パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第30話 『竜狩りデートに行こう②』

「見ろカミラ。ドラゴンゾンビどもがウヨウヨいるぞ」

 

「ひい、ふう、みい……多いな。十体以上いる」

 

 ドラゴンゾンビとは、言葉どおり死んだドラゴンがアンデッドした魔物だ。

 

 そしてドラゴンの種類は問わない。

 

 谷底を徘徊しているものは、大型の地竜種から小型の飛竜種まで、さまざまだった。

 

 ドラゴンは体内に大量の魔力をため込んでいるせいで、肉体が朽ち果てる前に魂が魔力の影響を受けアンデッド化しやすい種族だ。

 

 そのせいなのか、ドラゴンと名の付く種族は、その個体が死期を悟ると群れから離れるという。

 

 そして辿り着くのが……このような外界と隔絶された場所だ。

 

 この『屍竜の谷』は濃密な有毒ガスが充満しているため、ほかの生物に亡骸を食い荒らされることもない。

 

 静かな最期迎えるのに最適な場所だと、連中も本能で感じ取っているのだろう。

 

 まあ、その代わりに俺たちみたいな墓荒らしがいるわけだが。

 

「どうする? 飛竜とかも翼が腐り落ちてるから飛べないにせよ、あれだけの数にブレスを吐きまくられたら狩りどころじゃないだろ。どんだけ状態異常喰らうか、見当もつかん」

 

 何の対策もなくドラゴンゾンビのブレスを喰らえば、確実に『腐れの呪詛』を付与され連中の仲間入りだ。

 

 それに加え、生前どんなドラゴンだったかによってブレスが炎だったり吹雪だったり猛毒だったりするのだが……

 

 カミラが真面目な顔つきで俺を見る。

 

「肉食系の飛竜ならまだいいんだが……ここは草食系の地竜が多い。少々面倒だな。私もある程度は対策できると思うが、毒草を常食する個体だとどの種類の毒か見当がつきにくい。最悪、各種状態異常の混合ブレスを喰らう可能性がある」

 

「今付与されている『防護』の毒耐性じゃだめなのか?」

 

「残念だが、すべてを防ぐことは難しい。魔術体系の中では召喚魔術と並んで最強と言われる精霊魔術だって、万能というわけにはいかないのだよ。聖剣だって、そうだろう?」

 

「まあ、そうだな」

 

 彼女の言う通り、俺の聖剣もそうだ。

 

 剣に特定の魔術効果を付与し、これを人造精霊で制御する。

 

 それにより発動までのタイムラグを実質ゼロにしたうえで、威力を大幅に高めることができる。

 

 だが、もちろん何でもできるわけではない。

 

 レインはダンジョン産の魔物に対してきわめて高い殺傷能力を有するが、血肉で構成される地上の魔物・魔獣や対人においては普通の剣と威力はそれほど変わらない。

 

 一対一ならばともかく、複数人と戦うなら魔力漏出効果も相手に支援系や治癒系魔術ですぐに回復されるしな。

 

 セパにいたっては殺傷能力そのものがない。

 

 この世に都合のいいことなんて、そうそうないのだ。

 

「現実問題、どうするんだ?」

 

「簡単なことさ」

 

 カミラがニヤリと笑みを浮かべる。

 

「想定できる限りの状態異常耐性を、重ね掛けすればいい」

 

 なんともシンプルかつ脳筋なソリューションだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……(二時の方角。まずは小型のアイツからやる。カミラ、支援頼む)」

 

「(了解。足止めは『泥濘』でいいか?)」

 

「(構わない。翼は腐っていて飛べないはずだ。合図をしたら発動してくれ。ほかの個体に気取られる前に倒す。素材回収は、この場の個体を十分減らしてしてからだ)」

 

「(了解)」

 

 谷底に到達した俺たちは、岩陰に隠れながら手短に打ち合わせを行う。

 

 魔術師ギルドは冒険者ギルドと方針が違い、『禁域』での魔物討伐について制限を掛けていない。

 

 むしろ、ドラゴンゾンビなどのアンデッドは駆除対象だ。

 

 全滅させてしまっても構わないだろう。

 

『マスター、久しぶりの戦闘だね! あーし、ワクワクしてきた!』

 

『ご主人、ご武運を。万が一の時は腐敗の呪詛も危険な魔術効果も即座に切断しますので、安心して戦って下さい』

 

『ああ、二人とも頼むぜ』

 

 レインとセパも念話で意気込みを伝えてくる。

 

 二人とも魔導鞄(マジック・バッグ)から取り出し装備済み。

 

 ちなみに二人とも能力をフルに使うため、実体化はさせていない。

 

『グルルルル……』

 

 目の前のドラゴンゾンビは、いわゆる矮翼竜(ワイバーン)だ。

 

 サイズは、馬より二回り大きいくらい。

 

 肉が多少腐り落ちているが、他のに比べるとまあまあ新鮮(・・)なヤツだ。

 

 俺たちが隠れている岩陰から少し離れた場所であてもなく徘徊している。

 

 他の個体からも離れていて、万が一格闘戦にもちこまれても別のヤツに気づかれる可能性は低い。

 

 目や耳などの感覚器が腐り落ちたドラゴンゾンビは、索敵能力がナメクジ以下だからな。

 

 ちなみに死臭はまったく感じない。

 

 いい感じにカミラの『防護』が効いているのだろう。

 

 効果が切れる前に片付けたいところだ。

 

「…………(よし。『ワイバーン』があと三歩近づいたら仕掛ける。二……一……いまだ!)」

 

「(了解!)――『還流する精霊よ、我に力を。――《泥濘》』」

 

 カミラが魔術を行使するのと同時に、俺は岩陰から飛び出した。

 

 魔法陣なしのシンプルな精霊魔術だ。

 

 彼女のエロ戦闘服の効果もあって、すぐに魔術の効果が発動する。

 

『……ぐる』

 

 殺気に反応したのか、『ワイバーン』がこちらを向いた。

 

 それと同時にガクン、と体勢が崩れる。

 

 カミラの魔術は、あえて相手の足元すべてを泥に発生させず、左の前脚と後脚だけをどっぷりと泥沼に呑み込ませていた。

 

 これで、ヤツはしばらくの間バランス感覚を完全に失う。

 

「……シッ!」

 

 鋭く呼気を吐き、動きの鈍った『ワイバーン』の首を斬り落とす。

 

「ダメ押しだ!」

 

 ついでに硬い大地を踏みしめていた方の前脚を斬り払う。

 

 ガクン、と首無し竜が傾き、そのまま横倒しになった。

 

 首を刎ねてもしばらくは動き続けるドラゴンゾンビだが、倒してしまえばどうということもない。

 

 あとは煮るなり焼くなりお好きにどうぞ、である。

 

「よし、まずは一体」

 

『うっ……おえっ!? この魔力、エグみがすごいんだけど……!?』

 

 頭の中でレインがえずいている。

 

 どうやら彼女は力を発動するときに、ドラゴンゾンビの魔力を吸ってしまったらしい。

 

 ただでさえゾンビだらけの地獄絵図なのに、こっちも貰いゲロしそうになるからやめてほしい。

 

『でも……エグみの奥に隠された濃厚な旨味成分が……これは、クセになるかも……!?』

 

 レインにとっては、ドラゴンゾンビの魔力は珍味扱いになったようだ。

 

 まあ、いつまでもゲエゲエされるよりは幾分かマシである。

 

「この調子でどんどん行くぞ!」

 

『りょ!』

 

 レインがどこで覚えたのか、変な合図を送ってくる。

 

「カミラ、次は向かって九時の方角、地竜タイプのアイツだ」

 

「了解。こっちも『泥濘』で動きを阻害する……なっ、こんな岩陰に!? ……くそッ!」

 

 カミラからの返答が、途中で驚愕の声に変わる。

 

 彼女が悪態をついたのと、彼女の隠れた岩陰にボフッと紫がかった煙幕が巻き起こったのは、ほとんど同時だった。

 

「カミラッ!」

 

 直感的にそれがドラゴンゾンビのブレス攻撃だと判断。

 

 剣をレインからセパに持ち替え、煙幕に突入する。

 

「ごほっ、ごほっ……くそ、まさか背後にこんな小さなのが潜んでいたなんて……!」

 

 岩陰では、カミラがうずくまりながらせき込んでいる。

 

 その傍らには――おそらく地竜の幼体だろう――中型犬ほどのドラゴンゾンビが横たわっていた。

 

 歯列を見るに草食型だ。

 

 彼女はそいつを咄嗟に踏み潰したらしい。

 

 頭部はぺちゃんこにひしゃげており、動く気配はない。

 

 だが、彼女がブレスをもろに喰らったのは明らかだった。

 

「カミラ、無事かっ!?」

 

 なおもせき込む彼女を抱き起す。

 

「んッ……何ともない。私は大丈夫だ」

 

 そうは言うものの、彼女の身体は小刻みに痙攣を繰り返し、顔は高熱にかかったように紅潮している。

 

 特に俺が手を触れているところは痛みがあるのか、身をよじって逃れようとしている。

 

 どんな呪詛か毒かは分からない。

 

 だが『防護』の力を突破され、何らかの状態異常を付与されたのは明らかだった。

 

「いいから……んんッ、手を離してくれ。自分で立てる」

 

 様子がおかしいのは明らかだが、そう言われてしまえば従うしかない。

 

 それと、ブレスの煙幕に飛び込んだ俺には特に異常はなかった。

 

 せいぜい、甘ったるい匂いが鼻をついたくらいだ。

 

 逆に考えれば、『防護』でシャットアウトする必要がない程度の弱い毒だったのかもしれない。

 

 見た感じ、まだ生後数年程度の仔竜だったしな。

 

「……分かった」

 

 手を離すと、カミラは言った通り自分で立ち上がった。

 

 少し顔色が赤すぎる気もするが、目の光は失われていない。

 

 というか、俺を見る目がなぜか獣じみていてちょっと怖い。

 

「まだ聖剣に必要な量の素材はそろっていないだろう、ブラッド? さあ、どんどん狩っていくぞ。 ……私に構わず早く行きたまえ」

 

「ああ。……体調が悪化したらすぐに言えよ?」

 

「大丈夫だと言っただろう! さあ、早く!」

 

 心配したのに、なぜか怒られてしまった。

 

 まあ、カミラは存外プライドが高いからな。

 

 俺にフォローされたのが気に入らなかったのだろう。

 

 

 

 結局、カミラは何事もなかったかのように後方から俺の援護を続け、俺たちは無事にドラゴンゾンビを倒すことができたのだった。

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