パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「よし……こんなものか」
俺は新居の居間を見渡してから、ふう、と息を吐いた。
居間には、今日運び込んでもらった家具類が整然と配置されている。
街の商業区にある宿からこの外周部の邸宅まで荷物をすべて移動させた。
引っ越し作業はそれほど辛くはなかったが、それでもあらかたの作業が終わったころには日が傾きかけていた。
ちょうど先ほど、家具業者にソファやローテーブル、それと下に敷くラグを運び込んでもらったところだ。
おかげで、どことなくノスタルジックな空気感を漂わせていた居間が、フレッシュな印象になった気がする。
もともとあった家具は、別の部屋できちんと配置しておいた。
急な来客が重なったときなんかには、待合室としてそこを使うつもりだ。
いずれにせよ、これで急な来客があっても、これで慌てずもてなすことができる。
聖剣工房の稼働は少し先だが、ファルやカミラが訪ねてくるかも知れないからな。
ちなみに寝室のベッドはマットやシーツを取り替え済みだ。
まだ毛布などはないが、枕は準備済み。
前者は寒くなる季節でもないし問題なかろう。
台所や浴室、トイレなどの水回りは完全に作動する。
水を出したり排水したりする魔道具は、かなり程度の良いものだったらしい。
キッチン回りも広く、コンロも魔導式。
野営のように火起こしから始めないで済むのはありがたい。
それから日用品は最低限準備してある。
もともと
あとは……地下の工房だろうか。
こっちはまだがらんどうだ。
あれこれものを運び込む前に、まず壁面や床などにさまざまな魔術処理を施す必要がある。
特に魔素濃度と湿度管理は重要だ。
それらは、一日や二日でどうにかなるようなものではない。
『おおー! 新居ってすげー! ソファがふかふか! ふかふかじゃん!』
『フフフ……ここが我らの新しき城なのですよ、レイン! これからはどんなに騒がしいパーリーナイトを過ごしたとしても、隣室からの壁ドンされる危険は皆無なのですよ!」
セパとレインが、たった今居間に置いたソファに身体を埋めながらもキャッキャと大騒ぎをしている。
とりあえず限度を超えてうるさいと近所から苦情が来ると思うので、ほどほどにしてほしい。
両隣は貴族の別邸らしくほとんど空き家状態だから、よほどうるさくしない限りは大丈夫だろうとは思うが……コイツら悪ノリするからな。
それはさておき。
「……さすがに疲れたな」
今日は一日中動き回って、重いものを移動させたりあちこち買い出しに出かけたりしたからな。
気疲れもあるのだろう、ひと段落したと思ったら強い眠気に襲われた。
今日は久しぶりにカミラと商業区で食事を取ろうということになっている。
夕食中に眠そうにするのは、さすがによろしくない。
「……夕食まで、あと二時間か」
今日壁に掛けたばかりの時計を眺め、一人ごちる。
ソファは精霊どもに占領されていることもあり、俺は寝室のベッドで仮眠を取ることにした。
「セパ、レイン。ちょっと俺、ひと眠りしてくるわ。寝室にいるから一時間ほど経ったら起こしてくれ」
『りょーかい、マスター』
『承知しました、ご主人。ごゆっくりお休みください』
珍しく大人しく言うことを聞く二人を尻目に、俺は寝室に移動した。
◇
「むぐ……」
まるで鉛のようだ。
寝返りを打とうにも、まったく身体が動かせない。
いまだ泥が詰め込まれたような頭で、そういえば今日はずいぶん動いたからなぁ、とぼんやり考える。
そういえば、まだ毛布を使っていなかったはずなのに、身体が妙にぽかぽかとする。むっちりと柔らかい感触。
ずっとこうしていたいと思う、幸せな気分だった。
と、そのときだった。
『ふう……ん……』
すぐ耳元で別の誰かの吐息が聞こえた。
頬をくすぐる微風には、甘い香りが含まれている。
「……!?」
違和感が大きく膨らみ、一気に意識が覚醒する。
目の前に、レインの寝顔があった。
鼻と鼻がくっつきそうな距離だ。
「レイン!?」
「ん……」
慌てて起き上がろうとして、気づいた。
彼女の手足がっしり俺に絡みついていた。
どうりで身体が重たいはずだ。
つーか、なにやってんだコイツは……
よく見ると、枕の横にセパも寝っ転がっている。
コイツはコイツで涎を垂らしながら気持ちよく惰眠を貪っている。
「…………っ」
慌てて窓の外を見る。
日はほとんど沈みかけていた。
少々寝すぎてしまったようだ。
どうやら二人は俺を起こしに来て、そのまま一緒に眠ってしまったらしい。
特にレインは見た目と違い相当に膂力があるから、かなり働かせてしまった。
精霊の彼女も、かなり疲れていたようだ。
さすがに申し訳ない気持ちになる。
と、そのとき。
「ん……」
レインが身じろぎをしてから、目を開いた。
寝起きのぼんやりとした紅い瞳が、俺を見上げている。
「すまん、起こしちまったな」
「マスター……おはよ」
にへら、と幸せそうな笑みを浮かべるレイン。
「もう夜だぞ。……そろそろ外出の支度をするぞ。夕食に遅れちまう」
「……ん。もうちょっとー」
ベッドから出ようとすると、レインの両腕が俺の腰あたりにぎゅっと巻き付いてきた。
「ん-……」
甘えるように、俺の腹あたりに頭を
「……おい!?」
聖剣に宿る人造精霊が実体化したその姿は、少なくとも外観は人間と区別が付かない。
男女の別はもちろんのこと。
髪の一本一本。
肌や肉の柔らかさも。
なにもかも、人間そのものだ。
そしてレインは、錬成した俺が言うのもなんだがとんでもない美少女だった。
金糸のような長い髪。
少し潤んだ紅瞳。
恐ろしく整った顔立ちは、寝起きのせいか少し紅潮している。
彼女を引きはがそうと掴んだ肩や腕は、透き通るような白い肌だ。
触れている手にはむっちりとした弾力を返してくるが、それでいて吸い付くような柔らかさを併せ持っている。
「…………」
「マスター、だいじょーぶ? もしかして具合が悪いの?」
思わず動きを止めてしまった俺を、レインが心配そうに見上げてくる。
その表情がこれまた魅力的だ。
上目遣いで俺を見る、潤んだ瞳。
ほんのり色づいた頬。
わずかに開いた口を彩る、形の良い唇。
なにより、俺の下半身にのしかかっている彼女の柔らかさと、ふんわりと俺を包み込む彼女の香りに……意識を持っていかれそうになる。
…………これは……………いろいろとヤバいのではないか。
「…………おいレイン、離せ」
「なんでー? もうちょっといいじゃーん!」
こっちの心中を知らないレインが、無邪気に笑いながら俺の腰回りを両腕でぐいぐい締め付けてくる。
「いいから離せ……クソ、離れん!」
そこで俺は思い出す。
人造精霊の膂力は、男のそれをはるかに上回ると。
というかそれどころじゃない。
もう完全に夜だ。
カミラとの約束に遅れてしまう……!
「離せレイン! マジで夕食に遅れるっつーの!」
「いーやー! もうちょっとこうしてたいのー!」
駄々っ子か!
たしかに錬成してまだひと月も経っていないが!
「ご主人……レイン……二人とも何してるんですか……」
気づくとセパがドン引きした顔で俺たちを眺めていた。
「セパ! 目が覚めてたんならレインをひっぺがせ!」
だがセパは悲しそうに
「無理です……ご主人。私ができるのは『呪詛や魔術』の切断だけです。人と精霊がくんずほぐれつする仲を『切断』するのは……力の対象外です」
「言い方ァ!」
夕食には遅れた。