パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「すまんが断る」
「そうかそうか! さすがは元等級S……なんだって?」
アレイスター氏の依頼をきっぱり断ると、彼はにこやかに頷いて……笑顔のまま固まった。
まさか俺たちが依頼を二つ返事で受けてくれると思ったのか?
こっちの事情も聞かずに?
さすがにそれは、俺たちを甘く見過ぎだろう。
「すまない。もう一度聞く。依頼は受けてくれるということでいいのだね?」
「もう一度言うが、断る」
再び断ってから続ける。
「実は先約があってな。先ほどあんたが言った通り、俺たちはそれぞれの本業のために依頼を受けて、素材採取のためにダンジョンに潜っている。魔剣持ちの暗躍も邪神の復活も憂慮すべき事態だが、俺たちにとってはクライアントからの依頼を達成することの方が大事だ」
「…………状況は理解した」
どうやら断られるとはこれっぽっちも思っていなかったらしく、アレイスター氏は俺の話を聞きながらこめかみをグリグリと揉んでいたが……やがて顔を上げた。
「だが、ギルドとしては君たちのような優秀な冒険者が一人でも多く必要なのだ。どうか受けてはくれないか」
「そういわれてもな」
「……ブラッド殿は元等級Sの冒険者だ。ギルドの規約によれば、ギルドが重要と認めた依頼については過去に等級A以上だった冒険者に対しても招集することができる。君はこの要件に合致している」
「規約の文言は『要請できる』だ。冒険者側の依頼受諾義務については明文化されていなかったはずだが?」
ギルドと冒険者間の様々な取り決めはギルドも冒険者たちに順守させるメリットがあるので(招集義務の話などがそうだ)、各ギルドで冊子にして配布していたりする。
普通の冒険者は大して読まないらしいが、俺は自分の仕事に関わるからな。
オルディスに移住して冒険者に再登録する際にしっかり読み込んでおいたのが役に立った形だ。
「ぐっ……なら、カミラ殿は……」
「私はまだ失効していないだろうが、今は魔術ギルドの方で幹部をやっていてね。招集に応じることはできかねる」
そう言えばカミラはそっちの方のお偉いさんだったな。
当然だが、どこかのギルドの幹部を務めている場合は、冒険者ギルドの強制召集とバッティングしたとしても幹部の職務が優先となる。
つまり魔術師ギルドの幹部であるカミラは冒険者ギルドで招集要請に応じる必要があったとしても拒否権を有する。
そもそも魔術師ギルドは冒険者ギルドと対立こそしていないが、いろいろとライバル関係にある。
仮にカミラがOKしたとしても、魔術師ギルド側が拒否すればそれで終わりだ。
さらにカミラはテーブルに置かれた書面に目を落とし、それからすぐにアレイスター氏に視線を戻し、落ち着いた口調で続ける。
「残念だけど、アレイスター殿。君の依頼を見るに、そもそもこれはギルド本部の決裁を通していない個人的な依頼のように見えるね。ギルド長の署名がない。ならば、そもそも冒険者に対する強制的に依頼に応じさせるのは、不当‥‥…とまでは言わないが、職権乱用スレスレだということを自覚した方がいい。栄えある冒険者ギルド王都本部の幹部としては、あるまじき態度のように思うが?」
「ぐっ……そこを突かれるとぐうの音も出ん。正論だ」
どうやらアレイスター氏も無茶を言っていることは自覚していたらしく、苦笑した後、がっかりしたように肩を落とした。
が、ここで引き下がるような奴が冒険者ギルドの幹部の座に収まるわけがない。
彼はしばらく項垂れていたが、すぐに顔を上げた。
今度は真剣な顔をしていた。
「強引な勧誘をした非礼については謝罪する。すまなかった」
彼はそう言って、頭を下げた。
「だが、今回に限っては冒険者ギルドとしての依頼を出すわけにはいかないのだ。召集要請の決裁には、多くの幹部が関わる。……君たちなら、それでおおよその事情を察してくれるはずだ」
「魔剣推進派……いや、邪神復活を願う勢力が幹部にいるってことか」
アレイスター氏は否定も肯定もしなかった。
だが、この場合において否定しないということは肯定と同意だ。
「冒険者というのは、面倒な連中だねえ」
うんざりした口調でそう呟いたのはカミラだ。
彼女の気持ちはよく分かった。
冒険者というのは、ダンジョン探索を生業とする職業だ。
だがその成り立ちは、魔族たちとの戦争に従事したことにより得たダンジョン利権の運営団体である。
戦争が起きて領土が増えれば、ダンジョンも増える。
それに邪神などという危険な敵が復活すれば、王国軍や傭兵だけでは武力が足りず、冒険者たちも戦いに身を投じることになるだろう。
必然的に、王国内で冒険者ギルドの発言力は強まることになる。
冒険者たちを書類と口先で動かすだけの幹部たちにとっては、権力拡大のまたとないチャンスというわけだ。
結局、ザルツのような連中が冒険者ギルドの内部にも巣食っている、というか。
やれやれ、である。
そして一方、王国側の人間として出向しているアレイスター氏にとってはこの状況は看過できない事態だろう。
そして、なぜ王都で活動する連中ではなく俺たちのような部外者をわざわざ呼び出したことにも合点がいった。
そんな俺の考えを見透かすように、アレイスター氏が続ける。
「すでに君たちも察しているだろうが、幹部会に諮れないということは王都義本部で活動している高ランク冒険者には依頼が難しいということでもある。高ランク冒険者は、誰かしら幹部と繋がっているものだからな。しかし誰が誰とどう繋がっているのか分からない」
「そこで俺たちのような何も知らない田舎者の出番というわけか」
「オルディスを田舎と笑う者は、少なくとも私の知っている者にはいないな」
それからアレイスター氏は苦笑してから続ける。
「もちろん私も、懇意にしている高ランク冒険者がいる。実は、君たちの評判は
「…………」
「…………」
「彼女はいつも言っていたよ。二人ならば、何が起きても必ずどうにかしてくれるだろう、とね。……もしかして、先に言っておいた方がよかっただろうか?」
俺は天を仰いだ。
横目で見れば、カミラは頭を抱えていた。そのてっぺんから怒気が噴出しているのが分かる。
ようやく全てが繋がった。
つまりはフレイのバカが面倒ごとを丸投げしたせいで、俺たちにお鉢が回ってきたという話だ。
「……アレイスター殿。一つ聞いていいだろうか」
俺は極力笑顔を保ったままそう言った。
「……? もちろんだ。私に答えられることなら、何なりと聞いてくれたまえ」
「今あのバ……『竜狩り』フレイディア・グリューネヴァルトはどこにいる?」
「ああ、なるほど。旧交を温めたいというわけか。気が回らなくてすまない。……まあ、君たちになら構わないだろう」
アレイスター氏は申し訳なさそうな顔で再び立ち上がると、棚から書類を引っ張り出してきた。
「……彼女はつい三日ほど前に、ギルドの指名依頼を受け従者とともにトレスデンとの国境付近に出没した炎竜の上位個体、
「そうか、情報提供助かる」
「……カミラ」
「うむ」
俺とカミラは見つめ合い頷いた。
間違いなく、これまでで一番意思が通じ合っている気がする。
俺はアレイスター氏に向き直って言った。
「気が変わった。あんたの依頼は受けよう。もちろん俺たちの依頼が完了してからになるが、その後ならやぶさかじゃない」
目下の依頼と懸念事項をキチンと片付けなければ、
「おお、そうか! ……君たちには感謝するよ」
俺の言葉に、アレイスター氏が破顔する。
その様子を、俺とカミラはにこやかに眺めていた。
そして間違いなく、二人の心の中は一致していたはずだ。
王都のあれこれをさっさと片付けて、一日でも早くフレイのバカを殴りに行こう……と。