パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第55話 『どっかで見た気が……』

 他所様の生垣前での立ち話はなんなので、自宅の応接間へと二人を案内。

 

 ちなみに二人は、俺が王都を去ったあとに元工房に訪ねたらしい。

 

 しかしザルツを含め誰も俺の行方を知らず、方々を探し求めたあげくどうにかこのオルディスにたどり着いたとのことだった。

 

 ……余談だがアリスはザルツのことをボロクソにこき下ろしていたから、多分ヤツは散々な目に遭ったはずだ。いい気味である。

 

 ちなみに彼女はオルディス在住の貴族に伝手があるらしく、現在二人はそこに滞在しているとのことだった。

 

「さて……僕らが兄さまを訪ねてこのオルディスまでやってきたのは……このガウルの為の聖剣を錬成して欲しいからだよ、兄さま」

 

 ソファに腰掛けたアリスが、ガウル氏を紹介する。

 

 アステル改めアリスがはるばる王都から連れてきたのは、筋骨隆々の獣人だった。

 

 三人掛けのソファの二人分を占領してなお余りある巨体である。

 

 おかげでアリスは俺の隣に座る羽目になっている。

 

 ……だがアリスよ、別に俺にべったり身体を寄せる必要も、腕を抱きしめる必要もないんだぞ?

 

 しかし、である。

 

 やっぱり十三になっても勇者と称えられても、まだまだ彼女は甘えたい盛りらしい。

 

 ……………そうだよな、アリス?

 

「ん? なんだい? 兄さま」

 

「…………いや、なんでもない」

 

 俺は努めて平静を装い、ガウル氏に視線を移した。

 

「ブラッド殿、この度は何卒よろしくお願い申し上げる」

 

 そのガウル氏といえば、ローテーブルに額がくっつきそうなほど深く頭を下げている。

 

「ああ。こちらこそよろしく頼む」

 

「…………」

 

 しばし、そのまま時が流れる。

 

 ガウル氏は、そのまま頭を上げる気配が全くなかった。

 

 どうやら彼は畏まりすぎているようだ。

 

 まだ彼の口からは語られていないものの、何かのっぴきならない事情があるのはよく分かった。

 

 だが、このままでは話が進まない。

 

「頭を上げてくれ、ガウルさん。アステル……アリスの紹介だ、どうか気を楽にしてほしい」

 

「ああ兄さま、彼は堅ぶ……少々生真面目でね。どうか大目に見てやってほしい。ガウル、兄さまは気難しい人物でも、堅苦しい人物でもない。ことさら畏まることはないよ」

 

 アリスがガウルに助け舟を出す。

 

「……では、お言葉に甘えて失礼する」

 

 ようやく顔を上げるガウル。

 

 少し緊張気味だが、彼の瞳には高潔で理知的な光が宿っている。

 

「ひとまず、彼の紹介からだ」

 

 アリスがガウル氏に手を差し出して、言った。

 

「改めて、彼の名はガウル・デ・ラ・ローヴェン。旧リグリア神聖国の聖騎士だった男でね。三年前はたまたま隣国に武官として派遣されていて、難を逃れたそうだ。以後、縁があって僕と行動を共にしている」

 

「そうだったのか。こちらこそよろしく頼む、ガウルさん」

 

 俺が差し出した手を、ガウル氏ががっちりと両手で握った。

 

「先ほどは失礼した」

 

「いや、気にしてないよ」

 

 ようやく応接間に、弛緩した空気が流れる。

 

「ひとまず、お茶を持ってこよう。……レイン、悪いが頼む」

 

「あいあーい!」

 

 俺の呼びかけに応じてレインが姿を現す。

 

「おおっ!? 何もないところから人が……ブラッド殿、彼女はもしや……」

 

 虚空から現れた彼女を見て、ガウルが目を丸くしている。

 

「彼女は聖剣の人造精霊だ。初めて見るか?」

 

「いや、以前アリス殿の精霊を見たことがある。人型ではなかったが」

 

 そういえばアリスの人造精霊は、カミラの創り出した御霊ではなかったな。

 

 たしか、王都の知り合いから譲り受けたもので、猛禽の姿をしていたはずだ。

 

「お客様、どうぞごゆっくり!」

 

 レインはぺこりとお辞儀をしてから、応接間を出ていった。

 

「ふむ。彼女が、兄さまの現在の相棒というわけだね。礼儀正しいし、美しい精霊だ。……僕ほどじゃないが」

 

 アリスは納得したように頷いている。

 

 騙されるなアリス、奴は今猫を被っている。

 

 まあ、言う気はないが。

 

「彼女が、先の戦闘で用いた聖剣だね?」

 

「そうだ。もしお前の剣が彼女に触れていたら……そこで勝負はついていたんだがな」

 

「なるほど……触れただけで相手を無力化する能力か。ということは、どうあがいても僕に勝ち目はなかったというわけだ」

 

 どうやらアリスは俺の言わんとしていることを正確に理解したらしい。

 

 ぶるり、と身震いをして苦笑して見せた。

 

「そして聖剣『(とき)斬り』を受け止めたのは、コイツだ。セパ、姿を現してもいいぞ」

 

『待ってました! 麗しきアリス様。そして勇猛なるガウル様。さきほどご主人よりご紹介にあずかりました、私が第一の聖剣にして切り札、『切断』のセパでございます。ちなみにレインは第二の聖剣でございます。そこのところ、ゆめゆめお忘れなきよう」

 

 虚空に浮かび(うやうや)しく一礼をして見せるセパ。

 

「はは、セパ殿はお喋りさんだね。僕はアリスだ、よろしくね」

 

「ガウルだ。今後ともよろしくお願い申し上げる」

 

 アリスは苦笑しながら、ガウルは畏まった様子で、彼女に応じている。

 

「ああ、コイツの言うことは話半分に聞いておいたほうがいいぞ」

 

「ご主人!」

 

「それと、レインについては戻ってきたら改めて紹介するよ」

 

 そんなこんなで、俺たちはしばし雑談に興じる。

 

 

 話によると、ガウル氏は獅子獣人という種族らしい。

 

 男性は獣の顔に立派なたてがみが特徴で、口には大きな牙が生えている。

 

 身体のほとんどは獣毛に覆われているが、毛皮の下で隆起した筋肉は本物だ。

 

 いかにも戦士然としたいで立ちである。

 

 しかしこの獣人騎士……初対面にしては妙に既視感がある。

 

 たてがみはともかく、耳の丸い感じや尻尾などは……つい最近、どこか身近に見た気がする。

 

『ご主人ご主人。なんだかこの御仁、ステラさんに似てませんか』

 

『それだ』

 

 雌雄の違いはあれど、耳と尻尾は見間違えようがない。

 

 なるほど、この戦士を体現したかのような獣人とステラは同じ種族か……以前引ったくりをとっ捕まえたときの身体能力や気持ちの強さも、頷けるというものだ。

 

 一応ガウル氏に、俺の知り合いに獅子獣人がいると伝えてみたところ、「知り合いに傭兵の夫婦がいる」という回答が得られた。

 

 それがステラの両親かどうかは分からないが、いずれが紹介する機会があれば二人を引き合わせようと思う。

 

「それで……ガウルさん。あんたはどんな聖剣を望むんだ?」

 

 しばらく雑談を続けある程度打ち解けてきたところで、俺はガウル氏に本題を振った。

 

「それはもう決まっている。祖国リグリアを取り戻すために、とにかく強力な聖剣が欲しい」

 

 うん。

 

 彼はリグリア人だし、まあそう来るわな。

 

 だがすでに旧リグリア神聖国の復興を妨げていたノスフェラトゥ……ではなく邪神は討伐済みである。

 

「すまんがガウルさん、実は……」

 

 俺はこれまでのいきさつを話した。

 

「な、なんと、ブラッド殿はリグリアを解放してしまったというのか……!?」

 

 あんぐりと顎が外れそうなほど驚愕した顔で、俺を凝視するガウル氏。

 

 事実が少々ねじ曲がって伝わっているので、訂正。

 

「いや、俺は聖剣を錬成しただけだ。正確には、俺の錬成した聖剣を振るって、ファルという冒険者……あんたのところの聖騎士団長が成し遂げたんだ」

 

「ファルネーゼ殿が!? ふむ……なるほど、それならばあるいは」

 

「はは、ははは……まさか、リグリアを。私などには思いもよらないことを成し遂げてしまうんだな、兄さまは」

 

 ガウル氏が納得したような顔になり、アリスは乾いた笑いを上げている。

 

 そうは言うものの、邪神を最終的に倒したのはファルと聖剣『不死殺し(モタ)』だからな。

 

 そこは間違えないで欲しいところだ。

 

「しかし、そうなると……当初の目的がなくなってしまったことになるな。これはどうしたものか……」

 

 少しばかり喜んだあと、ガウル氏は肩を落とし考え込んでしまった。

 

「そう難しく考えることはないと思うぞ、ガウルさん。別にリグリア解放だけが聖剣を振るう目的じゃないだろう。今度は護るために振るうことだってあるかもしれない」

 

「……それはそうだな」

 

「だから、だ」

 

 俺は言った。

 

「とりあえず、俺と戦おうか」

 

 ガウル氏の顔が「お前は何を言っているんだ」みたいになったのは言うまでもない。

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