パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第46話 『錬成、錬成、錬成』

「カミラ! まだ生きてるか?」

 

「見ての通りさ。今のところはまだ、冥府送りになっていないな」

 

 ギースを倒したあと、すぐにカミラたちのもとに戻る。

 

 彼女はどうにかベティの猛攻を凌いでいた。

 

「おっと、危ねえ」

 

 ベティの攻撃圏内に入ったせいか、俺にもすぐさま黒い触手が襲い掛かってきた。

 

 慌てず、レインで斬り払う。

 

 ――ジュッ……ブスブス……

 

 斬り落とされた触手が床に落ちると、触れたところが黒く染まり、強烈な刺激臭をまき散らしながら溶け崩れてゆく。

 

 どうやら彼女の攻撃は、邪神だけでなくノスフェラトゥの力も乗っているようだ。

 

 少しでも触れられれば、どんな呪詛や状態異常を付与されるのか分かったものではない。

 

 だが、ギースの攻撃に比べるとかなり速度が遅い。それに単調だった。

 

 ベティはもともとお姫様だ。

 

 ファルやギースのような武人ではない。

 

 リーチと手数は脅威だが、まるで当たる気がしなかった。

 

 俺は慌てず騒がず飛来した触手を聖剣レインでザクザクと斬り落としてゆく。

 

 ちなみにギースは戦いの邪魔にならないよう、広間の隅に転がしてある。

 

 完全に魔力枯渇状態だから、戦闘中に目覚めることはないはずだ。

 

「ギース……せっかく力を与えたというのに、所詮はその程度でしたか」

 

 ベティが攻撃を続けながら、広間の隅で倒れたままのギースに一瞥をくれた。

 

 ヤツに触手を差し向けるようなことはしなかったものの、彼女の目には、何の感情も宿っていなかった。

 

「一応仲間だったんだろ? ちょっとくらいはねぎらってやれよ」

 

「……力なきものに、掛ける言葉などありません」

 

「そいつは手厳しいな……よっと、隙ありだ!」

 

 繰り出される触手をかいくぐりながら、一瞬の隙を突いてベティに肉薄。

 

 レインで彼女を覆う闇に斬りつける。

 

「くあっ……!」

 

 手ごたえあり。

 

 ベティのわき腹が闇ごと切り裂かれ、鮮血が舞う。

 

 だが、彼女は余裕の表情だ。

 

「ふふ……このような攻撃、私には効きません……っ!」

 

 ベティが叫ぶと同時に傷口がふさがり、さらに闇がそれを覆い尽くしてゆく。

 

 ……なるほど、ノスフェラトゥの力か。

 

 そういえばヤツを取り込んでいるんだったな。

 

「お返しですッ……!」

 

 ベティのドレス部分から触手が生え、襲いかかってきた。

 

「おっと」

 

 が、この行動は読めている。

 

 触れないように身体をひねり躱す。

 

 ――ブシュッ!! バシュッ!!

 

 行き場を失った触手たちが石床を穿つ。

 

 殺意の塊のような攻撃だ。

 

 しかし……これは困ったな。

 

 レインによる攻撃は、決して効果がないわけではない。

 

 ただ、決定打に欠ける。

 

 さて……どうしたものか。

 

 俺は再びカミラたちの側へ戻る。

 

「ブラッド、無事か?」

 

 ベティの猛攻は、俺が彼女に攻撃を仕掛けた間も続いていた。

 

「なんとか、な。それよりもファルだ」

 

「……うむ」

 

 カミラが背後をチラリと見やる。

 

「……私は一体何のために……陛下……騎士団の皆……ベティ……ギース……」

 

 ファルは聖剣モタを握りはしたものの、完全に戦意を喪失している状態だ。

 

 (ひざまず)(うつむ)いたまま、ブツブツと呟いている。

 

 確かに彼女の気持ちは分かる。

 

 倒すべき存在……国を滅ぼした張本人が、今まで守るべきと思っていた人物だったのだから。

 

 だが、今は彼女にしっかりしてもらわなければ逃げることもできない。

 

 それに、である。

 

 聖剣モタは、ファルが不死を殺すために錬成した剣だ。

 

 長さも、重さも、そして魔力を込めるときの癖も。

 

 すべてが彼女に最適化してある。

 

 これはつまり、俺がモタを使っても、十全の力を発揮できない可能性があることを意味している。

 

 聖剣モタは、ファルが振るってこそ不死を滅することができるのだ。

 

 ファルしか、暴走する不死の邪神(ベティ)を止めることができない。

 

「おいファル、しっかりしろ。あんたの気持ちは分かる。だがクヨクヨするのは後にしろ」

 

「う……ああ……」

 

 ダメだ。

 

 ファルの肩を揺さぶるが、呻き声を上げるだけで反応が薄い。

 

「下郎め……! これ以上ファルを(たぶら)かすことは許しません!」

 

 ベティが絶叫し、さらに数を増した触手が俺たちに降り注ぐ。

 

「ブラッド! そろそろ持ちそうにないぞ!」

 

 襲い掛かる触手を精霊魔術で切り刻みながら、カミラが悲鳴を上げている。

 

 クソ、さすがにカミラも限界か。

 

 ……仕方ない。

 

 俺はファルの肩をがっしりとつかんだ。

 

 それから大きく息を吸い込み……腹に力をこめ、大声を出した。

 

「聞け、ファル!」

 

「……ぅあ?」

 

 ファルが顔を上げた。

 

 うつろな目だが、俺を見ている。

 

 まだ自我を失ってはいないようだ。

 

 ならば、まだ希望はある。

 

「聞け、ファル。ベティはアンタの何だ。護るべき対象か? 救う対象か? ……それとも倒すべき相手なのか?」

 

「……うぅ……わ、私は……」

 

 イヤイヤをするように、ファルが首を振っている。

 

 考えたくないだろう。

 

 だが、彼女は答えを出さなければならない。

 

 でなければ、俺たち全員が死ぬことになる。

 

「おいファル。歯を食いしばれ。気合を入れてやる」

 

 俺は拳を握りしめ、大きく振りかぶり……

 

 ファルの横っ面を殴り飛ばした。

 

「ぐあっ!?」

 

 彼女の美しい顔が弾け、身体が横倒しになる。

 

「この下郎がああああぁぁ!!!」

 

 その様子を目撃したベティが激高した。

 

 黒い触手の数が倍に、いや三倍に増加した。

 

「ブラッド!? 一体何をしたんだ!?」

 

 カミラの悲鳴が聞こえるが、今は構ってやるわけにはいかない。

 

「ぐっ……痛っ……!? はっ……。ブラッド……殿、一体この状況は!?」

 

 身体を起こしたファルが、頬を押さえながら呻いている。

 

 が、気付けは成功したようだ。

 

「ようファル。気分はどうだ?」

 

「すまない。どうやら私は正気を失っていたようだな。……ところで、なぜか頬と首が痛いのだが……どこかにぶつけたのだろうか?」

 

「ベティの攻撃だ」

 

 さすがにこの状況で「俺がぶん殴りました」と白状することはできず、とりあえず誤魔化しておく。

 

 ……あとで土下座で許してくれるだろうか。

 

『DVだ……』

 

『DVですね……』

 

『ファルさんは別に家族ではないのでは……?』

 

 俺の蛮行を目撃した精霊たちがドン引きしているが、構っている暇はない。

 

 あとDVじゃない。気付けだ。だいたいそんな強く殴ってない。

 

「……ベティ。今まで私は、貴方の罪にも、心に巣くう闇にも気づかなかった。気づくことができなかった。……さぞ、苦しかったことだろう」

 

 猛り狂うベティを眺め、ファルが呟く。

 

「だが、私が貴方を救ってみせる」

 

 ファルが立ち上がった。

 

 彼女の手には、聖剣モタが握られている。

 

 ……どうやら、大丈夫そうだな。

 

「手短に言うぞ」

 

 俺はベティをチラリと見て、言った。

 

「状況からして、不死の力はノスフェラトゥではなく邪神に移っているはずだ。だから今から俺が、ベティから邪神を引きはがす。その後は……あんたがカタを付けてくれ」

 

「う、うむ。ベティを止められるのは、私だけなのだな」

 

「そうだ。あんただけしかいない」

 

 俺は頷くと、カミラの方を向いた。

 

「カミラ、そろそろ潮時だ」

 

「やるのか? 久々に」

 

「ああ」

 

「あの、ブラッド殿。一体何をするつもりなのだ……?」

 

 俺とカミラのやり取りを見て、ファルが訊ねてくる。

 

 が、説明する暇も余裕もない。

 

「見てのお楽しみだ」

 

 俺はそれだけ言って、カミラたちから離れた。

 

 後方――広間の出入り口がある壁まで後退する。

 

「まさか、怖気づいたのですか……っ!? 逃がしませんよ!」

 

 ベティが絶叫と共に、無数の触手をけしかけてきた。

 

「させんよっ!」

 

 カミラが精霊魔術をもって、これを撃墜。

 

「十秒で済ませる。その間、援護を頼む」

 

「任された!」

 

 カミラの声を聞きながら、俺は魔導鞄(マジック・バッグ)から紙片を取り出した。

 

 手のひらに収まる、小さな紙片だ。

 

 そこには緻密な魔法陣が描かれている。

 

「……転写」

 

 それを広間の壁面に押し付けた。

 

 とたん、紙片が強く輝きだし……魔法陣が壁に生成される。

 

 小さな……手のひらほどの魔法陣だ。

 

 紙片を離し、それに触れ、さらに魔力を流す。

 

「……増殖せよ」

 

 言葉に従い、壁面の魔法陣が二つに分裂する。

 

 それから、その二つが四つに。四つが八つに。

 

 増殖、増殖、増殖。

 

 あっという間に、数えるのがバカバカしくなるような量の魔法陣が壁面を埋め尽くした。

 

「何をしているのです! させません!」

 

「君の相手はまだこの私だと言っただろう!」

 

 ベティの触手が俺に襲いかかるが、それをカミラがことごとく迎撃する。

 

 状況は膠着状態。

 

 危いバランスの中、均衡が保たれている。

 

 

 ……それを今からひっくり返す。

 

 

「――錬成」

 

 あえて言葉に出して、俺は魔法陣の一つに魔力を浸透させる。

 

 ――ずぷっ。

 

 壁面がえぐれ、石の聖剣が生成された。

 

 長さは、生成した魔法陣よりも少し長いくらい。

 

 ダガーと言っていいサイズだ。

 

 もう少し長い方が殺傷力が高いのだが、今回はそれが目的じゃない。

 

「――照準定め」

 

 石聖剣の柄に魔法陣が生じる。

 

 内包するのは、指向性を持たせた高密度の魔力エネルギーだ。

 

 俺の意思を反映して、聖剣がキリリとベティに向いた。

 

「――投射」

 

 次の瞬間。

 

 魔法陣が内包するエネルギーが爆発。

 

 強烈な推進力を与えられた石聖剣が、音速をはるかに超える速度で投射される。

 

「くあッ……!?」

 

 ――バスッ。

 

 石聖剣が、ベティの側を漂っていた触手の一本を食い破った。

 

 莫大な運動エネルギーを喰らい半ばから爆散した触手は痙攣するだけで、元通りになることはなかった。

 

「な……痛い……触手が再生しない……!? 貴方ッ! 一体何を……!?」

 

 焦りを含んだ顔を俺に向けるベティ。

 

「悪いが、アンタに説明する義理はない。どんどんいくぞ」

 

「や、やめっ……やめなさいッ!!」

 

 カミラを攻撃していた触手も総動員して、ベティが必死の形相で俺に攻撃を仕掛けてくる。

 

 だが、やめるものか。

 

「錬成、錬成、錬成、錬成、錬成、錬成、錬成――」

 

 俺は威嚇するようにあえて口に出し、魔法陣を起動させていく。

 

 壁面全体に、夥しい量の聖剣が生成された。

 

「照準定め――投射」

 

 号令は一度きりだ。

 

 流し込んだ魔力によりすべての魔法陣が強烈に輝く。

 

 次の瞬間、壁面全体に無数の小爆発が巻き起こった。

 

「や、やめッ――!!」

 

 石聖剣の群れが、殺到する触手のことごとくを吹き飛ばし――ベティの絶叫をかき消した。

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