パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第220話 位相実験 下

 ――結論から言えば、実験は失敗に終わった。

 

 

 最初から想定していた事態ではあるが、やはり刻々と変化する呪詛の魔力力場に対して、現状の術式による力場制御では完璧な『逆位相』を作り出すことはできなかったのだ。

 

 これでは、たとえ人造精霊の制御をもってしても安定して逆位相状態を保つのは難しいだろう。

 

 一応言い訳をしておくならば、一瞬だけ……ほんの一秒程度ならば、『呪詛の効果を弱める』ところまではできたのだ。

 

 そう言う意味では、俺の仮説が間違っていないことが証明されたわけだが……それでも、まだまだ課題が多く残る結果となった。

 

 

 中でも、最優先で解決すべき課題が『魔力力場の三角波現象』だろう。

 

 『三角波』とは、荒れた海域などで波が重なり合うことで発生する予期しない高波を意味する、船乗りたちの言葉だ。

 

 そして実験の結果、『魔力のゆらぎ』においても似たような現象が発生することが判明した。

 

 つまり、『魔術反射(リフレクション)』の操作次第では、呪詛の相殺どころか逆に効果が増幅されてしまうのだ。

 

 ひとたびこの現象が発生すると、あっという間に魔術制御が不安定になり暴走状態に陥ってしまう。

 

 そうなれば、直ちに術式を強制解除しなければ広範囲に強力な呪詛がまき散らされ大惨事だ。

 

 魔力力場が『波』に近い性質を持つ以上、言われてみればあり得る現象なのだが、観測するまではまったく想定していなかった。

 

 

 結論を言えば、逆位相による力場消失と呪詛効果増幅は隣り合わせの現象であり、想定以上に繊細かつ精密な魔力制御が必要だということが分かったわけだ。

 

 当然、制御用の人造精霊も相当に高性能でなくてはならない。

 

 それこそ、邪神クラスの強力な魂が必要だ。

 

 こっちはこっちでカミラに頑張ってもらうしかないが……少々、聖剣錬成のハードルが上がってしまったのは事実である。

 

 

 もっとも『失敗は成功の母』という古の格言もある。

 

 この実験結果をもとに術式の改善を行い、試行錯誤を重ねていくしかない。

 

 これが第一歩だ。

 

 地道に行こう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「珍しく疲れた顔をしているね」

 

 別邸の部屋に戻りベッドで寝ころんでいると、ベッドサイドの椅子で(くつろ)いでいたカミラが話しかけてきた。

 

「そりゃ、な」

 

 理論自体は間違っていないことが分かったのは収穫だが、 目の前にそそり立つ壁が王城の城壁のごとく高いのだから当然だ。

 

 とはいえ、心が折れたわけでもないが。

 

「もう少し術式の改良に時間をかけてみるつもりだ。ただ、呪詛の複雑な魔力力場を上手く相殺できるようにするには……『魔術反射(リフレクション)』だけじゃ足りないんだよな。もうひと手間、何かしらの工夫を施す必要がある。そして、そこが鍵だと思う」

 

「ふうむ……人造精霊の制御でどうにかならないのかい?」

 

「お前の創り出す人造精霊なら、あるいは。けれども、突発的な『三角波』に対処できるかどうかと言えば、難しいんじゃないか」

 

「どうだろうね。うまく発生パターンを学習して予測、対処するとか」

 

「俺もそれは考えた。だがそれだと、相当な訓練期間が必要になるだろ。アソさんのことを考えると、あまり時間は掛けられない。それに、突発的な事故が怖い」

 

「うーむ……そうなると八方塞がりだねぇ」

 

 さすがのカミラも、実験の結果を目の当たりにしているだけに反応が渋い。

 

 彼女も魔導書をパタンと閉じると、目を伏せ考え込んでしまった。

 

 ……まあ、無理もない。

 

 俺たちがやろうとしていることは、おそらく魔術力学の最先端だからな。

 

 そう簡単に実現できるわけがない。

 

 まあ、明日もリリア嬢と話して何か打開策が無いか探っていくしかないだろう。

 

 ……と、そのときだった。

 

『退屈ダ。遊ベ、ニンゲン』

 

「ふぐっ!?」

 

 急にベッドの下から黒い毛玉が現れたと思ったら、俺の腹にドン! と飛び乗りやがった。

 

 おかげで肺の空気が押し出されて変な声が出てしまった。

 

 言わずと知れたケット・シーである。

 

 ……おいカミラ、クスクス笑うな。

 

「おいケット・シー。いきなり人の腹に乗るなって、誰かから教わらなかったのか?」

 

『構エ、ニンゲン。俺ハ退屈ダ』

 

 ……ダメだ、全く聞いちゃいねえ。

 

 まあ、猫の邪神に人の道理を説いたところで聞き入れられるとは思っていないが。

 

 そのままケット・シーは俺の腹の上で前脚を折りたたむと、座り込んだ。

 

 ……こうなればもうテコでも動かない。

 

 俺はハァ……と一つため息をついてから、邪神猫の頭をグリグリと撫でてやった。

 

 気持ちよさそうに目を細めゴロゴロと喉を鳴らしている邪神猫を見ていると、怒る気も失せていく。

 

「む……ケット・シーは君によく(なつ)いているようだね。……私も構ってもらおうか」

 

 と、なぜかカミラまでベッドに乗り込んできて俺の隣に寝ころんだ。

 

「いや、お前が猫……というか邪神相手に対抗心を燃やしてどうする」

 

 とはいえ、側にやってきた以上、頭を撫でないという選択肢はありえない。

 

 とりあえずカミラの頭をワシワシと撫でてやった。

 

 喉はさすがにゴロゴロ鳴らさないが、猫みたいに気持ちよさそうに目を細めるカミラ。

 

 というか。

 

「ケット・シー。セパとレインはどうしたんだ? 遊び相手ならあいつらがいるだろ」

 

『アイツラナラ寝タゾ』

 

「あー……」

 

 そういえば、二人には日中いろいろと実験を手伝ってもらったっけ。

 

 慣れないことをしたので疲れたのだろう。精神的に。

 

 それで遊び相手がいなくなったコイツがこっちにやってきた、と。

 

 まあ、そういう事情なら仕方ない。

 

 とりあえず俺は右手でケット・シー、左手でカミラの頭をグリグリ撫でる仕事で忙しくすることにした。

 

 

 それにしても、こうして俺の上に乗って寛いでいる邪神様は完全に猫そのものだ。

 

 ゴロゴロと喉を鳴らしているところとか、その座り方とか。

 

 そういえば、猫がゴロゴロ喉を鳴らすのって気持ちを落ち着けたり体調を整えたりする効果があるらしいな。

 

 …………ん?

 

「……そうか!」

 

「ブラッド、どうしたんだい」

 

 いきなり俺が起き上がったせいか、カミラが怪訝な様子で俺を見上げてくる。

 

「カミラ、分かったぞ。呪詛を安定的に制御するには、『力場を整え』ればいいんだ。なんでこんな単純なことに気づかなかったんだ。これならばそう難しくはない。ケット・シー、お手柄だ!」

 

『オイ、ニンゲン。俺ヲ持チ上ゲルナ。揺ラスナ』

 

 俺の両手で持ち上げられミョーンと伸びたケット・シーが、振り子のように身体をブラブラと揺れている。

 

 ちなみにケット・シーは文句を言いつつもなんだか嬉しそうだ。

 

 なんだかんだ、構ってもらえるのが楽しいのだろう。

 

 それを見ながら、俺は頭の中で高速で術式を組み立ててゆく。

 

 

 呪詛に指向性を持たせるのは、繊細な調整が必要になるが素材の組み合わせ次第で実現可能だろう。

 

 力の流れを整えるのも、少々複雑な術式になるが構成次第で可能だと思われる。

 

 そして呪詛の混沌とした魔力力場とは言えど、しっかりと力場を整え指向性を持たせてやれば『魔術反射(リフレクション)』で相殺可能な状態を安定して作り出せるはずだ。

 

 そう思うと、いてもたってもいられなくなった。

 

「カミラ、すまんがケット・シーの相手をしてやってくれないか」

 

「……仕方ないね。私はこの子と遊んでいるから、頑張りたまえよ」

 

 ベッドに寝ころびケット・シーを抱きかかえたまま、カミラが返事をする。

 

「すまん、恩に着る!」

 

 たしか、この別邸には客人用の書斎があったはずだ。

 

 そこで朝まで籠って、頭の中のアイデアを全部引きずり出してやる。

 

 俺はクローゼットの中から書類を引っ張り出すと、勢いよく寝室を飛び出した。

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