パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第9話 『呪詛を断ち切れ』

「おい、あんたら待ってくれ! 一体何があったんだ!」

 

 必死で何かから逃げる冒険者の一人を捕まえて聞く。

 

「うわっ!? なんだ、同業者か……驚かせるなよ」

 

 俺がただの人間だと分かると安堵の息を吐き、足を止めてくれた。

 

 見た感じ、あまりガラのよさそうな感じではない。

 

 服は着崩しており、腕にはびっしりとタトゥーが入っている。

 

 チンピラで食い詰めて、冒険者に転職したクチだろうか。

 

 腕っぷしがあれば、チンピラでも貴族でもなれるのがこの職業だ。

 

 が、そんなヤカラな冒険者は、恐怖からか顔はひどくこわばっている。

 

 よほどの目に遭ったようだ。

 

「ねーキミ、だいじょーぶ? 顔色悪いよ?」

 

「……っ!? だ、大丈夫だっ」

 

 実体化しているレインが冒険者の顔を覗き込む。

 

 すると冒険者は一瞬びっくりしたあと、顔を赤らめた。

 

 レインはこう見えてとんでもない美貌だからな。

 

 冒険者は若い男だから、つい見惚れてしまうのは分かる。

 

 まあ、レインはガワだけ美少女のただの人造精霊だけどな。残念!

 

 とはいえ、冒険者はレインの美貌で毒気を抜かれたようだ。

 

 さきほどより、少しだけ落ち着いた様子を見せている。

 

「あんたもそこのエロいネーチャンも、悪いことは言わねえ。ここから先に進むのはやめた方がいい。いや、今すぐにでも逃げた方がいい!」

 

「だから、何があったんだって聞いてんだよ」

 

「スケルトンだ。ただの骨じゃねえ、魔剣持ちだ! クソ、こんなの聞いてねえぞ! ここのダンジョンは出てもスライムとか、その程度だろ!」

 

 冒険者が毒づく。

 

「そうか」

 

 内心の喜びを押し殺し、俺はそれだけ言った。

 

 これはラッキーだ。

 

 アンデッドが出るのは前情報どおりだが、魔剣持ちとは。

 

 もしかして以前助けたファルとかいう女冒険者を襲ったやつだろうか?

 

 魔剣とは、もともと非業の死を遂げた人間の魂――つまり怨霊(レイス)が憑りついた剣のことを指す。

 

 つまり魔剣は、魂が定着しやすい剣なのである。

 

 怨念を取り除きさえすれば、聖剣の素材としてはもってこいなのだ。

 

「情報提供、助かった。もう行っていいぞ。悪かったな、いきなり呼び止めて」

 

「お、おいお前! そっちはヤツがいた方角だぞ!? 死ぬ気か?」

 

「大丈夫だ」

 

「チッ、せっかくの時間稼ぎが無駄になっても知らねえからな。あばよ!」

 

「あん? それはどういう――」

 

 時間稼ぎ?

 

 だがその真意を聞く前に、冒険者は逃げた仲間を追って通路を奥へ消えてしまった。

 

「ご主人、なんだか気になりますね」

 

「あーし、なんだかいやーな予感がするんだけど」

 

「……気を付けて進むぞ」

 

 俺たちは少しだけ歩みをゆっくりにしつつ、先に進むことにした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 スケルトンは、通路の奥に広間にいた。

 

 錆び付いた軽鎧を着こんでおり、長剣を持っている。

 

 話に聞いていたとおり禍々しい雰囲気だ。

 

「……あいつか」

 

「どうやらそのようですね、ご主人」

 

「うわー……あの骨、瘴気まみれじゃん」

 

 魔剣スケルトンは、赤いもやのようなものをまとっている。

 

 なるほど。あれは怨霊が憑りついているな。それもかなり強力な。

 

『カロ……カロロ……』

 

 スケルトンが顎を笑うように震わせ、奇妙な音を立てている。

 

 こちらを見て、笑っているらしい。新たな獲物を見つけたからだろうか。

 

 そして……ヤツの背後には、ぼろきれのようなものが転がっているのが見て取れた。

 

 それが俺たちに向かって這いずり迫ってくる。

 

『うぐるぅ……ぐるうぅ……』

 

 それは、人とも獣ともつかぬ呻き声を上げるそれは、獣人のゾンビだった。

 

 性別は女性。

 

 年は……獣人の年齢は見た目から分からないことが多いが、おそらく十かそこら。

 

 まだほんの子供だ。

 

 もともとは荷物持ちだったのだろう。

 

 彼女(・・)のさらに後ろ側には、破れて中身がこぼれた荷物袋が落ちていた。

 

 獣人少女はすでに肌は土気色で、目は白く濁っている。

 

 食いしばった牙の隙間から、泡立つ涎が糸を引いていた。

 

 明らかに正気を失っている。

 

 ……『腐れの呪詛』だ。

 

 前に助けたファルとかいう冒険者よりもひどい。

 

 獣人少女はほとんどゾンビ化しかけていた。

 

 這いずる彼女のそばには、片腕が落ちていた。

 

 腕には、爛れた大きな傷がついている。

 

 スケルトンの魔剣に斬られ、腐り落ちたのだろう。

 

「……ご主人」

 

「ああ。そういうことか……クソが」

 

 すべてを察したセパが痛ましそうな顔になる。

 

 ここで何が起きたのかは、一目瞭然だった。

 

 あの冒険者どもは、囮を置いて逃げ出したのだ。

 

 年端もいかない、幼い少女を。

 

 たしかに冒険者たるもの、ダンジョンで命を落とすことはあるかもしれない。

 

 だが荷物持ちは冒険者じゃない。

 

 率先して護る対象だ。

 

 そもそも仲間を囮にして自分は逃げるなど……クソ野郎のすることだ。

 

「マスター? 顔が怖いよ?」

 

「……俺は平気だ。目の前の敵に集中しろ、レイン」

 

「あーしはマスターの心配をしてるんだけど……」

 

「大丈夫だって言ってるだろ」

 

 まずはあのスケルトンを倒す。

 

 それだけを考え、剣を構えた……そのときだった。

 

『……ぐるぅ……ご、ごしゅ……げて……に、げて……』

 

 ずりずりとこちらに這いよる獣人が、呻き声を上げたのだ。

 

 それはただの呻き声ではなかった。

 

 間違いなく、彼女の言葉だった。

 

「ご主人!」

 

「マスター!」

 

「ああ、確かに聞こえた。……まだ見込みはあるらしいな」

 

 あの獣人はまだ呪詛に抗っている。

 

 だがギリギリだろう。

 

「五秒だ。五秒であのクソ骨野郎を片付ける」

 

「そうこなくっちゃ! 魔力管制は任せてっ!」

 

 レインの姿が消えた。

 

 実は人造精霊の実体化には、かなり高度な魔力制御を要する。

 

 聖剣がその力を十全に振るうためには、実体化を解く必要があった。

 

「…………」

 

 俺は『聖剣』レインを構え、深く腰を落とした。

 

 限界まで集中力を高める。魔力を剣に込める。

 

 聖剣が俺の魔力を受け、強く輝き始めた。

 

『カロ……カロロッ……!』

 

 魔剣スケルトンがそれに反応した。

 

 顎を震わせ、奇妙な笑い声をあげる。

 

 どうやらこちらを敵と認識したようだ。

 

 スッと無駄のない動きで剣を構える。

 

 目の無い眼窩で、俺を睨みつけている。

 

 スケルトンの構えは、ただのアンデッドのそれではなかった。

 

 おそらく生前はそれなりの使い手だったのだろう。

 

 だが俺と聖剣レインには関係ないことだ。

 

『カロ……ッ!』

 

 スケルトンが俺の殺意に反応し、素早く剣を振り上げ――

 

「遅い」

 

 一閃。

 

『カr――――』

 

 俺の斬撃で上下に分かたれたスケルトンは怨霊ごと魔力を分解され――淡い光の粒子と化し、消滅した。

 

 カラン。

 

 主を失った魔剣が地に落ち、甲高い音を響かせた。

 

 あとに残るのは、静寂。

 

「ほわ……いつ見ても、ご主人の剣技は惚れぼれしますね……そして、さすがはレインです。お姉さんは鼻が高いです」

 

 勝利を祝ってか、セパが俺たちの周囲を飛び回る。

 

「セパ、ぼけっとしているヒマはないぞ。障害を排除したんだ、次はお前の出番だぞ」

 

「わ、わかってますご主人! 私の力を侮ってもらっては困りますよ!」

 

「当然だ」

 

 俺は腰の鞘に『レイン』を戻すと、今度は短剣『セパ』を引き抜いた。

 

『ぐる……がるぅ……?』

 

 獣人の少女の前に立つと、彼女は白く濁った眼で、不思議そうに俺を見上げた。

 

 彼女の目は、俺を視認できているのだろうか。

 

 分からないが、彼女はいまだ抗っているように見えた。

 

「よく頑張ったな」

 

 俺はそれだけ言って、彼女の背中に『セパ』の刃を落とした。

 

 なんの抵抗もなく、刃が深々と突き刺さる。

 

『あ”っ……!? があぁっ……』

 

 ビクン、と獣人の少女がのけぞった。

 

 『呪詛の切断』が始まったのだ。

 

 心臓に達したセパの力が血液とともに全身を巡り、速やかに呪詛を打ち消してゆく。

 

 それと同時に腐れ爛れた獣人少女の身体が、徐々にではあるがあるべき姿に修復されてゆく。

 

 目の濁りが消え、獣人らしい金色の瞳が姿を取り戻す。

 

 血色が戻り、規則正しい呼吸を始める。

 

「う……あ……」

 

 ファルのときもそうだったが、呪詛の切断は本人の魔力を大量に消耗する。

 

 こればかりはどうしようもない。

 

 その身体がほとんど修復されると同時に、獣人少女の魔力は枯渇したようだ。

 

 極度の魔力欠乏は疲労感と共に意識の消失をもたらす。

 

 獣人少女はガクリと地面に伏せると、そのまま寝息を立て始めた。

 

 よし、ここまでで大丈夫だろう。

 

 俺はゆっくりとセパの刃を獣人少女から引き抜いた。

 

「む……ご主人。呪詛は完全に切断することができましたが……その」

 

「ああ、分かってる」

 

 獣人少女の腐り落ちた腕はすでに呪詛が回りきっており、すでに骨になっていた。

 

 さすがにセパの力でも、こうなってしまえば修復のしようがない。

 

「とにかく、戻ろう。当初の目的も達成できたしな」

 

 俺は主のいなくなった魔剣を拾い、腰に付けた魔導鞄(マジック・バッグ)に放り込む。

 

 それから隻腕の獣人少女を背負うと、急ぎダンジョンを後にした。

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