パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第59話 『最下層に蠢く巨体』

 第二階層に到達してすぐ、魔物が出現した。

 

『カロロロロ……』

 

 墳墓の通路の先から姿を現したのは、スケルトン兵だ。

 

 数は五体。

 

 どうやら生前は墓守か警備要員だったらしい。

 

 どの個体も槍や剣を所持している。

 

 きちんと隊列を組んで、こちらの攻撃を警戒している。

 

 スケルトンなどの人型魔物は、連携が巧みだ。

 

 ノープランで飛び込めば、よってたかって袋叩きにされてしまうだろう。

 

「僕が行く」

 

 さっそくアリスが前に出た。

 

 聖剣『(とき)斬り』を抜き放ち、ゆったりと構える。

 

「油断するなよ。奴らの武器は『腐れの呪詛』を持っていることが多い。喰らうと治療が面倒だぞ」

 

「もちろん分かってるよ。僕も『リグリア戦役』で嫌というほどアンデッドと戯れてきたんだ。五体や十体、物の数ではないさ。フゥ……ッ!」

 

 アリスが姿勢を低くして、大きく息を吸い込む。

 

 彼女の魔力が異様に膨れ上がるのが分かった。

 

「――『刹那百嵐(せつなびゃくらん)』」

 

 アリスが小さく呟く。

 

 それと同時にスケルトン兵の群れへ飛び込んだ。

 

 とんでもなく素早い踏み込みだ。

 

 スケルトン兵は反応できていない。

 

 空虚な眼窩が小柄な少女に向けられ――

 

 ガシュッ!

 

 通路に、何かが壊れる音だけが響き渡った。

 

 アリスは剣を振るっていない。

 

 ……いや、違う。『力』を使ったらしい。

 

 飛び込んだときの姿勢からわずかにズレていたから、分かった。

 

 ――ボシュッ!

 

 一瞬遅れて、五体のスケルトン兵が爆発四散した。

 

 もちろん武器もバラバラだ。

 

 いったい何回斬りつければこうなるのか。まったく見当もつかない。

 

『…………――――』

 

 ただ斬りつけただけではすぐに再生するスケルトンでも、ここまで徹底的に破壊されてしまえばどうしようもない。

 

 やがて五体分の骨片が魔素に変わり、淡い光とともに虚空に溶け消えていった。

 

「……ふむ、こんなものかな」

 

 チラチラと俺を見ながら、アリスが剣を鞘に納めた。

 

 どうやら褒めてほしいようだ。

 

 ……仕方ないな。

 

「やるじゃないか、アリス」

 

 俺がそう口にすると、彼女は明らかに機嫌がよくなった。

 

 顔をほころばせると、先ほどの技を解説してくれる。

 

「ふふふ……そうだろうそうだろう! さっきのは、この前僕が編み出した『刹那百嵐(せつなびゃくらん)』という新技なんだ。『(とき)斬り』の能力を十全に生かした文字通りの百連撃で、コツは腰から生み出した力を手首までしっかり伝えることで、これにより五秒の停止時間の中で効率的に斬撃を繰り出せるというわけさ。それと――」

 

「そうかなのかすごいな」

 

 別に『刻斬り』の力を借りなくても無双できそうな技である。

 

 というか、俺を襲撃したときにその技を使えば勝てていたのでは? と思わなくもない。

 

 ……いや、それは難しいか。

 

 一瞬浮かんだ可能性を、即座に打ち消す。

 

 さっきの技は俺のように多少魔術を齧っているヤツには魔力の膨れ上がり方が異様すぎて、何かをしでかすつもりだということを簡単に察知できてしまう。

 

 だから、少なくとも俺には通用しない。

 

 技を繰り出そうとした力を溜めた瞬間、即座に距離を取るからな。

 

「――で、この技を習得するために、僕は雨の日も雪の日も剣を振るい続けて――」

 

 彼女の解説はなおも続いている。

 

 放っておけば、明日の朝まで語り続けそうな勢いだ。

 

 剣に興味がないわけではないが、彼女以外に再現不可能な技の解説を聞いていても仕方がない。

 

 俺は話題を変えることにした。

 

「そういえば『(とき)斬り』の精霊は元気か? 姿を見せていないが」

 

「む……そういえば」

 

 アリスが気づいたように、手に握った『刻斬り』を見つめる。

 

「彼は用がないと姿を現さないからね。出ておいで、ルッコ」

 

 アリスの呼びかけに応じて、彼女の肩に一羽の鳥が姿を現した。

 

 見た目は猛禽……(はやぶさ)である。

 

「久しぶりだな。俺のこと覚えているか?」

 

「ほら、ルッコ。兄さまに挨拶」

 

 隼――ルッコが俺をじっと見つめ、それから軽く頭を下げた。

 

『……………我が創造主よ。久しいな』

 

 ルッコが嘴を動かし、声を出した。

 

 鳥の姿ではあるが、やたら渋い声である。

 

 あと猛禽はやっぱりフォルムがカッコイイ。

 

 ルッコの御霊は王都でも数少ない、腕利きの精霊術師から譲り受けたものだ。

 

『わあっ……! 鳥さんだ! 可愛い!』

 

『……ぴっ!?』

 

 すぐ近くで金色の何かが出現したと思ったら、ルッコに飛び掛かっていた。

 

 俺に襲い掛かってくるときのアリス並みの電光石火である。

 

「あっ、こら! 勝手に実体化するな!」

 

 もちろんその『何か』とはレインである。

 

『……ぬうっ!? 創造主、この金色の人型魔物は一体……ッ!?』

 

 レインのモフられながら、ルッコが助けを求めてくる。

 

「レイン、ステイ、ステーイ!」

 

 慌ててレインを羽交い絞めにしてルッコから引きはがす。

 

『ああ……もふもふが……』

 

 レインが名残惜しそうに手を伸ばしているが、コイツは可愛いものに大して見境がなさすぎだろ!

 

 そういえば以前はステラにも襲い掛かっていた気がする。

 

『まったくレインときたら……そんなもふもふごときに取り乱していては、ご主人の聖剣は務まりませんよ? それに、ここはダンジョンです。もふもふを餌にした罠があるかもしれません。私のように、もふもふに対してもっと堂々と構えていなければなりませんよ』

 

 気が付けばセパも実体化していた。

 

 困った子供を見るようにレインを眺め、呆れた表情で肩をすくめている。

 

 ……ルッコのお腹の羽毛に埋もれながら。

 

「…………!!!」

 

 俺は電光石火の早業でセパを掴むと、ルッコから引きはがした。

 

『あっ……もふもふ……もふもふが……!!』

 

「二人とも、俺のバカ聖剣どもがすまん……ッ!」

 

 これには俺も彼女と(ルッコ)に頭を下げるしかなかった。

 

 まあ、アリスはクスクス笑いながら、精霊たちのやりとりを眺めていたが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 レインとセパに実体化禁止令を言い渡し、ダンジョンを進むことしばし。

 

 最下層に到達したところで、俺は奥から響いてくる異音……いや、謎の咆哮に気づいた。

 

『オオオオォォン………ガオオォォォン…………』

 

 階層に入ったときにはわずかな異音にしか聞こえなかったそれが、奥に進むにつれ鮮明になってくる。

 

「にいさま、あの声……」

 

 アリスも気づいたようだ。

 

 怪訝な表情で、俺に尋ねてくる。

 

「魔物の吠え声だな。何かの獣か?」

 

 それはどう考えても、生きている魔物の咆哮だった。

 

 ここまでの道中、スケルトン兵以外に見なかったが……最下層は違うのだろうか?

 

 冒険者ギルドの依頼書には、特別強力な個体が存在するとは書いていなかったはずだが。

 

 とういえ、往々にして依頼書の記載とは違う魔物が出現することはある。

 

「……注意して進むぞ」

 

「……うん」

 

 通路を慎重に進む。

 

 罠はともかく、なぜか魔物は出現しなかった。

 

 そして、最奥部と思しき場所に到達する。

 

『ガオオオォォォン……ギャオオオオオオォォォォン…………』

 

「なんだあれは」

 

 最奥部は、王族の墓所のような場所だった。

 

 他のダンジョンでもよく見る構造で、広間状。

 

 目当てである、戦士たちの亡骸が眠る墓もある。

 

『ガアアアァァァッ!!!』

 

 通路から顔を出した瞬間、業火が迫ってきた。

 

「……危ねえっ!」

 

「ひゃっ!?」

 

 とっさにアリスを通路に押し倒す。

 

 ――ゴォッ!

 

 耳元を轟音が通り過ぎ、灼熱が背中を炙っていく。

 

「ぐっ……」

 

 熱いを通り越してもはや痛い……が、魔術処理により防御力を底上げされた鎧のおかげで火傷を負うほどじゃない。

 

「に、兄さま!? こ、こんなところで……嬉しいけど、僕も心の準備が……」

 

 俺に覆い被られた格好のアリスが、顔を赤らめ涙目になりながらそんなことを言ってくる。

 

 …………妹分はお年頃である。

 

 が、

 

「今はそういう冗談に付き合う暇はない。見ろ」

 

「…………チッ」

 

 舌打ちは聞こえなかったことにして、俺は通路の奥を指さした。

 

 そこには、居てはいけない存在が暴れていた。

 

『ガアアアァァッ!!! ゴアアアァァァッ!!』

 

 広間の半分を埋め尽くす巨体。

 

 自身が吐き出す火焔ブレスで黒く輝く硬質な鱗。

 

 家より大きな体躯。

 

 蝙蝠のような皮翼は、広げれば広間の端から端までを覆い尽くすほどだ。

 

 顔つきは獰猛を体現したかのような表情で、(あぎと)には鋭い牙がびっしりと並び、そこからチロチロと火の粉が噴き出している。

 

 ドラゴンである。

 

 どこからどう入り込んだのかまったく分からないが、墓所の広間には真っ黒で巨大なドラゴンが詰め込まれていた。

 

 そして……

 

『ガオオオオオォォン! ギャオオオオオオォォォ――――ッ!!』

 

 そのドラゴンは怒り狂いながら、墓所に湧き出るスケルトン兵たちをひたすらブレスで焼き払ったり、丸太のような前脚で薙ぎ倒したりしていた。

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