パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第3話 『お喋りクソ聖剣』

 城門を抜けると、街の全景が見て取れた。

 

 『ダンジョン都市』の名で知られるオルディスは、一万年以上前に建造されたとされる古代遺跡を改修した都市だ。

 

 もとは円形闘技場(コロシアム)だったらしく、高い城壁に囲まれたその内部は中心部に向かって階段状に下っている。

 

 もっともその規模は現代のものと比べ物にならないほど大きい。

 

 同心円状に設けられた客席と思しき段差は一段一段に家が建ち並ぶほど広く、人が登れないほど高い。

 

 きっとこの遺跡を利用していた古代人は巨人だったのだろう。

 

 とはいえ内部は人間用改修された道が張り巡らされ、後から建てられた家屋なども数百年前から存在するとはいえ、人間サイズだ。

 

 行き交う人々は、やはり『ダンジョン都市』というだけあって冒険者……要するに武装している連中が多い。

 

 あとは魔術師とかだろうか。

 

 人種はいたっては、様々というほかない。

 

 もっとも、この手の都市は王都などと同じく街中で武器を使って暴れればすぐに衛兵が飛んでくる。

 

 よほど裏路地の奥に迷い込んだりしない限り、危険な目に遭うことはないだろう。

 

『ご主人、ご主人』

 

「ええと、アイツの工房は……と」

 

 俺は外周部をさまよいながら、目当ての建物を探す。

 

 オルディスには、俺の古い友人がいる。

 

 この地で工房を開くのなら、まずはそいつを訪ねる必要があった。

 

『ご主人、ご主人!』

 

 以前もらった殴り書きの地図を見て、随所に存在する街区の案内看板を見比べながら、俺は裏路地の奥の奥まで歩いてきた。

 

 もうこのあたりだと、通行人もほとんどいない。

 

『ご・主・人!!』

 

「うるさい! 頭の中で(わめ)くな!」

 

 面倒だから放置していたセパが騒ぎ出した。

 

 人造精霊はあまり無駄口を叩かないものだが、コイツは例外だ。

 

 旅の間中話しかけられるのは面倒なので封印していたのだが……

 

 まあ破ってしまったものは仕方がない。

 

『ご主人がわざと聞こえないふりをするからです! まったく、人造精霊を無視すると運気が下がりますよ。気が付いたら犬のフンを踏んでいたりするのは嫌でしょう?』

 

「お前の力は『運気の上昇』じゃないだろ」

 

『否定します。私は……人造精霊はみなそうですが、『還流する龍脈』から抽出され、知性を付与された魔導生命です。つまり私を構成するいくばくかの魔素は、運の精霊と同じです。ならば、私に運を左右する力があっても不思議ではありません』

 

「断言するが、そんなものはない」

 

 セパは本人(?)が言うとおり人造精霊だ。

 

 売り物の聖剣とは違い、俺の個人的な修行で錬成された個体だ。

 

 彼女の元となる『霊魂』を仕入れたのも、元いた工房とは全く別の筋からだ。

 

 そいうわけで、それなりに特別製なのは確かではある。

 

 だが、与えられた力は『魔力や呪詛を切断する力』だけだ。

 

 あとはまあ……無駄に回る口くらいか。

 

「それと、だ。頭の中でひたすらしゃべり続けるのはやめろ。いい加減頭がおかしくなりそうだ」

 

『ならば……!』

 

 期待に満ちた声で、俺の次の言葉を待つセパ。

 

 はあ……本当に面倒な精霊だ。

 

 癪ではあるが、これ以上は耐えられそうにない。

 

「……さっさと実体化しろ。許可する」

 

『やはり持つべきものは聡明かつ賢明なご主人です! ここは一つ、ご主人を称える歌の一つ、いいえ……百や二百は歌って差し上げねばならないでしょう……!』

 

「歌うな。いいから早くしろ」

 

 つーかウゼぇ……!

 

『む……』

 

 俺の感情を読み取ったのか、一瞬セパが押し黙り……すぐ目の前に小さな人型の光が出現した。

 

 実体化したセパだ。

 

 大きさは、俺の手の平にちょこんと乗る程度。

 

 銀髪紅眼の可憐な少女の姿で、背中に蝶の羽を宿している。

 

 ちょっとむくれた表情をしているが、それはそれで可愛らしい。

 

 黙っていれば、本当に美少女なのだが。

 

 ちなみに服装は聖剣のイメージとはかけ離れたきわどい恰好である。

 

 少なくともこれを連れて街を歩くと、淑女の皆様からもれなく突き刺さるようなヒソヒソ声を頂戴することになるだろう。

 

 なぜこんな服装なのかは分からないが、人造精霊を創造した精霊術師いわく『これもこの子の個性』だそうだ。

 

 まあ手乗りサイズだから問題ない。たぶん。

 

「とにかくその姿のままでいていいから、今日は私語を慎め」

 

「それにしてもこの街……素敵な場所ですね! 適度にじめじめしていて、薄暗く、まるでダンジョンのようです。もしかすると、野生の眷属たちが影に身を潜めているかもしれませんね。あっ! ご主人、今私の身体を舐め回すように見ましたね? むふふ……大丈夫ですよ、ご自分が錬成した聖剣でえっちな妄想しても。ご主人と私だけの秘密です」

 

 ゼパが興味深そうに周囲を飛び回ったとも思えば、ニヤニヤしつつ自分の肢体を見せつけるように、俺の顔の周りをふわふわと漂ったりしている。

 

「うぜぇ……」

 

 (はた)き落としてやりたい。

 

 どうせ実体といっても魔素(マナ)の構成体だから、本体にダメージはないし。

 

「人造精霊にとっては誉め言葉ですね、ありがとうございます」

 

「……はあ」

 

 精霊は疑似人格を与えられているが、どうやら性格は先天的なものらしい。

 

 つまりウザいのはコイツの魂の本質というわけだ。

 

 もっともこの個性こそが、聖剣に付与された強力な力を制御するための要素でもある。

 

 個性を獲得するほどに高度な知性は、そのまま聖剣に付与した力の最大出力や制御能力に直接関わってくるからだ。

 

 たとえばセパならば、『呪詛や魔力』というあいまいな定義を『切断』するほどに。

 

 これがどれほど強力かといえば……まあ、語るまでもないだろう。

 

 ともかく。

 

 セパはそのことを完璧に自覚していた。

 

 彼女の『ありがとうございます』は、そういう意味だ。

 

 ちなみに『私語を慎め』という指令は完全に無視された。

 

 この臨機応変さもまた、人造精霊としての高性能さを示す指標の一つだ。

 

 コイツに限ってはいらない能力だと思うが。

 

「それでそれで恥ずかしがり屋のご主人、今はどこに向かっているので?」

 

「…………古い友人のところだ。お、見えてきたぞ」

 

 その建物は、築数百年は経っていそうな石造りの店舗だった。

 

 錆の浮いた看板が扉の上に掲げられており、『オストラヴァ魔道具店』と書かれている。

 

 ただし今は、店の扉は完全に閉ざされている。

 

 鉄の扉で、かなり頑丈そうだ。

 

 定休日だろうか?

 

 ちなみに店の周囲には、普通の人間では気づけないような巧妙な配置で、攻性魔術結界がいくつも張り巡らされているのが分かった。

 

 触れた瞬間に魔力の矢や槍で貫かれる、結構ヤバいやつだ。

 

 なんだ? 『傀儡の魔女』は街を牛耳る裏社会の連中にでも命を狙われてるのか?

 

 というかこれ、客が訪ねて来たら問答無用で死傷者がでるぞ……

 

 よく見たら、扉のノブに小さな札がかけられている。

 

 札には、「本日の営業は終了しました」と書かれていた。

 

 今は午前中だ。営業終了するにはまだ早すぎる。

 

「……」

 

 当然、中の様子をうかがうことはできない。

 

「おい『傀儡の魔女』、いるかー? 俺だ!」

 

 仕方なく、俺は結界に触れないように気を付けながら鉄製の扉をガンガンと叩く。

 

 しばらく待っても、中からの返事はない。

 

「定休日ですし、留守でしょうかね、ご主人?」

 

「いや、いるはずだ。アイツが日中に出歩くことはない。日光が嫌いだからな」

 

「アンデッドなんですか? 吸血鬼(ヴァンパイア)は陽光を浴びると灰になると聞いたことがあります」

 

「違うが……ああ、やはりいたな」

 

 しばらく待っていると、ギイィ……と(かんぬき)を開ける音がして、扉が少しだけ開いた。

 

「……どなたでしょうか?」

 

 顔を出したのは、メイド服の若い女性だ。

 

 表情が抜け落ちたような顔、白磁のように滑らかな肌。

 

 首筋には、『13』という文字が刻印されている。

 

 ガラス玉のような彼女の両目が、俺に視線を合わせた。

 

 次の瞬間、チカッと彼女の瞳に光が走る。

 

「ご主人、この者から強い魔力を感じます……!」

 

「あー、大丈夫だ」

 

 俺は手を上げて、身構えるセパを制止した。

 

「『傀儡の魔女』っていったろ? そのままの意味だ。彼女はお前と同じ人造精霊入りの自動人形(オートマータ)だ。魔物じゃない」

 

 そもそも街の中に魔物がいるわけがないのだが……

 

 世俗の細かいことは精霊のセパには分からないか。

 

「……魔力紋の照合……了。ブラッド・オスロー様ですね。7年136日と5時間42分ぶりです」

 

 人造精霊特有の挨拶とともに、そこでようやく女の顔が微笑を浮かべた。

 

「ああ。君はたしか、13号……『マリア』だったかな。久しぶりだ。すまないが、ご主人に『ブラッドが来た』と伝えてくれ」

 

「かしこまりました。どうぞ中でお待ちください。お連れ様も、ぜひご一緒に」

 

「このご婦人……私の姿を見ても驚かない……!?」

 

「当然だろ。彼女の本体は人造精霊だ。魔力のゆらぎを走査して、お前を認識している。同じ精霊だと分かっているさ」

 

「なんと高度な!」

 

 セパが驚嘆の声を上げた。

 

「お前もお前で大概なんだけどな……」

 

 マリアに導かれ、俺たちは家に入った。

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