パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第91話 『監視者』

 『鏖殺のセドリック』の魔剣を回収して先に進む。

 

 砦の内部はやはりダンジョンと化していた。

 

 もともとがかなり年季の入った遺跡であるせいか、広間の先も砦の外観からはとても想像できない内部構造をしている。

 

 まず姿を見せたのは、異様に長く伸びた通路だ。等間隔にかがり火が焚かれているので真っ暗闇というわけではないが、明らかに砦の幅を超えている。

 

 長さはおそらく500メートル以上。

 

 その奥まで辿り着いた先の扉を開けてみれば、その先にあったのはクローゼットほどのスペースしかない小部屋。

 

「行き止まりじゃねえか!」

 

 中には空っぽの酒瓶だけが放置されていた。フレイが憤慨して瓶を蹴っ飛ばす。

 

 仕方なく通路を少し戻り、今度は通路の中ほどにあった扉を開く。こちらには別の通路が続いていた。

 

 どうやらこっちが正規ルートのようだ。

 

 だが、今度は扉の先の通路が数メートル先で急激に狭まっていた。

 

 天井の高さは今いる場所と変わらないが、横幅は30センチ程度しかない。

 

 例えるならば、熱を出したときに見る悪夢のような光景だ。

 

 しかし本来、ダンジョンとは魔力の影響で空間に歪みが生じた場所だ。異様に広い場所があるのと同時に、異様に狭くなっている場所だって当然ある。

 

 ここはまだ人が通れるだけマシというものだろう。

 

 もっとも極端な狭路は、ほんの十メートルほどの距離だけだ。その先は普通の幅になっており、さらにその先には立派な木製の扉が見えた。

 

「うっ……ここを通るのか……猫じゃねえんだぞ」

 

 通路を前にしたフレイが、嫌そうな表情を浮かべる。

 

「どうした? この程度の狭さ、大した問題ではないだろう? もしかして君は……まだ(・・)狭い場所が怖いのか? だから地上で竜狩りばかりを――」

 

「……っ、んなわけあるか! ならば、オレから先に行ってやるよ!」

 

 売り言葉に買い言葉というやつである。

 

 カミラの煽りに、フレイが通路に突撃した。

 

「ぐ……狭ぇ……だからダンジョンは嫌いなんだよ……!」

 

 彼女は俺よりは背丈が低いとはいえ、標準的な女性より大柄である。ついでに言えば、彼女の女性的な部分もその……かなり大柄である。

 

 そのおかげか、狭い通路は彼女にとって天敵のような存在だった。

 

 ちなみに『大食い(ヴォーラ)』は自前の魔導鞄(マジック・バッグ)に収納したうえでも、彼女は狭路に四苦八苦している。

 

「…………」「…………」「…………」

 

「ぷはぁっ! キツかったぜ……んだよ、お前ら。早く来いよ」

 

 どうにか通り抜けた先にいるフレイを、女性陣が表情の抜け落ちた顔でじっと見ている。

 

 理由?

 

 言わずもがなである。まあ命が惜しいので口には出さないが。

 

 ……一応三人の名誉のために言い訳しておくと、まずアリスはまだ13歳だ。本人は気にしているようだが、まだその手の話題を論じる段階にない。

 

 カミラは……今はローブの下に例の戦闘用魔導スーツを着込んでいるのを、俺は知っている。出るべき箇所はしっかり押さえ込まれている。

 

 リンドルムは……まあ元がドラゴンだからな。変身できるから大きくなりたければできるんじゃないか? 知らんけど。

 

 そんなわけで、フレイ以外は俺も含め全員難なく通り抜けることができた。

 

「……ん?」

 

 と、そこで俺は気づいた。

 

「おいブラッド、お前どこ見てんだ?」

 

「……見つけた」

 

「ああん?」

 

 さきほど通り抜けた狭路の、天井付近の薄闇だ。

 

 そこで、何かが動いた気がした。

 

「……逃がすか!」

 

 素早く魔導鞄(マジック・バッグ)からナイフ状の小聖剣を取り出すと、その何か(・・)に投擲する。

 

 ドスッ、と鈍い音。手ごたえありだ。

 

『ピギ……ッ!?』

 

 甲高い断末魔が通路に響き渡り、どさりと何かが落ちてきた。

 

 子猫ほどの大きさの、しかし体表がヌメヌメとした物体だ。

 

 ソイツは頭に小聖剣を突き刺したままグネグネと蠢き……やがて動かなくなった。

 

「……僕が行く」

 

 アリスが魔物を回収して、戻ってくる。

 

 彼女の手の平には、目玉に触手が生えた魔物が載っていた。

 

「チッ。こんなちみっこいヤツは魔力が小さすぎてオレには分かんねーんだよ。もっとこう、ドラゴンみてーに存在感を放っとけってんだ」

 

 気づかなかったのが悔しかったのか、フレイがよく分からない悪態をつく。

 

「それじゃ監視役の意味がないだろ……」

 

「ブラッド、この魔物は」

 

「ああ、『ゲイザー』だ。さっきの広間にもいた。多分、砦の外にいる時点で捕捉されていたんだろう。まあ、見られていること自体は分かってたけどな」

 

 魔物を見て顔を険しくしたカミラに、俺は頷いてみせる。

 

 コイツは戦闘能力こそほぼないが、『視覚共有』という能力を持っている。

 

 その巨大な目で見た光景を、仲間の個体と共有することができるのだ。

 

 そしてこの能力は、魔物使い(テイマー)が使役した場合はそのままそっくり使用することができる。だからこうやって、監視役として使役されることが多い。

 

 ただ、それ自体は別に問題ではない。

 

 俺たちが暴れまわる様を見せつけるのには、ちょうどいいからだ。

 

 問題は別のところにある。

 

「よりによって『ゲイザー』とは……これは面倒なことになったね」

 

「ああ。魔剣持ち一味の背後には魔族がいる」

 

 カミラのこぼした呟きを受けて、俺は頷く。

 

「魔族だって? そんなバカな!」

 

 俺たちの言葉に、アリスが慌てたように大声を上げた。

 

「今、王国に魔族側から和平のために要人が派遣されているのは知っているし、僕も何人か会って話したことがある。皆ひとかどの人物ばかりだった。間違ってもこんなバカな真似を裏で画策する連中じゃない」

 

 もちろん彼女の言い分を否定する気も疑う気もない。

 

 しかし、である。

 

「『ゲイザー』は魔族領にしか生息していない魔物だ。魔物使い(テイマー)が人族だとしても、魔族の関与なしということはありえない。要人かどうかは分からないが、裏で糸を引いているヤツが必ずいる」

 

「あまり信じたくはないけども……」

 

 納得いかない様子のアリス。

 

「魔族……? 何ガ問題なのダ?」

 

 リンドルムは事の重要性をいまいち理解しておらず、首をかしげている。

 

 まあ、エルダードラゴンは完全に部外者だからな。彼女には分からなくて当然だ。

 

「以前、人族と魔族が戦争していたことは知っているよな?」

 

 とりあえず、ざっと説明しておくか。

 

「う、ウム。我ら竜族には関係ない事態ゆえ、皆静観していたガ……」

 

「簡単に言うと、何十年か前に人族が魔族にケンカを売られて、人族はこれを買った。そんでいろいろあったが十年くらい前に人族が勝利した。どちらもたくさん人が死んで、たくさんの都市が滅んだ。人族も魔族も、さすがに殺しあいは割に合わないと思った」

 

「うム」

 

「その後も多少のいざこざがあったものの、過去の反省から今のところは人族も魔族も互いにケンカをしたくないと考えている。だから、お互いの領域に要人を派遣して戦争が起きないように調整したり頑張っている」

 

「うむうム」

 

「なるほどなるほど」

 

「今回の事態は、それを台無しにしようとしているヤツが現れたかもしれない、ということだ。これは人族にとっても魔族にとっても、あまり良い状況とは言えない」

 

「なるほド……確かそれは由々しき事態ダ。しかシ、ブラッドは説明が上手いナ!」

 

「うんうん、そういうことだったのか! お前は博識だな、ブラッド!」

 

 リンドルムはともかく、なんでフレイまで納得顔で頷いてるんだ。王国で暮らしてるならば、一度はどこかで耳にする知識だろ……

 

 コイツ、マジでドラゴン以外の興味がなさすぎる。まあ、戦闘力と実績があれば冒険者のランクって上がるから、気にしたら負けだが。

 

 それはさておき。

 

「……まあ、とにかくそういうことだ」

 

 すでに死んでいるゲイザーから小聖剣を引き抜きながら、そう締めくくる。

 

「どうする? 一度引き返すかい?」

 

「僕としては、そうすべきかとも思うけど……兄さまはどう思う?」

 

 カミラとアリスが真剣な顔で俺の指示を仰いでくる。

 

「……そうだな」

 

 彼女たちの提案はもっともだ。

 

 なるべく早くギルドに戻り、このことを報告すべきではある。だが……そうなると、別ルートから侵攻している三組はどうなる?

 

 リーダーには聖剣を渡しているし、戦力で敵の首魁に後れを取るとは思えないが……なんとなく嫌な予感がする。

 

「他の連中のことが心配だ。ゲイザーの死骸だけを急いで持ち帰るよりも、テイマー自体をとっ捕まえる方がいいだろう。俺は先に進むべきだと考えている」

 

「ふむ、それもそうか」

 

「確かにそうだね」

 

 二人が納得したように頷く。

 

「俺は暴れられる方がいいぜ」

 

「わ、我もダ……!」

 

 とりあえずこっちの二人も、反対の意思はなさそうだ。

 

「よし、先に進もう」

 

 全員の意思が一致したところで、俺は足を踏み出した。

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