パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第227話 王都ダンジョン潜行③

「……へえ?」

 

 俺の言葉を聞いて、カミラの片眉がぴくりと跳ねあがる。

 

 それから彼女は、視線だけで続きを促してきた。

 

「気づいたか? あの石の周りだけ妙に綺麗だった。つまり人の手が入っている。罠なのは間違いないが、ダンジョンの罠じゃない」

 

「……なるほど」

 

 俺の説明に、カミラがようやく合点がいったというように頷いた。

 

「状態異常付与か爆発系……いや、『音送り』……かな? あるいはその類似の魔術、といったところかな」

 

「状況から見て、おそらく『音送り』だろう。侵入者に害を及ぼす罠はダンジョンのもので事足りる。わざわざ人の手を入れるのなら、それ以外だ」

 

「ふむ。確かに道理だね」

 

「加えて言えば、周りが綺麗なのは石の裏に術式を刻み込むさいに、邪魔な土埃を取り除いたからだ。奴らの中にそこそこ使える魔術師がいるようだが、冒険者の目を舐めているな」

 

「ククク、あの状況でその違和感に気づくのは君くらいのものだろうけどね」

 

 カミラはそう言ってクスクスと笑ったが、罠の発見と種類の特定は冒険者ならば必須のスキルだ。

 

 別に大したことじゃない。

 

『ちょっ、ご主人、カミラ様! どういうことか私にも教えてくれませんか?』

 

『あーしも知りたい! 『音送り』ってなにー?』

 

 と、セパとレインが俺たちの話に割って入ってきた。

 

 ……今後も同様の罠が仕掛けられていることを思えば、二人にきちんと説明しておいた方がいいか。

 

 そのたびに注意喚起していると面倒だからな。

 

「『音送り』という魔術は、言葉通り『音』を遠方に送る低位の支援魔術だ。遮蔽物の影響を受けづらいが単純な音しか送れないから用途は限られるが、侵入者に対する警報装置としては十分に役立つ」

 

『な、なるほど……というか、まだ術式を見ない段階でそこまで分かってしまうものなのですね』

 

『マスター、すごー!』

 

「冒険者ならばこの程度の知識は基本だ。二人ともしっかり覚えておくんだぞ」

 

「……付け加えるならば、冒険者の前に『高ランク』が付くがね」

 

 なぜかカミラが、俺たちのやりとりを呆れたような表情で眺めつつ、そう補足してきた。

 

 別に高ランクだからというわけではないと思うが……そもそも、である。

 

「『音送り』自体はギルドの定期講習でも出てくる内容だろ」

 

「そもそもギルドの講習を真面目に受け内容を理解したうえ実戦できちんと知識を活用できている時点で、すでに高ランク冒険者の素質があるという話だよ」

 

 そういうものなのか……?

 

 講習を受けて理解したあと実践して技術を身につけるのは基本だと思うんだが……ギルドの講習の内容って、文字通り先人たちの『血で書かれている』からな。

 

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 

「それよりも、面倒なことになったのは間違いないぞ」

 

「それはそうだがね」

 

 カミラはまだ何か言いたそうにしていたが、今は彼女の愚痴に付き合うつもりはない。

 

 俺はさらに言葉を続ける。

 

「『音送り』そのものはギルドで『こんな魔術がある』とだけ習うが、実際に習得して運用しているのは傭兵か軍の、斥候役や工兵部隊に所属する魔術師だ。つまりこのダンジョンには対人戦闘(・・・・)だけでなく、陣地構築のノウハウを持つ奴がいる可能性がある」

 

「もとよりそのつもりだろう?」

 

「それはそうだが、ただ魔剣をぶん回すだけの脳筋だけじゃないってのが面倒だという話だ」

 

「それは同感だけどね。それで……これからどうする?」

 

 カミラは言って、通路の奥へと視線を向けた。

 

「もちろん拠点の確認は必要だ。むしろ相手の手ごわさを考えれば、確実に戦力を把握する必要が出てきた。……慎重に行こう。セパ、レイン、二人とも実体化を解いておけ」

 

『了解です、ご主人』

 

『りょーかい!』

 

 敵の状況が理解できたのか、セパとレインの姿がすぐに消えた。

 

「さて、ここからが本番だな」

 

 結論が出たところで、さきほどの通路まで戻る。

 

「ふむ。言われてみれば、あちこちに人為的に仕掛けられた罠が見えるね」

 

 カミラが通路を見渡しながら呟く。

 

 彼女の言う通り、この通路だけでも後で仕掛けられたとみられる罠は『音送り』だけではない。

 

「配置場所からして、『マーキング』や『身体能力低下』とかも仕掛けられていると思う。おそらく、一つが発動すると連鎖的に起動して一気に状態異常が付与されるはずだ」

 

「……それでブラッド、君はそこで何をしているのかな?」

 

 そんな会話をしつつ『音送り』の罠と(おぼ)しき石畳の前で(かが)みこんだ俺に、カミラが背中越しに怪訝そうな声を投げかけてくる。

 

「念のため、術式構造を調べようと思ってな。周囲に連鎖する罠がないことは確認済みだ……よっと」

 

 腰から『聖剣セパ』を引き抜くと、罠が仕掛けられている石畳の隙間に突き刺す。

 

 そのままテコの原理で石畳を(こじ)り、床から剥がした。

 

 ちょうど魔導書と同じくらいのサイズの石畳を裏返すと、果たしてそこには魔法陣が刻み込んであるのが見て取れた。

 

「……正解だな」

 

 それは間違いなく『音送り』の術式だった。

 

 術式構造は単純で、この石畳を踏むと魔術が発動し、『ピン!』と単純な音が一度だけ遠方に送られる。

 

 ただし発動したときの音は、踏んだ者には伝わらないので気づけない。

 

 これは『音が鳴る』ではなく『音を送る』性質によるものだが、それゆえなかなかに厄介だ。

 

 ちなみに方角は、この床の直下、五十メートルほど先。

 

 音程まで術式で指定してあるということは、音の高低で罠の個体識別を行っているのだろう。

 

 つまりこの先も同様に、『音送り』の罠がいくつも仕掛けられている可能性が高い。

 

 それらを発動させることにより、侵入者がどこまで拠点に近づいているかを把握できるようにしているというわけだ。

 

「……よし、相手のレベルは大体把握した」

 

 俺は呟いて、そっと石畳を元の位置に戻した。

 

 この魔術が発動するためには、人一人分くらいの荷重がかからなければならない。

 

 単純に戻すのなら問題はない。

 

 それにしても、相手は相当の手練れだな。

 

 気を引き締めていかねば。

 

「おや、無効化しないのかい? セパ君ならば可能だろう」

 

 俺の行動に疑問を覚えたのか、カミラが怪訝そうにそう聞いてきた。

 

「無効化はしない。変に手を加えて、敵さんに怪しまれたくないからな。ただ、位置は記録しておいてギルドに報告する必要はあるだろう」

 

「ふむ、一理あるね」

 

 カミラは俺の説明で納得したのか、鼻を鳴らして側から離れた。

 

 それから手に持った杖を掲げ、何かの呪文をブツブツと呟き始めた。

 

「おい、むやみに罠を発動させるような真似は――」

 

「いいから見ているといい。精霊魔術師の本領を、君に見せてやる。――『土の精霊よ、我が魔力が届く範囲にて其方が『不快』と感じる場所を示せ』」

 

 言って、カミラは杖を軽く一振りした。

 

 すると。

 

 ――ぱしゅっ、ぼしゅっ!

 

 俺たちの目の前の通路の壁や床から、小さく土煙が上がるのが分かった。

 

 手前の『音送り』の罠からも、石の隙間からごくわずかな土煙が上がる。

 

 それが何を意味しているのかはすぐに理解できた。

 

「……もしかして、今のが連中が罠を仕掛けた場所か?」

 

「そのとおり」

 

 カミラは得意げな表情で頷いてから、さらに続ける。

 

「ダンジョン内の構造物には『土の精霊』が宿っているのは知っているね? 彼女たちは外部から手を加えられるのを嫌う。予想通り、人為的に仕掛けられた罠の場所を教えてくれたよ」

 

「……そいつはすげえな」

 

 純粋に驚いた。

 

 もちろん俺も、精霊魔術が世界に存在する精霊の力を借りて行使する魔術系統だということは知っている。

 

 しかし、このように直接精霊と対話するような使い方があるとは知らなかった。

 

「ふ、ふふ! 君も、もっと私を頼るといいのだよ! もちろん罠に反応しないように繊細な力加減を必要とするのは言うまでもないがね! 君の相棒は、ここまで完璧に精霊魔術を使いこなすのだよ!」

 

 そう言って、めちゃくちゃなドヤ顔をしながら胸を張るカミラ。

 

 ……耳が真っ赤になっているのは触れないでおいた方がいいだろうか?

 

「ああ、もちろん頼りにしてるぜ」

 

 とりあえず褒めておいた。

 

 

 その後、魔物や罠をうまく回避しながら歩を進め……俺たちはついに最下層まで到達した。

 

 そして――

 

「……あったぞ。間違いなくあれが拠点だ」

 

 通路の壁面に身を隠しつつ、その先にある広間を見る。

 

 天井が高く、祭壇のある大広間だ。

 

 その広間の一番奥、祭壇のすぐ横。

 

 明らかにダンジョン由来のものではない、木こり小屋のような建物が佇んでいた。

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