パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第61話 『負け竜 下』

『ナ、ナゼ……! オマエタチ、滅ビテイナイ……ッ!?』

 

 ブレスをかき消されたドラゴンが、慌てふためいている。

 

 どうやらヤツの中では、さっきの一撃できれいさっぱり俺たちを焼却する予定だったらしい。

 

 ところがどっこい、俺たちは健在である。

 

 煤一つ付いていない。

 

 アリスが得意げな顔でブン、と聖剣『(とき)斬り』を一振り。

 

「兄さまは最強だから当然だね。……そして僕の技は『百花繚乱』という。文字通り、一瞬のうちに百回の斬撃を同時に繰り出す技だよ。エルダードラゴンのブレスだって、このとおり」

 

 解説しながら、またもや彼女がチラチラ俺を見てくる。

 

 ……やっぱりここは褒めてやるところだろうか。そうなんだろうな。

 

「……お前もなかなかやるじゃないか、アリス」

 

「くふふっ!」

 

 アリスはとても嬉しそうな顔になった。

 

 ……で、前の技とどう違うんだ?

 

 あと百回斬るとブレスが霧散する理屈も分からない。

 

 だがまあ……俺の錬成した聖剣だしな。

 

 多分そういうこともあるのだろう。使い手もアリスだし。

 

「もう終わりかい? だったらこっちから――」

 

『グッ……マダダ! ナラバ奥ノ手……! コレデドウダ……ッ!』

 

 ドラゴンが咆哮。

 

 今度はヤツの周囲に、まばゆい六つの光球が出現した。

 

 大きさは、それぞれドラゴンの頭部ほどあり、まるで太陽のような輝きを放っている。

 

 あれも喰らうと多分一撃で死ぬヤツだ。そう確信する。

 

 だがアリスは泰然と『(とき)斬り』を構えながら、俺の前に進み出た。

 

「ここは僕が」

 

 ちらりと振り返り、そう言った。

 

 どうやら俺にいいところを見せたいらしい。可愛い奴め。実力は可愛くないが。

 

『グッ……死ネェイッ!!』

 

 アリスの圧力に少しだけ怯んだドラゴンだったが、すぐに持ち直す。

 

 己を鼓舞するかのように咆哮すると、六つの光球を俺たち目がけて放ってきた。

 

 視界が強い光で埋め尽くされる。

 

「だから無駄だと言っただろう! ――『無明千刃』。この技は千の刃を束ねて飛ばす。そんなオモチャ、すぐに消してやる」

 

 アリスの姿が消えた。

 

 ザンッ! バシュッ!

 

『ウソ……ダ……アリ……エナイ……!!』

 

 六つの光球がバラバラに切り裂かれて消え、アリスが俺の隣に戻ってきた。

 

 その間、わずか三秒。強すぎる。

 

「ねえねえ兄さま、今の見てた?」

 

「おう、見てたぞ」

 

 嘘です。見えませんでした。

 

 つーか『刻斬り』で時間を停めたら知覚できるわけがないだろ。

 

 兄貴分の威厳を保つため、言うつもりはないが。

 

「もう終わりかな?」

 

 アリスが聖剣を突き出し、ドラゴンを挑発する。

 

『ヒイ……ッ!? ナラバ……オトコノ方ダッ! 死ネッ!』

 

 ゴウッ!

 

 どうやらアリスに勝てないと悟ったドラゴンが、今度は俺に尻尾を叩きつけてきた。

 

 が、こちらを舐めてもらっては困る。

 

「遅い」

 

 迫りくる丸太のような尻尾を、レインで斬り払う。

 

 ドラゴンの尾は最大出力の『魔力漏出(ドレイン)』で瞬時に分解され、魔素となり虚空へと溶け消えた。

 

 ……ん? 尻尾が消えた?(・・・・・・・)

 

 わずかな違和感が、俺の脳裏をよぎる。

 

『ヒイイイイイィッッ――――ッ!?!? ナンダ貴様ラッ!? ナンダソノ武器ハッ!?』

 

 完全に恐慌状態になるエルダードラゴン。

 

 あれ……コイツらって、こんな弱かったっけ?

 

 が、アリスは気づいていないようだ。

 

「ふふ……怖いのかい? もう打つ手なしかい? これはね、兄さまが僕の誕生日にくれた『(とき)斬り』という聖剣だよ」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべ、聖剣『刻斬り』をブンブン振り回しながらエルダードラゴンに近づいていくアリス。

 

 コイツ……ノリノリだな!

 

『セイ……ケン……聖剣……ダトッ!? 奴ト同ジ武器ダト……! アリエナイッ……!?』

 

 ドラゴンはすでに戦意を喪失したようだ。

 

 あとずさりながら、うわごとのように何かを呟いている。

 

「さあ……もう終わりだ、ドラゴン。僕と兄さまを『(つがい)』と評したことは褒めてやろう。とても嬉しかったよ。だけど、今ここで死ね」

 

 アリスが『(とき)斬り』を大きく振り上げた。

 

 うーん、さすが『勇者』。

 

 魔物に対して一切の容赦がない……!

 

『グッ……マダダ! コンナ場所デ、振ラレタママ(・・・・・・)死ンデタマルカアアアァァァッ!』

 

 ドラゴンが吼えた。

 

 それと同時に、ヤツの身体がまぶしいほどに発光しだす。

 

 魔力が凝縮していくのが分かった。

 

 先ほどとは比べ物にならない、目が眩むほど閃光だ。

 

 視界が真っ白に輝き、何も見えなくなる。

 

「クソッ! アリス、大丈夫か!?」

 

「ぼ、僕は大丈夫! けど……これじゃ何も見えない!」

 

 閃光は、ほんの一瞬だった。

 

 すぐに視界が元に戻る。

 

 そこには、何もいなかった。

 

 広間には、この墳墓の主が眠る石棺がひっそりと佇んでいるだけだ。

 

 そこで俺たちは何が起きたのか察した。

 

「……まさかあのドラゴン、逃げたの!?」

 

「……みたいだな。信じがたいが」

 

 エルダードラゴンは誇り高き竜だ。

 

 人間相手に逃走を選ぶなんて、想定すらしていなかった。

 

「…………とにかく、素材を回収して帰ろう」

 

「…………そうだね」

 

 まるで悪戯神に騙された気分で、俺たちは素材を回収して帰路についたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「…………」

 

 俺はダンジョンのもと来た道を戻りながら、考える。

 

 実のところ、エルダードラゴンが逃走を選んだことは分かっていた。

 

 レインとセパは閃光で目がくらむことはない。

 

 だから彼女たちが教えてくれたのだ。

 

『それでご主人、あの幻術で大きく(・・・・・・)見せかけていた(・・・・・・・)ミニドラゴン(・・・・・・)は逃がしてよかったのですか?』

 

 念話で、セパが問いかけてくる。

 

『別に、倒す必要はないだろう。俺たちは素材を回収できればそれで目的を達成できる。それに相手のサイズはともかく、高位の竜種だったのは間違いない。連中は基本的に仲間や家族との絆が深い。殺せば苛烈な報復に晒されることになる』

 

『そうなんですか?』

 

『ああ。最後の最後で、アリスも止めるつもりだった』

 

 俺は後ろを歩く彼女をチラリと見やり、先を続ける。

 

『昔、俺の知り合いの冒険者がドラゴン狩りをしてエルダードラゴンどもに目をつけられたことがあってな。……で、俺もそのとばっちりで散々な目に遭ったんだよ』

 

『なるほど……それならば、確かに見逃した方が賢明ですね』

 

 もっとも、ヤツを討伐しなかった理由は、他にもあった。

 

『聖剣……アノ冒険者ト、同ジ武器……ソレガアレバ、アルイハ……』

 

 そんな呟きが、ヤツが逃げ去るときに聞こえたからだ。

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