パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
ダンジョンにひしめく魔物の群れを蹴散らし、俺たちは奥へ奥へと進んでいく。
『ギギィッ!?』
「それにしても、蟲型以外の魔物がほとんどいないね。僕はあまりダンジョンに詳しくないけど……ここはそういうダンジョンなのかな?」
天井に張り付き待ち伏せ攻撃を仕掛けてきた
「どうだろうな。蟲型の魔物はどのダンジョンでも比較的多く分布している。ただ……少し多い気はするな」
「多いというか、蟲型魔物ばかりだろう」
カミラが苛立ったような口調で言い放ち、
『ギャギャッ!?』
前から突進してきた甲虫型の魔物を巨大な氷塊で
「まあ、そんな気もする」
というか、言われてみれば蟲型しか出てきていない。
最初に出くわしたのは蟻型の魔物だ。
それ以降は蟻型を中心に、様々な種類の蟲型魔物が出てくるが……アンデッドはおろか、鼠型すら見かけていない。
「うーむ……こういうダンジョンもあるってことか?」
呟きつつも前方から迫る
『ギギギィッ!?』
魔物の胴体が2つに分かたれ、光の粒子へと変わった。
「もういっちょ!」
『キィィッ!?』
それを突っ切って進み、その向こう側に控えていた蜂型数体を一呼吸で叩き斬る。
「そんなことを私に言われてもね」
『ギギャッ!』
カミラは後方で不機嫌そうにそう言いつつも、壁を伝い忍び寄ってきていた蜘蛛型魔物を風の刃で迎撃した。
ばっさりと両断された巨大な蜘蛛の残骸が俺のすぐ側に落ち、光の粒子に変わる。
「くくっ……兄さまもカミラ殿も、普通に会話しながら敵を殲滅していくあたり、この物量に何の脅威も感じていないんだね……! 僕は結構精一杯なんだけど……なっ!」
そうクスクス笑いながらも、アリスはアリスで難なく巨大な甲虫型魔物を両断してみせる。
すでに大物を倒すのはアリスの担当になっている。
にもかかわらず今のところ三人の中で一番
次点でカミラ、ドベが俺。
いや、こればかりは仕方ないのだ。
そもそも俺は聖剣錬成師が本職だ。
完全に身体能力が人の領域を超えているうえ聖剣『
こればかりは、個人の技量ではどうにもならないわけで。
もちろん、大量の魔物を一気に殲滅できる奥の手はもちろん持っているのだが……こいつは魔法陣を消費するため回数が限られているので、いざという時のために温存しておきたい。
そういうわけで、俺は二人が討ち漏らした魔物をちまちま狩るという役に徹していた。
『うーん……』
と、魔物を斬りまくっているとレインが次第に唸り声をあげ始めた。
ザクッと蜘蛛型を倒すと『う~ん……』。
バシュッと蟷螂型を倒すと『うーん……?』。
ザクザクと倒した蜂型は『うん、う~ん?』
……だ。
「どうしたレイン。何か気になる事でもあるのか」
『うーん……ちょっとねー』
戦闘中に気が散るので声を掛けてみれば、返ってきたのは生返事だ。
なんだよ煮え切らないな。
「あまり変な声を出すと戦闘の邪魔だ。黙るか訳を話すかどっちかにしてくれ」
『そうですよレイン。そういうのはご主人が変な気分になるからやめなさい』
「いやならねーからな?」
というかセパも余計な茶々を入れるんじゃない。
そもそも戦闘中にそんなことを考えている余裕なんぞないんだが?
しかしレインは魔物を斬るたびにウンウン唸っているので集中力が削がれるのは確かだ。
「いい加減にしろ、レイン。何か気になる事があるなら言ってくれ」
ありえないとは思うが……魔物を斬るたびに遅効性の毒や呪詛の類を受けており、斬ると魔力の質を感知できる(らしい)レインがそれを違和感として感じ取っているなら、状況はかなり危険だということになる。
もちろんレインやセパは影響を受けないだろうが、持ち手の俺や周囲で戦っているカミラやアリスに影響が及ぶのはかなりマズい。
とはいえ、迫りくる魔物を倒さずやり過ごすわけにはいかない。
それに、俺の体調も特に悪くなっている感覚はない。
カミラもアリスも順調に敵を殲滅している。
これは、どういうことだ??
頭の中に疑問符を浮かべつつも、やたら数が多い魔物たちを倒していく。
そして、そろそろダンジョンも深層あたりに差し掛かり、出現する蟲型魔物も大型化の傾向を見せ始めた頃だった。
これまでより広々とした空間に陣取る巨大なムカデ型魔物……ジャイアントセンチピードを倒したとき、レインが『あっっ!!』と大声を上げたのだ。
『あーし分かっちゃったかも!」
嬉しそうに弾む声色が、俺の頭の中にキンキンと鳴り響く。
『レイン、今度はなんだ! 何が分かったんだ!』
もしや奴らのふりまく毒などの対処法でも見つけたのかと期待した俺だったが。
それに続く彼女の言葉に、思い切り脱力した。
「蟲型魔物さんを斬ったらする『魔力の風味』……これ、エビさんだ!! 昨日ご飯屋さんで食べた川エビのフライとほとんど一緒だし!』
「今までウンウン悩んでいたのは、『味』に対する感想だったのかよ……」
思わずレインを取り落とそうになるが、とりあえず前方から突っ込んできたワーム型魔物を両断する。
『えー、だって魔物さんの味って重要じゃん? 絶対美味しい方がいいじゃん! あーし的にこのダンジョンは超当たりだよ!』
というか生の魔物とフライのエビが同じ味するってどういうことだ?
レインの『
いろいろツッコミどころが多いが……
『あー、まあそれはよかったな』
結局おざなりに返答を返した。
正直蟲型魔物の魔力の味とかどうでもいい。
とはいえ、蟲型魔物は一般的に
だからまあ、レインのテンションが上がるなら悪いことではない。
「それじゃあお前のグルメのためにも、俺たちもぼちぼちキルスコアを稼いでいくか!」
『りょ!!』
俺の掛け声に、レインは例のよく分からない返事を返してきた。
もちろんこちらの様子をそれとなくチェックしていたカミラが、俺たちの様子に怪訝な顔を見せたのはいうまでもない。
◇
ダンジョンの最奥部、その広々とした空間には祭壇があった。
階段や贄を置くものと
おそらくここに
そして――その傍らには巨大な『蛹』が鎮座していた。
ちょうど、人一人がすっぽり収まるほどの……巨大な肉の繭だ。
そして、そいつは……すでにもぬけの殻だった。