パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第41話 『熱烈歓迎』

「ここは……なかなか雰囲気のある場所だな」

 

 寺院遺跡から転移した先は、これまた地下神殿の内部を思わせる場所だった。

 

 さきほどまでいた地下室よりはずっと広く、天井も高い。

 

 ちょっとした建物ならばそっくり収まってしまいそうな空間だ。

 

 規則正しく並ぶ石柱には古代遺跡特有の複雑な紋様が彫りこまれ、それが天井を支えている。

 

 床は滑らかな大理石製だ。

 

 そしてここにも――広間の奥に、祭壇が鎮座していた。

 

 先ほどの寺院地下室のものと違い、俺の背丈の倍くらいはある立派なものだ。

 

「リグリアに、このようなものがあったとはな……ソラリス教のものには見えないが、祀られているのは、古の神々だろうか?」

 

 カミラが祭壇を眺めて、そんなことを呟いている。

 

「昔はそうだったのかもしれん。だが今は、ソラリア教に改宗されているように見えるな」

 

 実際、祭壇に掲げられている紋章旗はリグリア王家のものだ。

 

 そして、その紋章に描かれているのは、太陽と女神。

 

 祭壇の一番上には、大きな盃のような金属の器が載せられている。

 

 ここからでは、その中身は分からない。

 

 盃のふちには黒い錆のようなものがこびりついているが……あれは本当に錆だろうか。

 

 俺はリグリアの祭祀に詳しくはない。

 

 祭壇に上がり、盃の中身を確かめる気にはならなかった。

 

「ふむ……この独特の雰囲気は」

 

 カミラが油断なく周囲を見渡し、呟く。

 

 人気もないのに、壁面に掲げられた松明が明々と燃えている。

 

 それにこのピリついた空気は……間違いなくダンジョンのそれだ。

 

「ああ、ダンジョンだな」

 

 俺も応じる。

 

 祭壇の反対側には、ぽっかりと空いた闇が見える。

 

 あそこが出入口だろう。

 

 そこから、呻き声のようなものが聞こえ始めた。

 

 徐々に、その大きさと量を増してきている。

 

 そして……淀んだ空気とともに、死臭が漂ってきているのが分かった。

 

「さっそく我々の到着を歓迎してくれるみたいだな、ブラッド」

 

 さきほどとは打って変わって獰猛な笑みを浮かべ、カミラが呟く。

 

 彼女の羽織ったローブが軽くはためき、ちらりと見える戦闘服は(ほの)かに光を発している。

 

 魔導鞄(マジック・バッグ)から取り出した杖の先端部分からは、チリチリと光の粉が舞っていた。

 

 すでに彼女は臨戦態勢だ。

 

「だな。まあ、俺らもしっかり歓迎されてやろうぜ。レイン。魔物狩り、待ちきれないって言ってたよな」

 

『……あーし、ちょっと緊張してきたんだけど!』

 

 すでにレインは実体化を解いている。

 

 口ではそんなことを言っているが、剣からは彼女の戦意がビリビリと伝わってくる。

 

「私たちは邪魔にならない場所に退避していましょう」

 

「……あっ、はい」

 

 セパがモタを連れて俺たちの後ろに下がった。

 

 それと同時に、呻き声の主たちが姿を現した。

 

『アアアアアァァァ……』

 

「なるほど、確かに我々は無事リグリアに到着したようだね」

 

「変な場所に飛ばされてなくてよかったぜ」

 

 広間になだれ込んできたのは、鎧をまとい武器を持ったゾンビの群れだった。

 

 

 その鎧や盾には、太陽と美しい女性を象った紋章が刻まれている。

 

『うわっ……マジキモ……』

 

 レインがドン引きした声を上げる。

 

 確かに目の前の光景は、かなり凄惨だ。

 

 かなりの月日が経っているのか、ほとんどのゾンビ兵士はミイラ化しているか白骨化している。

 

 戦闘力はそれほど高くはないだろうが、『腐れの呪詛』には注意が必要だ。

 

『魔物はいいけど、人型ゾンビはイヤなんですけど……なんか魔力不味そうだし……』

 

「贅沢言うな。待望の対魔物戦闘だぞ。もっと喜べ」

 

『ううう~~……ぜんぜん喜べないんですけど……』

 

 レインの文句を聞き流しつつ、剣を構える。

 

「セパは実体化を解け。モタ、剣をよこせ。お前は魔導鞄(マジック・バッグ)内で待機だ」

 

「了解です、ご主人」

 

「りょ、りょうかい、ぱぱ」

 

 セパの姿が消え、モタが俺に剣を渡したあとに同じく消えた。

 

 すぐに聖剣モタを魔導鞄に収納。

 

 これで戦闘準備は整った。

 

「さてブラッド、連中をどう料理してくれようか? やはり火葬がいいだろうか? ここには松明が多いからな。火の精霊がさぞ荒ぶってくれるだろうよ」

 

「おいよせカミラ。こんな閉鎖空間で業火を出してみろ、ゾンビを灰にする前にこっちの息の根が止まるぞ」

 

「おっと、そうだった。……やはり冒険者としての勘が鈍っているな」

 

 カミラが苦笑する。

 

 とはいえ、彼女は俺たちの戦力であることは変わりがない。

 

「地上近くまでは炎系の精霊魔術は厳禁だ。この前の《泥濘》みたいに足止めの魔術は使えないのか?」

 

「ううむ……こうも石ばかりだと、土の精霊はなかなか応えてくれそうにないな。ならば……こうしよう――《風刃》」

 

 カミラが杖を前に突き出し、直接発動呪文を唱える。

 

 彼女のローブがはためき、中に着込んだ戦闘服に光の紋様が一瞬浮かび上がる。

 

 直後、バスッ、と空気を切り裂く音が響き……一番先頭を進んでいたゾンビが鎧ごと真っ二つになった。

 

「やるな」

 

「ふん……だが、これではダメだ。アンデッドは胴体が泣き別れになったくらいで滅びたりしない」

 

「ああ。ここからは俺とレインの出番だな」

 

『ウルルルルルガアアアァァッッ!!』

 

『グルルルルゥゥウゥゥッ!!』

 

 さらにゾンビ兵士複数体が剣を振りかぶったまま突っ込んでくる。

 

 だが所詮は死体だ。

 

 動きは緩慢で、攻撃が俺に当たることはない。

 

 ひょい、と避け、さらに別の個体の攻撃をするりと躱す。

 

 うん、こいつらただのゾンビだな。

 

 特に強化をされていたり、寄生型の魔物に操られているわけではなさそうだ。

 

 なら、あとは連中を蹂躙するだけだ。

 

「レイン、出力全開でいくぞ。人間のアンデッドはドラゴンゾンビみたいな耐久力はない。一瞬で片付けるぞ」

 

『あーい……ぜんりょくー』

 

 やる気ゼロな返事とともに、制御が剣に行き渡ったのを確認。

 

 なんだかんだで、仕事はキッチリこなすレインである。

 

「さっさと冥府に還りやがれ!」

 

 近くのゾンビを斜め上に斬り上げ、返す刃で別の個体を頭から両断する。

 

『ガッ――』

 

『グッ――』

 

 次の瞬間、ゾンビたちの肉体が光の粒子と化して虚空に溶け消えた。

 

 ガラン、と剣や鎧が石床に転がり落ちる。

 

「ふむ、さすがブラッドだな。剣の冴えは昔のままだ」

 

「『屍竜の谷』でも見せたろ」

 

「今日の君は一段と輝いて見えるぞ」

 

「まあ、久しぶりに戦闘といえる戦闘だからな」

 

「じゃあ、どんどんいこうか!」

 

「おうよ!」

 

 先ほどカミラに両断されたゾンビが足元まで這ってきていたので、レインを突き刺して処理。

 

 カミラは『風の精霊』により風の刃を創り出し、次々とゾンビたちの身体を斬り刻んでゆく。

 

 俺も、カミラが機動力を奪ったゾンビの処理をしつつ、元気な個体をどんどんと光の粒子へと変えてゆく。

 

「これで……最後だッ!!」

 

 広間になだれ込んできたゾンビ兵士の流入が途絶えるまでに要した時間は、ほんの数分だった。

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