パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第90話 『初見殺しvs初見殺し』

「剣を抜けよ、聖剣職人」

 

 薄暗い広間の奥で、『鏖殺のセドリック』がそう促してくる。

 

 俺より頭二つ分は上背があり、幅も倍くらいある大男だ。

 

 自分の強さに絶対の自信があるのか単に強靭な肉体を誇示したいからか、鎧は着込んでいない。

 

 担いでいる魔剣は、オーガやミノタウロスが持っていてもおかしくないようなバカでかい鉄塊みたいなヤツだ。

 

 あれが(かす)りでもすれば、挽肉になるのは間違いない。

 

 魔剣の能力によっては、もっと酷いことになるかもしれない。

 

 だが指名が入った以上、俺が出ないわけにはいかない。

 

 正直、他の四人がいれば俺の出番はないかも……と考えていたところもあったが、要らぬ心配だったようだ。

 

「俺に聖剣を売らなかったこと、死ぬほど後悔させてやるよ」

 

 巨大な魔剣を俺に突き付け、俺をギロリと睨むセドリック。

 

 完全に言いがかりだし逆恨みである。

 

「ブラッド、アイツは魔剣なしでもそこそこ強ええぞ。ヤツがぶっ殺した仲間ってのは、全員等級Bだったからな。気を付けろ」

 

「分かってる」

 

 フレイの忠告に、軽く頷く。

 

 もちろん油断なんぞするつもりはない。

 

 戦闘力というものは、身体のサイズに比例するからな。

 

 アリスのようにちみっこいのが強いことはありえるが、逆にデカイ奴が弱いということは基本ありえない。

 

「…………」

 

 セドリックから視線を外さず、俺は魔導鞄(マジック・バッグ)から聖剣レインを取り出した。

 

 セパも連れてきているが、あの大剣を受け止めるにはさすがに力不足だ。彼女にはしかるべき時が来るまで待機してもらうことにする。

 

「ほぉ……それがてめーの聖剣か。ガハハ! そんな短小(・・)で大丈夫かぁ?」

 

 セドリックが聖剣レインを指さしてゲラゲラと笑う。

 

 下品なジョークだ。

 

『あーし、ちっさくないしっ!』

 

 意味が分かっているのか分かっていないのか、レインがむっとしたような声で抗議する。まあ念話だから、ヤツには聞こえてないんだが。

 

『レイン、集中しろ。ああいうのはこっちの集中力を削ぐための作戦だ。気にすれば負けだぞ』

 

『わ、分かってるし……!』

 

 この程度の煽りでレインの性能に影響が出るとは思えないが、今後対策を考えた方がいいかもしれないな。

 

 まあ、それも目の前の敵を倒してから考えればいいだろう。 

 

「テメーの魔剣とやらがサイズだけのフニャフニャでないことを祈るぜ?」

 

「抜かせやっ!」

 

 セドリックの怒号とともに、戦いの火ぶたが切られた。

 

 巨大な剣をこれ見よがしに振り回してみせたあと――姿が消え、いきなり俺の目の前に現れる。

 

 速い! いや、これは空間転移系の能力か?

 

「…………ッ」

 

「ヒャッハァ! いきなり死ねやっ!」

 

 セドリックの雄たけびと共に、叩きつけるような一撃が降ってくる。

 

「おいブラッドッ!?」

 

「危なイっ!?」

 

 叫んだのはフレイとリンドルムだ。アイツら、まさかこんな攻撃を喰らうとでも思っているのか? 舐められたものだ。

 

「ぬるいな」

 

 確かにセドリックの剣は速い。だが、ただそれだけだ。フェイントも何もあったものではない。

 

 タイミングを読んで横に飛ぶ。

 

 ゴッ!

 

 空を切った魔剣が床にぶつかり、強烈な破砕音が轟く。

 

「なにっ!?」

 

 セドリックが驚きの声を漏らした。

 

 どうやらヤツの中では、さっきのは必殺の一撃だったらしい。

 

 確かに、まともに喰らえば挽肉だ。

 

 ダンジョンの石床が衝撃でゴッソリえぐれているし。

 

 パワー系で鈍そうな見た目で騙しつつ、間合の外からいきなり相手の懐に転移しての斬撃……正直、悪くはない。

 

 初見殺しと言っても差し支えないだろう。

 

 だがまあ、そんな強力な能力を運用するヤツの肝心の剣の腕がこれじゃあどうしようもないわけだが。

 

 おそらく魔剣を得たあと、コイツは力に溺れてろくに剣の腕を磨いてこなかったのではなかろうか。

 

 もし多少でもフェイントなり連続攻撃につなげるなりしていれば、俺も少々焦ったかもしれない。

 

 だが、それがないということは、そういうことだ。

 

 改めて思うが、この程度のヤツに聖剣を渡さなくて良かったと心底思う。

 

「今のを躱したのは、テメーが二人目だ。……が、まあいい。次は躱せるか?」

 

 一応、次の攻撃も考えてはあったらしい。

 

 セドリックが剣を構えると、また消えた。

 

 広間に静寂が戻る。

 

「なッ……地面に沈みこんダ!?」

 

 声を上げたのはリンドルムだ。

 

 今度は動きがゆっくりだったので、どうやって姿を消したのが分かった。どうやらセドリックは物体の()に潜ることができるらしい。

 

「ククッ……さっきはまぐれで躱せたみてぇだが、これじゃぁどうしようもねえだろう?」

 

 声は、俺の少し先に見える暗がりから聞こえた。

 

 視線をやれば、セドリックが床に伸びる影から頭だけを出してこちらをニヤニヤと眺めている。

 

「ククク……」

 

 とぷん、と姿が消えて、今度は広間の反対側に伸びた影から顔を出す。

 

「どこから襲われるか?」

 

「どのタイミングで攻撃されるか?」

 

「まるで分からねえってのは怖いよなぁ?」

 

「存分にそれを味わってくれや」

 

 ほとんど間を置かず、あちこちから声が聞こえる。

 

 壁からも、天井からも、俺も背後からも。影がある、あらゆる場所から。

 

 規則性はない。タイミングもバラバラだ。

 

 そして再び訪れる静寂。

 

「ふん……厄介な力だね。こちらに塁が及ばないよう床に防御結界を張っておこうか。精霊よ――」

 

 カミラがその様子を見て、面倒くさそうに杖を振る。とたん、彼女たちの周囲の床が淡く光り、魔法陣が浮かび上がった。

 

 とりあえず、これで後ろで観戦している彼女たちを心配しつつ戦う必要はなさそうだな。

 

 まあ、もとより心配が必要なメンツではないが。

 

「…………」

 

 じっと襲撃に備える。

 

 攻撃の予兆はない。

 

 聞こえるのは、俺やカミラたちの息遣いだけ。静かなものだ。

 

 張り詰めた空気が、広間全体を支配している。

 

 ……奇襲というのは仕掛ける側が一方的に有利な戦術だ。

 

 

 いつ仕掛けてくるのか。

 

 どんな攻撃を、どんな角度から仕掛けてくるのか。

 

 

 それを決めるのはセドリックだ。

 

 

 もっとも、それは仕掛けられる側が『奇襲を想定していない』ことが前提だが。

 

 そしてついに静寂が破られる。

 

「ハハァッ! 油断したな……ごぱあっ!?」

 

 殺気が生まれたのは俺の背後だ。

 

 直前まで何の前触れもなかった。

 

 だが俺は振り返ることもなく、セドリックの胴体に向かって全力の蹴りを繰り出した。鈍い衝撃が足から伝わってくる。ドンピシャだ。

 

「ぐっ……がはっ……なっ……なん、でだっ!? てめぇ……背中に目でもついているのか!?」

 

 鳩尾に蹴りが突き刺さったのか、たまらず膝をつき驚愕と苦悶に顔を歪めるセドリック。

 

 別に難しいことじゃない。

 

 先ほど俺は、ヤツが正面から放ってきた一撃をあっさり躱して見せた。

 

 正面からの攻撃は通用しない。その意識を植え付けてしまえば、次にどういった行動を取るか予測するのは簡単だ。

 

 つまり二撃目は、『俺が隙を見せた瞬間に、死角から』来る。

 

 実際、そのとおりになった。

 

「くっ……まだだっ……!」

 

 とはいえ、さすがに俺の蹴り程度で戦闘不能に陥るほどセドリックは弱くはなかったらしい。慌てた様子で影に沈み込もうとするが……

 

 それを見逃してやるほど、俺は甘くない。

 

「いや、終わりだ」

 

 言って、首まで影に沈み込んだセドリックの頬に、レインの刃を素早く突き出す。

 

 パッ、とわずかな鮮血が広間に散った。

 

 もちろん致命傷には程遠い。だが、これで終わりだ。

 

「ハハァッ! 惜しかったな、聖剣職人! この程度じゃ、俺は倒せ……ぬぐ……ち、力が……がはっ」

 

 一度は完全に影に沈み込んだセドリックだったが、すぐに地上に姿を露わす。

 

 何が起きたのか分からない、といった表情でフラフラとよろめき――白目を剥いて倒れ込んだ。

 

 魔力枯渇による昏倒だ。

 

 聖剣レインの力は、『魔力漏出(ドレイン)』。

 

 それを俺は、最大出力で放った。

 

 掠りでもすれば体内の魔力を根こそぎ吸い出されて終わり。

 

 まあ、こっちも『初見殺し』だったというわけだ。

 

 

 今度こそ、本当の静寂が広間に満ちる。

 

 

「ふむ、勝負あったようだね……まあ、私は心配などしていなかったがね」

 

 俺がセドリックの手から魔剣をもぎ取るのと同時に、ほっとした様子のカミラが防御結界を解く。

 

「ははっ……やるじゃねえか、ブラッド!」

 

「ふおぉ……なんといウ鮮やかな勝利ッ!」

 

「うん……! さすが兄さまだね」

 

 緊張から解放されたのか、笑顔の四人が俺のもとに駆け寄ってきた。

 

 

 ……さて、これで向こうもこちらに意識を向けざるを得ないかな。これで他のパーティーがさらに動きやすくなるといいんだが。

 

 俺はジロリと天井の隅に(わだかま)る、ひときわ深い暗がりに目をやった。

 

 一瞬、そこで何かが蠢き……すぐに静かになった。

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