パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第35話 『聖剣『不死殺し』』

「これが、私の聖剣……か。美しいな」

 

 新居の応接室で、ソファに腰掛けたファルが感嘆の息を漏らす。

 

 視線は、ローテーブルの上に置かれた大剣に釘付けだった。

 

「すげえ……こんな剣、見たことねえよ」

 

「美しいですね……ですがファル、貴方が持てばさらにその美しさが際立つことでしょう」

 

 彼女の両隣に腰掛けたギースとベティも、ため息を漏らした。

 

 うむ。

 

 聖剣錬成師冥利に尽きる瞬間、というやつである。

 

 彼女の聖剣――『不死殺し』は紫紺の刃を持つ大剣だ。

 

 彼女の希望で、刃以外は彼女の持っていた大剣とほぼ同等にしてある。

 

 刃渡りも、柄の長さも、重心も。

 

 もちろん握り心地もだ。

 

 さすがにしみ込んだ彼女の汗や汚れまでは再現できなかったが……まあ、そこは新品だから致し方ない。

 

 とりわけ重心については、前のものと同等にするのに苦労した。

 

 なにしろ刃の素材が鋼材だけじゃないからな。

 

「この紫水晶のような刃は、何でできているのだ?」

 

 ファルが剣身を指先で撫でながら聞いてくる。

 

「これは、鋼材に呪詛が乗りやすくするためにドラゴンゾンビの牙を加えているせいだな。そうすると半透明で深みのある色合いに変化するんだ。ああ、触るときは気を付けてくれよ? よく斬れるからな」

 

「まさか……この呪詛、我々にも感染(うつ)るのか? たった今、刃に触れてしまったぞ」

 

「……!?」

 

「……!!」

 

 少しだけファルの顔が引きつった。

 

 さらに両隣の二人がファルからサッと身を引く。

 

 ……それを見て、ファルが少し悲しそうな顔になった。

 

「一応言っておくが、仮にあんたが指を切っても別になんともならない。ギースやベティでも同様だ。これは『ノスフェラトゥ』を殺すためだけに特化した呪詛だからな。さしずめ、『不死殺しの呪詛』といったところだな」

 

「そ、そうなのか」

 

 三人がホッとした顔になる。

 

 一体俺の聖剣を何だと思ってるんだ……まあ、気持ちは分かるが。

 

「ああ、それでも取り扱いには気を付けてくれよ? ほら……こんな感じで、刃自体はよく斬れるからな」

 

 言って、俺は用意していた羊皮紙にかるく折り目を付けてから、聖剣の刃を立て、その上にそっと置いた。

 

 すると……

 

「おおっ!? ただ置いただけなのに羊皮紙が真っ二つになったぞ」

 

 二枚に分かたれた羊皮紙が、パラリと床に舞い落ちた。

 

 それを見てファルが驚きの声を上げる。

 

「こいつぁ、とんでもねえ斬れ味だな……」

 

「すごいですね……」

 

 残りの二人も驚きを隠せないようだ。

 

「当り前だが、あんたらが『ノスフェラトゥ』を倒したあとのことも考えている。さすがに使い捨て、というには惜しすぎる費用がかかっているからな」

 

「ああ、そうしてもらえるのなら……ありがたい」

 

 ファルは軽く頭を振り、少しだけ困ったような表情を作った。

 

「……ブラッド殿は、私のような死に急ぎ(・・・・)に『死ぬな』と言うのだな」

 

「当然だろ。アンタは剣の腕もあるし、金払いもいい。必ず魔族を倒してここに帰ってきてくれ。ギース、ベティ、アンタらも同様だ。戻ってきたら、今度はドラゴンを狩るための聖剣を三人分、錬成してやるよ」

 

「ははは、それはいい! 私がオルディスに帰還した暁には、ぜひともドラゴン殺しの聖剣を打ってくれ!」

 

 ファルが心底愉快そうに笑う。

 

「……ブラッド殿。私は必ずこのオルディスに帰ってくるぞ。我が女神、ソラリアと……貴方に誓って」

 

 そう言って彼女は胸に手を当て、天を仰がずに俺をしっかりと見据えた。

 

 彼女の目には、以前見た渦巻く炎はどこにもなかった。

 

 うむ。

 

 死兵は強力だが、それでも生きる希望を心に抱く兵士には敵わないものだ。

 

 彼女はきっとうまくやってくれるだろう。

 

「さて、あんたの覚悟が決まったところで、もう一つ聖剣について言っておくことがある。……というか、紹介だな」

 

「……紹介? 誰をだ?」

 

「聖剣の精霊だ」

 

「………は?」

 

「出てこい、『不死殺し(モタ)』」

 

 俺の呼びかけに応じて、人造精霊が実体化する。

 

「…………あ……ども……」

 

「うわっ!?」

 

「どわぁっ!?」

 

「ひっ!?」

 

 俺の隣に出現したのは、十代前半と思しき細身の美少女だ。

 

 顔立ちは整っているものの、俯きがちな姿勢や剣と同じ紫紺の長髪で片目が隠れていたりで、妙に陰気な雰囲気を漂わせている。

 

 そして……例によって、妙に艶めかしい衣装をまとっている。

 

 大事な部分が隠れてるのはいいのだが、それでも面積が少なすぎる。

 

 なぜ人造精霊ってやつは、こう……変な方向で自己顕示欲が強いのか。

 

 問答無用でローブを頭から被せてやりたい衝動に駆られる。

 

「ブ、ブラッド殿……この少女は一体」

 

 引きつった顔で、ファルが人造精霊――モタを指さしている。

 

「言ったろ、聖剣に宿る人造精霊だ」

 

「人造精霊っ!? 剣が喋るだけではないのか!? まさか、人の姿を取ることができるとは」

 

「俺の聖剣は、まあ……特別製だ」

 

 ちなみにやろうと思えば、通常の聖剣も人造精霊を実体化させることは自体は、一応可能だ。

 

 実体化に人造精霊の処理能力をフル活用するせいで剣自体の機能はほぼゼロになるし、別に美少女になるとも限らないのでやる意味は全くないが。

 

「しかし、やるじゃねえか新人詐欺野郎。……この子、結構色っぽいじゃねえか」

 

「…………ギース?」

 

「待て、冗談だ! 俺は少女趣味はねぇよ!」

 

 ベティの光の失った目で射すくめられ、ギースが怯えたように手を振った。

 

「ほら、モタ。挨拶」

 

「アッ……ハイ。あ、あの……ふつつか者ですが……よしなに」

 

 モタがのそのそと進み出ると、ファルたちに向かってぎこちないお辞儀を見せる。

 

「う、うむ。モタ殿、今後世話になる。ぜひとも、ノスフェラトゥ打倒に力を貸して欲しい」

 

「アッ、ハイ。まあ私の力なら余裕、です。……でも私、その魔族? を殺したら、ただの喋る剣になるんですけどねエヘヘ……」

 

 モタが卑屈な笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ギースとベティの視線が、「大丈夫なのかコイツ」と言っている。

 

 分かる。分かるが……聖剣の力は本物だ。

 

 ただ、今回に限っては標的以外に威力を発揮できないため、その力を見せられないのが辛いところである。

 

 まさか俺がリグリアまで同伴して「ほらちゃんと効くでしょ」とやるわけにはいかないからな。

 

 こればかりは俺を信用してもらうしかない。

 

「ま、まあ、聖剣の力といえば、以前のダンジョン探索でその威力を見せてもらった。私は、聖剣モタ殿を信じる」

 

「そ、そうだよな!」

 

「確かに、あれは凄まじかったですからね……」

 

 口々に言いあう三人組。

 

「そういえば……ちょっと待て新人詐欺野郎。……先日アンタ持っていた『聖剣レイン』も、同じように人間になるのか?」

 

 思いついたように、ギースが聞いてくる。

 

「そうだぞ……レイン、実体化してみろ」

 

「あいあーい♪」

 

 横に置いていた魔導鞄(マジック・バッグ)からレインを取り出す。

 

 レインが即座に実体化。

 

 元気はつらつ、といったポーズで金髪紅眼の美少女が現れた。

 

 コイツ、なんだかんだでノリがいいな。

 

 モタはそんな彼女の陽の空気が苦手なのか、「ひっ」とか声を漏らしているが。

 

「……マジか」

 

 ギースがあっけにとられたようにぽかんと口を開ける。

 

 ちょっと見惚れてる。

 

 だがレインは俺のものだ。お前にはやらんぞ。

 

「…………ギーーーース?」

 

「…………ウッス」

 

 またもやギースがベティの底冷えする視線を浴びて、シュンと肩を落とした。

 

 どういう関係性かは不明だが、ギースはベティにも弱いらしい。

 

 ファルのことは姐さんとか呼んでいたし、パーティのヒエラルキーは女性陣が圧倒的に強いらしかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ブラッド殿、何から何まですまない」

 

 聖剣の使い方などの説明が終わると、ファルが深く頭を下げた。

 

「気にするな。こっちは工房付きの新居までもらってるんだ」

 

 ついでに言えば、すべての費用も前払いしてもらったうえ、報酬もそれなりにもらっている。

 

 今日からでも聖剣工房をオープンできそうなほどの金額を、だ。

 

 ……まあ、彼女たちはリグリアでノスフェラトゥと刺し違える覚悟だったっぽいからな。

 

 冥府に金は持っていけないと考えたのだろう。

 

 まあ、こっちとしても生きて帰ってもらうために最善を尽くしたつもりだ。

 

 あとは彼女たち次第だが。

 

「ではブラッド殿。名残惜しいが……我々はこれにて失礼する」

 

 ファルたちが、ソファから立ち上がる。

 

「あんたら、絶対に帰って来いよ」

 

「ああ、必ず」

 

「当然だろ。新人さ……ブラッド、帰ってきたら、ちゃんとドラゴン殺しの聖剣を作ってくれよ。約束だぞ」

 

「…………」

 

 三人の目は、静かな闘志を湛えていた。

 

 

 

 

 そして――十日ほどが過ぎ。

 

 

 

 

 

 聖剣モタが、オルディスに戻ってきた。

 

 ……たった一人で。

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