パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「冒険者諸君、よくぞ私の呼びかけに応じて集まってくれた」
冒険者ギルド王都本部に、アレイスター氏のよく通る声が響き渡った。
早朝、夜の明けきらない薄暗いホールには、数十人もの男女がひしめいている。
大規模かつ対人戦闘が予想される依頼だからか、俺たちをのぞくほとんどの連中が、男も女も獣めいた剣呑な雰囲気を漂わせていた。
そんな中、アレイスター氏が続ける。
「ここにいる諸君らは、私が選び抜いた精鋭だ。必ずや『奪還者』どものねぐらを暴き、貴重な情報を持ち返ってくれるものと期待している」
『奪還者』とは、例の魔剣持ちどもの組織の呼称だそうだ。
その後も彼の演説が長々と続くが、面倒なので聞き流す。
すでに作戦の概要と役割は書類として受け取っている。
――今回の作戦の場所は王都内部や外周に存在する複数のダンジョン。
これらは連中の潜伏先と目され、各パーティーはそれぞれ割り当てられたダンジョンに潜り、拠点の確認、威力偵察、施設の破壊工作などを行うことになる。
可能であれば拠点の制圧も許可されているが、道中は魔物との戦闘がある上に相手がほぼ全員魔剣を装備していることが想定されるため、できれば戦闘は最小限に留め敵側の戦力を確認したあと、すぐに引き返すことが推奨されている。
返り討ちに遭って敵に捕まれば、こちらの情報が洩れる可能性があるからだ。
各ダンジョンに潜るのが少人数なのは、探索中の冒険者が偶然拠点を発見した体を装うためだ。
もっとも、そういう隠密性の高い作戦なら参加者を一か所に集めず互いに顔を知らないようにする方が良いと思うのだが、そうなると万が一ダンジョンで鉢合わせしたときに敵味方の区別がつかず同士討ちになる危険性がある。
この辺りはメリットとデメリットを勘案した結果、今回アレイスター氏は後者を取ったということだ。
ちなみに本格的な拠点制圧は衛兵隊と貴族有志、そして後者が組成した騎士団が合同で行うことになっている。
朗々とした演説が続く中、フル装備済みのカミラがコソコソと耳打ちしてくる。
「ブラッド、ここにいる連中は皆等級A以上ということなのかな」
彼女が言いたいことは分かる。
そもそもの話、王都と言えど等級Aクラスの冒険者はいてもせいぜい何十人だ。
だとすれば、ここに王都中の等級Aが集結していることになる。
しかし、そんなことはありえない。
大抵、そういう高位の連中は忙しくしており、国外のダンジョンに長期遠征に出ている連中が多い。
たとえば例の竜バカことフレイなどがそうだ。
「ギルドの招集に応じる義務があるのはAだ。だが、今回はアイツの個人依頼だろ。多分だが、ここにいる連中の半分くらいはBかC程度だろうな。……それに、冒険者じゃない連中もいるみたいだ」
言って、俺はホールの奥の方に視線を向けた。
そこには、獣人の男女が一組、壁際の椅子に腰かけ、退屈そうに演説を聞き流している。
見覚えのある連中だ。
というか、狼獣人のダージ氏と猫獣人のマーレ嬢である。
と、ダージ氏が俺の視線に気づき軽く手を上げて合図を送ってきた。
「へえ、彼らも作戦に参加するのかい」
カミラも気づいたらしく、驚いたように俺に話しかけてくる。
「連中はともかく、どうやらアレイスターさんは王都中の腕利きを集めているようだな。他にも見たことのある冒険者がいる」
例えば、アレイスター氏の目の前で真剣に彼の演説に聞き入っている男は、確か等級Aだったはずだ。
一度だけ、元職場に聖剣を見に来たことがある。
残念ながらお眼鏡に
他にも、ちらほら見知った顔がいるが……こちらから声をかけるような間柄の連中はいない。
せいぜい『遠雷旅団』の面々くらいだろうか。
それにしても、この場に傭兵もいるということは他の連中も冒険者以外の職業が混じってそうだな。
まあ、今回に限っては対人戦闘のプロがいた方が作戦を有利に進めやすいのだろう。
「――では、諸君らの奮闘に期待する」
と、気づいたらアレイスター氏が演説を締めくくっていた。
その直後、ワッとギルドのホールが歓声に満たされる。
どうやら俺たちとダージ氏ら以外はしっかりと演説を聞いていたらしく、連中から放たれていた殺気が高揚感に変わっているのに気づく。
どうやらアレイスター氏は腐っても冒険者ギルドの幹部、演説は一流だったようだ。
「私たちも真面目に演説を聞いていればよかったのかな?」
「別にいいだろ。大した話はしていなかったからな」
一応内容は耳に入れていた俺は、カミラにそう応じてやる。
演説自体はそれなりにしっかりしたものだったが、新たな情報はなかった。
聞いていてもいなくても、特に問題はないだろう。
ちなみに俺の腰に帯びたセパとレインは沈黙したままだ。
朝早いのでまだ眠りこけているのだろう。
ここで騒がれるのも面倒なので放置しているが、そろそろ行動開始だからギルドを出たら叩き起こしておくか。
ホールの冒険者たちが三々五々外に向かう中。
俺たちもそろそろ行動しようかと思っていたら、ダージ氏とマーレ嬢が近づいてきた。
「よう、ブラッド。カミラさんも、先日は世話になったな」
「ブラッド、先日はありがとう……な」
マーレ嬢はなんだか気恥ずかしそうにしている。
結果的には良いデートになったようだが、さすがにあれだけ騒いだところを見られたらそうなるか。
「なに、あれは物のついでだ。気にするような話じゃない。それよりも、あんたらも作戦に参加するんだな」
「ああ。実はウチの団長、アレイスターさんとちょっとした知り合いみたいでな」
ダージ氏がそう言って、まだホールに残っているアレイスター氏に視線をやる。
なるほど、そういう縁だったのか。
「そうすると、アロンさんや他の団員の皆も作戦に参加するのか?」
「ああ。『遠雷旅団』全員が参加しているが、団長と副団長は貴族有志の護衛についている。ほかのメンツは衛兵隊に組み込まれた。まあ、適材適所だな」
「で、あんたらはダンジョン探索組ってことか」
そういえば、先日レストランの前でもダンジョン攻略がどうとか言っていた気がする。
もしかしたら、この作戦の下見とか実戦訓練だったのだろうか。
「ああ、そうだ」
案の定、ダージ氏が頷く。
「俺とマーレは元々冒険者上がりなんだ。それでこっちになった」
「そうだったのか。たしかに武器はダンジョン向きだな」
以前オルディスで一緒に仕事をしたときに感じたことだが、ダージ氏もマーレ嬢も武器が独特だ。
傭兵団は集団行動が必須だから、部隊ごとに共通した武装をしていることが多い。
槍なら槍、剣なら剣、と言った具合だ。
しかしダージ氏は体躯に合った短めの直剣を使い、マーレ嬢は両手持ちの
このサイズの刀剣は戦場における集団戦闘では扱いづらいはずだが、狭所での近接戦闘なら取り回しも良く、それなりに強いはずだ。
つまりは二人とも、ダンジョン攻略で威力を発揮するタイプなのである。
「ところでブラッドとカミラさんはどこのダンジョンに潜るんだ? 俺とマーレは王都外郭地下の……確か『第四地下街区遺跡』だ」
「俺たちは外側の『王都近郊第二寺院遺跡』だ。結構近いな」
「へえー、すぐ隣じゃん。じゃあ、途中まで一緒に行こうよ」
マーレ嬢は俺たちと探索場所が近くなのが嬉しいらしく、笑顔でそんなことを言ってくる。
もちろん俺たちも
「了解。ついでに皆で朝食でも取っていくか。外郭近くなら良い店を知っているぞ」
「いいね! ……でも、この前みたいに紹介制じゃないよな?」
と、マーレ嬢がすこし猫耳をヘタらせてそんなことを言ってくる。
レストランでは一番イキっていた彼女だが、やはりトラウマになっていたらしい。
「大丈夫だ。下町の小ぢんまりした定食屋だし、朝食はテラス席だから誰でも入れる」
「なら安心だな! じゃあすぐに行こうぜ! あたし、寝起きで水しか腹に入れてないからぺこぺこなんだ!」
気軽に入れる飯屋だと分かった途端、すぐに笑顔に戻るマーレ嬢。
現金な性格だが、憎めないタイプではある。
そんなわけで皆で朝食を摂ったあと、それぞれのダンジョンへと向かった。
ちなみにセパとレインは道中でいくら叩き起こそうとしてもなかなか起きずにいたが、飯屋に着いた途端に実体化して騒ぎ出した。
こいつらはまさに食欲の権化だな。
※本日はコミカライズ最新話の更新日です!
カドコミ、カドコミアプリ、ニコニコ漫画にて第11話①が公開されておりますので、ぜひぜひご覧ください!