パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第89話 『城門の攻防』

「来たぞ! 野郎ども、あの間抜けな冒険者どもを針の山にしてやれ!」

 

 案の定、城門から先に続く中庭に入ると矢が雨のように降り注いできた。

 

 城壁の上には総勢二十人ほどの盗賊たちが配置され、それぞれ弓矢を装備している。

 

 そいつら全員が一斉に矢を放ってきたのだ。

 

「ふははっ! こんな小枝みてーな矢がオレに刺さるかよォッ!」

 

「まだまだ密度が足りないかな」

 

「わ、我だっテ……! あっ」

 

 とはいえ、こちらの戦力からすれば小雨のようなものだ。

 

 前衛組のフレイ、アリス、リンドルムが俺とカミラを護るように位置に付くと、飛来する矢を次々と叩き落としていく。

 

 ……腕のいい元冒険者だか傭兵が混じっているのか、リンドルムはたまに分身体にヘッドショットを喰らいながらだが。

 

「くっ……お前ら何やってんだ! もっと矢を放てっ!」

 

「はははははっ! 甘ぇ甘ぇ甘ぇ!」

 

 盗賊の頭らしき男が焦ったように配下を怒鳴りつける。そのたびに飛来する矢の密度が上がってゆくが、一本たりとも俺やカミラに届いていない。

 

 まさに鉄壁の守りである。

 

 とはいえ、これではなかなか前に進めない。

 

 そろそろ俺も参戦の頃合いか……と考え始めた、そのときだった。

 

「ふむ……ここは私の出番かな?」

 

 そんな前衛組の奮闘ぶりを眺めていたカミラが、一歩前に進み出た。

 

「これだけの熱烈な歓迎を受けたのだ。私もそれに応えなければ、精霊術師の名がすたるというものだろう」

 

 そんなものですたる名はないと思うが……

 

 とはいえ、彼女はかなりやる気のようだ。

 

「この地に住まう風の精霊よ、我に力を与えたまえ――《嵐渦》」

 

 みなぎる気合とともに、いつもは唱えない詠唱までしながら手に持っていた杖を天高く掲げる。

 

 ――ゴウッ!

 

 次の瞬間。

 

 俺たち五人を取り囲むようにして暴風の壁が生じた。

 

「なっ!? なんだァ、あれは! 矢が届かねえぞ! どうなってんだ!」

 

 城壁の上で、盗賊の頭が驚愕の声を上げた。

 

 それもそのはず。

 

 連中は次々と矢を放っているのだが、そのことごとくが暴風の壁に絡めとられ、ぐるぐると俺たちの周囲を回っているのだ。

 

「ふむ、この程度で驚かれてもらっては困るな……派手に暴れるべし、というのが我々に課された役割だ。もっと驚いてもらおうか。――風の精霊よ」

 

 言って、カミラが手に持った杖を楽団の指揮者のように優雅に振ってみせる。

 

 すると、暴風がピタリと止み――回遊魚のようにグルグルと俺たちの周囲を回っていた矢が空中で静止したのだ。

 

 その矢じりは、そのすべてが盗賊たち一人ひとりに向けられていた。

 

「おい、なんかやべぇぞ!?」

 

「ま、まさかこれは……」

 

「おいおいマジかよ……」

 

 盗賊たちの何人かは、自分の運命を察したような表情を浮かべる。

 

 だが、もう遅い。

 

「君たちは幸運だ。ギルドの依頼のおかげで、生きたまま私の精霊魔術の精髄をその脳裏に焼き付けることができるのだから」

 

 カミラがさらに杖を振る。

 

 静止していた矢が、一斉に、凄まじい速度で盗賊たちに襲いかかった。

 

「ぎゃああああぁぁぁっっっ!?」

 

「腕がっ、腕があああぁぁっ!?」

 

「くそッ! 矢が腕を貫通して城壁まで食い込んでやがるッ! これじゃあ引き抜けねぇ! 頼む、誰かコイツをどうにかしてくれェッ!!」

 

 腕や肩、足などを射抜かれた盗賊たちの絶叫が城壁内部に満ち溢れる。

 

 とはいえ、ただの一人も急所を射抜かれ絶命した者はいない。

 

 カミラは過不足なく、なんというか……「いい感じに」盗賊たちを戦闘不能状態に追いやっていた。

 

「おぉ、これが魔女の本気の精霊魔術ってやつか。やるじゃねえか」

 

 すべてが終わったことを悟ったフレイが、剣を背中の鞘に収納しながらニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……フ、フン。『派手に暴れろ』というのが、今回の依頼内容だからね。それに従ったまでさ」

 

 フレイからの率直な賞賛に、カミラがまんざらでもなさそうに鼻を鳴らす。

 

 余談だが、一般的に魔術というものは、術式を頭の中で組み上げていれば発動に詠唱は不要だ。だが、あえて口に出すことによりイメージを明確化することにより精度と威力を底上げすることができる。

 

 カミラがやったのはそれだ。

 

 しかも、凡百の魔術師とは隔絶したレベルで。

 

 まさに完璧な魔術制御だった。

 

「…………」

 

 だからだろうか。

 

 カミラがツンとすまし顔をしつつも、チラチラとこちらに視線を送ってくる。

 

 ……これは褒めて欲しいときの態度だな。俺はカミラには多少詳しいから分かる。

 

「やるなカミラ。やはりお前は凄腕の魔術師だ。つい見とれちまったよ」

 

「……なっ!? ふ、ふふん! 君は私だけを見ていればいいんだ!」

 

 カミラの顔が一気に真っ赤になった。

 

 ……言い方が悪かったのかもしれないが、俺が言いたいのはお前の魔術についてだからな?

 

「とにかく、先に進もう。できるだけ敵を引き付けられるように、派手に行くぞ」

 

 俺は全員の顔を見回して、言った。

 

 暴れる相手がいなけりゃ、この場にとどまる意味もないからな。

 

「おう」「ふん」「だね」「了解ダ!」

 

 全員の意思の一致が見られたので、歩を進める。

 

 ちなみに俺たちのパーティーは、陽動部隊としての役割の他に、裏口から侵入した連中が万が一ボスの捕縛に失敗したときのバックアップ要員としての役割も担っている。

 

 だから一応、ダンジョン攻略自体は真面目にやる必要がある。ここでのんびり休憩しているわけにもいかないのだ。

 

 まあ、いくら魔剣持ちのボスが強いとしても、聖剣を持っているうえ腕利き冒険者のパーティーが三組もいるのだ。まさか、そいつらが束になってかかっても敵わないなんてことはないだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 砦の扉を開けて侵入すると、内部は外観から想像できない広さの空間が広がっていた。

 

 どう考えても、砦の厚みより広い大部屋だ。

 

 ギルドの情報どおり、完全にダンジョン化している。

 

「……ほお、あの矢の雨をかいくぐってここまで来たか。大したもんだ」

 

 大部屋の奥には、巨漢が一人、腕組みをして壁に背中を預けていた。

 

 背丈は俺より頭二つ分は高い。体の幅は倍くらいある。

 

 持っているのは禍々しさからみて魔剣に間違いない。それはフレイの持つ『大食い(ヴォーラ)』よりも巨大な、まさに鉄塊だった。

 

「だがまあ、それくらいでなけりゃ、こっちも殺り甲斐がねぇからな。ああ、俺の名前はセドリックだ。……『鏖殺のセドリック』と言えば、通じるか?」

 

 こちらを睨みつける巨漢の眼光は鋭く、まさに歴戦の戦士といった風体である。

 

「へえ……テメェ、魔剣持ちになったわけか」

 

「フレイ、知っているのか?」

 

「ああ。アイツは元冒険者のゴロツキでな、何年か前にパーティーの仲間殺しをやってギルドから除名処分を受けた札付きのクソ野郎だ。王都の衛兵に引き渡されて投獄中って聞いたが……シャバに出てきていたとはな」

 

 俺の問いに、フレイが頷く。

 

 どうやらなかなかの大物らしい。

 

「……そこにいるのは『竜狩り』か? ハハッ、ここで退屈していた甲斐があったってもんだぜ! ……だが、俺は楽しみを最後まで取っておく主義でな」

 

 セドリックのギラついた視線が、俺に向いた。

 

「お前、知ってるぞ。聖剣鍛冶のブラッドだったな? ……テメェ、五年前に俺の依頼を断りやがっただろう。おかげで酷い目にあったんだよ。……もちろん覚えているよなぁ?」

 

「いや、知らんが……」

 

 マジで知らん。

 

 いや、冒険者からの聖剣錬成依頼はそれなりに受けていたが、断ったヤツのことまでいちいち覚えていないし。

 

 ……いや、待てよ。

 

 そういえば、依頼を断ったヤツの中には、その場で激高して暴れたヤツが何人かいた。だいたいはあまりに高圧的だったり胡散臭かったりで聖剣を所持するには相応しくないと判断したヤツらだ。

 

 その中に、やたら威圧的で暴力的な巨漢がいた気がする。

 

 結局ソイツは断った瞬間工房で暴れ出したから、俺や同僚で取り押さえて衛兵に突き出したんだが……まさかソイツがその後、仲間殺しをするなんて思わなかった。

 

 どうやら昔の俺は慧眼だったらしい。

 

「まあ、覚えてないなら、それでいい。キッチリ思い出させてやるよ」

 

 セドリックが鉄塊みたいな魔剣を片手で持ち上げると、俺にビシッと突き付けて言った。

 

「まずはブラッド、テメェからだ。あのとき俺が受けた苦痛と屈辱、しっかりと味合わせてやるよ。もちろん何倍にも増幅したヤツをな」

 

 ……なんかご指名が入ったぞ。

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