パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第226話 王都ダンジョン潜行②

「それじゃ、俺たちはここまでだな。外郭地下は城壁のふもとから入るらしいってよ」

 

「ああ、あんたらも無事でな。俺たちは城門の外だ」

 

 王都の城壁付近でダージ氏らと別れ、狭い城門をくぐる。

 

 ここは表の街道に接続しない裏口なうえ、城門自体も狭く薄暗く、門番も城壁の内側にしかいない。

 

 一応外へ細い道が続いているものの、その先に村も街もなく、あるのは鬱蒼と生い茂った深い森とその先の険しい山くらいのものである。

 

 当然人通りはほぼなく、城門を出たというのに辺りは昼なのか夕方なのか分からない薄暗さで陰気な雰囲気が漂っていた。

 

 心なしか気持ちまでジメジメしてきそうな、そんな場所だった。

 

「目当てのダンジョンはあそこだね」

 

 そんな薄暗い小道を城門から十分ほど歩いたところで、カミラが前方を指さした。

 

 その先には、鬱蒼と生い茂った木々や蔦に埋もれるようにして、朽ちかけた寺院が見える。

 

 もっともその建物の屋根はこんもりとした蔦で覆われ、外壁は無事なものの、窓はそのことごとくが壊れており、用の程をなしていない。

 

『こ、これは完全無欠の廃屋ですね……いえいえ! もちろん私は全く全然、これっぽっちも怖くないですけどねご主人?』

 

『うえぇ……レイス出そう! レイスって味薄いからあんまり好きくないんだよね……』

 

『レイン! そう言うのを口に出すと本当に出てきますよ』

 

『えー? 大丈夫っしょー、出たら出たでお残しはしないし』

 

『いいからシャラップ!』

 

 俺の隣でセパとレインが不毛な押し問答を繰り広げている。

 

 つーかセパは、本当に怖くないなら自分で『怖くない』とか言い出さないと思うんだけどな?

 

 あと俺の頬にべったりへばりついてきたりしない。

 

 そういえばこんな状況以前にもあった気がするなぁ、などと既視感を覚えたりしつつ建物に近づいてゆく。

 

 

 目当てと思しき建物は、一見して無人……というか完全に廃屋だった。

 

 さすがに建物の周囲にアンデッドの気配はないが、普通の人間はこんな陰気な場所には近づきさえしないだろう。

 

 しかし建物の側まで寄ってみれば、正面扉へと続く石階段の前には真新しい木製の看板が立っており、そこにはこう書かれているのが見て取れた。

 

 

 ――この建物は冒険者ギルド管轄のダンジョンにつき、関係者以外立ち入り禁止

 

 

 つまりはここが目的のダンジョン、『王都近郊第二寺院遺跡』である。

 

 俺たちは周囲に人気がないのを確かめてから正面の扉を開き、内部へと入った。

 

「むう……ずいぶんと年季の入った廃屋だね。どこもかしもこ埃まみれだ」

 

 内部をぐるりと見回し、カミラが顔をしかめる。

 

 一階部分は、壊れかけた礼拝堂だ。

 

 長椅子や祭壇は朽ち果て、板張りの床は一部が抜けている。

 

 部屋中に埃と土の臭いが充満しており、壊れた窓から見える光景は鬱蒼と生い茂った森の緑だけ。

 

 たしかにここは、神様よりもレイスがいた方がしっくりくる。

 

「ええと、ダンジョンはこの床板の下だったか」

 

 俺は依頼書を取り出し、ダンジョンへの入り方を再確認する。

 

 本当の入口は、この腐りかけた床の下にある地下へと続く階段だ。

 

「む……ここは、最近冒険者たちの出入りはなかったはずだね?」

 

 と、カミラが礼拝堂の床を見渡してから、そう呟いた。

 

「依頼書によれば、ギルドはアンデッド駆除の依頼を定期的に出しているらしい。依頼を受ける奇特な連中も、一月か二月に一組くらいはいるそうだ。……それにしては、足跡が多い気がするけどな」

 

「私もそこが気になってね」

 

 彼女の言う通り、床にはかなりの数の足跡が残っているのが見て取れた。

 

 見た感じ、まだ土埃に覆われていない真新しいものが多い。

 

 念のため、床にしゃがみこんで足跡を調べてみる。

 

「うーむ、さすがにこれだけで拠点があるかどうかを判別するのは難しいな」

 

 残念ながら誰かしらが五、六人程度出入りしている、ということくらいしか分からない。

 

 一応、男と女、両方の足跡が残っているのが分かるくらいだろうか。

 

 五、六人というと冒険者パーティーひと組分としては少々人数が多い気がする。

 

 通常ならば、三人から四人が適性な人数だ。

 

 狭いダンジョンでは人数が多ければいいというわけではないからな。

 

 しかしアンデッド駆除が目的の場合は別だ。

 

 この場合、呪詛対策やアンデッド浄化要員として通常の編成に加え、神聖魔術を使える助っ人を一人か二人随伴させることがある。

 

 このダンジョンに出没する魔物の大半はアンデッドだと依頼書に書いてあるので、通常より多めの足跡があってもそこまでおかしなことではない。

 

「……やっぱりダンジョン内部を調べるしかないな」

 

「もとよりそのつもりだろう。さあブラッド、さっさと仕事を済ませようじゃないか」

 

「だな」

 

 ここで拠点の有無が判断できればベストだったが、そう簡単にはいかないようだ。

 

 俺たちは床下に降り、地下へと降る階段からダンジョンへと入った。

 

「……ここも礼拝堂か」

 

 階段を降りると、すぐに散乱した椅子やその奥に(たたず)む祭壇が目に飛び込んできた。

 

 一階と同様、この地下室も宗教関連の施設らしい。

 

 もっとも(まつ)る神は上とは違うようだ。

 

 地上階の礼拝堂は王国でよく見る様式だったが、こっちはもっとこう……トライバルというかエキゾチックというか……そう、ケット・シーの祭壇に似ている。

 

 となると、ここは古の神々を祀る祭壇か寺院のような場所だったが、時が経つにつれ改宗された場所なのだろう。

 

 

 それはさておき、残念ながらこの礼拝堂には誰かの足跡は残っていなかった。

 

 これはダンジョンの修復能力により足跡が消えてしまうためだ。

 

 ここからは用心して進む必要がある。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「それにしても、連中はなんでダンジョンの奥に拠点を築いているんだろうな」

 

「さてね。連中の考えは分かないけども、魔力が濃密で魔剣にはいい環境なのだろうね。それに見つかりにくいし」

 

「それはそうだな」

 

 カミラの返答はもっともだ。

 

 だが、それならばもっと昔の砦とか城跡みたいなダンジョンの方が暮らしやすいんじゃないかと思うのだが。

 

 しかし、魔剣持ちの連中は地下遺跡系のダンジョンの奥に拠点を構えることが多いらしいのだ。

 

 そこに引っかかりを覚える。

 

 

 いずれにせよ、今回の事態は王国よりダンジョンの管理を任されている冒険者ギルドにとってまさに沽券に関わる問題だ。

 

 ついでに言えば、俺たちのような冒険者(副業ではあるが)も同様に連中に舐められているということになる。

 

 魔剣持ちどもには、ダンジョンの主が誰なのか分からせてやる必要があるだろう。

 

「……皆、そこで止まれ」

 

 そんなことを考えながら進んでいたら、ふと嫌な空気を感じた。

 

 すぐにその場で立ち止まり、手で三人を制す。

 

 目の前には石造りの通路が広がっている。

 

 一見、何の変哲もない通路に見えるが……数十歩先の石床の一角に違和感を覚えた。

 

「罠かい?」

 

「……おそらくは」

 

 ただ、正直なところ確信はなかった。

 

 一見すると、石床におかしなところはなかったからだ。

 

 しかし冒険者としての勘というものは存外バカにならないものだ。

 

 ひとまず三人を下がらせて、俺は懐から紙片を取り出した。

 

 聖剣錬成の魔法陣が描かれており、魔力を込めると一定時間の後に手のひらサイズの『聖剣の素体』を生成するという、単純なものだ。

 

 それに魔力を込め――

 

「…………」

 

 発動させず、魔力が放出しきるのを待ってから懐に戻した。

 

『……って、結局発動させないんですかご主人』

 

 背後からセパがツッコミを入れてきたが、気にしない。

 

「あの罠はおそらく、発動させては(・・・・・・)ダメなやつだ(・・・・・・)

 

「……理由を聞いても?」

 

 カミラは石床を眺めつつそう聞いてくる。

 

「もちろんだ。……だが、まずはここから離れようか」

 

 ひとまずダンジョンを後退し、もとの地下礼拝堂まで戻る。

 

「ここならさすがに聞かれない(・・・・・)だろう(・・・)

 

 それから周囲に俺たち以外の気配がないことを確かめてから、静かに言った。

 

「間違いない。ここは連中の『拠点』だ」

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