パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第216話 始まりの工房

 成り行き(?)でアレイスター氏の依頼を受けたといっても、まずはアソ氏の依頼が優先だ。

 

 昨日の依頼で首尾よく魔剣を手に入れた俺は、アリスの紹介してくれたとある工房を訪れていた。

 

「ええと、ここか」

 

 アリスから受け取った地図と、目の前の古びた建物を見比べる。

 

 分厚い黒鉄の扉の上には聖剣をあしらった吊り下げ看板が掲げられ、微風を受け揺れている。

 

 プレートに彫りこまれた文字は『ワーズ聖剣工房・旧市街支所』。

 

 うむ、ここで間違いないな。

 

「待っていたわ、ブラッド」

 

 ドアノッカーを叩くとすぐさま扉が開き、ブルーブロンドの少女が顔を出した。

 

「よう、リリア。元気だったか?」

 

「お陰様で。あら、今日は相方さんと一緒じゃないの?」

 

「カミラなら、今日は別行動だ」

 

 なんかすでにセット扱いされているのが気になるが、その通りなので反論しようがない。

 

 彼女は今頃素材屋街で買い物中だろう。

 

 ちなみにセパとレインも彼女と一緒だ。

 

 二人は俺と一緒に来たがったが、他所の聖剣工房に奴らを連れてくるのはいろいろと迷惑が掛かるからな。

 

 もちろん俺の方も呪詛対策はしてあるので問題ない。

 

「それにしても、久しぶりだな。あんたがここの工房主だったのか」

 

「いえ、アンタが来るっていうから、顔を出しただけ。メインの工房は新市街地よ」

 

 リリア嬢は好奇心を抑えきれない表情で言った。

 

「それで……今日は面白いものを見せてもらえるって、アステル様から聞いているのだけど」

 

「ああ、今日は魔剣から呪詛を抽出しようと思ってな。急な申し出で済まないが、工房を一つ貸してもらいたい」

 

「へえ……面白いことをするのね。もちろん工房は空けてあるわ。……ゴドー! 三番工房はもう使えるかしら!」

 

 一度リリア嬢の顔が扉の奥に引っ込んで、大声を張り上げる。

 

 すぐに『あと十五分待ってくれや!』と野太い男の声が聞こえてきた。

 

 彼がここの責任者だろうか?

 

 どうやら取り込み中に来てしまったようだ。

 

 まあ俺も指定された時間にやってきたので、問題ないと思いたい。

 

「ま、ここで立ち話もなんだわ。工房が空くのにもう少しかかるみたいだから、中でお話でもしましょう。お茶でも出すわ」

 

「それは助かる」

 

 上機嫌のリリア嬢に案内され、工房の中へと入る。

 

 扉の先はすぐロビーになっており、来客用のソファとテーブルが置かれていた。 

 

 壁面にはこの工房で錬成されたと思しき大小さまざまな聖剣が飾られており、ある種のショールームのような空間と化していた。

 

 おそらくだが、ここで商談などをするのだろう。

 

「まあ、座って」

 

 彼女に促され、ソファに腰掛ける。

 

 テーブルを挟んで反対側にリリア嬢が座ると、すぐに従業員らしき女性が紅茶を持って来てくれた。

 

「いい場所でしょう? ここは私の曽祖父が始めた、『始まりの工房』なの」

 

 俺が周囲を眺めていると、リリアは同じように周囲を見回して言った。

 

 レンガ造りの壁には、何十振りもの聖剣が掲げられている。

 

 古い時代のものから最新のデザインまで、様々だ。

 

 こうしてみると、聖剣も時代によってデザインの流行があるのが分かる。

 

 古い時代のものは、ドラゴンなどの魔物、花や植物などがあしらわれているものが多い。

 

 総じて華美というより派手なものが多い印象だ。

 

 それもそのはず、もともと聖剣は王や貴族の権威を示すための祭具のような立ち位置だったからな。

 

 目立てば目立つほど良い、というわけだ。

 

 だが時代が進むにしたがって徐々に機能性重視のデザインになり、ここ十年ほどのトレンドは剣に力を付与する魔法陣そのものにデザイン性を見出したものが主流になる。

 

 これは時代の移り変わりとともに聖剣が実戦でも使用されるようになったからだが、それでも頑な(?)にドラゴン系のデザインだけが残っているのが面白い。

 

 やっぱり今も昔の戦場に出るようなお貴族様はドラゴンは大好きだったらしい。

 

 

 それにしても、どれもこれも素晴らしい出来栄えだ。

 

 もちろんどの聖剣も人造精霊の宿っていない『素体』の状態だが、それでもどれほどの業物かは見れば分かる。

 

 

 たとえば、ソファのすぐ後ろに掲げられた騎士大剣。

 

 1.5メートルほどの剣身は純白金製で、精緻かつ複雑な紋様が刻まれており、いかにも貴族好みの美しい輝きを放っている。

 

 しかしこの金属は非常に重く、普通に振っただけで曲がってしまうほど柔らかい。

 

 言うまでもなく武器には全くもって不向きだ。

 

 しかし白金は魔力の伝導性が極めて高い金属でもある。

 

 この性質を利用して、金属そのものに剛性と粘り、そして切れ味を増す魔術を幾重にも彫り込むことにより、実用に耐えうる性能を実現しているようだ。

 

 さらに下の層には、別の魔術を刻み込んでいるかもしれない。

 

 この聖剣に強力な人造精霊を宿せば、鋼よりも硬いエルダードラゴンの鱗すらバターのように斬り裂けるだろう。

 

 素材の欠点をうまく活用し機能性とデザイン性を両立しているのが、ワーズ聖剣工房の特徴だ。

 

 もちろん柄や(ガード)も派手だが動きを阻害しない程度のサイズとデザインで、重心も手元近くに来るように設計されている。

 

 見た目よりもずっと扱いやすいのではなかろうか。

 

 

「それにしても、これだけの聖剣が展示されている様子はまさに壮観だな」

 

「ふふ……さすがの貴方でも見惚れるしかないでしょう?」

 

 俺の漏らした言葉を聞きつけて、リリア嬢が得意げな様子でそう聞いてくる。

 

 実際、素晴らしい剣ばかりだ。

 

 俺も仕事ではなくプライベートで工房に遊びに来たら、一日中剣を眺めて過ごせるかもしれない。

 

「ああ、あそこに掲げられた白金の騎士大剣は特に凄い。王都随一の聖剣錬成師、リリア・ワーズの面目躍如といったところだな」

 

「へえ……! よくあの大剣が私の錬成したものだとよく分かったわね。流石はオルディスの隠れ剣匠、ブラッド・オスローの審美眼といったところかしら」

 

 俺の賞賛に気を良くしたのか、リリア嬢が胸を張り過ぎてのけぞりそうになっている。

 

 …………剣の下に彼女の署名が入った札が掲げられているのを見ただけだが、黙っておこう。

 

 というかオルディスの隠れ剣匠ってなんだ。

 

 隠れてないし(たくみ)でもないし、そもそも俺に変な二つ名を付けるのはやめてほしい。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「――リリアさん、お待たせしやした。三番工房が空きましたぜ」

 

 しばらくリリア嬢と聖剣談義に興じていると、筋骨隆々の巨漢が奥からヌッと姿を現した。

 

 声は聞き覚えがあった。

 

「ありがとうゴドー。……紹介するわ。この工房の責任者、ゴドー・ゴールドウィンよ」

 

「ブラッド・オスローだ。オルディスでは聖剣錬成師をやっている。今日は世話になる」

 

「おお、あんたが噂に聞くブラッド殿か! こうして会えて光栄だ。あんたの話はお嬢からよく聞いているぜ」

 

 握手と一緒に、ゴドー氏が嬉しそうな様子でそんなことを言ってくる。

 

 リリア嬢の方を見ると、なぜか得意げな顔をしている。

 

 普段こいつがゴドー氏や他の同僚たちに何を吹聴しているのかが気になるが、追及するのはやめておいた。

 

 今はとにかく、仕事が先だ。

 

「さあ、こっちよ」

 

 リリア嬢の案内で、俺は工房の奥へと進んでいく。

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