パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第229話 王都ダンジョン潜行⑤

「おいおい……ブラッド、あんたの相方はマジで容赦ねえな。いつもこんな調子なのか?」

 

「うにゃ……やべぇにゃ……どうやったらこんなバカみたいな威力の魔術を使えるにゃ……」

 

「……今日は特に張り切っている気がする」

 

 ドン引きした様子のダージ氏とマーレ嬢に、俺は二人から視線を逸らしつつそう答える。

 

 いつもだいたいこんな感じだ、とはとても言えなかった。

 

 大丈夫だ、依頼には『制圧可能な場合は制圧しても構わない』とあったし、『拠点を破壊してはならない』とも書いていなかった。

 

 だからこれは、断じて違反行為ではない。

 

 

 ――ここは『第四地下街区遺跡』の第4階層。

 

 その最奥部に立てられた即席の拠点は、カミラの放った精霊魔術『地形変化』『岩石散弾』によって完膚なきまでに破壊されていた。

 

「ふん、私たちを出し抜こうなど百年早いのだよ」

 

 カミラは倒壊した小屋を眺めつつそう鼻を鳴らした。

 

 拠点内部には2名ほど敵がいたはずだが、しばらく待っても反応はなかった。

 

 まあ、倒壊した建物の下敷きになればいくら魔剣持ちといえども無事では済むわけがない。

 

 

 そして……なぜ俺たちがここにいるかと言えば。

 

 つまりは、攻略対象だった『王都近郊第二寺院遺跡』の拠点が完全に無人だったからだ。

 

 拠点内部にはテーブルと椅子、それに酒瓶などが転がっているだけ。

 

 誰かがここでしばらく生活していた痕跡はあったものの、特に何かしらの計画を示唆する証拠品もなかった。

 

 残念ではあるが、空振りに終わったことをギルドに報告すべくダンジョンを引き返して王都の城壁内へと戻った。

 

 この調子ならダージ氏らも空振りに終わるだろうと思い、彼らの入ったダンジョンの近くで帰りを待っていたのだが……しばらくしても2人は戻ってこない。

 

 嫌な予感がしたので、ダージ氏らの攻略対象となる外郭地下のダンジョンへ向かったところ彼らが罠にかかった痕跡があった。

 

 例の『音送り』だ。

 

 この時点ではダンジョンに魔剣持ちたちがいるかどうかはまだ分からなかったが、もし潜伏していればすでにダージ氏らが攻略していることを奴らは把握していることになる。

 

 昔は彼らも冒険者だったようだが、今は傭兵だ。

 

 それゆえ自分たちでも気づかないうちにスキルが落ちており、奥で別の罠に引っかかっていたり、魔剣持ちどもに遭遇して苦戦を強いられている可能性があった。

 

 まあ、何が言いたいかといえば……要するに彼らが心配だったわけだ。

 

 そこで念のためと彼らのあとを追えば、案の定、第4階層手前でさらに状態異常系の危険な罠に引っかかる直前だった。

 

 どうにか寸前で2人を止め、それから先の罠を回避しつつ、しかし要所要所で『音送り』だけは欺瞞工作がてらところどころで踏んだりしつつ4人で最下層に到着。

 

 こちらにも拠点らしき小屋があったので、カミラの精霊魔術で中の様子を確かめる。

 

 この魔術は、風の精霊に頼んで内部の空気の動きを探ってもらうというものだ(彼女いわく、『風の精霊』はおしゃべり好きでいろいろ教えてくれるそうだ)。

 

 これにより、こちらの拠点には2名が待ち構えていることが分かった。

 

 俺たちの思惑通り、欺瞞工作を交えたダージ氏らの動向を確認していたらようだ。

 

 そしてちょうど魔剣持ちどもが2人を迎え撃つべく動き出した……まさにそのタイミングだった。

 

 まあカミラの先制攻撃により、その目論見はあえなく(つい)えたわけだが。

 

 

「おい、まだ息があるみたいだぞ」

 

 念のため、瓦礫を撤去しつつ相手の素性を確認する。

 

 当然ながら戦闘が発生した場合に、相手の生き死にまで配慮する必要はない。

 

 相手もこっちを殺す気で襲ってくるわけだからな。

 

 もっとも、連中はそれなりに悪運が強かったようだ。

 

 2人とも完全に気絶していたものの、死んではいなかった。

 

 

 1人は男で、冒険者風。

 

 もしかしたら傭兵かもしれない。

 

 もう1人は女で、人族ではなく魔族。

 

 身体や頭部から生える羽毛から見るに、セイレーン族だろう。

 

 どうやら魔剣持ちはこいつだけらしい。

 

 気を失っているのに剣を握ったままとは、見上げた根性だが……意識を取り戻す前に魔剣を没収しておく。

 

「……こいつはセイレーン族か? もし無事だったら結構苦戦したかもな」

 

 ダージ氏が近づいてきて、昏倒したままの女の顔を覗き込んでそう呟いた。

 

「なんにゃ、ダージもしかしてお前、こういう女が好みなのにゃ?」

 

 ちょっと不満げな声で割り込んできたのはマーレ嬢だ。

 

 ダージ氏が心外そうに手を振る。

 

「そういう意味じゃねえよ。セイレーンは空を飛べるだろ。俺たちの手の届かない天井とかに止まって一方的に『歌』で眠らせようとしてきたら、相当面倒だったという話だ」

 

「まあ、そうだけどにゃ」

 

 マーレ嬢はダージ氏の言い訳(?)に一応の理解は示しつつ、それでも不満そうな様子だ。

 

 いや、これは……嫉妬か?

 

 猫獣人は嫉妬深いと聞くが、敵にまで嫉妬してどうする。

 

 たしかにセイレーン族は見た目だけは良いから、分からないでもないが……多分ダージ氏はそういう感情は持っていないと思う。

 

「さて、コイツらは冒険者ギルドに連行する必要があるな。捕縛するから、二人で担いでいってくれ」

 

「この鳥女はあたしが持ってくにゃ!」

 

 シャー! とダージ氏に威嚇するマーレ嬢。

 

 前々から思っていたが、彼女は興奮すると語尾がおかしくなるようだ。

 

 まあ、痴話げんかは勝手にやってくれ。

 

「さて、私たちはどうする?」

 

「そうだな……そういえば、男の方はこのダンジョンの罠を張っていた張本人だったよな?」

 

 昏倒したまま縄でグルグル巻きにされ、ダージしに担がれている男を見る。

 

 冒険者か傭兵かは分からないが、罠を設置したとすればこっちだろう。

 

 なにしろセイレーン族は基本的にアホというか無知だからな。

 

 これは知能がどうとかいう意味ではなく、魔族の中でも原始的な生活を送る傾向があり、野性味が強いというか文明とか魔術に疎いという意味だ。

 

 要するに脳筋なわけだが、それゆえ身体能力が高く『歌』による眠りだとか魅了の状態異常を駆使して戦うため、魔剣抜きにしても戦闘能力は極めて高い。

 

 こういう閉鎖空間かつ天井が高い場所ならば、ダージ氏とマーレ嬢だけでは罠に引っかからなくても返り討ちにあってしまった可能性が高かった。

 

 その意味では、カミラの先制攻撃が適切な選択だったのは間違いない。

 

 ……それはさておき、男の方だ。

 

 当然ながら身分証の類は持っていなかった。

 

 だが、魔導鞄(マジック・バッグ)を持っていた。

 

「ブラッド、中身は(あらた)めないのかい?」

 

 結局俺が男の持ち物をチェックしたあと、そのままダージ氏に男の身柄を預けてしまったことをカミラは不思議に思ったようだ。

 

「魔導鞄の中に罠が仕掛けられていると怖いからな」

 

「そんなことをする奴がいるのかい」

 

「普通はないが、実例がないわけじゃない。まあ、俺が見たのはどちらかと言えば事故に近いけどな」

 

 魔導鞄は、魔術で収納容量を拡張した魔道具だ。

 

 鞄内部は魔術的に安定した空間であるため、基本的に外部からの衝撃や温度変化などをほとんど受けない。

 

 それゆえ冒険者やそれに類する連中にはほとんど必須アイテムといっていい魔導鞄だが、当然ながら雑に使うと事故を起こす危険性がある。

 

 例えば、強い衝撃を与えると爆発する不安定な素材だとか、壊れやすい瓶などを出し入れする際には、乱暴に扱えば取り出した瞬間に爆発したり、壊れてしまったりする。

 

 今回は、それを罠として使用している危険性があったのだ。

 

 何しろダンジョンに自前の罠を仕掛けるような奴だ。

 

 自分が戦闘不能に陥り装備品を奪われた時のために、所持品に罠を仕掛けている可能性が否定できなかった。

 

 特に魔導鞄は実際に内部を確認して見なければ、本人以外には何が入っているか分からない。

 

 一見安全なアイテムでも、さらにその内部に危険な魔術を発動させる仕掛けが施されているかもしれないのだ。

 

 ひとまず、冒険者ギルドに持ち返って安全な場所で相応の対策をしたうえで中身を(あらた)めるべきだろう。

 

「……確かに言われてみればそうかもしれないね」

 

 俺の説明を聞いて、カミラが納得したように頷く。

 

「俺たちの仕事の本筋は偵察だ。相手の素性と所持品の調査は専門の連中に任せよう。さあ、俺たちも戻ろう」

 

 ひとまず偵察依頼としては相応の成果を持ち返ることができそうだ。

 

 俺たちは捕縛した魔剣持ちどもを連れ、意気揚々と冒険者ギルドへと戻るのだった。

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