パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第218話 別邸の晩餐

 リリア嬢の工房で呪詛を抽出したあとは、瓶に厳重な封印を施したうえ魔導鞄(マジック・バッグ)に収納し、別邸に戻った。

 

「ただいま。今戻った」

 

 カミラたちはすでに部屋に戻っていた。

 

 彼女はベッドサイドの椅子に座り、魔導書を読み込んでいる。

 

 セパとレインも、ケット・シーと一緒にこちらの部屋で寛いでいた。

 

『遅かったナ、ニンゲン』

 

 俺に最初に気づいたのはケット・シーだ。

 

 ベッドに座るレインの膝の上で足を折りたたみ、気持ちよさそうに寛いでいる。

 

 そのツヤツヤの毛並みに埋もれて、恍惚とした表情のセパが寝ころんでいる。

 

 そんな様子を見て、ちょっと羨ましいと思ったのは内緒である。

 

「……ん、おかえりブラッド」

 

 カミラが横目でチラリと視線を寄越し、パタンと魔導書を閉じた。

 

「ご主人、おかえりなさい」

 

「マスターおかえり! お土産なんかないの?」

 

「仕事だからそんなものはないぞ。今日はお前らも王都の観光に連れて行ってもらったんだろ? 土産ならそっちで買ってるんじゃないか」

 

「あるけど……」

 

 レインがスゥ……と視線をあさっての方に泳がせる。

 

「なんでそこで目を逸らすんだ」

 

「レインはご主人の分までおやつを食べてしまったのですよ」

 

「あーっ! セパなんで言うの!? 酷くない!?」

 

「ハッ! 一瞬でバレる誤魔化しなど、さっさと白状するのが一番ですよ」

 

 うんうん、それはセパの経験談からだな。

 

 俺の知っている限り、やらかしている回数はコイツの方が多い。

 

 あとそのおやつを食べたヤツは、セパ、お前も入っているだろ。

 

 口元に食べかすが付いているぞ。

 

「さて、君が帰ってくるのに合わせて晩餐の準備をしてくれているそうだ。そろそろフレッド殿が呼びに来る頃だ。君も早く着替えたまえ」

 

「ああ、そうだな」

 

 確かに今の格好は晩餐にはふさわしくない。

 

 作業着というわけではないが、工房の作業と王都の旧市街を行き来したせいで少々汚れている。

 

 着替えはウォークインクローゼットの中に準備してあったので、手早く着替えを済ませる。

 

 クローゼットの隅には鍵付きの木棚(チェスト)があったので、呪詛素材入りの魔導鞄(マジック・バッグ)はそこに収納しておいた。

 

 まあ、ウチのメンツで悪戯する奴はセパとレインを含めさすがにいないだろうが、清掃に入ったメイドさんが触れると危ないからな。

 

「すまん、待たせた」

 

 俺がクローゼットから出たのと、フレッド氏が晩餐の準備ができたことを告げにやってきたのはほとんど同時だった。

 

 

 ◇

 

 

「おおー! お料理めっちゃ豪華!」

 

 大きなテーブルに並べられた料理の数々に、レインの大声が響き渡る。

 

 案内されたのは、屋敷一階の庭に面した大食堂だ。

 

 俺たち四人とケット・シーが食事するにはいささか広すぎる空間には、美味しそうな匂いが充満していた。

 

「これ、全部食べてよいのですか…!?」

 

「……私はほどほどに食事を摂らせてもらうよ」

 

「つーか食いきれる量か、これ……」

 

 思わずそう呟いてしまうほど、テーブルには料理が所狭しと並びホカホカと湯気を上げている。

 

 いろいろな料理があるが、特に目を引いたのは鶏の丸焼きと一抱えほどもありそうなサイズの川魚の香草焼き、それにステーキのように分厚く切り分けられたローストビーフだ。

 

 特に川魚の香草焼きはテーブルの真ん中に堂々と鎮座しており、強烈な存在感を放っている。

 

 他にも鍋に入ったままのシチュー、キノコのバターソテー、それに山盛りのパンや大皿に盛られた色とりどりのサラダなど。

 

 とにかく味が濃そうで量が多いのは、クロディス家が元々武門の出だったこと、この別邸が騎士や兵士たちに利用されることが多いことが関係している気がする。

 

 ちなみにワイングラス(これはさすがに普通のサイズだ)が各々の席に用意されていたが、さすがにそっちは空だった。

 

 おそらく好みの銘柄などを言えば、希望通りの酒を()いでくれるのだろう。

 

 

 アリスとの晩餐で出てきた貴族らしいコース料理とはまた違った趣だが、大食いのセパやレインにとっては嬉しいであろうメニューである。

 

 先ほどはあまりの物量についぼやいてしまったが、セパとレインはどう考えても胃袋が魔導鞄(マジック・バッグ)になっているかと思うくらい食うからな。

 

 というか、さっきおやつを食べたばかりらしいのだが、この料理の量を前にしてもなお、レインは目を輝かせている。

 

 俺とカミラの分までたくさん食べてくれるとありがたいのだが。

 

 

「では皆さま、席にご案内いたします」

 

 フレッド氏や給仕の女性たちの案内で俺たちはそれぞれ席につく。

 

 俺とカミラは隣同士、セパとレインが向かい側。

 

 ケット・シーの席も、床ではなく俺の隣に用意されていた。

 

 コイツに関しては、俺の使い魔だと説明してある。

 

 まあ、アリスの下で働く連中だ。

 

 猫が喋るくらいで驚く者はこの場にいない。

 

 

 ケット・シーは自らぴょんと椅子に飛び乗ると、『ウム、苦シュウナイ』と満足そうに喋った。

 

 近くの給仕さんの顔が一瞬ニマァ……と緩んだあと、すぐにキリッと表情を戻す。

 

 まあコイツは見た目だけは可愛らしい猫だからな。

 

 気持ちは分からないでもない。

 

 

「ご主人様より、『遠慮は無用だ。心ゆくまで食事を楽しんでくれ』とお言伝を預かっております。我々も皆様のため、腕を振るわせて頂きました。ぜひ、我がクロディス家伝統のディナーをお楽しみください」

 

 フレッドが美しい所作で礼をしたのに合わせて、食堂の給仕たちが一斉に頭を下げた。

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

 圧倒的な物量はさておき、料理は本当に美味しそうだ。

 

 俺は腹に詰め込めるだけ詰め込む覚悟を決め、食事に臨むことにした。

 

 

 基本的に、目の前の料理はすべて大皿で、自分の食べたい分を自分で取り分ける宴会風のスタイルである。

 

 ひとまず俺は、目の前に鎮座する巨大な川魚の香草焼きを食べることにした。

 

 専用のフォークとスプーンを使って身を小皿に取り分ける。

 

 身は白身で、ふっくらとしている。

 

 おそらくは調味液に漬け込んだあとに揚げ焼きにしたのだろう。

 

 ほかほかと香ばしい匂いが上がり、俺はごくり喉を鳴らした。

 

 正直、今日は呪詛の抽出を行ったせいかかなり心身ともに疲労がたまっている。

 

 案外、この量も食べきれてしまうのではなかろうか。

 

 そんなことを思いながら、フォークで身を口の中に運ぶ。

 

「……!」

 

 美味い。

 

 魚の皮の部分は香ばしく、身はしっかりと繊維を感じられるものの舌で触れた先からホロホロとほぐれてゆき、咀嚼するごとに強い旨味が口の中に広がっていく。

 

 それと同時に、何種類かの香草(ハーブ)がふんわりと鼻に抜けて行った。

 

 丹念に下処理をされた白身からは生臭みや雑味は感じられない。

 

 旨味の奥から立ち上がってくる酸味と重厚感のあるコクは白ワインとチーズだろうか。

 

 あっというまに一口目を喉の奥へと送り込むと、俺はさっそく二口目へと取り掛かった。

 

「……ふむ。さすがはクロディス家。なかなかの手並みだね」

 

 夢中で食べていると、隣のカミラから感嘆の声が上がる。

 

 彼女は最初の一口にローストビーフを選んだようだ。

 

 ステーキもかくやというサイズの肉塊だが、すでに彼女はそのほとんどを平らげており、さらに二枚目を取ろうとさらにさらに腕を伸ばしていたところだった。

 

 もちろんしっかり生野菜とキノコのソテーも確保しているあたり(まだ手を付けていないが)、肉だけでなくバランスを取っているつもりなのだろう。

 

 なんとなく言い訳じみたそのラインナップに、少しだけ笑みを漏らしてしまう。

 

 と、そこで彼女と目が合う。

 

「君は魚を選んだみたいだが、このローストビーフもなかなかに絶品だよ。取り分けようか?」

 

「せっかくだから頼む」

 

 俺が頷くと、カミラが肉を取り分けてくれた。

 

 別に一枚で十分なのだが、三枚も盛られてしまった。

 

 俺は食べ盛りのわんぱく坊やか。

 

 それはさておき、さっそくかぶりつく。

 

「おお……こっちも美味い!」

 

 肉を噛むたびにあふれ出る肉汁の旨味と脂の甘味が口の中で爆ぜる。

 

 こちらは魚の白身とは違って直接脳髄をぶん殴られるような旨さだ。

 

 もちろん肉にかかったソースもいい仕事をしているのだが、肉本来の味がとにかく濃厚である。

 

 うーむ、口に運ぶフォークが止まらん。

 

『…………美味イナ。ニンゲン、褒メテツカワスゾ』

 

 ケット・シーは俺が骨を取り除き取り分けてやった川魚を()んでいたが、満足げな顔をしている。

 

 どうやら邪神様のお眼鏡にも適ったようだ。

 

『むはぁーーっ! この丸焼き鳥、めっちゃ美味しい!』

 

『レイン、あっちのローストビーフを食べるのです! もはや恐怖を覚えるほどの美味しさですよ!』

 

 一方セパとレインと言えば、向かいのテーブルでは大騒ぎしながら料理にがっついている。

 

 鶏の丸焼きなどは、すでに半分ほど骨になっていた。

 

 キノコのソテーとパンの山はすでに空になっており、サラダも残りあとわずか。

 

 気づけばあれだけ大きかった白身魚も骨だけになっていた。

 

 ……料理が多すぎると感じたのは、どうやら俺の気のせいだったようだ。

 

 

 ――食事がひと段落すると、自然と仕事の話になった。

 

「ブラッド、呪詛の抽出は上手くいったかい」

 

「もちろんだ。一応、5個ほど素材を準備できたからそれなりに成果を出せるはずだ。そっちは目当ての素材が手に入ったか?」

 

「無論だよ。……少々君の聖剣たちに振り回されたけどもね」

 

「そこはすまん……」

 

 さすがにずっと留守番させるのも忍びないし、かといってリリア嬢の工房に連れて行けば無用な騒動を引き起こすと危惧してカミラに頼んだのだが、やはり彼女でも奴らは持て余すところがあったようだ。

 

 そこは申し訳ないのだが、こればかりは仕方ない。

 

 その後はあれこれ明日の実験の打ち合わせをしてから部屋に戻った。

 

 

※補足……王都は神聖魔術を使える神官が多数住んでいるため、『浄化』の魔術を施した安全な生野菜が市場に出回っています。言うまでもなく貴族御用達の高級品です。

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