パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第25話 『朝の日課はケモ耳とともに』

「…………ふあ」

 

 翌日。

 

 聖剣工房での生活に完全に身体が慣れ切った俺は、朝日が昇る前に目が覚めてしまった。

 

 新居で朝食を取ると、すぐに支度をする。

 

 目的地はカミラ邸だ。

 

「はい……ブラッド様、おはようございます」

 

 扉のノッカーを数回叩くと、マリアが応対してくれた。

 

「おはよう、マリア。今日も悪いな」

 

 あいさつを交わし、店内に入る。

 

 俺はマリアに先導され、地下の工房へと向かった。

 

「まだご主人様は就寝中です。起こしてきましょうか?」

 

「いや、いい。静かに訓練するよ」

 

「承知しました」

 

 マリアが美しい所作で礼をしてから、一階に戻った。

 

 そういえば、店に入ったときにいい匂いがしていた。

 

 朝食の準備中だったのだろう。

 

「さて、と」

 

 カミラからは、俺が工房をひらくまでの間、彼女の邪魔にならない限り自由に工房を使っていいと言われている。

 

 ……早朝ならば文句は言われないだろう。

 

「……あいつ、工房はちゃんと整理整頓してあるんだな」

 

 古びた書棚にきちんと詰め込まれた魔導書の数々。

 

 ガラス式の戸棚には魔職触媒などの素材がきちんと並べられている。

 

 テーブルには、きちんと揃えて積み重ねられた油紙や羊皮紙がある。

 

 これは『還流する龍脈』より精霊を召喚するための魔法陣が書かれているんだっけかな。

 

 他の魔法陣は、それらとは別に分けられている。

 

 数字が書かれたタグまでつけてある整理整頓ぶりだ。

 

 とはいえ、俺の用事にこれらを使うことはない。

 

 使ってもいいのだが……カミラとの取り決めで、使えば補充しておかなければならない。

 

 親しき中にも礼儀あり。

 

 これが彼女との取り決めだ。

 

 まあ当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

 もっとも今から俺がやるのはただの聖剣錬成訓練だから、彼女の準備してある素材を使うつもりはない。

 

 そもそもカミラの工房にある魔力触媒はかなり高価なものばかりなので、訓練で使うようなものではない。

 

 つーかアイツ、結構金持ちだな……

 

 魔術触媒の数々を眺めて、そんな感想を心で呟く。

 

 まあ、そもそも人造精霊を創れる魔術師は希少だし、副業で魔道具師もやっているからそれなりに稼いでいるのは納得できるけどな。

 

「……よし。それじゃあ今日もやっていきますか」

 

 魔導鞄(マジック・バッグ)から取り出したのは、鋼材と数種類の魔力触媒、それと魔法陣を書いた羊皮紙だ。

 

 カミラの用意しているものよりも少し大きく、だいたい40センチ四方くらい。魔法陣は従来の錬成術式からかなりカスタムしているので、普通の魔術師が使うものよりやや複雑かもしれない。

 

 それらをどんどんテーブルの上に並べていく。

 

「これでよし、と。目標は短剣五本ってとこか」

 

 テーブルの上にひろげた魔法陣の横には、鋼材、血晶スライムの核、矮翼竜(ワイバーン)の牙、そしてバジリスクの髭……をそれぞれ五つずつ並べてある。

 なお、今回の錬成では精霊を憑依させることはしない。

 

 さすがに日々の訓練でいちいち精霊が宿る聖剣を錬成しまくってしまうと新居での俺の居場所がなくなってしまうからな。

 

「……」

 

 俺は魔法陣の両端に手で触れた。

 

 少しずつ魔力を込めてゆくと、徐々に魔法陣に光が宿り始めた。

 

 さらに力をこめる。

 

 魔法陣の魔力が飽和状態をむかえ、淡い光の粒子が立ち昇りはじめる。

 

 その光で、地下室全体がほのかな黄金色に色づいた。

 

 ……よし。

 

 ここからは、配合の順序とタイミングが重要だ。

 

 訓練とはいえ気が抜けない。

 

 慎重に鋼材を魔法陣に近づけ――

 

「ほわあぁ……」

 

「おわっ!?」

 

 いきなり横から声が聞こえ、俺は思わず声を出してしまう。

 

 とたん、魔法陣から光が消えうせた。

 

 集中力が切れたせいで、魔力の供給が止まってしまったからだ。

 

 浮力を失った鋼材が魔法陣に落下し、ごとん、と鈍い音を立てる。

 

「なんだ、ステラか。驚かさないでくれ」

 

 見れば、俺のすぐ側に寝間着姿の獣人少女が立っていた。

 

「申し訳ありません、ブラッドどの。もしかしてお仕事の邪魔をしてしまいましたでしょうか?」

 

 魔法陣の光が消えてしまったことで、ステラは自分が何かしでかしてしまったと思ったようだ。

 

 獣耳をぺたんと伏せて、バツの悪そうな顔をしている。

 

「あー、これは仕事じゃなくて、ただの日課だ。気にしなくてもいい。それよりも、もう歩いて大丈夫なのか?」

 

「はい。義手の調子もよく、もうかなり元気です」

 

「それはよかった」

 

 ステラはそう言って、義手の指をワキワキと動かして見せた。

 

 まだぎこちなさは残るものの、どうやら一日だけでもかなり適応したらしい。

 

「左腕のことは……ブラッドどのは気になされないでください。ダンジョンで失ったのならば、それは「めいよのふしょう」です。パ……わたしの父上なら、そう言うでしょう。わたしは大丈夫ですよ」

 

 俺はどうやらステラのことを……あまりよくないことだが、同情するような目で見ていたらしい。

 

 逆にフォローされてしまった。

 

 彼女の見た目は幼いが、心は存外に強いらしい。

 

「それで、これは何をしているところだったのですか? とても綺麗な光景だと思ったのですが、ブラッドどのが何をしているのかまったくわからないのです」

 

「ん? ああ、これは、聖剣錬成をしてるところだ」

 

 ステラの視線に合わせて、俺は魔法陣と魔力触媒を指さす。

 

「せいけんれんせい、ですか」

 

 ステラはピンとこない顔をしていたが、やがて合点がいったらしく、「おおっ」と目を輝かせる。

 

「聖剣……選ばれし者には声が聞こえるという、あの聖剣ですか!? もしやブラッドどのは、伝説の勇者さまなのですか?」

 

「ははは、もちろん違うぞ。勇者がいたのはだいぶ昔の話だ」

 

 だいぶ昔……といっても十数年ほど前だが、聖剣が持ち手を選んでいた。

 

 聖剣に選ばれた者は「勇者」とか言われ、神々のパシリみたいなことをやらされていたのだ。

 

 世知辛い話である。

 

「む……今はいらっしゃらないのですか」

 

 ステラはちょっとがっかりしたようだ。

 

「今は、聖剣ならば誰でも声を聞けるぞ」

 

「なんとっ、そうなのですかっ!?」

 

 俺の言葉にステラが目を輝かせる。

 

 それと連動して、獣耳としっぽがピン! と立った。

 

 この子、表情がめまぐるしく変わって面白いな。

 

「ほれ、これが聖剣だ。持ってみろ」

 

 俺は魔導鞄から鞘に収まった聖剣『レイン』を取り出して、ステラに手渡した。

 

「おお、これが……おん?」

 

 レインを持ったステラが怪訝な顔になった。

 

「なにか、呪詛のようなものが聞こえますが……」

 

「……ちょっと貸してみろ」

 

 俺は慌ててステラから聖剣を受け取った。

 

 すると……

 

『ん……んあ……ますたぁ……そこ……らめぇ……』

 

「すまんやっぱりコイツはなしにしよう」

 

 呪詛らしき声は、レインの寝言だったようだ。

 

 つーかなんの夢を見てるんだコイツはふざけんなよ……!

 

 俺はレインを魔導鞄に投げ込むと、かわりに『セパ』を取り出し、

 

『ふあ……オークのソテー、スライム粘液ソース和え……もっちゃりした食感……美味……』

 

「すまん、ステラ。今度ちゃんとしたのを持ってくるから、今日は勘弁してくれ。約束は守る」

 

 そのまま魔導鞄にしまい込んだ。

 

 こいつらをステラに紹介するのはまたの機会にしようと思う。

 

「そ、そうですか……また機会があれば、いずれ」

 

 ステラもどうやら空気を読んだらしい。

 

 少し怪訝な顔をしつつも、聖剣についてはなかったことにしてくれた。

 

「と、とにかく訓練を再開するか。ステラ、見てくか?」

 

「は、はいっ! ぜひよろしくお願いしますっ!」

 

 その後。

 

 ステラは俺の聖剣錬成の様子を目を輝かせながらずっと見物していた。

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