パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第70話 『早すぎた邂逅』

「へー。オレを倒すために聖剣を、ねえ。人間に化けてみたりオレに面と向かってケンカ売ってみたり、おもしれ―ドラゴンだな、お前」

 

 俺がリンドルムを紹介すると、フレイは俺たちのテーブルの空いている席にドカッと腰掛け、彼女をギロリと睨みつけた。

 

 フレイは間違いなく美女の類であるが、纏う空気は武人のそれだ。

 

「ヒッ!? …………ッ」

 

 当然ながら、リンドルムは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。

 

 だがすぐに気丈な態度を取り戻し、逆にフレイを睨み返した。

 

 そいういえばリンドルムは、フレイにボコボコにされたせいで惚れたんだったっけ。

 

 というか、コイツの好きな竜狩りってフレイ(女性)だったのか……

 

 ふつうにイケメン高ランク冒険者とか、いぶし銀な渋いオッサン傭兵とかだと思っていたぞ。

 

 まあ、愛だとか恋だとかそういう問題以前にそもそも人種どころか種族が違うし、性別なんぞ些細な問題のような気もするな……

 

 リンドルムがいいと言うならば、俺に異論はない。

 

「……我を覚えているナ、『竜狩り』フレイディア。デグ山脈のリンドルム、ダ」

 

 フレイに視線を向けたまま、リンドルムがそう口にする。

 

 デグ山脈……聞いたことのない地名だ。

 

 リンドルムは王国の外からやってきたと言っていたから、隣国とかの山だろうか。

 

 ちなみに彼女の口ぶりは『ここで会ったが百年目』みたいな感じだが、視線の方は違う。

 

 彼女がフレイに向ける視線は、完全に恋する乙女の瞳だった。

 

 いや、もうちょっと獣欲めいた、ギラついた目のような気もする。

 

「……ほーん」

 

 一方フレイの方はというと、リンドルムの熱視線(?)を受けてなお、涼しい顔をしている。

 

 二人のにらみ合いはしばらく続き……最初に口を開いたのは、フレイだった。

 

「……で、お前、いつ倒したドラゴンだったっけ?」

 

「ナッ……!?」

 

 フレイの言葉が予想外すぎたのか、身体がのけぞるリンドルム。

 

 が、すぐに体勢を立て直し、彼女に食ってかかった。

 

「よもや忘れたトハ言わせぬゾ! つい半年前のことだろうガ! 我のねぐらニいきなり踏み込んデ好き勝手暴れまわっタあげク、我をボコボコに叩きのめシ……我の求愛をむげに断ったであろうガ!」

 

「そ、そうだっけ……? つーか、求愛……?? そんなことあったか?」

 

 フレイの目が泳ぐ。

 

 ……あ、コイツ覚えてないな。

 

 確かに、物事というのはやられた方はずっと覚えているものだが、やった方はきれいさっぱり忘れてしまっているものである。

 

 そして、フレイはそこを誤魔化すタイプではなかった。

 

「悪いな。オレ、倒した竜のこととか覚えておく主義じゃないんだよ。なんか匂いは覚えてるような気がするんだが……半年前に食ったパンの味とか覚えてるか? 覚えてないだろ?」

 

「そ、そんナ……!」

 

 頭に鉄槌でも喰らったかのように、リンドルムがぐらりと揺らいだ。

 

 このドラゴン、完全に瀕死である。

 

 まあ、想い人に「お前はパン以下の存在だ」と断じられたら、俺でも心が折れると思う。

 

 とはいえ、俺も彼女から依頼を受けた身である。

 

 ここで放置するのは寝覚めが悪い。

 

「なあフレイ。お前はこいつのことを覚えてないかもしれないが、お前との再戦に燃えているんだ。そのために、俺に聖剣錬成を依頼してくるほどにな。せめて今日から覚えてやってくれないか?」

 

「うーん……いやまあ、オレにケンカ売ってくる竜は山ほどいたが……聖剣を持って再戦を挑んでくるヤツはいなかったな」

 

「それじゃア……!」

 

 リンドルムの顔にちょっとだけ生気が戻った。

 

 だが、フレイの顔はまだ難しい顔をしたままだ。

 

「で、コイツ、どんなもんよ? ブラッド、お前の口ぶりだと、このかわい子ちゃんのこと面倒見てやってるんだろ?」

 

「まあ、そうだな」

 

「で、強いのか?」

 

「…………ダメだな」

 

 ダメダメである。

 

 俺もまさか、フレイが相手だとは思っていなかった。

 

 せいぜい強くても等級A程度の冒険者だとか、流しの傭兵団だとか、その辺を想定していたからな。

 

 残念だが、彼女が相手ではリンドルムには万に一つも勝ち目はない。

 

 それは聖剣があっても変わらないだろう。

 

 それだけの、絶対的な差があった。

 

「そ、そうカ……」

 

 俺の態度を見て、リンドルムも悟ったようだ。

 

 もしかしたら、彼女自身が一番よく分かっていたのかもしれない。

 

 絶望的な表情で、ガックリと肩を落としてしまった。

 

 とはいえ、である。

 

 俺は聖剣錬成師としての矜持がある。

 

 フレイに勝てると(うそぶ)き、リンドルムに聖剣を引き渡すような真似をするつもりはない。

 

「…………」

 

「…………」

 

「だが、まあ……あれだ」

 

 気まずい沈黙の中、切り出したのはフレイだった。

 

「ブラッド。お前がコイツをバキバキに鍛え上げるってんなら……その再戦、受けてやってもいい」

 

「それは本当カッ!?」

 

 シュンとしていたリンドルムの顔に、再び生気が差す。

 

「悪いが、リンドルムを勝たせるようにするのは無理だぞ」

 

「そんなのは分かってるって。でも、オレはお前が作る聖剣を信じてる。なぜならオレの『大食い(ヴォーラ)』は最強だからだ。だから、お前が作る聖剣があれば、きっといい勝負になると思ってる」

 

 俺を見つめるフレイは、信頼に満ちた顔をしていた。

 

 いや、ちょっと違うな。

 

 これは、新しい遊びを思いついた子供の顔だ。

 

「リンドルムの勝利条件は?」

 

 ダンジョンで彼女の実力を見た今だから言える。

 

 普通に戦うのならば、ブレスを吐こうが幻覚魔術を使おうがどんな絡め手を使おうが、どうあがいても彼女に勝ち目はない。

 

 多分、三秒以内に文字通りぺちゃんこにされて終了だろう。

 

 おそらく以前二人が戦ったときも――戦ったといえる出来事があったのかすら怪しいが――フレイが歯牙にもかけなかったか、よほど手加減したかのどっちかだろう。

 

 だから、勝利条件が必要だ。

 

 フレイを打ち負かす以外の。

 

「そうだな」

 

 彼女は少しだけ店の天井を見つめたあと、口を開いた。

 

「ヴォーラの調整(メンテ)はそれなりに時間がかかるはずだ。その間にコイツの修業を付けろ」

 

「分かった。調整が終わるまで三週間もらう。いいな?」

 

「上等だ。で、勝利条件は……そうだな、戦闘開始後一分以内にオレの身体にかすり傷でも負わせられりゃコイツの勝ち。どうだ、シンプルでいいだろ?」

 

「…………分かった」

 

 正直、それでもかなり分の悪い条件だ。

 

 だが、これ以上の譲歩は難しいだろう。

 

「分かっタ。我も死ぬ気デ強くナル。……ブラッド、聖剣ともども頼ム」

 

 リンドルムが俺に頭を下げた。

 

「よし、決まりだな! うん、聖剣のメンテ中も退屈しなくて済みそうだな! で、だ。コイツがオレに勝てなかったら……聖剣のメンテ代はタダになるんだよな?」

 

 ズイッ、と身を乗り出してくるフレイ。

 

 とっても悪い顔をしてらっしゃる。

 

「……それが狙いか」

 

「当然だろ! ガハハ!」

 

 はあ……まあそんなことだろうとは思っていたが。

 

 とはいえ、俺も俺のプライドに賭けて、リンドルムを勝たせてやらなきゃならんな。

 

「と、そうだ」

 

 思い出したように、フレイが言った。

 

「リンドルム、だったか? お前は俺に勝ったら、何が欲しいんだ? 条件が条件だからな。オレができることなら、なんでもしてやるぞ」

 

「ククク……なんでも、と言ったナ……!?」

 

 リンドルムは含み笑いを漏らし、フレイを()めつける。

 

 そして言った。

 

「『竜狩り』フレイディア。我が勝った暁にハ、一夜を共にしてもらウッッ!!」

 

 うわ…………このエロドラゴン、最低な欲望を吐き出しやがった!

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