パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第57話 『勇者の気持ち』

 日が暮れるまでガウル氏との『試合』に付き合い彼の求める聖剣のイメージがだいたい固まったそのあとは、素材集めが待っている。

 

 今回彼の聖剣を作るにあたり、足りない素材がいくつかあった。

 

 そのほとんどはオルディスの素材街やカミラに融通してもらい揃えることができるが、『戦士の遺灰』だけは別だ。

 

 これは地下墳墓系のダンジョンに潜り、手に入れる必要があった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日。

 

 俺はオルディスから少し離れた場所にある古代遺跡――『オルディス第十七地下墳墓』の前で突入の準備をしていた。

 

「ふぅん。兄さまとデ……ダンジョン攻略なんて、何年ぶりかなあ」

 

 俺の隣で、アリスがふわふわの金髪を風になびかせながらダンジョンを見上げている。

 

「なあアリス……別に素材集めなんかに付き合わなくてもいいんだぞ? これは聖剣錬成師の仕事の一つだからな」

 

 今はレインとセパがいるからな。わざわざパーティーを組む必要もない。

 

 『戦士の遺灰』自体もそれほど入手困難な素材というわけでもないから、俺(と精霊たち)だけで来ようと思っていたんだが……

 

 昨日ガウル氏との模擬戦が終わった後に素材の話をしたら、なぜか彼女がついてくることになった。

 

 そんな俺の言葉に、アリスが言い返してくる。

 

「何を言っているんだ兄さま。この僕が、こんな絶好の機会を逃すわけがないじゃないか」

 

「絶好の機会? なんの話だ?」

 

「……いや、ゴホン! もちろん兄さまの仕事ぶりを間近で見る機会、だよ。ほかに何か意味があるとでも?」

 

 じろりとアリスに目をやると、彼女は言い訳じみた言葉を吐きながら俺から視線を逸らした。

 

「そういえばガウルさんは? 今日は姿が見えないが」

 

「彼はちょっと所用があってね」

 

 アリスが目を逸らしたまま、言葉を続ける。

 

「ガウルはリグリア武官の仕事を全うしたいと、衛兵隊の詰め所へ視察と挨拶に向かった。それと……奥さんからダンジョン探索禁止令が出ている」

 

「なんだそれ」

 

「ダンジョン探索は地上で行動するよりずっと危険だろう? 王国に逃げ延びてまで、そんなことをする必要はない、ということらしいよ。彼は来たがっていたけれど」

 

 たしかに奥さんの言い分はもっともである。

 

 家族持ちの冒険者がダンジョンで行方不明になると悲惨だ。

 

 死体は帰ってこないし、よしんば死体が見つかったとしても、魔物に食い荒らされた体の一部だけだったりする。

 

 子供がいる家庭だと、目も当てられない。

 

 だから冒険者は結婚を機に引退することが多い。

 

 まあガウル氏は騎士である以上戦うのが仕事だし、敵を追ってダンジョンに入ることだってあるだろう。

 

 正直、禁止する意味はない気がするが……他所様の家庭に首を突っ込むつもりはない。

 

「なら、仕方ないな」

 

 俺はそうとだけ口にした。

 

 とはいえ、である。

 

 俺はセパとレインを携えているとはいえ、アリスと二人きりである。

 

 これはよくない。

 

 昨日の打ち合わせの時もそうだったが、どうもアリスは、気が付けば俺をじっと見ていることが多い。

 

 そして俺と目が合うと、慌てて目を逸らすのだ。

 

 ……昨日の奇襲といい、彼女は俺から一本取る機会を伺っているふしがあるのだ。

 

 だから、こういう状況ではガウル氏にいて欲しかったというのが本音である。

 

 まあ俺も彼女の元・剣の師匠として、不意打ちなんぞを喰らうつもりはないが。

 

 それはさておき。

 

「ときにアリス」

 

「なんだい兄さま?」

 

「その恰好はなんだ」

 

 俺はアリスの装備を眺め、言った。

 

 もちろん彼女はそれなりのガチ装備である。

 

 武器は当然、聖剣『(とき)斬り』。

 

 防具は高位クラスの魔術処理を施した軽鎧。

 

 盤石だ。

 

 ただ、その軽鎧は……かなり不安を覚えるデザインだった。

 

 なぜか重要な部位である鎖骨や腹部や背中が隠れてないし、丈の短いスカートらしき布からは、太い動脈の通る大腿部がすらりと伸びている。

 

 アリスは目を逸らしつつ、言った。

 

「それはもちろん、兄さまに見せ……オルディスは『ダンジョン都市』だし、ダンジョンに潜る機会もあろうかと王都の武具屋で特別に造らせた逸品だよ。防御力は問題ない」

 

「…………そうか」

 

 たしかに鎧に施されている魔術処理は本物だ。

 

 術式は高位防御魔術で、オーガにぶん殴られても衝撃が身体に通ることはないだろう。

 

 そもそも彼女自体の耐久力も、俺が知っている頃ですらオーガ並みだった。

 

 少々不安になる外見であることを除けば、不安要素は存在しない。

 

 ただ……である。

 

 いくら王国最強格の『勇者」とはいえ、彼女はまだ十三歳の少女なのだ。

 

 本音を言わせてもらえば、兄貴分としてはもう少しガッチリ防御を固めてほしいところだった。

 

 そんな俺の視線に気づいたのか、アリスがジィ……と半目で睨んできた。

 

「なんだい兄さま。そんなに僕の身体を舐め回すように見られると、その……こうふ……困るんだけど」

 

 お前の身体じゃない。凝視したのは鎧の方だ。あとモジモジするな。

 

「……念のため聞くが、その軽鎧、防御力大丈夫なんだよな?」

 

「はあ……もちろん大丈夫だよ。オーガの渾身の一撃だって蚊に刺されたようなものさ」

 

 なぜかアリスが大きくため息をつき、ガックリと肩を落とした。

 

 ため息を着きたいのはこっちだ。

 

 実のところ、彼女がどういう感情を俺に対して抱いているかくらい、分かっている。

 

 そのうえで、俺は彼女の気持ちに応えるつもりはない。

 

 そもそも、彼女はまだほんの十三歳の少女だし、これまでずっと弟分として扱ってきた関係性なわけで。

 

 まあ、そろそろ背伸びをしたいお年頃なのは分からないでもないが……

 

 まあ、さすがにそれを口に出して言うつもりはないが。

 

「そういえば、アリス。お前、本格的なダンジョン探索は初めてだろ。五年くらい前に散歩ついでにダンジョンに連れて行ったときはピーピー泣きながら俺の後をついてきたもんだが……今や『勇者様』だもんな。立派になったもんだ」

 

「はは……子供時代の話はよしてくれよ、兄さま。それに王国が勝手に付けた称号なんてどうでもいいよ。自由に生きる、それだけが僕の願いだからね」

 

 アリスもさすがにこれ以上絡むつもりはないらしい。

 

 俺がからかうと、苦笑しつつも真面目な顔で答えてくれた。

 

「『兄さま」としては、お前の成長が嬉しいんだよ。……オルディスへようこそ」

 

 俺はアリスに手を差し出した。

 

 まさか彼女がオルディスまでやってくるとは思わなかったし、まして期間限定の剣の師匠を終えたら顔を合わせる機会が巡ってくるなんて夢にも思わなかったからな。

 

 あのときは無理矢理男として育てられた反動からか、手の付けられない腕白坊や(・・)だったのだが……立派な姿が拝めて、兄さまは嬉しい。

 

「……うん。しばらくここに滞在すると思うから、よろしく頼むよ」

 

 彼女は苦笑しつつも俺の手をぎゅっと握り返してくれた。

 

「さて、そろそろ行くぞ。ここの魔物は結構強いから、心してかかれよ」

 

「はい、兄さま!」

 

 アリスの元気な返事が、遺跡に響き渡った。

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