パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第223話 王都の休日 上

「……これは失敗したな」

 

 翌日の朝。

 

 久しぶりのオフ日ということで別邸の寝室でゴロゴロしていると、ウォークインクローゼットの中からカミラの嘆く声がした。

 

「カミラ、どうしたんだ?」

 

 クローゼットの中を覗くと、カミラが困り果てた様子で自分の魔導鞄(マジック・バッグ)をごそごそと漁っている。

 

 彼女は俺の声に振り返ると、バツの悪そうな顔をしてみせた。

 

「……今さらだけど、回復薬を持って来ていなかったことに気づいてね。先日街に出かけたときに買って来ればよかったのだが」

 

「ああ」

 

 俺は頷いた。

 

 先日アレイスター氏から受けた依頼では、邪神信仰の連中を王都から駆逐するための大規模な作戦行動が想定されている。

 

 つまり、戦闘が発生する。それも、おそらく激しい対人戦闘が。

 

 となれば、当然だが治癒魔術の心得か、回復薬を持参する必要があるわけで。

 

 それから解毒薬やら解呪用の護符を作るための素材なども必要だった。

 

 もちろん冒険者ギルドから支給される物資の中には回復薬や解毒薬も含まれているが、品質的には中の下といったところだ。

 

 打撲やちょっとした裂傷などならともかく、剣による深い裂傷や骨折などにはあまり役に立たない。

 

 もちろん俺もカミラも職業柄それなりに治癒魔術の知識はあるが、高級な回復薬を上回るほど高位の治癒魔術は習得していない。

 

 それ以前に、対人戦闘は対魔物戦闘と比べると駆け引きや対人戦闘固有の戦術などを駆使する必要が出てくる。

 

 何を言わんかとすれば、どんな馬鹿な敵でもこっちが後方で治癒魔術などを使っていれば速攻で潰しにかかってくる。

 

 もちろん俺だって、敵が戦闘中に悠長に治癒魔術など使おうものなら優先的に潰しにかかる。

 

 それが戦いの常道というものだ。

 

 そんなわけで、戦闘中でもわずかな隙に服用でき、服用後すぐ効果を発揮する高級な回復薬を準備する必要があった。

 

 

 しかしながら、俺たちにとってこの依頼は王都に来てから突発的に発生したものだ。

 

 カミラが持参していないのは当然なのだ。

 

 ……ちなみに俺は念のため高級回復薬を三つほど常備しているのだが、購入したのはかなり前のものだ。経年劣化で品質に不安があった。

 

「実は俺も必要だと思っていたところだ。たしか旧市街の『古遺跡通り』はその手の品ぞろえが豊富だったよな。今日は予定も何もないし、セパとレインを連れて観光がてら買い物にでも出かけてみないか? ケット・シーはどうせ留守番希望だろうが」

 

「……うむ! ぜひともそうしよう」

 

 ということで、おそらく王都に来てから初めて、まとも(?)な観光へと繰り出すことになったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 『古遺跡通り』は、王都旧市街の中でも上屋敷街の中心部に位置する、王家や有力貴族御用達の老舗街だ。

 

 そのせいか行き交う人々にもどこか気品があり、立ち並ぶ店はどこも、古めかしくもどこか洗練された店構えである。

 

 もちろん店内で働く従業員たちは誰も彼もが高貴な空気を纏っている。

 

 それもそのはず、この辺りで働いている人々は貴族の子弟ばかりだからである。

 

 それゆえどの店に入っても、教育の行き届いた丁寧な接客を受けることができるわけで。

 

 余談ではあるが、アリスとの雑談の中で得た知識によれば、この界隈で働くことは若い貴族の男女にとっては一種のステータスらしく、いわゆるバカ息子やら我儘令嬢のような輩は働くことすらできないとのことだった。

 

 ……それゆえか、セパのような(かしま)しい人造精霊にも普通に接してくれたりもする。

 

「いらっしゃいませ、小さなお嬢様。本日はどのようなお召し物をご所望で?」

 

『おやおや、私をお嬢様と!? ふふふ……気に入りました! それではあそこの棚の端から端まで全部を頂くとしましょうか!』

 

 気がついたらセパが近くのアパレルショップに入り込んで、人の良さそうな女性店員に絡んでいた。

 

 しかも、なにやらとんでもない注文をしているところだった。

 

「おいセパ! お前何やってんだ!」

 

『ぴゃっ!?』

 

 慌てて店の中に飛び込み、女性店員の周囲を得意げな顔で飛び回るセパの首根っこを引っ掴む。

 

「すまない、コイツはウチの使い魔でな……目を離していた隙に入り込んでしまったようだ」

 

 言って、俺は人の良さそうな様子の女性店員に苦笑してみせる。

 

 たぶん、引きつった笑みになっていると思う。

 

「本当にすまない。さっきの発言はナシにしてくれ」

 

「は、はあ……」

 

 女性店員が目を白黒させていたが、さすがは高級アパレルショップ。

 

 すぐに笑顔を取り戻すと『承知いたしました』と笑顔で応じてくれる。

 

 しかも、そのまま立ち去ろうとする俺とセパに向かって『ご主人様も使い魔様も、またのお越しをおまちしておりますね』と手を振ってくれたのである。

 

 ……だからセパ、お前は手を振り返してるんじゃねえ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「はあ……」

 

 近くの公園で移動して、噴水前に置かれたベンチにドカッと腰を掛けた。

 

 ひとまず必要な物資の調達はできたものの、なんかメチャクチャ疲れた気がする。

 

 さっきのアパレルショップの一件だけじゃない。

 

 

 休憩にとオシャレなカフェに入れば、特大のケーキを一人ずつホールで頼もうとする(しかも二人とも完食しやがった)。

 

 街角で大道芸を披露する芸人に絡んだうえ、人体消失マジック(ただ実体化を解いただけ)を見せつけて観客の人気をかっさらう。

 

 目的の道具屋で回復薬を買っていたら、店員がくれた試供品の謎ドリンクをがぶ飲みしてセパの身体が光り出す(レインが爆笑しすぎて七転八倒していた)。

 

 街角で見つけた良い感じの骨董品屋に入ってみれば、壁に飾られていた百年前の聖剣に二人してケンカを売ろうとする(これはさすがに店主につまみ出される前に俺がつまみ出した)。

 

 とにかく、やりたい放題である。

 

 

 (たち)の悪いことに、ここの連中はその手のハプニングに怒らず、面白がる空気があった。

 

 大道芸人に至っては自分の客を取られているのにも関わらず観客側に回って拍手喝采である。お前はそれでいいのか。

 

 とにかく、みな金持ちケンカせずというか面白いものに飢えているというか……そのおかげで調子に乗りに乗った二人がやらかしまくるおかげで、どこへ行っても謝り倒しだったわけで。

 

 

 たしかに久しぶりのまともな観光で、二人ともテンションがハイになっていたのはあるだろう。

 

 だが、限度というものがある。

 

 本命の店に立ち寄るついでにちょっと街を散策してみようとか気楽に考えていた、今朝の俺を全力で阻止したい。

 

 

『ふああ……ご主人、この街は素晴らしいですね! どこに行っても私を褒め称え、歓迎してくれます! もうここに永住しましょうそうしましょう!』

 

『あー楽しかった! ていうかはしゃいでたらお腹へってきたかもー……マスター、そろそろお昼ご飯にしよ?』

 

「お前らな……」

 

「まあまあ、ブラッド落ち着きたまえよ。せっかくの休日だろう、もっと気楽にいこうじゃないか」

 

 そう窘めてくるカミラの顔も、今までにないくらい楽しそうにしている。

 

 確かに俺も楽しむつもりだったけどな?

 

 はあ……

 

 

 まあ、彼女の言う通りではある。

 

 俺も何も考えず、気楽に行けばいいのかもしれない。

 

 分かってはいるのだ、分かっては。

 

 ……それはさておき。

 

「いいか二人とも」

 

『『きゅっ』』

 

 俺は噴水にダイブしようとしたセパとレインの首根っこを掴み、たくらみを阻止してから言った。

 

「これから行くレストランはアリスの紹介だ。つまり……かなり高級だ。あまり羽目を外すと本当に摘まみだされるぞ」

 

『了解ですご主人』

 

『りょーかい、マスター』

 

 俺に捕獲されているわりには楽し気な様子で、セパとレインが敬礼などしつつ返事をする。

 

 お前ら、本当に分かっているんだろうな……?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 目的のレストランに到着すると、店の前でなにやら揉めているのが見えた。

 

「おい、にゃんで入れないんだよ! 席空いてるのにおかしいだろ!」

 

「おいマーレ、落ち着け。店員が困っている」

 

「これが落ち着けるかってんだ! オイ人族の兄ちゃんよぉ、獣人舐めてんじゃねーぞニ”ャオ”ォン!?」

 

「お客様、大変申し訳ございません。当店は完全紹介制でして……ご紹介のない方のご入店はできかねます」

 

 いきり立つ客を困り果てた様子で(なだ)めているのは、二十代前半と(おぼ)しき男性店員だ。

 

 おそらくは良いところの出なのだろう、あれだけ煽り倒されているのにも関わらず誠実な態度で対応している。

 

 一方、客の方は狼獣人と猫獣人のカップルで、暴れているのは猫獣人の女の方。狼獣人の彼氏が彼女を羽交い絞めにして必死に抑えている。

 

 というか……なんかめちゃくちゃ見覚えのある奴らだぞ?

 

「なあ、カミラ……あいつら、ダージとマーレじゃないか?」

 

「……みたいだね」

 

 カミラが呆れた様子で同意する。

 

 見間違えるはずもない。

 

 奴らはオルディスで一緒に仕事をした『遠雷旅団』の一員、ダージとマーレだった。

 

 そう言えば、リリア嬢を王都まで送り届けてまだそう日数も経っていない。

 

 次の仕事が決まるまでの間、連中が滞在していてもおかしくはない。

 

 それはともかくとして。

 

「どうする、ブラッド?」

 

「……止めるしかないだろ」

 

 なんとなく事情は察したが、このままでは俺たちもレストランに入れないし、よしんば入れたとしても外で騒がれては美味い飯も不味くなる。

 

 不本意ではあるが、目の前の修羅場に手を突っ込まざるを得ないだろう。

 

 

 やれやれ……

 

 今日はずっとこんな役回りだな?




※余談ですが、先日カミラと街に出かけたときは、セパとレインは文字通り借りてきた猫のように大人しく観光していました。
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