彼の行方を追っているが支持者がいるらしくなかなか足取りがつかめない。

 

 ただ、そっち方はそれほど問題ではない。

 

 問題なのは、彼が組んでいる魔族の目的だそうだ。

 

「実は以前衛兵隊が潰した拠点から、様々な資料が出てきてね。それでヤツの企みが明らかになった」

 

 さらにアレイスター氏が続ける。

 

「魔剣はあくまで副産物に過ぎない。魔族の目的は、古の時代に存在したとある魔王の蘇生だ」

 

「……ひとついいだろうか」

 

 俺は軽く手を上げて、アレイスター氏の話に割り込んだ。

 

「根本的な問題だが、魔王が蘇ったところで何か問題でもあるのか? もちろん魔剣はいろいろと問題が多い。拠点は潰すべきだろう。だが、魔王はあくまで魔族の王にすぎない。復活したところで、さっさと王国軍で潰せばいいだけの話じゃないのか」

 

 もちろん、強力かつ王国に敵対的な魔王の存在は脅威ではある。

 

 だが、所詮は一人の魔族だ。

 

 一騎当千だろうが、万の、数十万の軍勢には勝てない。

 

 王は王であるために、配下や手勢が必要になるのだ。

 

 そしてその手勢とは、今を生きる魔族たちだ。

 

 今の彼らや彼女らが、頭にウン千年前のクソが詰まった魔王に従うとは到底思えなかった。

 

「確かにその通りだ」

 

 アレイスター氏はそう言って、しかし意味ありげに俺たちを見た。

 

「だが……その魔王が邪神として蘇るのなら、その限りではない。そうだろう?」

 

「…………」

 

 なるほど。

 

 そういうことか。

 

 ようやく話が繋がった。

 

 魔王はあくまで魔族の王だが、邪神と化しているのなら話は別だ。

 

 腐っても神の名を冠する存在であるならば、たった一個体でも国を滅ぼすほどの力を持つだろう。

 

 だが、そもそもの話なぜ俺たちにこんな依頼を?

 

「なぜ君たちに、私がこんな話を持ち掛けたのだろう……そう思っているな?」

 

 アレイスター氏がニヤリと笑う。

 

 完全に見透かされていた。

 

 まあ、俺たちの顔を見れば分かることだろうが。

 

「簡単な話だ。……十年前の君たちの記録を見れば、な」

 

「おいおい、まさか」

 

「そのまさかだよ。私は少々情報解析に自信があってね。書類の復旧に手間取ったが、その甲斐は十分にあったよ」

 

「…………」

 

 隣でカミラが頭を抱えた。

 

 俺も同じ気分だった。

 

 確かにそうであれば、俺たちを指名したのも、いきなり機密情報をぶちまけたのも理解できる。

 

「どうだね、元等級S(・・・・)のお二人とも。十年越しの『邪神狩り』を頼まれてはくれないかね」

 

 アレイスター氏はまるで宝物を見つけた少年のような顔でそう言って、テーブルの書類をめくった。

 

 そこには、廃棄済みのはずの……十年前の俺とカミラの情報ずらりと書かれていた。

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