パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第31話 『竜狩りデートに行こう③』

 戦闘が終わったあと、カミラが膝から崩れ落ちるように倒れた。

 

「カミラっ!」

 

「う……大丈夫だ。自分で立てる」

 

 慌てて駆け寄るも、手で制止されてしまった。

 

 だが彼女はふらついており、どう見ても足に力が入っていない。

 

 顔は相変わらず熱を持っているのか、紅潮しているし、ひどく汗をかいているように見える。

 

 ブレスに突っ込んだ俺に異常がないので、少なくとも腐敗の呪詛など致命的な状態異常を付与されたわけではなさそうだが……心配だ。

 

「セパの力が必要か?」

 

「いや……セパは『呪詛と魔力』の切断だろう。私が受けたのは多分、植物由来の毒……だ。だから、あまり効果はない……と思う」

 

 俺の聖剣は特定の状況や対象に強力無比な力を発揮するが、それ以外の状況にはほぼ無力だ。

 

 ぐっ、と拳を握りこむ。

 

「解毒の精霊術式は?」

 

「試してみるが、期待薄……だな。各種『防護』の重ね掛けを突破する状態異常を……どうにかできるとは思えない。時間が経てば、体から毒素が抜けるとは思うが……んんッ……!」

 

『カミラ様、大丈夫ですかね……』

 

 名前を呼ばれ実体化したセパが心配そうに彼女を見ている。

 

「とりあえず、お前の出番はなさそうだが……準備だけはしておいてくれ」

 

『了解です、ご主人』

 

「ぐっ……」

 

 またカミラがよろめく。

 

 言わんこっちゃない。

 

「あっ……や、やめっ……」

 

「うるさい。黙って介抱されろ。ここがどこだか分かってるのか」

 

「……っ」

 

 俺はカミラに近寄ると、そのまま抱き寄せる。

 

 彼女は弱々しく抵抗していたが、背中におぶると大人しくなった。

 

 彼女の息遣いはまだ荒い。

 

 だが安心したのか、ぎゅっと俺の身体を抱きしめるよう掴んできた。

 

 ……しかし、なぜだろうか。

 

 こんな時だというのに、俺の首元にかかる彼女の吐息が妙に艶めかしく感じる。

 

 心なしか、呼吸の合間に喘ぐような声が漏れ聞こえるし、どうにも落ち着かない。

 

 ……さきほど何度も魔法陣の上で密着したせいだろうか。

 

 それはともかく。

 

 俺は頭を軽く振って、煩悩を振り払う。

 

 今はカミラを安全なところに防ぐのが先決だ。

 

 最近は以前とくらべ女性に接することが多くなった。

 

 そのせいで、妙に意識してしまっているのかもしれない。

 

 とにかく、急がなくては。

 

「レイン、悪いが彼女の荷物を持ってくれ」

 

「あいあーい」

 

 呼ばれて実体化したレインが、カミラが残したままの魔導鞄(マジック・バッグ)を拾い肩にかけた。

 

 素材については、すでに俺とカミラの鞄に収納済みだ。

 

 忘れ物はない。

 

 だが、すでに日は落ちかけている。

 

 ふもとの転移魔法陣まで戻るには、さすがに危険だった。

 

 途中で彼女が意識を失えば、火山ガスが立ち込める区間で『防護』の効果が切れたあとに再度術式を行使することができなくなる。

 

 そうなってしまえば、二人まとめてジエンドだ。

 

 結局、野営を選択せざるを得なかった。

 

「たしか、少し戻った山の中腹に温泉が湧いていたはずだ。そこで休もう。風向きの関係で、毒ガスも弱かったはずだからな」

 

「……ブラッド、すまない」

 

「気にすんな。お互い様だろ」

 

 ダンジョン攻略やら各地の探索などをやっていれば、必ず仲間を助ける場面が出てくる。

 

 今回などは、まだ彼女が大けがをしていないだけマシだ。

 

「よし、急ぐぞ。日が暮れる前に、野営地まで到着したいからな」

 

『りょ!』

 

『急ぎましょう、ご主人!』

 

 俺たちは急ぎ温泉地帯へと向かった。

 

 カミラの身体は、驚くほど軽かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ふう……さすがに疲れたな」

 

 俺は熱めの湯に肩まで浸かり、長い息を吐きだした。

 

 それと一緒に、身体の疲れも抜け出ていく気がする。

 

 天を仰げば、満天の星空が広がっている。

 

 ダロン火山の大半は岩だらけの不毛の地だが、このように温泉がわき出している場所がある。

 

 湯をせき止めたり沢の水を引き込んで温度を調節する手間はあったものの、その苦労の甲斐もあって素晴らしい湯加減だった。

 

 地中深くに潜るダンジョン探索では温泉など望むべくもないから、これは大変ありがたい。

 

 もっとも、さすがに完全に心を落ち着けることはできなかった。

 

 なんといっても、カミラのことがある。

 

 彼女は、少し離れた野営地に寝かせている。

 

 一応、セパとレインには実体化してもらったうえで彼女の容態を見てもらっているから、何かあればすぐに知らせが入るようになっている。

 

 まあ、ここに到着したときには少し元気を取り戻していたし、食事もちゃんととれていた。

 

 念のための解毒剤も服用したし、あとは無理せずしっかり睡眠を取れば、明日には動けるようになっているだろう。

 

 この温泉浴だって、俺の疲労を気遣った彼女に強く勧められてのことだった。

 

「そうだ。これはアイツが勧めてきたのもあるんだからな。罪悪感を感じる必要はないぞ、俺」

 

 明日カミラが元気になったら、この温泉を堪能してもらうとしよう。

 

 

 

「…………」

 

 しばらく湯に浸かっている間に、どうやら俺はウトウトしてしまっていたらしい。

 

 背後で、ジャリ、と地面を踏みしめるような音が聞こえ、ハッと覚醒する。

 

「誰だっ!」

 

 裸のまま湯から上がり、側に置いていた護身用の剣を素早く構える。

 

 ……が、俺はそれをすぐに降ろすことになった。

 

 そこにいたのは、カミラだった。

 

 寒いのか、身体にはローブを肩から羽織っている。

 

 それにしては、なぜか裸足だ。

 

 どうも様子がおかしい。

 

「……カミラ?」

 

「…………」

 

 彼女は俯いており、表情は見て取れない。

 

 無言でこちらにゆっくりと向かってくる。

 

 ただ、彼女の熱を帯びた息遣いだけがフー、フー……と聞こえてくる。

 

「おい、カミラ。大丈夫か?」

 

 その足を一歩踏み出すたびに、ローブの切れ目から白く滑らかな太ももが見え隠れする。

 

「カミラ?」

 

 さすがにただならぬ気配を感じ、俺は身構えた。

 

「カミラ、待て。そこで止まれ。……おい、止まれ!」

 

「…………」

 

 しかしカミラは俺の制止を聞かず、すぐそばまで来てしまった。

 

 もう、昼の魔法陣に乗った時と変わらない距離だ。

 

 彼女の吐息が、俺の胸にかかる。

 

 カミラが顔を上げた。

 

「……っ」

 

 彼女の目に宿っていたのは、堪えきれない情欲の色だ。

 

 そしてその対象が一体誰なのか……言うまでもなかった。

 

 カミラがわずかに唇を開き、声を発した。

 

「すまないブラッド。もう私は耐えられそうにない」

 

「……は?」

 

 もどかしそうに身をよじりながら、カミラがローブを脱ぎ去った。

 

 俺の予想通り、彼女は何も身に着けていなかった。

 

 白い肢体が、夜闇にくっきりと浮かび上がる。

 

 美しい。

 

 こんな異様な状況だというのに、そう思ってしまった。

 

「…………っ」

 

 とん、と彼女が俺を押す。

 

 どういうわけか、俺はそのまま尻餅をついてしまう。

 

 もしかしたら俺は、そんな彼女の色香に当てられてしまったのかもしれない。

 

 それほどまでに、今のカミラは魅力的だった。

 

 完全に固まってしまった俺に、カミラがのしかかってくる。

 

 俺も温泉に浸かっていたため、何も身に着けていない。

 

 彼女の柔らかい体重が全身にしっとりと密着する。

 

 彼女が耳元で囁いた。

 

「…………幻桃葛(ゲントウカズラ)だ。あの仔地竜のブレスは、その毒素が大量に含まれていたらしい。その毒に……私は当てられてしまったらしい」

 

「……マジかよ」

 

 名前は聞いたことがある。

 

 うん、それ媚薬の原料ですよねソレ。

 

 そして俺は自分が置かれている状況を正確に把握した。

 

 ……あのミニドラゴンゾンビ、生前にそんな危険薬物を常食してやがったのか!

 

 マジでシャレにならないぞこの状況!

 

 どう考えてもここで流されると、お互い後悔するやつだろこれ!

 

 つーかセパとレインはなにやってんだ!

 

「ま、待て待て待て待てカミラ! お前は毒で頭がおかしくなっているんだ! いったん落ち着こう! な? 俺も落ち着く! とりあえず温泉に入ろう! 気持ちもスッキリするだろ! なあそうしよう!」

 

 我ながら、完全にパニくっていたのは認める。

 

 だが、この状況でどうしろってんだ?

 

 発情しきったカミラの耳に、俺の言葉は届いていなかったらしい。

 

「……ブラッド。今ここで……借りを返せ」

 

 今日は、度重なる『防護』付与で、彼女の身体に触れる機会がありすぎた。

 

 限界に達していた、と言える。

 

「……初めては、君じゃなければ…………嫌だ」

 

「…………ッ」

 

 耳元まで唇を近づけられ、熱い吐息交じりの声でそう囁かれてしまえば。

 

 

 自制できるほど強靭な精神力を、俺は持ち合わせていなかった。

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