パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
ひとしきりアソ氏とドウジ氏が感動を分かち合ったあとは、アリスを交えて聖剣『
「――この聖剣に込められた力は『魔術反射』だ。基本的にはアソさんが本来持っている魔力を少しだけ消費して、剣に宿る人造精霊がうまく力の調整を行う。基本的に何もする必要はないが、おそらく今までと異なる身体感覚に戸惑うこともあるだろう」
俺は治癒術師ではないが、聖剣の影響でアソ氏のこれからの生活がガラリと変わることだけは予想できた。
アソ氏は自分の手を握ったり開いたりして自分の感覚を確かめている。
「そう、ですね……やはりこれまでがこれまででしたから、『普通』にものを触れるのが不思議な感覚です。でも……幼子の頃に当たり前にできていたことが再びできるようになった事はとても嬉しく思います」
「これでまた、いっしょに手を繋げるな!」
「うふふ……貴方ったら、もっと欲張ってもよいのですよ?」
なんかアソ氏とドウジ氏が目の前でイチャイチャしだした。
あと意外とドウジ氏がピュアだった(やることはやっているようだが)。
まあ、これまでも不自由な生活を送ってきたのだろうから、ある程度は大目に見るが……完全に二人が自分たちだけの世界に入り込む前に、一通りの説明をしなければならない。
「……ゴホン。もう一点、重要な説明があるんだが、続けても構わないか?」
俺の言葉に、アソ氏とドウジ氏が慌てたようにこちらに向き直った。
「し、失礼しました。つい、お見苦しいところを」
「む、許せ。つい、な」
カミラとアリスがクスクス笑っているが、気にせず続ける。
「すまないが、もう少し辛抱してくれ。なに、大したことじゃないんだが……」
言って、俺は『凪』を手に取った。
「聖剣に人造精霊が宿っていることは説明した通りだが、『彼女』の紹介がまだだったからな」
「彼女……であるか」
ドウジ氏が『はて』と小首をかしげる。
「ああ」
ぽん、と手を打ったのはアソ氏だ。
「そう言えば、アリス殿の持つ『
「その通りだ。『ナギ』、出てきてくれ」
『承知した』
甲高い声が聞こえ、ローテーブルの上に光が集まる。
それはすぐに人の形を取り、光が晴れると小さな少女が現れた。
「まあ、可愛らしい人造精霊さんですね」
その姿を見るなり、アソ氏が顔を綻ばせた。
ドウジ氏も厳つい顔を緩め、ナギを見つめている。
ナギはセパとほとんど同じサイズの人造精霊だ。
違う点と言えば、ナギは長い黒髪で極東の神に仕える巫女装束を身につけているところだろうか。
整った顔立ちもさることながら、清楚だが鮮やかな紅白の巫女装束と黒髪のコントラストが美しい。
そうそう、もう一つセパと決定的に違う点もある。
「お初にお目にかかります、アソ殿、ドウジ殿。魔族の中でも勇猛と名高い鬼族のお二方に仕えることができること、身に余る光栄に存じます。何卒、よろしくお願い申し上げまする」
そう言ってナギはテーブルに三つ指を付き、優美な所作で頭を下げた。
そう、礼儀もきちんとしているのである。
ちなみに衣装も、カミラの創り出した人造精霊にしては露出が少なく清楚である。
……と思いきや上着の脇のあたりやスカートの腰回りに深いスリットが入っており白い肌が見え隠れしているあたり、彼女の趣味が思い切り出ているわけだが……それは見ないふりをする。
「あらあら、可愛らしくてもしっかりしてらっしゃるのですね。こちらこそ、末長くよろしくお願いいたしますね」
「ナギ殿、俺からもよろしく頼む」
「は。誠心誠意、お二方にお支えさせて頂きまする」
アソ氏とドウジ氏が頭を下げると、再びナギもテーブルに頭を擦り付けんばかりに深く礼をする。
「いえいえ、こちらこそお世話になります」
「いえいえ、こちらこそ――」
三人はそんな調子でさらに二度三度やりとりを繰り返してから、ようやく挨拶が済んだのだった。
……これも極東の文化における『奥ゆかしさ』というやつだろうか。
その後は聖剣の取り扱いに関する一般的な説明をして、引き渡しは完了となった。
◇
アソ氏たち三人が俺たちに何度も礼を言いながら帰っていたその後。
俺とカミラ、そしてアリスはソファに腰かけ向かい合っていた。
アソ氏らが帰った後、俺たちも別邸に戻ろうとしたのだが、アリスに止められたからだ。
「兄さま、カミラ殿、今日は本当にありがとう。おかげで彼女はこれから穏やかな日常を送れるようになるはずだよ」
言って、アリスがテーブル越しに深く頭を下げた。
「なに、これも仕事だ。それに報酬もしっかりもらっているし、アリスには資金面だけではなく衣食についても支援してもらっている。礼を言うのはこっちの方だ」
「そう言ってもらえると僕も救われるかな」
そう言って微笑むアリス。
しかしこれで終わらないのが彼女だ。
「……それで、なんだけれども。二人とも疲れているとは思ったけど、兄さまとカミラ殿に残ってもらったのは僕からもう一つ依頼をお願いしたいと思ったからなんだ」
「まあ、そうだろうとは思っていたけどな。それで?」
「兄さまは話が早くて助かるよ。……少し前に、兄さまとカミラ殿は今回の依頼を進める過程で王都の冒険者ギルドに立ち寄ったよね?」
「ああ、『凪』を錬成するにあたり、実験のため呪詛を集める必要があったからな」
そして、そこでギルドの幹部に呼び出しを喰らって別の依頼を受けることになったわけだが。
……もしかして。
「…………」
俺の顔を見て、アリスは何かを悟ったようだ。
苦笑いで先を続ける。
「なるほど、やはり先を越されていたみたいだね……兄さまとカミラ殿は、アレイスター・マーゼという男の名に覚えはあるかな?」
「まさに、そのアレイスター氏に呼び出されたよ」
「ならば話は早いね。多分だけど、彼から直接の依頼を持ち込まれたはずだよ。……実を言えば、僕からも同じような依頼になる予定だったんだ。つまりは、魔剣持ちの組織の掃討作戦だよ」
「アリスも参加するのか?」
「うん。王国貴族の義務、というやつさ」
彼女は頷いてから、応接室の窓から外を見た。
その視線が向く方角にあるのは、おそらく王城だろう。
……建物がひしめく旧市街からは、もちろん見ることはできないが。
「もちろん僕個人としても、王国内で邪神信仰を名目に狼藉を働く輩を放置するわけにはいかない。奴らを完膚なきまでに叩きのめし、この国が誰のものかを分からせる必要がある。ただ……そうなると、僕と兄さまたちは別行動になるかも知れないな。それが残念だよ」
「アレイスター氏に掛け合ってみようか?」
「いや、その必要はないよ。彼の仕事と僕の仕事は、少々領域が異なるからね。彼が兄さまたちを必要としているのなら、僕が我儘を通すわけにはいかない」
こう言う時のアリスは、貴族としての義務を最優先に考えている。
俺たちが良かれと思って動けば、逆に彼女に迷惑がかかってしまう可能性があった。
ならばここは、下手に動くことはしないほうがいいだろう。
「……そうか。まあ、同じ作戦に参加しているならば行動を共にすることもあるだろ」
「そうだね、そのときはぜひとも兄さまたちと肩を並べて戦いたいな」
言って、アリスは笑みを浮かべたのだった。