パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第79話 『聖剣『竜狩り狩り』』

 フレイとの対戦まで一週間となった。

 

「今日から聖剣を装備した状態での訓練に移行する。握り心地はどうだ?」

 

「うム、悪くなイ。だが、存外に普通ダナ……」

 

 最近は通いすぎてもはや第二の庭と化した地下神殿遺跡の地上部で、リンドルムが自分の手にあるショートソードを眺めながらそんな感想を述べる。

 

 彼女の感想はもっともだ。

 

 俺の聖剣には、華美な装飾は施していない。彼女が握る聖剣『竜狩り狩り(デュー)』も同様だ。

 

 ごく普通の柄と鍔、そしてまっすぐ伸びた、60センチ程度の剣身。

 

 何も知らない者が見れば、街の武具屋で見かけるショートソードと何が違うのかと思うかもしれない。

 

 強いて普通の剣と違うところを上げるとすれば、刃にうっすらと紋様が浮かんでいることくらいだろうか。

 

 これも所持者から魔力の供給が途切れれば消失するから、いよいよ市販のものと見分けがつかなくなってしまうが。

 

「ふむ、兄さまの聖剣はどれも美しいな。造りが精緻なのはもちろんだけど、武具としての機能をとことん突き詰めた先に生じる機能美がある」

 

「ふん、君も案外分かっているじゃないか。ブラッドの聖剣が美しさは、まさにそこに集約されるのだよ」

 

「まあご主人の聖剣の中で一番美しいのはこの私ですけどね」

 

「はあ? ちんちくりんのセパが一番? ないない! 一番はあーしっしょ!」

 

「なっ……それこそありえませんね! だいたいレインの身体つきは性的すぎるんですよ! それは『美しさ』とはまた別のベクトルです!」

 

 俺とリンドルムの背後では、聖剣のお披露目式(?)に集まった連中がワイワイと盛り上がっている。

 

 アリスとカミラはさっきまでリンドルムに軽い(二人の基準で)稽古をつけており、そのついでだ。

 

 ちなみアリスとカミラのいう『聖剣の美しさ』とは、精霊の見た目のことではないと思う。

 

「むウ……こうも観衆が多いト、緊張してくるナ……」

 

 珍しく硬めの面持ちで周囲を見渡すリンドルム。

 

「まずは力を使ってみろ。教えたとおりに、剣に魔力を流し込むだけだ。あとは聖剣に宿る人造精霊が力の制御をやってくれる」

 

「うム……こうカ?」

 

 リンドルムがギュッと剣の柄を握った。

 

 次の瞬間。

 

「おいっす~」

 

 やる気のない声があたりに響き、リンドルムが(・・・・・・)二人に増えた(・・・・・・)

 

「なッ、なんダ貴様!」

 

 本物の方のリンドルムが目を剥き、二人目リンドルムから慌てて距離を取る。

 

「『なんダ貴様!』とはつれないっすね~。ほら、自分アレっす。その剣の精霊っす。気安くデューって呼んで欲しいっす」

 

 言って、チョイチョイと『竜狩り狩り』を指をさす二人目リンドルム(デュー)

 

 真似した仕草も声色も気配も、すべてが本人そっくりだった。もちろん聖剣も持っている。

 

「…………まさカ、これが聖剣の力、なのカ」

 

「そうっす。自分、リンドルムパイセンそっくりになれる能力っす。顔も体つきも匂いも魔術も能力も……全部っす。もちろんドラゴンに戻ることもできるっす。あ、自分の自我は人造精霊っすけど……すごいっしょ?」

 

 ドヤァ……と謎ポーズを取る二人目リンドルムこと『竜狩り狩り』の人造精霊。

 

 ちなみにこんな性格だが、ちゃんと言うことを聞くタイプ……のはずだ。

 

 一応後輩口調だし。

 

「…………」

 

 そんな様子を本人が胡乱げな目で見て、それから説明を求めるような視線を俺に送ってきた。こんなものでフレイが倒せるのか? という目だ。

 

 まあ、説明してなければ何事かと思うのは当然だ。

 

「コイツの力は、『魔術の複製』だ。今デューは、リンドルムの幻覚魔術を複製したうえで、術式で創り出した身体を制御している」

 

「『魔術の複製』? それハ我の幻覚魔術とどう違うのダ? やろうと思えバ、我だって分身を生み出すことができル。これだけだというのナラ、我もがっかりだゾ」

 

「まあ待て。そもそも複製体そのものは、この力の本質じゃない」

 

「ならバ、どういう――」

 

「なるほど……そうか。たしかにそれならば……」

 

 声を発したのはアリスだった。

 

 振り向くと、彼女は納得の表情で頷いているところだった。

 

「どういうことかな?」

 

 そんなアリスの隣で、カミラが首をかしげている。

 

 人造精霊を創った彼女は、俺が錬成する聖剣の力までは把握している。

 

 だが、実際の運用方法までは細かく説明していない。

 

「簡単な話だ。別に『竜狩り狩り』はリンドルムの複製体をたった一体だけ生み出せるだけのチャチな聖剣じゃない。デュー、お前の力を見せてみろ。とりあえず、遺跡の敷地いっぱい(・・・・・・・・)まででいい」

 

「ご主人パイセン、了解っす! ……ほっ!」

 

 元気よく『竜狩り狩り(デュー)』が返事する。

 

 次の瞬間、二人目リンドルムが二人に増えた。

 

 さらに四人。

 

 さらに八人……十六人。三十二人。六十四人……

 

 次々と、倍々に増殖していく。

 

 遺跡の敷地内を埋め尽くすまで、そう時間はかからなかった。

 

「「「こんなもんでいいっすか? ご主人パイセン!」」」

 

 夥しい数の複製体が、一斉に声を上げる。

 

「こ、これハ……」

 

 さすがのリンドルムも、この様子には驚いたようだ。

 

 目をまん丸に見開き、自分そっくりな精霊の群れを眺めている。

 

「これは壮観だ。三年前の戦いを思い出すよ」

 

「ふむ……これほど増殖されると、私の精霊魔術でも、殲滅するには少々火力が足りなく感じるね。けれども、フレイは炎竜の群れを笑いながら殲滅するような化け物だ。数を増やしただけで勝てるだろうか?」

 

 アリスが懐かしそうな様子で頷き、カミラは「むう……」と唸り腕を組んだ。

 

 カミラの懸念はもっともだ。

 

 いくらリンドルムの数が増えたとしても、それだけでフレイに勝てるとは思っていない。

 

 だが、いわゆる『人海戦術』というのは古来から取られていた極めて有効な戦術だ。

 

 そしてアリスとカミラに鍛えられたリンドルムの戦闘能力は、以前より格段に向上している。

 

 もちろんそれだけじゃない。ここからが重要だ。

 

 これは俺が錬成したすべての聖剣に共通の仕様だが、所持者と人造精霊は、随時、念話でコンタクトを取ることができる。

 

 これが何を意味するか。

 

 リンドルムはタイムラグなしで行動可能な、自分と同等の能力を保有した一個師団クラスの戦力を手に入れたのだ。

 

 もちろん彼女の魔力が尽きるまでだから、大した時間は維持できないだろうが……フレイとの戦いは、一分の勝負だ。問題はない。

 

「アリス、カミラ。今日からは、リンドルムを指揮官に据えて、集団戦に特化した訓練を頼みたい。強力なドラゴンを集団で狩る竜狩りたちのようにな」

 

「なんだか複雑な気持ちにナル例えだナ……」

 

 リンドルムが自分の言葉どおりの表情を浮かべている。

 

 だがアリスとカミラは自信たっぷりな顔で頷いてくれた。

 

「了解、兄さま。これでリンドルムには、さらにハイレベルな訓練が施せるな。それにしても、その過程で大軍をなぎ倒していくあの興奮と快感をもう一度味わえるとは……くふふっ。さすがは兄さま。僕をどこまでも楽しませてくれる」

 

「うむ。ようやく精霊魔術の真髄、『広域還流召喚』を披露することができそうだね」

 

「よしカミラ殿、さっそくやろうか」

 

「うむアリス、さっそく取りかかろう」

 

 意気投合したのか、アリスとカミラはお互い頷き合うとリンドルムに顔を向けた。

 

 二人とも、実にいい笑顔だった。

 

 すでにアリスは『(とき)斬り』を抜き放ち、カミラが持つ魔術杖の先端部が強く発光している。

 

「「「自分、楽しみっす! さあさあ、どんどんやっちゃってくださいっす!」」」

 

「おイ偽物! 我に代わって返事をするナ……! ぎ、ぎにゃああああアアアァァ~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

 たった一人、本物リンドルムの悲鳴が遺跡中に響き渡った。

 

 

 

 そして、あっという間に一週間が過ぎ……ついに決闘の日がやってきた。

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