パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第85話 『組織人の悲哀』

「では、そのように……なんですとっ!? な、なぜです!?」

 

 頷きかけたあと、ヴァイク氏が驚愕の表情で素っ頓狂な声を上げた。

 

 彼の中では、俺が聖剣を十何本も錬成することは決定事項だったようで、俺の返答に驚きを隠せないようだ。

 

 フレイはそんな様子を見物しながら、肩を震わせ笑みを堪えている。

 

 シルさんはハラハラしながらも、期待に満ちた目で事の成り行きを見守っていた。彼女も地味にいい性格しているようだ……

 

「もちろん我々もブラッドさんの腕前に疑いを持っていませんし、強力な聖剣を錬成していただくにあたり多額の予算を割いております。必要な素材があるというのなら、オルディス商工ギルドのプライドを賭けて、あらゆるルートを使って調達して見せましょう」

 

 ヴァイク氏は一瞬俺の言葉に慌てたものの、すぐにもとの調子を取り戻すと、そう捲し立ててきた。

 

「問題はそこじゃない」

 

 俺はため息交じりに斬り捨てる。

 

「誰とも知れないヤツのために聖剣を錬成するのは、根本的に無理だ。あんたも聖剣に宿る人造精霊は人格を持つことくらい知っているだろう。連中も人間同士の関係性と同じで、能力を十全に発揮するには相性が大事なんだ」

 

「たしかに、存じてはおりますが……」

 

 そう言いよどむヴァイク氏も、聖剣について無知というわけではない。俺と聖剣について語り合える程度には知識もある。こちらの言い分は分かっているはずだ。

 

 そのうえで、焦っているのだろう。

 

 なにしろ本来なら安全なはずの街中で、盗賊団ごときに商圏を脅かされているのだから。可及的速やかに、圧倒的な武力をもって叩き潰したい彼の気持ちが理解できないわけじゃない。

 

 とはいえ、俺にも譲れないラインがある。

 

「そんなことより、こうしようぜ」

 

 そんな中、横から口を挟んできたのはフレイだった。

 

「ブラッドと冒険者ども全員を取っ替えちまえよ。大した実力もねえザコ冒険者に聖剣をくれてやるよか、コイツ一人いた方が絶対面白いぜ? オレが保証してやるよ」

 

 例のごとくガシッと俺の首に腕を回し抱き寄せてから、そんなことを言い放ったのだ。

 

「……おい、交渉中だぞ」

 

「ちょっ……フレイさん何を言い出すんですか!? ダメに決まっているでしょう!」

 

 シルさんが即座に反応する。

 

「確かにその方が絶対面白そうです……ですが……ダメです! 冒険者ギルドとしては……到底容認できる提案ではありません!」

 

 彼女もオルディス冒険者ギルドの窓口としてこの場にいる以上、作戦に参加する冒険者たちに不利となる発言は看過できないのだろう。

 

 ……なんか途中に不穏なワードが忍び込んでいた気がするが、それはあくまで個人的意見だと思う。多分。

 

「なんでだよ、別にいいじゃねえか」

 

 フレイがつまらなさそうな顔で肩をすくめる。

 

 そして続けた。

 

「要するに盗賊とか魔剣持ちを全員ぶっ倒せばいいんだろ? オレとブラッド……そうだな、あとは『魔女』でも引っ張ってくれば半日でアジトごとぶっ潰してくるぜ?」

 

 それはさすがに買い被りにもほどがあるだろ……

 

 あとカミラは多分フレイと組まないと思う。あいつ、なぜかフレイのことを嫌っているからな。

 

「たしかにそれはそうかも知れません。ですが、今回はそうもいかないんです……!」

 

 シルさんが言葉を絞り出す。

 

「さきほどヴァイクさんからもお話があったとおり、今回の作戦は商工ギルドと冒険者ギルドの合同作戦です。すでに当ギルドから等級Aの冒険者たち数名に要請を出しています。フレイさんほどではないにしても、そこそこ名のある方たちです。忙しい中、彼ら彼女らは応えてくれました。ブラッドさんに聖剣を錬成してもらうかどうかは別としても、今さら『やっぱりいりませんでした』なんて口が裂けても言えないんですよ! そもそもこの場でその手の変更を容認する権限を、私は持ち合わせていません」

 

「あー……」

 

 そこは何となく理解できてしまった。

 

 俺も前の工房に所属していたころは、俺自身についてくれた客もいたが、先代なりザルツなり、上からの指示で行動することが多かった(だから辟易としていたのだが)。

 

 上からの指示どおりに動くというのは、組織で動く以上は絶対的な行動規範だ。逆らってもその場で命を取られるようなことはないだろうが、相応のペナルティを甘受する覚悟は求められる。

 

 あるいは、俺のようにクビになる覚悟を。

 

 そもそも今回フレイが言い出したことは、シルさんからすれば(ヴァイク氏にとってもだが)すべてをひっくり返す暴論だ。

 

 ヤツの提案を「はいそうですか」とギルドに持ち帰れば、彼女は案件担当者として「使えないヤツ」の烙印を押されてしまうだろう。

 

 ……ヴァイク氏はともかく、シルさんから日ごろから世話になっている。ここで彼女のメンツに泥を塗るのは、さすがに本意ではない。

 

「……俺としては、別に聖剣を錬成すること自体は(やぶさ)かじゃない」

 

 もともと今回の話は、冒険者ギルド、冒険者、商工ギルドの三者に一気に恩が売れる絶好のチャンスでもある。

 

 仕事して請けられるならば、請けるべき仕事だ。

 

「おお……では!」

 

 ヴァイク氏が嬉しそうな声を上げる。

 

「だが、全員は無理だ」

 

 俺は釘を刺してから、さらに続ける。

 

「数で言えば三本以内。せいぜいパーティーリーダーひとり分ずつ、といったところだな。多分予算的にもそれが限界だろう。それと、指定された冒険者が聖剣の所持に耐えないと俺が判断すれば、本数はもっと少なくなる可能性がある。あとは、冒険者たちの武器や防具に瘴気耐性の術式を付与することで対処しよう」

 

「……ちなみに聖剣錬成の諸費用は、どの程度でしょうか?」

 

 三本で予算ギリギリと聞いて、ヴァイク氏の顔が若干引きつった。

 

「とりあえず、以前錬成したのだとこのくらいだな」

 

「……ッ!? た、たしかに三本だけでもギリギリ……いや、ちょっとだけ予算オーバーしますな……」

 

 テーブルに準備されていた筆記用具で、同じく準備されていたメモ紙に数字を書き込む。それを見たヴァイク氏の顔がさらに引きつった。

 

 その後、どうにか()かりませんか? みたいな目で見てくるヴァイク氏。

 

 だが、ここで譲歩するつもりはない。

 

「あんたギルドの渉外責任者だろ? そこはなんとかしてくれ。当然実費と報酬は先払いで頼むぞ」

 

「しょ、承知しました……契約書はのちほど準備します」

 

 よし、言質は取った。

 

 どのみち素材の調達費用その他諸々がかかるため、先に金が手に入らないと仕事を進められないからな。

 

 実際問題、ヴァイク氏にはどうにかしてもらうしかない。

 

「ちっ。せっかく久しぶりに大冒険できると思ったのに……」

 

 フレイは口を尖らせながら、ぶつくさ文句を言っている。子供か。

 

 とはいえ、俺も魔剣をゲットできるチャンスであることには変わらない。魔剣はきちんと怨念と呪詛を祓えば、聖剣のいい素材になるからな。

 

「まあ待てフレイ。別に俺も聖剣を錬成したあとは、予定が空く。……シルさん。俺はまだ等級Bだが、別にいいよな?」

 

「……ハハッ! そうこなくっちゃだな!」

 

 俺が言ったとたん、フレイの顔がパッと輝きだした。現金なヤツだ。

 

「……! もちろんです! さっそく要請を出しておきます。フレイさんとパーティーを組むということでよろしいですか?」

 

「そこは要検討だが……とりあえず、あと二、三人分の枠を空けてもらえると助かる」

 

「お安いご用です!」

 

 シルさんの顔も輝きだした。

 

「……聖剣の方も、きちんとお願いしますよ?」

 

 一方ヴァイク氏は少々不安げな表情だったが。

 

 

 そんなこんなで、商工ギルドでの会議は無事終了したのだった。

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