パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第64話 『昇級試験 上』

「ブラッドさん、昇級試験を受けてください」

 

 聖剣を受け取ったガウル氏がリグリアに向けて旅立った、その翌日。

 

 冒険者ギルドに顔を出したら、開口一番そう切り出された。

 

 声の主は、シルさん。

 

 以前、俺の冒険者再登録を手続きしてくれた女性職員である。

 

 とはいえ、である。

 

 俺は別に冒険者等級を上げるつもりはなかった。

 

 たしかに、ゆくゆくは等級Cくらいまで上がればいいかな、くらいには考えているが……喫緊の課題というわけではない。

 

 というか、今は聖剣工房の運営を軌道に乗せる方が重要である。

 

 冒険者等級なんぞ二の次三の次。

 

 というわけで、昇級試験はパスの方向で。

 

「すまん、シルさん。せっかくのところ悪いんだが、別に俺は冒険者の等級とか上げる気はない。……つーか俺、聖剣錬成師だし」

 

「だからですよ!」

 

 俺とシルさんを隔てるカウンターをバン! と叩き、彼女が身を乗り出してくる。

 

 シルさん、実はなかなかの美人さんなのだが……今の顔は目がキマっていて怖い。

 

 だが……俺が等級を上げなければならない理由がどうしても思いつかなかった。

 

「その顔……なんでこんなことを言われるのか分からない、という表情ですね?」

 

 図星である。

 

 そもそも今日冒険者ギルドに顔を出したのは、単に挨拶のためだ。

 

 聖剣工房の方もそれなりに設備が揃い、依頼を受け入れる体制が整ってきたことと、ぼちぼち実績ができてきたこともあって、ちょっとした営業も兼ねて冒険者ギルドに顔を出した……それだけのことである。

 

 当然、言われるまで昇級のことなど頭の片隅にすら存在していなかった。

 

 つーか、等級が上がるようなこと、していただろうか?

 

 適当に素材集めばかりしていた記憶しかないんだが。

 

「一応、理由を聞いてもいいか?」

 

「……本当に分からないんですか? まったく貴方という人は……」

 

 もはやあきれ顔のシルさん。

 

 彼女は盛大にため息をついたあと、奥から書類の束を持ってきてカウンターの上にドサッと置いた。

 

「これは、貴方のこれまで受注した依頼の報告書です」

 

「おお、結構こなしてきたもんだな」

 

 確かに、見覚えのある書類ばかりである。

 

 なんだかんだで、聖剣錬成には素材が必要だったからな。

 

 素材屋で手に入らなかったり、買い付けるよりも安く手に入るものはちょくちょく依頼をこなして集めていた。

 

 チリも積もればなんとやら、である。

 

 だが、シルさんの感想は俺と違うようだった。

 

「『おお、結構こなしてきたもんだな』じゃありませんよ! 何考えてるんですか貴方は!」

 

 俺の声真似をしたあとに、ついに怒り出してしまった。

 

「まずこの依頼! 上位個体のアンデッド討伐について未報告です」

 

 彼女がカウンターに積んだ書類の束から一枚引っ張り出してきて、俺の鼻先に突き付けてきた。

 

 見覚えのあるやつだ。

 

 たしか、血晶スライムの核を採取する依頼だっただろうか?

 

 たしかに魔剣持ちのアンデッドを倒した記憶はある。ステラを助けた一件だから覚えている。

 

 まあ、魔剣スケルトン討伐は依頼内容に含まれてないし、とりあえずその時対応してくれた職員にサラっと伝えただけだった。

 

 それで済んだと思ったのだが……どうやらシルさん的には不可だったらしい。

 

「さらにこれです!」

 

 シルさんの勢いは止まらない。

 

 さらに書類の束から、今度はもうちょっと分厚い報告書を引っ張り出して、バン! とカウンターに叩きつけた。

 

「こっちはそもそも貴方の等級では本来危険なはずの、鋼甲蜘蛛の討伐依頼です。そしてこれはそのとき同行した他パーティーの報告書ですが、これには貴方がオーガセンチピード討伐の主要な役割を担ったと報告があります」

 

 彼女は報告書を開いて、該当箇所を指し示す。

 

 ちなみに等級より上の依頼は、受けようと思えば受けられる。

 

 ヘタを打つと死ぬので普通は受けないが、俺は完全な駆け出しではないうえにレインとセパがいたからな。

 

 シルさんが続ける。

 

「ですが、貴方の報告書にはそんな記載が一切ありませんね。これは一体どういうことですか?」

 

「それ……報告義務あるのか? だいたい、オーガセンチピード討伐は俺の依頼内容じゃないぞ」

 

「あるに決まってるでしょう! 危険度Bの魔物は、遭遇したら報告書にその旨を備考欄に記載するのが常識では? そもそも、B相当の魔物を討伐した事実を書かない意味がありますか? BですよB!」

 

 いや、知らんがな……

 

 絶対ローカルルールだろそれ。

 

 (とど)めを刺したのはファルだし、俺はせいぜい彼女をオーガセンチピードの毒針から護った程度だ。

 

 いずれにせよ、何か書くほどのことをした覚えはない。

 

「そもそも、本来ならば最低でも等級Bランク以上の方だけで組んだパーティーで受けるべき依頼内容ですよ!? だというのに、貴方の等級はFのままです! ……本当に、貴方は冒険者の等級を一体なんだと思っているんですか!?」

 

 一気にまくしたてられた。

 

「おお……なんかすまんな……」

 

 確かに彼女の指摘の通り、俺は依頼に関する必要最低限の事項しか報告していなかったのは事実だ。

 

 丁寧に書いても、別にメリットないしな。

 

 昇級とか考えてなかったし。

 

 ただまあ、そこまで言うのならキチンと書くのはやぶさかではない。

 

 毎度毎度、こんなふうに彼女に詰められたらたまらんからな。

 

 というか、他パーティーの依頼報告書との整合性までチェックしてるのか?

 

 細かすぎるだろこの人……

 

「……コホン。とにかく、です」

 

 シルさんは咳払いをしてから、先を続けた。

 

 なんか怖い笑顔を浮かべながら。

 

「貴方の現在の等級はFです。いいですか、最低等級のFですよ? これでは、今までの実績に全く合っていません。こういうの、本当にダメなんですよ。あまりに低等級の方が難度の高い依頼をバリバリ受けられていると、冒険者ギルドが設定した等級の意味がなくなってしまいますし、まだ自分の実力がよく分かっていないルーキーさんたちが貴方を見て、勘違いしてしまいます」

 

 そういわれると、弱い。

 

 まあ、彼女の主張はもっともである。

 

「……わかった。今後は気を付けるよ」

 

「ご理解いただけたのなら、幸いです」

 

 彼女が続ける。

 

「よって可及的速やかに昇級試験を受けて頂き、適正な等級まで昇級していただきます。……ああ、この要請はギルマス権限により発せられていますから、拒否権はありません」

 

「えぇ……」

 

「そんな嫌そうな顔をしても逃がしませんよ?」

 

 すでに彼女は身を乗り出し、俺の腕をガッシリと掴んでいる。

 

 逃がしません、というか逃げられないんだが?

 

 つーか無駄に握力強くないですかねこの人……そういえば元冒険者だったとか聞いたな。たぶんジョブは重戦士だ。狂戦士(バーサーカー)かもしれない。

 

「ここに了承のサインをしてください。試験はギルドの地下修練場で執り行います。等級は試験の成績により公正に判断いたしますのでご安心ください」

 

 どこにも安心する要素がないんだが?

 

 はあ……まあ、こうなれば致し方ない。

 

 冒険者ギルドにもなんだかんだで世話になっているし、むげに断るわけにはいかないだろう。しがらみ、というヤツである。

 

 まあ、適当に済ませておけばいいとは思うが。

 

「日取りは追ってお知らせいたしますが……手を抜いたら再試験ですよ?」

 

 俺の心を見透かしたかのように、シルさんがジト目で睨んできた。

 

「……全力を尽くすよ」

 

 そんなわけで、昇級試験を受けることになった。

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