パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第27話 『かわいい宅配便』

「こんにちはーー!」

 

 かねてよりチマチマ片付けをしていた地下工房に、なんとか魔術処理を施す目途がつき、そろそろ昼食でも取ろうかとしていた時だった。

 

 突如、玄関口で明るい声が響いてきた。

 

 何かと思い外に出てみれば、ステラがニコニコ顔で門扉の向こうに立っているのが見える。

 

 彼女は両手いっぱいに袋を抱えていた。

 

 そこで、彼女の『仕事』に思い当たる。

 

「おつかれステラ。素材、わざわざ届けてもらって悪いな」

 

「いえ! お仕事、楽しいので!」

 

 嬉しそうな顔で、彼女が返事をした。

 

 耳と尻尾は誇らしげにピン、と立っている。

 

 うむ。

 

 それはなによりである。

 

 彼女が抱えている袋の中身は、カミラに発注していた素材の数々だ。

 

 ファルの聖剣を錬成するにあたり、彼女から取り寄せていた。

 

 業者を使うか俺を呼び出せばいいものを、わざわざステラに届けさせているのは、彼女の強い希望からだった。

 

 彼女はかなり長い間奴隷状態だったため、自由行動を許可されていなかったらしい。

 

 そのせいか、街を自由に歩くのが楽しくて仕方がないらしかった。

 

 もちろん不安もある。

 

 いくら身体能力に優れた獣人とはいえ、まだ十かそこらの少女である。

 

 カミラもステラが自らお使いをしたいと言い出したときは、一人で歩かせていいかかなり迷ったらしい。

 

 俺としても心配だった。

 

 だが彼女は、先日のひったくり事件で自身の強さを証明して見せた。

 

 というか、カミラ謹製『精霊義手』の性能が高すぎなわけだが。

 

 ちなみにカミラいわく、まだまだ隠された能力があるらしい。

 

 設計書どおりに錬成した俺が知らない機能があるのは納得いかないんだが……ヤツが教えてくれないのでどうしようもない。

 

 まあ、そんな危ない機能は付いていないと信じたいところである。

 

 そんなわけで、彼女のお使いは日が出ている間に限り、俺の新居や信頼できるいくつかの取引先の間で、行き来させることにしたのである。

 

「そうだステラ。これから昼飯なんだが、食べてくか?」

 

 荷物を受け取ったあと、ふと思いついて聞いてみた。

 

「いいんですかっ!?」

 

 彼女の耳がピン! と立つ。

 

 鼻がヒクヒク動いているのは、すでに家の中から漂ってくる食べ物の匂いを嗅ぎつけたからだろう。

 

 最近は魔導コンロの使い方のコツが分かったので、自炊に移行しつつある。

 

 もともと冒険者暮らしでは野営することも多かったし、工房で働いているころも自炊していたからな。

 

 料理を作るという行為は、存外楽しいのだ。

 

 ちなみに今日の献立はソテーした鹿肉と山菜のパン包みである。

 

「もちろんだ。食ってけ食ってけ」

 

「ありがとうざいます!」

 

 ステラが玄関口にちょろりと入り込んだのを確認して、扉を閉める。

 

「ほわぁ……初めてブラッドどののご自宅に上がりましたが、すごいところですね」

 

 ダイニングまでの通路を歩きながら、ステラがあたりをきょろきょろ見渡しながら感嘆の声を上げている。

 

「そうか? まあ、カミラの家よりも広いからな」

 

 アイツの家は三分の一が店舗のうえ、遺跡を改装した物件だからこじんまりとしている。

 

 彼女の店とここだと、敷地も含めると倍以上は広いはずだ。

 

「それに……家から、なんだかなつかしい匂いがします」

 

「そうなのか?」

 

 ここは確かファルの遠縁……つまりリグリア人貴族の別邸だった場所だ。

 

「もしかして、ステラはリグリアの生まれなのか?」

 

 リグリアは宗教国家だ。

 

 種族より信じる神で人を区別する。

 

 かの国は、王国よりも多様な種族が住んでいたと聞いている。

 

 もっとも今は、魔族の支配下に置かれているが。

 

 地方都市はまだ人が残っているらしいが、首都は、完全に廃墟と化しているらしい。

 

 もしかしたら、彼女はそこらへんから避難してきたのだろうか。

 

 が、彼女の答えは違った。

 

「むむ……実は、わたしはどこで生まれたのか分からないのです。父上と母上は、あちこちの戦場を転々としていたので。でも、なぜかこの家からは……父上と母上の匂いがしました」

 

 困った顔で、そう言うステラ。

 

「……なるほど」

 

 彼女は傭兵一家の子だったらしい。

 

 どうりでひったくり犯を確保するときも、機敏かつ容赦のない動きを見せたわけだ。

 

 だが、そうであれば……両親の話題はこちらから聞きづらいな。

 

 傭兵の平均寿命は……当然ながら短い。

 

 彼女の境遇を察すれば、なおさらだ。

 

「とにかく、メシにしよう。腹、減ってるだろ?」

 

「ぺこぺこです!」

 

 ステラが元気に返事した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「おはようございますご主人……おや、この子はいつぞやの」

 

「ふわぁ……マスター、おはよーっす……あれ? この子って……」

 

 昼食が終わったころ、精霊たちが起き出してきた。

 

 こいつらは食事を必要としない分、惰眠を貪ることが多い。

 

 最近は本来の姿よりも、『怠惰」の精霊になってしまったのではないかと思うくらいだ。

 

 ……そのうち一度、二人には喝を入れる必要があるかもしれない。

 

「あの、ブラッドどの。この美人のおねえさまと、妖精さんは……」

 

 ステラが呆けたように、セパとレインを見比べている。

 

「ああ、そういえばまだ紹介してなかったな」

 

 二人はステラのことを助けたから、もちろん知っている。

 

 だがステラ自身に彼女たちを引き合わせる機会がなかったのだ。

 

 実のところ、これがステラと精霊二人との初対面、という形になったのだった。

 

 ひとまず、ステラに俺の聖剣たちを紹介する。

 

 なお、もちろん二人とも彼女の事情は知っている。

 

 助けたときのことだけでなく、精霊義手を装着していることなども含め、ほぼすべてだ。

 

 だからだろうか、セパとレインの、ステラを見る目はいつになく優しいものだった。

 

「セパどの、レインどの、よ……よろしくお願いしますっ」

 

 ステラがぺこり、と二人にお辞儀をした。

 

 ふわり、と尻尾が揺れる。

 

「よろしくです、ステラさん」

 

「おっすー、よろしくね、ステラちゃん! ……んんんー、もふもふでかわいいーーーーーーーーーっ!」

 

 レインがプルプルと身体を震わせたかと思うと、もう辛抱堪らん! という具合に舌なめずりしながらステラに飛びかかった。

 

 俺もセパも止められない早業である。

 

「ちょっ、レイン! いきなり何をしているんですか羨ましい!」

 

「ほわわわわわわわっ!?!?」

 

 いきなり抱きしめられ頬ずりされているステラは、何が起きたか分からず目を白黒させている。

 

「おいレイン、そのくらいにしとけ。ステラがドン引きしてるだろ」

 

「あっ、ごめんね! あまりに可愛いいから、つい……」

 

 てへっ、と舌をだしておどけて見せるレイン。

 

 たしかにステラは最近マリアの薫陶を受けているのか、しっかりと身だしなみを整えている。

 

 そのおかげで、彼女はとても愛くるしい見た目だった。

 

 ゆえにレインの気持ちは分からないでもない。

 

 気持ちだけだが。

 

「…………ご主人はやらないんですか?」

 

「やるわけないだろ!」

 

 ケモ幼女に襲い掛かる成人男性(他人)とか、絵面が完全に犯罪である。

 

 それはさておき。

 

 その後なんだかんだで精霊二人と仲良くなったステラは、日が傾く頃まで楽しそうにおしゃべりに興じていたのだった。

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