パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
リグリアから帰還して、二週間ほどが経った。
「よし、こんなものか」
俺は工房をぐるっと見回してから、大きく息を吸い込んだ。
施工したての部屋特有の匂いが、胸いっぱいに広がる。
作業用の机や椅子は新品。
大きめに作られた棚や箱には素材や魔法陣を描いた羊皮紙、それに術式に関する魔導書などの資料が綺麗に整頓された状態で収まっている。
もちろん工房内の魔術処理関係も抜かりない。
防音、防湿、魔力漏洩防止。
呪詛や有毒素材による汚染防止系の魔術処理。
あとは空調管理や耐爆・耐熱処理などなど。
どれも必要な処理だが、耐爆・耐熱処理は特に重要だ。
聖剣錬成で扱う素材の中には、処理を間違うと高熱を発したり爆発するものも多いからな。
まあこの辺はカミラにも何度か見てもらったし、問題ないだろう。
ちなみにカミラが新居を訪れるたびに疲労困憊にさせられるので、事前に精力の付く食事を取っておく必要があるというのが、現在の主な悩みである。
もしかすると俺は、彼女が長年封印していた何かを解き放ってしまったのかもしれないな……
それはさておき。
ここまで来れば、あとはオルディスの商工ギルドや魔術師ギルドに挨拶と諸手続きを行って開業、という運びとなる。
もっともファルたちから依頼を受けて以降、工房の準備などもあって顧客獲得に動いたり、と具体的な行動は起こせていない。
どのみち聖剣を欲しがる連中は冒険者や軍人、それに貴族連中がメインになるから、まずは馴染みのある冒険者ギルドあたりから攻めていくことになるだろう。
しかし……ここまで漕ぎつけるのに、いろいろなことがあったものだ。
きっかけは、聖剣ギルドの長で工房主のザルツをぶん殴ったことだ。
……アイツは今、どうしているだろうか。
あんな横暴な運営体制ではギルドも工房も長くはないと思うが……まあ、俺の知ったことではない。
この街に来てからは、いろんな人間に世話になった。
昔から顔なじみだったカミラやマリアはもちろんのこと、ダンジョンで出会ったステラにも会うたびに癒されているし、依頼主のファルからはこんな工房付きの豪邸までもらうことになった。
もちろんセパやレインにだって感謝しかない。
俺はいろんなヤツに生かされている。
工房を眺めていると、そんな気持ちが実感としてこみあげてくる。
「……いかんいかん」
なんとなく胸が熱くなって、ブンブンと頭を振って熱を冷ます。
それからゴホンと誰もいない工房で咳払い。
そもそも……聖剣工房としては、これがスタートラインだ。
今から感極まっていてどうする。
と、そのときだった。
「ブラッド、食事ができたぞ……どうしたんだ? ひとりで頭をブンブン振って。錬成中に変な呪詛でも受けたのか?」
背後からかけられた声は、一番世話になったヤツのものだった。
怪訝な顔、というか笑いを堪えているような表情で、カミラが俺を見つめている。
どうやら自分の世界に入りすぎて、彼女が階段を
「さあ、早く。今日は工房竣工祝いだろう? 私も久しぶりにマリアとステラを手伝ったんだ。料理が冷めてしまったら、私は悲しいぞ」
「……ああ、今すぐ行くよ」
机に乗った道具類の位置を整えたあと、俺はカミラのあとをついて一階に戻った。
「ブラッド様、ご主人様、お帰りなさいませ。もう食事の用意はできておりますよ」
二人でダイニングに入ると、食卓にはたくさんの料理が並んでいた。
すでにテーブルの側にはマリアが控えており、ステラと精霊たちは席に就いている。
「ブラッドどの、おつかれさまです! お仕事はもうおわりですか?」
『あむ……もぐ……あっご主人、まだ私は食べていないですよ! もちろんちゃんと待っていましたとも」
『おそーい! あーし、お腹ぺこぺこなんですけどー?』
若干一名ほど頬がパンパンでモゴモゴした声の精霊がいた気がするが、まあ指摘することもあるまい。
「すごいな、これカミラも作ったのか?」
並べられていのは、みんな大好きベーコンと野菜のパン挟みをはじめ、ローストチキンやシチューなどなど。
ローストチキンにいたっては丸焼きである。
「ふふん。私だってやるときはやるのだよ」
ドヤ顔のカミラ。
そういえば『屍竜の谷』まで行った時も、見事なパン挟みを出してくれたんだったな。
「今回は特に腕によりをかけたからね。存分に堪能してくれたまえ」
さらにドヤァァ……と胸を張るカミラ。
「ああ、冷めないうちに頂こう」
俺は席について、さっそくパン挟みにかぶりついた。
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