パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第36話 『送り出した聖剣が帰ってきた』

「朝早くにすまない。あんたがブラッド・オスローだな?」

 

 衛兵たちが新居に訪ねてきたのは、日が昇る前のことだった。

 

「……何か用か?」

 

 これから早朝の日課に入ろうとしていたところを邪魔されたので、少々機嫌が悪かった。玄関の扉を少しだけ開き、対応する。

 

 衛兵のうち一人は、見覚えのある顔だった。

 

 ファルを助けた時にいたヤツだ。

 

 俺は少しだけ、扉を広げた。

 

「いや、それがな……」

 

 衛兵は困ったように頭を掻きながら、先を続ける。

 

「城門付近に、あんたの知り合いを名乗る女がでかい剣を抱えたまま居座っていてな。あんたの名前を出したあとはうわごとみたいなことをずっと呟いているし、どう説得しても動こうとしないし、困ってるんだよ。どうにかならないか?」

 

「……………………とりあえず、案内してくれ」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣私はダメな聖剣――」

 

 城門付近で聖剣を抱えうずくまっていたのは、予想通り『不死殺し(モタ)』だった。

 

 ただでさえ青白い顔は土気色で、うつろな目で口に紫紺の髪を一糸分咥えながら、ブツブツ呟いている。

 

 うん、誰がどうみてもメンタルがヘラってるヤバい女ですね。

 

 これでは衛兵も手を焼くはずだ。

 

「おいモタ、どうした?」

 

「私はダメな聖剣私はダメな聖剣……あ、ぱぱ」

 

 壊れた自動人形(オートマータ)のように同じ言葉を繰り返していたモタだったが、俺の呼びかけでそのループが破られた。

 

 幽鬼のような表情が一転。

 

 にぱっ、と花が咲いたような笑顔になる。

 

 ちなみに瞳孔は開きっぱなしだったので笑顔が超怖い。

 

 お前……本当に魔剣とかじゃなく聖剣だよな?

 

 自分で錬成しておきながら、ちょっと自信が揺らぐ。

 

 それはさておき……

 

「ぱぱ呼ばわりはやめろ。誤解される」

 

 広義の解釈では父親とも言えなくないが……

 

 話がややこしくなるから黙っておく。

 

 まあ、そういう意味だとカミラが母親ということになるが。

 

 それはさておき。

 

「モタ、何があったんだ? ファルたちはどうした? というか、どうやってここまで帰ってこれたんだ?」

 

 そもそもファルはリグリアまでたどり着けたのだろうか。

 

 たった三人で国盗りなんて無理だろうから、どこかで手勢を率いて進軍でもしていたのだろうが……

 

「ごめんなさい、ぱぱ。私がダメダメで陰キャの聖剣なばかりに……ううう」

 

 今度はグシグシ泣き始めてしまった。

 

 うん、完全にメンタルがヘラってますな。

 

 これでは話どころではないぞ。

 

「とにかく、家まで帰るぞ。悪い、衛兵の兄ちゃん……コイツは隣街に住む俺の姪でな。多分親子喧嘩でもして家出してきたんだろう。悪いが城門の中に入れてもらっても構わないか?」

 

 とりあえず適当に身分と境遇をでっち上げておく。

 

 まあ、今は急場をしのげればいいだろう。

 

「隣街のアルガスなら山脈の反対側なんだが……まあ、アンタの身内ならば構わんか。あとででいいから、中央に届出を出しておいてくれよ。おい、一人通過だ!」

 

 衛兵は戸惑いながらも納得したようだ。

 

 同僚に声をかけ通行許可書発行の指示を飛ばす。

 

 中央ってのは、たしか冒険者ギルドの近くにある衛兵の本部のことだったか。

 

 ステラの身元保証の手続きで一度行ったことがある。

 

 ……この機会だし、レインも届出を出しておいた方がいいかもしれないな。

 

 セパはお喋りクソペット枠だから多分要らんと思うが。

 

「そっちは必ずやっておく。……恩に着る」

 

 衛兵が発行してくれた許可証を受け取り、モタを連れて街に入る。

 

 そのまま、新居へまっすぐ帰った。

 

 しかしあの衛兵、なかなか話の分かる兄ちゃんでよかった。

 

 名前は聞きそびれたが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……で、王宮内に入ったとたんファルが乱心したって?」

 

「アッハイ」

 

 新居の応接間のソファに腰掛け、俺はモタから話を聞いている。

 

 彼女の口から語られたのは、なんとも判断に困る事実だった。

 

「ノスフェラトゥは……まだ倒せてないな」

 

 聖剣(モタ)には呪詛が宿ったままだ。

 

 呪詛はノスフェラトゥを倒したら消えるはずだから、逆説的にファルはヤツを倒せていないことになる。

 

 ……しかしまさか国境を越えたすぐ先にある遺跡に、リグリアへ直行できる転移魔法陣が隠されていたとは。

 

 確かに隣国は王国より歴史が古い。

 

 今よりも転移魔法陣の設置が盛んだった時代の遺跡が数多く残っていても、おかしくはない……のかもしれない。

 

 そしてモタの話によれば、そこからリグリア国内の神殿遺跡かなにかまで飛んで、無事ノスフェラトゥが座する王都中枢へ潜入することに成功したそうだ。

 

 片道の所要時間は、たった三日だったそうだ。

 

 ……どおりで、ファルたち三人以外に手勢がいるように見えなかったわけだ。

 

 彼女たちは、最初からリグリア中枢に座するノスフェラトゥただ一人を、暗殺じみた方法で討伐することを計画していたらしい。

 

 バカバカしい、と否定することはできなかった。

 

 もし彼女たちの人数で討伐を実現するならば、それしか方法がないからだ。

 

 よくよく考えれば、確かベティはリグリア王の側室の子だ。

 

 つまりは王族の血を引いている。

 

 彼女が王城内の隠し通路や脱出経路となる転移魔法陣の場所などを知っていても不思議はない。

 

「……で、だ。暴れたファルを止めようとギースとベティが応戦して、戦いの最中にファルがお前を王宮の外に放り投げ、その後は三人とも行方不明。……で、一人取り残されたお前はどうしようもなくなり元来た道を……転移魔法陣を使ってここまで戻ってきた、と。マジで何がなんだか分からんな」

 

「ごめんなさい、ぱぱ」

 

「……もうぱぱでいいから、もう少し詳しく説明を頼む」

 

 その後もさらにモタの説明は続いた。

 

 だが彼女は錬成して間もない聖剣だ。

 

 多少は世界の知識があるとしても、一般常識に疎い。

 

 ファルたちの関係性や背景も、旅の途中である程度は説明されているだろうが、完璧に把握するのは無理だ。

 

 結局、先ほど彼女が話した以上の事実確認はできなかった。

 

 というか、彼女の性格からするとファル以外とまともにコミュニケーションを取れていたか怪しいからな。

 

 ……今後は所有者と聖剣を事前に引き合わせて合わせたうえで、きちんと相性問題を解決する必要があるだろうな。

 

 そもそも、カミラの創り出す人造精霊にクセが強すぎるのが問題なわけだが……これは能力とのトレードオフらしいので根本的な解決が難しい。

 

 一応、彼女にもっと万人向けの人造精霊を創れないか聞いてみるが。

 

 それ以外では、元いた工房のときのようにあまり個性が強くない人造精霊を別の魔術師から取り寄せるという手段もなくもないが……まあ、ここは今後の課題としておこう。

 

 思考がそれた。

 

 とりあえず彼女の話を整理すると、

 

 ・王宮についたらファルが乱心して暴れ出した

 

 ・ギースとベティはこれに応戦、戦闘中にファルが聖剣(モタ)を放り投げた

 

 ・その後の三人の行方は不明

 

 この三つに集約される。

 

 なお、モタはノスフェラトゥらしき魔族の姿を見ていないそうだ。

 

 そもそも王宮は無人だったとのこと。

 

 予想だが、ファルの乱心はノスフェラトゥが仕掛けたもののような気がする。

 

 実は、ヤツとは十数年前に戦ったことがある。

 

 だからこそ、ヤツを殺す呪詛を持つモタを錬成することができたわけだが……

 

 ノスフェラトゥは多彩な状態異常攻撃を操る器用な魔族だったからな。

 

 ファルたちが奇襲にあい、逆にファルを利用されてしまったと考えられる。

 

 そうなると、ギースとベティの安否もどうだか分からない。

 

 ただ、明るい情報もある。

 

 ファルの乱心が魔術の『魅了』や『幻惑』ならばセパで切断できる。

 

 それと、ここからリグリア王都まで転移魔法陣を使えば三日ほどで到着できるらしいので、割とすぐに彼女たちを助けることができるだろう。

 

 あとは、それを俺が実行するかどうかだが……

 

「まあ……やるしかないよな」

 

 俺はただの聖剣錬成師だ。

 

 ファルのために聖剣を錬成した、それだけの関係だ。

 

 本来ならば、彼女に聖剣を引き渡したあとは、彼女がどうなろうが知ったことではない。

 

 しかし、である。

 

 今、俺の手元にはモタがいる。

 

 彼女に渡したはずの聖剣が、俺の手元にあるのだ。

 

 これはダメだ。

 

「……まったく、しょっぱなから世話の焼ける客に当たっちまったもんだ」

 

 俺は頭をガリガリと掻いた。

 

 ソファから立ち上がる。

 

 正直、気が重い。

 

「売った聖剣が返品以外で返ってきたのなら……持ち主に返さねぇと、だよな」

 

 独り()ちる。

 

 これは俺の聖剣錬成師としての、プライドの問題だ。

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