パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第80話 『竜vs竜狩り ①』

 戦いの場所は、例によって神殿遺跡の地上部を指定した。

 

 リンドルムといつも訓練を行っていた場所だ。

 

 地形を把握していることはこちらの有利に働く可能性があるからだ。

 

 もちろんフレイは「どこでもいいぜ!」と余裕綽々の態度で了承してくれた。彼女にとっては、遊びの感覚なのだろう。

 

 そして来たる決闘の朝。天候は曇天。浮かぶのは雷雲だろうか。時おり雲の隙間に閃光が走り抜け、遠雷が轟く。

 

 俺たちが出向くと、フレイはすでにそこにいた。

 

「お、来たな。よう子竜ちゃん、調子はどうよ?」

 

 彼女はあくびをしつつ、こちらに向かって手を上げる。

 

 何十体ものワイバーンの死骸を積み上げてできた、小山の頂点に腰掛けながら。

 

 肩には、昨日すべての調整を終え引き渡した『大食い(ヴォーラ)』を担いでいる。

 

 空には狩り残しと思しきワイバーンが、怒りの鳴き声を上げながら旋回しているのが見えた。

 

 その背後には雷光走る曇天。

 

 なんというか、この世の果てを連想させる光景だった。

 

 もっとも彼女にとっては、待ち合わせ前の準備運動がてら近辺にある竜の巣を潰しに行っただけなのだろうが。

 

「むむゥ……」

 

 そんな壮絶な光景を目の当たりにしたリンドルムが呻き声を漏らす。

 

「怖気づくなリンドルム。お前は子供とはいえ誇り高きエルダードラゴンだろ? ワイバーンなんかよりずっと強い。大丈夫だ、勝てる」

 

「う、うム……我は誇り高き、孤高のエルダードラゴン。それニ文字通り血のにじむようナ特訓を積んできタ。負けるつもりはなイ」

 

「そうだよリンドルム。敗北は絶対に許さないぞ。勝て」

 

「そうだね。敗北したら、素材にしてやろうじゃないか。エルダードラゴンの角や牙、それに竜鱗も……なかなか手に入らない希少素材からね。なに、死なない程度に剥ぐだけさ」

 

「ひッ……絶対に負けられない戦いガ、ここにあルッ!!!」

 

「おい二人とも、決闘前に無用なプレッシャー与えるなよ……」

 

 今日は決闘の立会人の俺以外に、見届け人としてアリスとカミラも参加している。

 

 二人とも、自分が鍛え上げたリンドルムがどのくらい活躍できるのか興味津々のようだ。

 

 その苛烈な激励は、期待の表れでもあると思う。多分。

 

「大丈夫ですよリンドルム。女神のように美しい私がついているのですから、負けることはありません。あ、絶対にご主人のメンツを潰さないようにしてくださいね?」

 

「リンドルムちゃん、ファイト! あーしも応援してるよ!」

 

「レイン殿ハ我の唯一の癒しなのダ……」

 

 そしてさらに二人の観客。まあセパとレインは聖剣だから、ダンジョンまでやってくるのに連れてこないという選択肢はない。

 

「おいブラッド。立会人はお前でいいんだよな?」

 

 フレイが竜の躯の山から俺たちを睥睨する。

 

 彼女の視線には、俺だけでなく、側に立つカミラとアリスも入っているようだ。その意図はすぐに察せられた。

 

「ああ。二人はただの見届け人だ。ジャッジには加わらないし、結果に口を挟むことはない。観客は多い方がいいだろう?」

 

「まあ、どっちでもいいけどな。どうせオレが勝つし」

 

 ふん、と鼻を鳴らすフレイ。

 

 それから今度はカミラを見た。

 

「ようカミラ! 久しぶりだな。十年ぶりか? 全然見た目変わってねえなお前。……で、ブラッドのアレの具合はどうだ?」

 

「なっ……ななっ……!? ……お前ッ!? 再会の挨拶にしては下品過ぎるだろうッ!」

 

 最高に良い笑顔とともに発せられた再会の挨拶……とともに投げ込まれた最低すぎるセクハラ発言に、ボン! とカミラの顔が真っ赤になる。

 

「…………」

 

 ふと視線を感じて振り向く。アリスと視線が合った。

 

 いや正確には視線が合ってない。彼女の目は俺の顔と腰を何度も往復していたからだ。

 

「…………なんだよアリス」

 

「…………べ、別に何も。ば、盤外戦術とは、さすがはS級冒険者……老獪かつ下劣な手を使ってくる。くそ、許さないぞフレイめ!」

 

 そんなことを言ってプイとそっぽを向いてしまう。ふわふわの金髪から除く耳たぶは真っ赤だった。

 

 盤外戦術を仕掛けるのならリンドルムにだと思うが…………なんか、その……すまんなアリス……あとチラチラこっち見るのやめてくれ。俺も恥ずかしくなる。

 

「…………?」

 

 ちなみにリンドルムは何のことか分からないようで、一瞬俺たちに怪訝な視線を送ってきただけだった。

 

 ……気を取り直していこう。

 

「フレイ、決闘の前にルールの再確認だ。武器はなんでもあり、開始から一分以内でリンドルムがお前にかすり傷を一つでも付けたら勝ち。それ以外はお前の勝ち。負けた方は、勝った方のいうことをなんでも聞く。これでいいな?」

 

「ああ、いいぜ。……それとも制限時間を延長してやろうか? 五分でも十分でも、なんなら今日一日でもいいぜ?」

 

「いや、一分でいい。それよりも、一つだけ俺から頼みがある」

 

「なんだ? ヴォーラの調整費用なら俺が勝ったら払わんぞ」

 

「そっちは別にどうでもいい」

 

「じゃあ、なんだよ」

 

 肩眉を上げ、フレイが聞き返してくる。

 

「勝敗の条件に、お前がリンドルムを殺したらお前の負け、という条件も加えさせてくれ」

 

「ハッ! 情が移ったか」

 

 俺の頼みを聞いて、フレイは鼻を鳴らした。

 

 だが、機嫌を悪くした様子はなかった。

 

「別にいいぜ。別に俺だって、弱っちい子竜を潰しても面白くもなんともないからな」

 

「悪いな、急にルールを変えて」

 

「そのくらいなら、別に構わねえよ。じゃ、やるか」

 

 すっく、とフレイが立ち上がり、竜の躯の山から飛び降りた。

 

 それから、さっきまで腰掛けていたそれ(・・)の方に向き直る。

 

 こうして地面に立つフレイと比較してみると、おびただしい数のワイバーンを積み上げた山だと分かった。

 

 おそらく倒した数は、百体をくだらないだろう。

 

「まずはコイツを片付けないとだな。……ヴォーラ」

 

 フレイが聖剣の名前を呼ぶ。

 

 すると、彼女の持った『大食い(ヴォーラ)』の表面がゴボゴボと膨張し始めた。見ているうちに、もともと分厚い刃が丸太のような形状へと変化する。どんどん剣身が伸び――大蛇へと変化した。

 

 大蛇は『大食い(ヴォーラ)』の人造精霊だ。普段は小さな蛇の姿だが、竜を食うときは相応の大きさまで形状を変化させる。正確には、竜の魂を喰らうのだが……こうして肉体もまとめて食べることができる。

 

「喰え」

 

 フレイの命令と共に、『大食い(ヴォーラ)』が巨大な顎を開いた。

 

 人など数人まとめて呑み込めそうなほど大きく開いた口で、勢いよく竜の躯にかぶりついた。バキバキ、メキメキと何かがひしゃげる音が周囲に響き渡る。

 

 躯の山は、あっという間に消滅した。

 

「ブラッド。ありがとな」

 

 満足そうな顔のフレイが声を掛けてくる。

 

「なんだ」

 

「やっぱお前に調整を頼んで正解だったぜ。ヴォーラの斬れ味も食欲も、以前とは比べ物にならなんほどに快調だ」

 

「それはなによりだ。瘴気耐性もばっちりだぞ」 

 

 当然だが、いくらリンドルムと決闘するとはいえ『大食い(ヴォーラ)』に細工をするような真似はしていない。

 

 それどころか、完璧に仕上げてやったつもりだ。

 

 リンドルムには悪いが、これも俺の仕事の一つだからな。

 

「じゃあ、場も綺麗になったことだし、始めるか。子竜ちゃん、準備はいいか?」

 

「うム、臨むところダ」

 

 二人が位置についた。

 

 決闘のルールは地域によって変わるが、冒険者の中で一般的なルールに(のっと)り、互いに背を向け合い五十歩ずつ離れた場所に到達した時をもって開戦の合図とする。

 

 今、二人は背中合わせに立っている。

 

「子竜ちゃん、せいぜい頑張れよ」

 

「ぬかセ。昔の我とは違うのダ」

 

 二人が小さく言葉を交わし、一歩ずつ歩き始めた。

 

 十歩、二十歩……そしてすぐに五十歩に到達。

 

「おら子竜ちゃん、どこからでもかかってこい……マジかよ」

 

 フレイが『大食い(ヴォーラ)』を構え……顔を引きつらせる。

 

「「「もらっタアアアアアアアァァァァァーーーーー!!!!」」」

 

 『竜狩り狩り(デュー)』の力により千体以上に増殖したリンドルムの大群が、一斉にフレイへと襲い掛かった。

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