パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第24話 『チート義手』

「どうだい、ステラ。痛くはないかい?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 地下室の工房。

 

 カミラの呼びかけに、テーブルに腰掛けたステラが返事をした。

 

 彼女の左肩から先には、白く光沢を放つ腕がだらんとぶら下がっている。

 

 見た目は完全に自動人形(オートマータ)の腕だ。

 

 というか、そのものだな。

 

 マリアと同じような、皮膚のかわりの白い外殻。

 

 肩と肘や手首、それに指の関節には黒い球体が露出している。

 

 ちなみに外殻内部には、疑似筋肉となる鋼甲蜘蛛の粘糸と人の骨そっくりに錬成した鋼材が埋め込まれている。

 

 違いと言えば、人造精霊を頭部の核に宿しているマリアに対して、ステラの義手には腕部そのものに疑似神経となる人造精霊を宿していることだろうか。

 

「君の肩口の神経と義手の疑似神経は間接的にではあるが、すでに結合しているはずだ。ステラ、腕は持ち上がるかい?」

 

「やってみるです……あっ、動いた……すごいです」

 

 ステラが驚きの声を上げる。

 

 彼女の左腕は、持ち上がっていた。

 

「今度は指だ。動かせるかな?」

 

「はい……動きます」

 

 ステラが白く光沢感のある指をゆっくりと動かす。

 

 少々ぎこちない。

 

「むむ……難しいです」

 

「ふむ。今は、動くならば問題ない。……では、これはどうだい? 何かを感じるかな?」

 

 今度はカミラがステラの前腕部をぐいっと掴んだ。

 

「はい……ふふ、なんだかくすぐったいです」

 

 ステラが耳をぴくん、と動かし、クスクスと微笑を浮かべる。

 

「よしよし……感覚は鈍いようだけど、どうやらすでに疑似神経網が外殻裏側に達しているようだね。これで一通りの検査は終わりだ。施術は成功だよ」

 

「そう、ですか……わたしの左腕、使えるのですね」

 

 ステラが義手をもう片方の手で撫でながら、しみじみと呟く。

 

「ああ。熟達には少々練習が必要だろうが、近いうちに以前と同じように使えるようになるはずさ。人造精霊の疑似神経は、使えば使うほど君の動作や感覚の癖を学習して、その構造を最適化させてゆく。もちろん、パワーも獣人仕様にチューンナップ済みだ」

 

「それに、安心したまえ、万が一君が先日のように危険な目に遭った時のための、強力な防衛機構も完備している。ああ、これはブラッドの提案をかなり取り入れていてね。彼は聖剣錬成師であるともに経験豊富な冒険者でもあるから、状況の想定はばっちりだ。安心してもらっていい」

 

「そうそう、もちろん取り外しも自由自在だ。ほら……こんなふうに。破損などがあれば、いつでも修理できるように素材も取り揃えておこう」

 

 カミラが薄い胸を張り、一気にまくしたてる。

 

「ほ、ほわわ……」

 

 当然だがステラはよく分かっていない。

 

 小首をかしげながらも、彼女の説明を神妙に聞いてはいるが。

 

 若干目がグルグルしている気がするが、気のせいだろう。

 

 というか、その素材集めは俺の仕事なんだが……まあいいか。

 

 つーかカミラ謹製の精霊入り義手、すげーな。

 

 聖剣錬成にも付与術式の構築や素材選び、それに錬成の手順などで多少のノウハウがあるとはいえ、基本的にはただ人造精霊を憑依させるだけだからな。

 

 と、カミラがこっちを向いた。

 

 半眼を作って、少々不機嫌そうな顔だ。

 

「おい、ブラッド。なぜ君が驚いた顔をしているんだ」 

 

「いや、精霊義手? すげーなと思って」

 

「何を言っているんだ。人造精霊は私が見繕ったとはいえ、義手そのものを造ったのは君だろう」

 

「設計図を引いたのはお前だろ」

 

「はあ……確かに、設計したのはこの私だ。けれども、これだけ精緻なものを造り出すのは、並の聖剣錬成師や魔道具師では不可能だ。君はこんなことも分からないのか? 過ぎた謙遜は、時に嫌味となる。自覚した方がいい」

 

 よく分からんが、褒められているらしい。

 

「まあ、誉め言葉はありがたく受け取っておくよ」

 

「今後は、ぜひともそうすることだね。私の賞賛は特にね」

 

 と、「あの……」と弱々しい声が聞こえた。

 

 その方を見れば、ステラが遠慮がちな上目遣いで俺たちも見ている。

 

 さっきまでの嬉しそうな様子は鳴りを潜め、獣耳はぺたんと伏せられていた。

 

「ブラッドどの、カミラどの。なんとお礼を申し上げればいいのでしょうか。まさか、これほどの性能とは思わず……わたしはお二方に、とうてい返しきれない恩を作ってしまいました。この身をささげますとは言ったものの……どう返してゆけばいいのか、見当もつかないのです」

 

「それはいいといっただろう」

 

 カミラが苦笑する。

 

 彼女も方便として「実験台」などと言ったが、もちろん本気ではない。

 

 ……本気ではないはずだ。多分。きっと。

 

「ですが」

 

 たしかに修道女の慈善活動でもないのに、何の見返りも要求せず人助けをする連中がいるとすれば……何か裏があると勘ぐるのは当然だ。

 

 しかも、これまでゴロツキに毛が生えた程度の冒険者に奴隷のように連れまわされ、ダンジョンで魔物の囮にされているくらいだからな。

 

 普通はトラウマだろう。

 

 地の底よりも疑り深くもなるというものだ。

 

 いくら試作品で実験のためと言われても、それで見返りなしです、と言われて単純に喜ぶほど、純粋な心を持っていないのだろう。

 

「一応言っておくが、俺は別に見返りなんて考えてないぞ」

 

 そもそも義手の錬成のため、カミラからは正規の依頼として、それなりの報酬もらっている。

 

 人造精霊は自前だとしても、それなりにまとまった額だ。

 

 それと、ダンジョンで負傷者を見つけた冒険者は、そいつを救助する義務がある。

 

 死んだ者を見つけたら、死体を回収することまでは求められていないが……ギルドカードが残されていれば、ギルドに届ける必要もある。

 

 まともな冒険者はただのゴロツキ集団ではないからな。

 

 そんなわけで、救助の件にしても俺としては冒険者として当然のことをしたまでだ。

 

「ふむ……私としては、試作の義手が想定通りに動いたからそれで充分なんだが……確かに、君の気持は分からないでもないか」

 

 カミラが自分の顎に手をあて、考え込む。

 

 それから、すぐにステラに向き直った。

 

「ステラ君。君の身体が完全に回復して、動き回れるようになったとして……その後はどうするつもりだい?」

 

「いえ、とくには。ですが以前のご主人様に、冒険者ギルドに登録させられておりますので……そこで仕事を受けようとおもっています」

 

「ふむ。義手の適合具合によってはできなくもないだろうが……一人でダンジョンに潜って、お金を稼ぐということだね?」

 

「はい……少々危険ですが、お金は必要ですので」

 

「それで、君の等級はどのくらいだい?」

 

「え、Fです……」

 

「うーむ……それだと、日銭を稼ぐので精一杯だろうね……ブラッド、どう思う?」

 

「率直に言うが、ダンジョンに入ったら死ぬな」

 

「むむ……」

 

 ステラの耳がぺたんと伏せられた。

 

 俺も病み上がりの彼女にあまり酷なことは言いたくないが……

 

 義手がいくら自由自在に動かせたとしても、人間よりは身体能力が高い獣人だとしても、彼女は十歳かそこらの子供だ。

 

 当然、戦闘力は期待できないだろう。

 

「では、こうしよう」

 

 重くなった空気を取り払うように、カミラが切り出した。

 

「私の仕事を手伝ってくれないか、ステラ? もちろん住み込みで、だ。実のところ、人造精霊を創りつつ、魔道具屋を切り盛りするのは結構大変でね。マリアも手伝ってくれているんだが……それでも人手が足りないんだよ」

 

 ちなみに今、マリアは店番中だ。

 

「それならば、わたしにもできそうです!」

 

 ステラの獣耳がピン! と立った。

 

「うむ。ならば、義手の訓練もかねていろいろとお願いしようか。仕事の内容は、マリアから聞いてくれ。ああ、もちろん働いた分の報酬は出すつもりだから、そこは心配しないでいい」

 

「よかったな、ステラ」

 

「はい! カミラどの、ブラッドどのも……ありがとうございます……!」

 

 ステラが深く頭を下げた。

 

 どうやらこれで彼女の住まいも決まったようだ。

 

 そんなわけでステラは当面の間、カミラの店で働くことになった。

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