パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第88話 『噛ませ犬』

 その砦は、小高い丘の上に築かれていた。

 

 周囲はだだっ広い平原だ。砦の周囲には、青々とした草原に埋もれるようにして廃墟が点在している。

 

 そのどれも天井部分は崩落しており、傾いた石柱だとか半ば崩れかけた壁面くらいしか残されていない。

 

 俺たちはそのうちの一つに身を隠しつつ、砦の様子を伺っていた。

 

「城壁の上に、見張りの男が三人。身なりからして盗賊だね」

 

 俺の隣で肩を寄せるようにして、カミラが筒のような魔道具で砦の様子を伺っている。

 

 手元の資料によれば、正式名称は『バウル平原魔導王朝遺跡群・第三砦』。

 

 オルディスより北西に五十キロほどの位置にある遺跡群の、さらに奥地に存在する古代魔導王朝期――数千年前から存在する建造物である。もちろん内部はダンジョン化している。

 

 ギルドから提供された資料によれば、この『砦』の内部はすでに探索済み。

 

 だが街から日帰りで到達できない位置に存在するうえ出現する魔物が弱いため、駆け出しにもベテランにも攻略する動機が薄く、ここ数年はほとんど人が立ち入らない状況だったらしい。

 

 魔剣持ちの一味は、そこに目を付けたようだ。

 

「正門には門番らしき人影は見えないね。城門は崩れているけれども、入れないわけではない……ふむ、中庭に足を踏み入れたところで城壁の上から猛攻撃を浴びる可能性があるね」

 

「おいおいカミラ、偵察なんて日和(ひよ)った真似してんじゃねえよ。盗賊だろうが魔剣持ちだろうが、襲ってきたらぶっ飛ばすだけだろ」

 

 慎重に砦の様子を伺うカミラを見て、フレイが大げさに肩を竦めてみせた。

 

「いいかカミラ。オレらがやることはシンプルだ。正面から正々堂々殴り込む。応戦してきたらぶっ潰す。これ以外にやることあんのか? ねえよなァ!?」

 

「はあ……フレイ、君は猪にでも育てられたのか? 魔剣持ちは言うに及ばず脅威だが、盗賊の中には冒険者崩れや元傭兵も混じっていると聞いている。決して侮っていい戦力ではない。それに魔剣持ちは初見殺しの力を持っているかも知れない。喰らえば危機に陥るのは君の方なんだぞ?」

 

「ハッ! そんなモン、喰らう前にぶっ飛ばせばいいだろうが」

 

「その前の話をしているんだ!」

 

 なんかカミラとフレイがケンカを始めたぞ……

 

「おい二人とも、そこまでにしておけよ」

 

 街中ならば放っとくのだが、今はダンジョン前で、作戦中だ。

 

 鼻と鼻がくっつきそうな距離でバチバチ睨み合っている二人を引きはがす。

 

「まったく……今回の俺たちの役割は覚えているよな?」

 

「当然だろう」

 

「ハッ、当然だろ!」

 

 カミラとフレイが同時に声を上げた。

 

「正面の敵の数と配置を正確に把握し……広域殲滅魔術で吹き飛ばしてから、突入する。魔剣持ちも、半死半生までならば痛めつけてもいいのだろう?」

 

「正面から殴り込んで魔剣持ちも盗賊もボコボコにする! お頭のクソ魔剣持ちもぶっ潰す! それだけだ!」

 

「俺たちの役割は、正面突破と見せかけた陽動だ!」

 

 はあ……コイツら本当は仲がいいんじゃないのか?

 

 ともかく。

 

「ここで暴れて敵を引き付けているうちに、『銀鈴の妖精』『青銅の盾』『疾風駆ける大地』の三パーティーが別々のルートでダンジョンを侵攻し、最奥部に潜伏する魔剣持ちの親玉を捕縛する」

 

 俺は二人を眺めてから、先を続ける。

 

「代わりに俺たちはダンジョン内部で派手に暴れることを推奨されているし、親玉以外ならば魔剣持ちを討伐して魔剣を押収しても構わないが……言うまでもないが死人は出すなよ? シルさんからの情報だと、中には魔剣に操られているヤツもいるらしいからな」

 

「チッ……分かってるって! ちょっと言ってみただけだ!」

 

「フ、フン。私はきちんと知っていたがね」

 

 じゃあなんで二人とも俺から目を逸らしたんだろうな?

 

 まったく……

 

 二人がぶつくさ言いながらも、再び持ち場についた。

 

「兄さま」

 

 と、今度はアリスがやってきて俺の手をそっと握ってきた。

 

「大丈夫、僕だけはちゃんと兄さまの指示を理解してるよ。いつだって僕は兄さまの味方だからね」

 

「お、おう」

 

 フォローと見せかけつつ貴族らしいムーブを見せるアリス。そういうところは本当に抜け目がない。

 

 まあ、こっちも分かっているから意味がないのだが。

 

 ちなみにリンドルムはカミラとフレイのどっちの味方すればいいのか分からずオロオロしていた。なんかコイツを見ていると心が落ち着くな。

 

 と、そのときだった。

 

 

 

「おやおやぁ? さっそくネズミを五匹、発見してしまったようだな」

 

 軽薄な声は、俺たちの背後から聞こえた。

 

「……向こうから挨拶にやってきたか」

 

 振り向けば、男が一人立っていた。

 

 声色どおり、この場に似つかわしくない優男だ。

 

 男性にしては細めの体格。派手な衣装。キザなポーズを取りながら、禍々しい装飾の曲刀を肩に担いでいる。

 

 魔剣持ちだ。

 

 彼我の距離は二十メートルほど。

 

 廃墟の敷地のすぐ外側ではあるものの、手練れの冒険者ならば一瞬で肉薄できる距離だ。

 

「キミら、正面に気を取られすぎじゃない~? それに今から仲間割れ? 敵が裏をかいて背後から襲ってくることだってあるんだよ? そんなので大丈夫なの?」

 

 したり顔でそんなことを言ってくる魔剣持ち。

 

 残念ながら、彼の言い分は間違いだ。

 

 コイツが接近してきていたのは、全員が把握済みである。

 

「ふん、あまりに弱すぎて気配に気づけなかったようだ。瘴気検知の魔道具、閾値をもっと下げた方が良かったかな?」

 

「なんだ雑魚か」

 

 カミラとフレイが同時に吐き捨てる。

 

「なっ……もしかして、このボク、『怨竜刀のレクス』を知らないのか? さてはキミたち、駆け出しだな? ……参ったな、ザコ狩りは嫌いなんだけど」

 

 余裕な態度を装っているつもりか微笑を浮かべつつ髪をかきあげているが、ヤツの頬はピクピクと震えていた。

 

「知らんな」

 

「フン、知らないね」

 

「知るか雑魚」

 

「知らないな。誰?」

 

「……誰ダ? 竜なのカ?」

 

 いや、マジで誰だよ。五人で顔を見合わせる。

 

 ギルドの資料では何人か魔剣持ちの名前は記載があったが、コイツの名前はなかったと思う。

 

 もちろん油断はしていない。

 

 たしかにヤツの持つ曲刀からは、以前戦ったヤツとは比べ物にならない量の瘴気があふれ出している。それなりに腕に覚えがあるのは事実だろう。

 

 そのうえで、放置しても問題ないと判断していただけの話である。

 

 一方俺たちの反応は、怨なんとかクス氏にとっては十分な煽りとして受け止められたようだ。

 

「ぐっ……この田舎者どもめッ! いいだろう、せめてボクの名をその身に刻み込みながら逝くがいいッ!」

 

 さっきまで浮かべていた余裕の微笑はどこへやら。

 

 ものすごい形相になった魔剣持ちが曲刀をこっちにビシッ! と向けてきた。

 

 先端には、いつの間にか小さな炎の塊が浮かんでいた。

 

「まずはそこの偉そうなお前からだ、色黒女! 焼き尽くせ――『火焔怨竜』ッ!」

 

 ゴオッ!

 

 魔剣持ちが叫ぶやいなや、炎が膨れ上がり竜の姿に変わる。

 

 次の瞬間。

 

『ボオオオオオォォォッッ!!』

 

 炎の竜が咆哮し、フレイ目がけて襲い掛かってきた。

 

「おおっ!?」

 

 炎の竜の攻撃を、フレイが飛びのいて躱す。

 

 だが、炎は消えない。そのまま向きを変え、フレイに食らいつこうと再び襲い掛かる。

 

「フハハハーーーーッッ!!!! 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろッ!! この魔剣は炎竜の魂を封じ込めてあるッ! つまりコイツは意思を持ち狙った獲物を焼き喰らうまで追尾するのさッ! さあ、このボクに死の舞踏を披露してくれよッ!」

 

 曲刀を指揮棒のように操りながら哄笑を上げる魔剣持ち。

 

 その狂気を湛えた形相には、さきほどの優男っぷりは見る影もない。もしかしたら、こっちがヤツの本性なのかもしれない。

 

「ハハッ、なるほど竜か。こいつはいいや」

 

 一方フレイも笑みを浮かべていた。獰猛な笑みだ。

 

 炎の竜の攻撃を躱し周囲を縦横無尽に駆け巡りながら、背中から『大食い(ヴォーラ)』をスルリと引き抜く。

 

「そろそろ終いだ、消し炭になれッ!」

 

 ゴオオッッ!!

 

 フレイの動きを隙と判断したのか、魔剣持ちが叫び勢いよく曲刀を振り下ろした。

 

 その動きに連動して炎の竜が一度天に舞い上がり、フレイの頭上から襲いかかる。

 

「――ヴォーラ、喰え」

 

 それに相対するように、フレイが『大食い』を天に突き上げた。

 

 次の瞬間、『大食い』から大蛇の頭部が顕現する。

 

 大蛇は大きく顎を広げると――炎の竜をまるごと呑み込んだ。

 

 静寂。

 

「……………は?」

 

 たっぷりの沈黙の後。

 

 魔剣持ちの間抜けな声が、周囲にこだました。

 

「ふう、ごちそうさん。もうちょっと遊んでやりてぇが、これから仕事があるんでな」

 

「な、なんだ今のは――ごばぁっ!?!?」

 

 戸惑う魔剣持ちに一瞬で肉薄したフレイが、横薙ぎに『大食い』を振り抜いた。

 

 もちろん『殺すな』という指示通り、幅広肉厚の『大食い』の腹を使った殴打だ。

 

 魔剣持ちはとっさに持っていた曲刀で防御するも、腕ごと半身を粉砕され無残に宙を舞うことになった。

 

「げふっ」

 

 そのまま地面に打ち付けられた魔剣持ちは白目を剥いたまま微動だしない。

 

 俺はそんなヤツに近づくと、魔導鞄(マジック・バッグ)から瘴気耐性を付与した手袋を取り出し手に嵌め、魔剣を拾い上げた。

 

「よし、さっそく魔剣一本ゲットだ。向こうもこれで俺たちの侵攻に気づいただろうし、ここからが本番だ。……砦に殴り込んで、派手に暴れるぞ」

 

 待ってました、と全員が大きく頷いた。

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